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132 従兄弟に会いたい
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「マーティーに会いに行く」
「なんだ急に」
善は急げ。同い年であるというマーティーと遊んでやらねば。
カル先生の授業が終わるなりブルース兄様の部屋に駆け込んだ俺は交渉を試みた。
慌てて追いかけてきたジャンとタイラー。ちなみにティアンはやる気がないらしく、ゆっくり歩いて追いかけてきた。さらにその後ろをのこのこついてきたらしい黒猫ユリスが『いいな。たまには遊んでやらないとな』となんだか威張っている。
「おまえ、マーティーと仲良かったか?」
「マーティーは俺の下僕だから。たまには遊んでやらないと」
「なに言ってんだ」
黒猫ユリスの受け売りをそのまま口にする。怪訝な顔をしたブルース兄様は仕事の手を止める。
「別に遊びに行くのは構わないが」
「行ってきます」
「待て待て」
早速部屋を飛び出そうとした俺を制止した兄様は「いきなり押しかける奴があるか」と呆れている。
「まぁいい機会だな。いいか、ちゃんと事前に遊びに行ってもいいか手紙を出すんだぞ」
「兄様出しといて」
「馬鹿。おまえが自分でやれ。そろそろ最低限のマナーくらい身につけてくれ、ほんと頼むから」
後半なぜか俺にお願いしてきたブルース兄様は、どうやらこれを機に俺にマナーの勉強をさせるつもりらしい。要はマーティーにお手紙書いて「遊びに行くね」とお伝えすればいいらしい。それくらいならお安いご用だ。
ところで。
「なんでマーティーのこと呼び捨てにしてんの」
エリックのことは殿下と呼んでいたのに。首を捻れば「マーティーは弟みたいなもんだろ」と衝撃のお答えがあった。
「弟は俺ですけど⁉︎」
「ただの例えだ。てか従兄弟だし」
「弟は俺ですけど⁉︎」
「うるさい」
これはまずい。可愛い弟ポジションがマーティーに奪われてしまう。「可愛い弟……?」と変な顔をするブルース兄様は無視だ。そこに関しての異論は認めない。
「マーティーめ! 許さないぞ!」
弟ポジションは絶対に渡さない。顔も知らない従兄弟相手に気合を入れていれば、相変わらずソファーでゆったりするアロンが視界に入った。普段であれば積極的に色々首を突っ込んでくるアロンにしては珍しく静かだ。なにやら考え事をしているらしく上の空。
興味をひかれた俺は、そそくさと寄っていく。
「なにしてるの」
「あぁ、ユリス様」
「ぼけっとしてる」
「いえ、ちょっと悩んでいまして」
「アロンにも悩みとかあるんだね」
不愉快そうに眉を顰めたアロンは「そりゃあね。俺にだって悩みのひとつくらいありますよ」とため息をつく。珍しく真剣にお悩み中らしい。俺でよければ相談に乗るぞと申し出れば、アロンが両腕を組んだ。
「キャンベル嬢との縁談の件なのですが」
そういやあったな、そんな話。あの時は、アロンの妹であるアリアがヴィアン家内で散々暴れまわって行ったんだっけ。兄弟揃って嫌な奴らだ。
しかしなにをお悩みする要素があるのか。嫌ならお断りすればいいだけの話だ。アロンは俺のことが好きとか結婚してくれとか言いながらキャンベルとの結婚話も進めようとしているクソ野郎だ。こんな奴知らん。せいぜいひとりで悩んでいろと背を向けようとした時。アロンが重々しく口を開いた。
「これでどうオーガス様を揶揄ってやろうかずっと考えているんですよ。チャンスは一度きり。絶対に失敗はできない」
「やめてあげなよ」
マジでキャンベルをネタにオーガス兄様を揶揄うつもりでいるらしい。もっと他に悩むことないのか? というか仕事しろよ。まったくどうしようもない奴だな。『僕も見たいぞ! こいついいこと思い付くな』と黒猫ユリスがわくわくしている。わるにゃんこめ。
アロンの標的になるなんて可哀想なオーガス兄様。だがオーガス兄様のことはどうでもいい。今はマーティーだ。
※※※
「遊びに行く。美味しいお菓子を準備しておけ」
「ダメですよ。そんなふざけた手紙」
俺の書きあげた文章を横から覗き込んだティアンがダメ出ししてくる。タイラーも困惑顔で「もうちょっと柔らかい表現にしましょうよ」と文句を言ってくる。両隣からうるさい。
書き方がわからないとごねれば、タイラーが下書きを用意してくれた。ティアンよりも役に立つな。とはいえ俺も一緒に考えたのだが。それをもとにお手紙を完成させた俺はすごく偉い。「字は丁寧に書きましょうね」とタイラーがうるさい。丁寧に書いたけど?
「では手土産も用意しないといけませんね」
「てみやげ」
前回フランシスの家に遊びに行った時にはブルース兄様が全部やってくれた。あの時は美味しいお菓子だった。今回もそれでいいや。
『おい! 僕も連れて行け』
黒猫ユリスも? でも確かに彼がいたほうが俺も色々やりやすい。ぶっちゃけマーティーの顔も性格も知らない俺である。黒猫ユリスが一緒の方がボロがでないもんな。当日こっそり連れて行こう。
「ロニーも連れて行っていいかな?」
「ダメじゃないですか?」
なんでだよ。あっさり否定したティアンは「タイラー殿がいるじゃないですか」と素っ気ない。
「タイラーひとりじゃ不安」
「ご心配なく。ユリス様の御身は必ずお守りいたします」
にこりと笑って胸を叩いたタイラーは心強いが。ここで引き下がるわけにはいかない。せっかく遊びに行けるのにこんな口煩い奴に付きまとわれるとか嫌すぎる。
「でもセドリックいないよ」
フランシスの屋敷にお邪魔した時はセドリックとロニーが同行していた。今回はタイラーだけでいいのか? ひたすら食い下がるとティアンが「王宮は近いですよ」と話を終わらせてしまう。取り付く島もないな。
お出かけ中は頑張ってタイラーを撒かないと。
「なんだ急に」
善は急げ。同い年であるというマーティーと遊んでやらねば。
カル先生の授業が終わるなりブルース兄様の部屋に駆け込んだ俺は交渉を試みた。
慌てて追いかけてきたジャンとタイラー。ちなみにティアンはやる気がないらしく、ゆっくり歩いて追いかけてきた。さらにその後ろをのこのこついてきたらしい黒猫ユリスが『いいな。たまには遊んでやらないとな』となんだか威張っている。
「おまえ、マーティーと仲良かったか?」
「マーティーは俺の下僕だから。たまには遊んでやらないと」
「なに言ってんだ」
黒猫ユリスの受け売りをそのまま口にする。怪訝な顔をしたブルース兄様は仕事の手を止める。
「別に遊びに行くのは構わないが」
「行ってきます」
「待て待て」
早速部屋を飛び出そうとした俺を制止した兄様は「いきなり押しかける奴があるか」と呆れている。
「まぁいい機会だな。いいか、ちゃんと事前に遊びに行ってもいいか手紙を出すんだぞ」
「兄様出しといて」
「馬鹿。おまえが自分でやれ。そろそろ最低限のマナーくらい身につけてくれ、ほんと頼むから」
後半なぜか俺にお願いしてきたブルース兄様は、どうやらこれを機に俺にマナーの勉強をさせるつもりらしい。要はマーティーにお手紙書いて「遊びに行くね」とお伝えすればいいらしい。それくらいならお安いご用だ。
ところで。
「なんでマーティーのこと呼び捨てにしてんの」
エリックのことは殿下と呼んでいたのに。首を捻れば「マーティーは弟みたいなもんだろ」と衝撃のお答えがあった。
「弟は俺ですけど⁉︎」
「ただの例えだ。てか従兄弟だし」
「弟は俺ですけど⁉︎」
「うるさい」
これはまずい。可愛い弟ポジションがマーティーに奪われてしまう。「可愛い弟……?」と変な顔をするブルース兄様は無視だ。そこに関しての異論は認めない。
「マーティーめ! 許さないぞ!」
弟ポジションは絶対に渡さない。顔も知らない従兄弟相手に気合を入れていれば、相変わらずソファーでゆったりするアロンが視界に入った。普段であれば積極的に色々首を突っ込んでくるアロンにしては珍しく静かだ。なにやら考え事をしているらしく上の空。
興味をひかれた俺は、そそくさと寄っていく。
「なにしてるの」
「あぁ、ユリス様」
「ぼけっとしてる」
「いえ、ちょっと悩んでいまして」
「アロンにも悩みとかあるんだね」
不愉快そうに眉を顰めたアロンは「そりゃあね。俺にだって悩みのひとつくらいありますよ」とため息をつく。珍しく真剣にお悩み中らしい。俺でよければ相談に乗るぞと申し出れば、アロンが両腕を組んだ。
「キャンベル嬢との縁談の件なのですが」
そういやあったな、そんな話。あの時は、アロンの妹であるアリアがヴィアン家内で散々暴れまわって行ったんだっけ。兄弟揃って嫌な奴らだ。
しかしなにをお悩みする要素があるのか。嫌ならお断りすればいいだけの話だ。アロンは俺のことが好きとか結婚してくれとか言いながらキャンベルとの結婚話も進めようとしているクソ野郎だ。こんな奴知らん。せいぜいひとりで悩んでいろと背を向けようとした時。アロンが重々しく口を開いた。
「これでどうオーガス様を揶揄ってやろうかずっと考えているんですよ。チャンスは一度きり。絶対に失敗はできない」
「やめてあげなよ」
マジでキャンベルをネタにオーガス兄様を揶揄うつもりでいるらしい。もっと他に悩むことないのか? というか仕事しろよ。まったくどうしようもない奴だな。『僕も見たいぞ! こいついいこと思い付くな』と黒猫ユリスがわくわくしている。わるにゃんこめ。
アロンの標的になるなんて可哀想なオーガス兄様。だがオーガス兄様のことはどうでもいい。今はマーティーだ。
※※※
「遊びに行く。美味しいお菓子を準備しておけ」
「ダメですよ。そんなふざけた手紙」
俺の書きあげた文章を横から覗き込んだティアンがダメ出ししてくる。タイラーも困惑顔で「もうちょっと柔らかい表現にしましょうよ」と文句を言ってくる。両隣からうるさい。
書き方がわからないとごねれば、タイラーが下書きを用意してくれた。ティアンよりも役に立つな。とはいえ俺も一緒に考えたのだが。それをもとにお手紙を完成させた俺はすごく偉い。「字は丁寧に書きましょうね」とタイラーがうるさい。丁寧に書いたけど?
「では手土産も用意しないといけませんね」
「てみやげ」
前回フランシスの家に遊びに行った時にはブルース兄様が全部やってくれた。あの時は美味しいお菓子だった。今回もそれでいいや。
『おい! 僕も連れて行け』
黒猫ユリスも? でも確かに彼がいたほうが俺も色々やりやすい。ぶっちゃけマーティーの顔も性格も知らない俺である。黒猫ユリスが一緒の方がボロがでないもんな。当日こっそり連れて行こう。
「ロニーも連れて行っていいかな?」
「ダメじゃないですか?」
なんでだよ。あっさり否定したティアンは「タイラー殿がいるじゃないですか」と素っ気ない。
「タイラーひとりじゃ不安」
「ご心配なく。ユリス様の御身は必ずお守りいたします」
にこりと笑って胸を叩いたタイラーは心強いが。ここで引き下がるわけにはいかない。せっかく遊びに行けるのにこんな口煩い奴に付きまとわれるとか嫌すぎる。
「でもセドリックいないよ」
フランシスの屋敷にお邪魔した時はセドリックとロニーが同行していた。今回はタイラーだけでいいのか? ひたすら食い下がるとティアンが「王宮は近いですよ」と話を終わらせてしまう。取り付く島もないな。
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