126 / 656
119 おもてなし
しおりを挟む
アロンは有言実行してみせた。
アリーお兄さんを捕まえると宣言してからおよそ十分後。早々に部屋に戻ってきたアロンは、なんと背後にアリーお兄さんを従えていた。
「アリーお兄さん!」
「こんにちは、ユリス様」
相変わらずハンチング帽を目深に被っており顔はみえないが、なんだか楽しそうだ。
「本当に捕まえてきたんですか⁉︎」
目を丸くするティアンは俺の手を握ってアリーお兄さんから引き離す。なにをする。慌てて外に出て行くジャンは、たぶんブルース兄様あたりを呼びに行ったと思われる。
俺を庇うように前に立ったティアンは、「なんでここに連れてくるんですか!」とアロンを睨みつけている。不審なお兄さんを俺の部屋に招き入れたことに激怒しているらしい。
「別に怪しい者ではないのですが」
困ったように小首を傾げたアリーお兄さんは、勧められてもいないのに勝手に椅子を陣取ってしまう。ゆったりと足を組んで「僕も温かい飲み物が欲しいですね」と悠然としている。図々しいところがマジでアロンそっくりだ。
『誰だ、こいつは。勝手に僕の部屋に入れるんじゃない』
黒猫ユリスが文句を言うが、俺が入れたわけではない。勝手に入ってきたんだ。あとここ俺の部屋だから。
でも一応はお客さんだ。おもてなしせねば。
突然の使命感に目覚めた俺は、さっそくおもてなしのお菓子を用意する。ストックしてある隠しお菓子のひとつを振る舞ってやろうと思う。俺は大人なので。
戸棚の中身をひっくり返して紙袋の中に保管していたクッキーをお出しすればアリーお兄さんが頰を引き攣らせた。
「どうぞ」
「えっと。これって食べても大丈夫なやつですか?」
「うん」
「本当に? おもちゃ箱の中から出しませんでした?」
胡乱げな目で見てくるアリーお兄さんは、クッキーに手を伸ばそうとはしない。あの戸棚は本物ユリスのよくわからん収集品を仕舞い込んでいる場所であって、俺のおもちゃ箱ではない。どうぞと勧めても手を出さないアリーお兄さん。せっかくおもてなししたのに。
代わりにアロンにクッキーを渡せば、これまた胡乱げな表情となった。
「これいつのですか?」
「セドリックにもらった」
「俺が捨てておきますね」
なんでだよ。
そっとクッキーを端に退けたアロンは「ところでユリス様」と椅子に座るアリーお兄さんを見下ろした。
「この人、本当にお兄さんですか?」
「? お兄さん」
なにを言い出すんだ、こいつ。
理解できないままに肯定すれば、アロンが「残念。違います」と口角を上げる。アリーお兄さんが俯いて小さく震えている。どうやら笑っているらしい。
違うってなにが?
ぱちぱち目を瞬くと、アロンが衝撃の事実を告げてくる。
「これ俺の妹です」
「……いもーと」
「はい。妹」
妹って、なんだっけ?
口元を押さえて笑い出すアリーお兄さん?はどう見ても男の人だ。妹には見えない。
「お兄さんじゃなくて、お姉さん?」
おそるおそる確認すれば、アリーが「そうだよ。お姉さんです」とハンチング帽をとった。
顔を見ても、涼やかな目元が特徴的で線の細いお兄さんにしか見えない。アロンに似てイケメンだな。俺、揶揄われてるんか? アロンであればこれくらいの嘘はつきそうである。
頭がパンクして立ち尽くす俺。これは揶揄われているのか、それとも本当にアリーはお姉さんなのか。
困った末にティアンの様子を伺うが、彼も困惑顔をしていた。微妙な空気が流れる室内。それを壊したのは勢いよく突入してきたブルース兄様だった。
「おい、アロン! 例の男確保したって?」
クレイグ団長とセドリックもいる。ついでにジャンも。
困った俺は、兄に頼ることにした。
「ブルース兄様!」
「なんだ」
「この人、お兄さんだよね⁉︎」
怪訝な顔をしたブルース兄様は、ゆったりと椅子に座るアリーをみて動揺した。
「……なぜおまえがここに居る。アリア」
「お久しぶりです、ブルース様。兄がいつもお世話になっているようで」
にこっと綺麗に笑ったアリーは立ち上がる。お団子にしていた髪をほどいてみれば、なるほどお姉さんに見えなくもないような気もする。停止する頭を稼働させようと頑張る俺に、アロンが「俺に憧れているみたいで。幼い頃からなんでも真似してくるんですよね」と耳打ちしてくる。
「アロンに憧れる人なんているんだ」
「どういう意味ですか」
驚愕である。もしかして妹の前では意外といいお兄ちゃんをやっていたりするのかな。
「私のことはアリアって呼んでくださいね、ユリス様」
俺を見下ろしたアリアは、どうやら男装が趣味らしい。ひらひらして動きにくいドレスなんて偵察に不向きで着ていられないと笑っていた。なんで偵察なんてやっているのかは不明である。
「それはアロンに憧れて?」
「なんで私が兄さんに憧れないといけないんですか? この人クズでしょ」
嘘つきアロンめ。
アリーお兄さんを捕まえると宣言してからおよそ十分後。早々に部屋に戻ってきたアロンは、なんと背後にアリーお兄さんを従えていた。
「アリーお兄さん!」
「こんにちは、ユリス様」
相変わらずハンチング帽を目深に被っており顔はみえないが、なんだか楽しそうだ。
「本当に捕まえてきたんですか⁉︎」
目を丸くするティアンは俺の手を握ってアリーお兄さんから引き離す。なにをする。慌てて外に出て行くジャンは、たぶんブルース兄様あたりを呼びに行ったと思われる。
俺を庇うように前に立ったティアンは、「なんでここに連れてくるんですか!」とアロンを睨みつけている。不審なお兄さんを俺の部屋に招き入れたことに激怒しているらしい。
「別に怪しい者ではないのですが」
困ったように小首を傾げたアリーお兄さんは、勧められてもいないのに勝手に椅子を陣取ってしまう。ゆったりと足を組んで「僕も温かい飲み物が欲しいですね」と悠然としている。図々しいところがマジでアロンそっくりだ。
『誰だ、こいつは。勝手に僕の部屋に入れるんじゃない』
黒猫ユリスが文句を言うが、俺が入れたわけではない。勝手に入ってきたんだ。あとここ俺の部屋だから。
でも一応はお客さんだ。おもてなしせねば。
突然の使命感に目覚めた俺は、さっそくおもてなしのお菓子を用意する。ストックしてある隠しお菓子のひとつを振る舞ってやろうと思う。俺は大人なので。
戸棚の中身をひっくり返して紙袋の中に保管していたクッキーをお出しすればアリーお兄さんが頰を引き攣らせた。
「どうぞ」
「えっと。これって食べても大丈夫なやつですか?」
「うん」
「本当に? おもちゃ箱の中から出しませんでした?」
胡乱げな目で見てくるアリーお兄さんは、クッキーに手を伸ばそうとはしない。あの戸棚は本物ユリスのよくわからん収集品を仕舞い込んでいる場所であって、俺のおもちゃ箱ではない。どうぞと勧めても手を出さないアリーお兄さん。せっかくおもてなししたのに。
代わりにアロンにクッキーを渡せば、これまた胡乱げな表情となった。
「これいつのですか?」
「セドリックにもらった」
「俺が捨てておきますね」
なんでだよ。
そっとクッキーを端に退けたアロンは「ところでユリス様」と椅子に座るアリーお兄さんを見下ろした。
「この人、本当にお兄さんですか?」
「? お兄さん」
なにを言い出すんだ、こいつ。
理解できないままに肯定すれば、アロンが「残念。違います」と口角を上げる。アリーお兄さんが俯いて小さく震えている。どうやら笑っているらしい。
違うってなにが?
ぱちぱち目を瞬くと、アロンが衝撃の事実を告げてくる。
「これ俺の妹です」
「……いもーと」
「はい。妹」
妹って、なんだっけ?
口元を押さえて笑い出すアリーお兄さん?はどう見ても男の人だ。妹には見えない。
「お兄さんじゃなくて、お姉さん?」
おそるおそる確認すれば、アリーが「そうだよ。お姉さんです」とハンチング帽をとった。
顔を見ても、涼やかな目元が特徴的で線の細いお兄さんにしか見えない。アロンに似てイケメンだな。俺、揶揄われてるんか? アロンであればこれくらいの嘘はつきそうである。
頭がパンクして立ち尽くす俺。これは揶揄われているのか、それとも本当にアリーはお姉さんなのか。
困った末にティアンの様子を伺うが、彼も困惑顔をしていた。微妙な空気が流れる室内。それを壊したのは勢いよく突入してきたブルース兄様だった。
「おい、アロン! 例の男確保したって?」
クレイグ団長とセドリックもいる。ついでにジャンも。
困った俺は、兄に頼ることにした。
「ブルース兄様!」
「なんだ」
「この人、お兄さんだよね⁉︎」
怪訝な顔をしたブルース兄様は、ゆったりと椅子に座るアリーをみて動揺した。
「……なぜおまえがここに居る。アリア」
「お久しぶりです、ブルース様。兄がいつもお世話になっているようで」
にこっと綺麗に笑ったアリーは立ち上がる。お団子にしていた髪をほどいてみれば、なるほどお姉さんに見えなくもないような気もする。停止する頭を稼働させようと頑張る俺に、アロンが「俺に憧れているみたいで。幼い頃からなんでも真似してくるんですよね」と耳打ちしてくる。
「アロンに憧れる人なんているんだ」
「どういう意味ですか」
驚愕である。もしかして妹の前では意外といいお兄ちゃんをやっていたりするのかな。
「私のことはアリアって呼んでくださいね、ユリス様」
俺を見下ろしたアリアは、どうやら男装が趣味らしい。ひらひらして動きにくいドレスなんて偵察に不向きで着ていられないと笑っていた。なんで偵察なんてやっているのかは不明である。
「それはアロンに憧れて?」
「なんで私が兄さんに憧れないといけないんですか? この人クズでしょ」
嘘つきアロンめ。
530
お気に入りに追加
3,165
あなたにおすすめの小説
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
なり代わり貴妃は皇弟の溺愛から逃げられません
めがねあざらし
BL
貴妃・蘇璃月が後宮から忽然と姿を消した。
家門の名誉を守るため、璃月の双子の弟・煌星は、彼女の身代わりとして後宮へ送り込まれる。
しかし、偽りの貴妃として過ごすにはあまりにも危険が多すぎた。
調香師としての鋭い嗅覚を武器に、後宮に渦巻く陰謀を暴き、皇帝・景耀を狙う者を探り出せ――。
だが、皇帝の影に潜む男・景翊の真意は未だ知れず。
煌星は龍の寝所で生き延びることができるのか、それとも――!?
///////////////////////////////
※以前に掲載していた「成り代わり貴妃は龍を守る香」を加筆修正したものです。
///////////////////////////////

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま

神獣様の森にて。
しゅ
BL
どこ、ここ.......?
俺は橋本 俊。
残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。
そう。そのはずである。
いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。
7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる