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119 おもてなし
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アロンは有言実行してみせた。
アリーお兄さんを捕まえると宣言してからおよそ十分後。早々に部屋に戻ってきたアロンは、なんと背後にアリーお兄さんを従えていた。
「アリーお兄さん!」
「こんにちは、ユリス様」
相変わらずハンチング帽を目深に被っており顔はみえないが、なんだか楽しそうだ。
「本当に捕まえてきたんですか⁉︎」
目を丸くするティアンは俺の手を握ってアリーお兄さんから引き離す。なにをする。慌てて外に出て行くジャンは、たぶんブルース兄様あたりを呼びに行ったと思われる。
俺を庇うように前に立ったティアンは、「なんでここに連れてくるんですか!」とアロンを睨みつけている。不審なお兄さんを俺の部屋に招き入れたことに激怒しているらしい。
「別に怪しい者ではないのですが」
困ったように小首を傾げたアリーお兄さんは、勧められてもいないのに勝手に椅子を陣取ってしまう。ゆったりと足を組んで「僕も温かい飲み物が欲しいですね」と悠然としている。図々しいところがマジでアロンそっくりだ。
『誰だ、こいつは。勝手に僕の部屋に入れるんじゃない』
黒猫ユリスが文句を言うが、俺が入れたわけではない。勝手に入ってきたんだ。あとここ俺の部屋だから。
でも一応はお客さんだ。おもてなしせねば。
突然の使命感に目覚めた俺は、さっそくおもてなしのお菓子を用意する。ストックしてある隠しお菓子のひとつを振る舞ってやろうと思う。俺は大人なので。
戸棚の中身をひっくり返して紙袋の中に保管していたクッキーをお出しすればアリーお兄さんが頰を引き攣らせた。
「どうぞ」
「えっと。これって食べても大丈夫なやつですか?」
「うん」
「本当に? おもちゃ箱の中から出しませんでした?」
胡乱げな目で見てくるアリーお兄さんは、クッキーに手を伸ばそうとはしない。あの戸棚は本物ユリスのよくわからん収集品を仕舞い込んでいる場所であって、俺のおもちゃ箱ではない。どうぞと勧めても手を出さないアリーお兄さん。せっかくおもてなししたのに。
代わりにアロンにクッキーを渡せば、これまた胡乱げな表情となった。
「これいつのですか?」
「セドリックにもらった」
「俺が捨てておきますね」
なんでだよ。
そっとクッキーを端に退けたアロンは「ところでユリス様」と椅子に座るアリーお兄さんを見下ろした。
「この人、本当にお兄さんですか?」
「? お兄さん」
なにを言い出すんだ、こいつ。
理解できないままに肯定すれば、アロンが「残念。違います」と口角を上げる。アリーお兄さんが俯いて小さく震えている。どうやら笑っているらしい。
違うってなにが?
ぱちぱち目を瞬くと、アロンが衝撃の事実を告げてくる。
「これ俺の妹です」
「……いもーと」
「はい。妹」
妹って、なんだっけ?
口元を押さえて笑い出すアリーお兄さん?はどう見ても男の人だ。妹には見えない。
「お兄さんじゃなくて、お姉さん?」
おそるおそる確認すれば、アリーが「そうだよ。お姉さんです」とハンチング帽をとった。
顔を見ても、涼やかな目元が特徴的で線の細いお兄さんにしか見えない。アロンに似てイケメンだな。俺、揶揄われてるんか? アロンであればこれくらいの嘘はつきそうである。
頭がパンクして立ち尽くす俺。これは揶揄われているのか、それとも本当にアリーはお姉さんなのか。
困った末にティアンの様子を伺うが、彼も困惑顔をしていた。微妙な空気が流れる室内。それを壊したのは勢いよく突入してきたブルース兄様だった。
「おい、アロン! 例の男確保したって?」
クレイグ団長とセドリックもいる。ついでにジャンも。
困った俺は、兄に頼ることにした。
「ブルース兄様!」
「なんだ」
「この人、お兄さんだよね⁉︎」
怪訝な顔をしたブルース兄様は、ゆったりと椅子に座るアリーをみて動揺した。
「……なぜおまえがここに居る。アリア」
「お久しぶりです、ブルース様。兄がいつもお世話になっているようで」
にこっと綺麗に笑ったアリーは立ち上がる。お団子にしていた髪をほどいてみれば、なるほどお姉さんに見えなくもないような気もする。停止する頭を稼働させようと頑張る俺に、アロンが「俺に憧れているみたいで。幼い頃からなんでも真似してくるんですよね」と耳打ちしてくる。
「アロンに憧れる人なんているんだ」
「どういう意味ですか」
驚愕である。もしかして妹の前では意外といいお兄ちゃんをやっていたりするのかな。
「私のことはアリアって呼んでくださいね、ユリス様」
俺を見下ろしたアリアは、どうやら男装が趣味らしい。ひらひらして動きにくいドレスなんて偵察に不向きで着ていられないと笑っていた。なんで偵察なんてやっているのかは不明である。
「それはアロンに憧れて?」
「なんで私が兄さんに憧れないといけないんですか? この人クズでしょ」
嘘つきアロンめ。
アリーお兄さんを捕まえると宣言してからおよそ十分後。早々に部屋に戻ってきたアロンは、なんと背後にアリーお兄さんを従えていた。
「アリーお兄さん!」
「こんにちは、ユリス様」
相変わらずハンチング帽を目深に被っており顔はみえないが、なんだか楽しそうだ。
「本当に捕まえてきたんですか⁉︎」
目を丸くするティアンは俺の手を握ってアリーお兄さんから引き離す。なにをする。慌てて外に出て行くジャンは、たぶんブルース兄様あたりを呼びに行ったと思われる。
俺を庇うように前に立ったティアンは、「なんでここに連れてくるんですか!」とアロンを睨みつけている。不審なお兄さんを俺の部屋に招き入れたことに激怒しているらしい。
「別に怪しい者ではないのですが」
困ったように小首を傾げたアリーお兄さんは、勧められてもいないのに勝手に椅子を陣取ってしまう。ゆったりと足を組んで「僕も温かい飲み物が欲しいですね」と悠然としている。図々しいところがマジでアロンそっくりだ。
『誰だ、こいつは。勝手に僕の部屋に入れるんじゃない』
黒猫ユリスが文句を言うが、俺が入れたわけではない。勝手に入ってきたんだ。あとここ俺の部屋だから。
でも一応はお客さんだ。おもてなしせねば。
突然の使命感に目覚めた俺は、さっそくおもてなしのお菓子を用意する。ストックしてある隠しお菓子のひとつを振る舞ってやろうと思う。俺は大人なので。
戸棚の中身をひっくり返して紙袋の中に保管していたクッキーをお出しすればアリーお兄さんが頰を引き攣らせた。
「どうぞ」
「えっと。これって食べても大丈夫なやつですか?」
「うん」
「本当に? おもちゃ箱の中から出しませんでした?」
胡乱げな目で見てくるアリーお兄さんは、クッキーに手を伸ばそうとはしない。あの戸棚は本物ユリスのよくわからん収集品を仕舞い込んでいる場所であって、俺のおもちゃ箱ではない。どうぞと勧めても手を出さないアリーお兄さん。せっかくおもてなししたのに。
代わりにアロンにクッキーを渡せば、これまた胡乱げな表情となった。
「これいつのですか?」
「セドリックにもらった」
「俺が捨てておきますね」
なんでだよ。
そっとクッキーを端に退けたアロンは「ところでユリス様」と椅子に座るアリーお兄さんを見下ろした。
「この人、本当にお兄さんですか?」
「? お兄さん」
なにを言い出すんだ、こいつ。
理解できないままに肯定すれば、アロンが「残念。違います」と口角を上げる。アリーお兄さんが俯いて小さく震えている。どうやら笑っているらしい。
違うってなにが?
ぱちぱち目を瞬くと、アロンが衝撃の事実を告げてくる。
「これ俺の妹です」
「……いもーと」
「はい。妹」
妹って、なんだっけ?
口元を押さえて笑い出すアリーお兄さん?はどう見ても男の人だ。妹には見えない。
「お兄さんじゃなくて、お姉さん?」
おそるおそる確認すれば、アリーが「そうだよ。お姉さんです」とハンチング帽をとった。
顔を見ても、涼やかな目元が特徴的で線の細いお兄さんにしか見えない。アロンに似てイケメンだな。俺、揶揄われてるんか? アロンであればこれくらいの嘘はつきそうである。
頭がパンクして立ち尽くす俺。これは揶揄われているのか、それとも本当にアリーはお姉さんなのか。
困った末にティアンの様子を伺うが、彼も困惑顔をしていた。微妙な空気が流れる室内。それを壊したのは勢いよく突入してきたブルース兄様だった。
「おい、アロン! 例の男確保したって?」
クレイグ団長とセドリックもいる。ついでにジャンも。
困った俺は、兄に頼ることにした。
「ブルース兄様!」
「なんだ」
「この人、お兄さんだよね⁉︎」
怪訝な顔をしたブルース兄様は、ゆったりと椅子に座るアリーをみて動揺した。
「……なぜおまえがここに居る。アリア」
「お久しぶりです、ブルース様。兄がいつもお世話になっているようで」
にこっと綺麗に笑ったアリーは立ち上がる。お団子にしていた髪をほどいてみれば、なるほどお姉さんに見えなくもないような気もする。停止する頭を稼働させようと頑張る俺に、アロンが「俺に憧れているみたいで。幼い頃からなんでも真似してくるんですよね」と耳打ちしてくる。
「アロンに憧れる人なんているんだ」
「どういう意味ですか」
驚愕である。もしかして妹の前では意外といいお兄ちゃんをやっていたりするのかな。
「私のことはアリアって呼んでくださいね、ユリス様」
俺を見下ろしたアリアは、どうやら男装が趣味らしい。ひらひらして動きにくいドレスなんて偵察に不向きで着ていられないと笑っていた。なんで偵察なんてやっているのかは不明である。
「それはアロンに憧れて?」
「なんで私が兄さんに憧れないといけないんですか? この人クズでしょ」
嘘つきアロンめ。
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