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118 そっくり
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「おはようございます、ユリス様」
「おはよ」
結局ティアンがうるさくて熟睡できなかった。眠い目を擦ってベッドをおりると、にこやかに挨拶するアロンがいた。
昨晩、図々しくも俺と同じベッドで寝ていたティアンは先に起きたらしい。お高そうなベッドなだけあって子供ふたりくらいなら余裕で寝れる。黒猫ユリスはいつも通り布団に潜り込んでぬくぬく寝ていた。俺はティアンが黒猫ユリスを奪ってしまうのではないかと気が気じゃなかった。何度も目を覚ましては、ティアンが黒猫を握っていないか確認した。俺の猫は渡さない。そんなことをしていたせいで寝不足である。
「顔洗ってきてくださいね。朝ごはん食べましょう」
「うーん」
「寝ぼけてます?」
アロンを無視して顔を洗う。ちょっと目の覚めた俺はベッドの中に埋まっている黒猫ユリスを引っ張り出す。
『寒い』
「起きろ! 朝!」
『うるさ』
むにゃむにゃする黒猫ユリスを椅子に置いて、ジャンの手を借りて着替えを済ませる。そうして朝ごはんを食べようとしてようやく気がついた。
「なんでアロンがいるの?」
「ようやくですか。寝ぼけてました?」
実家に帰ったはずのクソ野郎がなぜここに。
「……実家も追い出されたの?」
「もってなんですか。俺ヴィアン家を追い出されたことになってんですか?」
ゆったりと足を組んだアロンは、ひとり優雅に紅茶を飲んでいる。どうやらジャンに用意させたらしい。俺の子分を勝手にこき使うんじゃない。
ムスッとしていると、部屋に入ってきたティアンが「おはようございます」と微笑んでくる。着替えもすませて普段通りだ。早起きだな。「ユリス様のせいでろくに眠れませんでした」と朝っぱらから愚痴をこぼしている。
「それってどういう意味?」
なぜかティアンの愚痴に食いついたアロンはどんだけ悪口の類いが好きなのか。呆れていると「嫉妬は醜いですよ」とわかったような顔でティアンが肩をすくめている。
嫉妬? よくわからんがアロンは嫉妬しているらしい。
「……アロンも猫と一緒に寝たいってこと?」
俺の猫が狙われている。これはピンチ。黒猫ユリスが丸くなっている椅子を引き寄せれば『なにをする!』と抗議の声が上がったが無視。だって猫をアロンに奪われたら大変だもん。
「どうしてそういう解釈になるのか」
わからんと片眉を上げたアロンは「猫には興味ないです」と言い放つ。
「俺もユリス様と一緒に寝たいです」
「俺が可愛いから?」
「はい」
ふむふむ。俺が美少年なばっかりに。気持ちはよくわかるぞとアロンの肩を叩けば「これどういう会話ですか?」とティアンが半眼になっていた。
「今朝早くに帰ってきました。ユリス様に会いたくて」
「お土産は?」
どうみても手ぶらにしか見えないアロンを凝視する。俺のお土産どこいった。軽く肩をすくめたアロンは「妹に会うために帰ったんですけどね。肝心の妹が不在だったので引き返してきました」と息を吐く。それってつまりお土産なしってことか? そうなのか?
それにしても自分で兄を呼び出しておいて不在とは。さすがはアロンの妹だな。だがアロンもちょっとくらい待ってやれよ。なんで早々に戻ってくるんだよ。ふたり揃ってなんかあれだな。クソだな。
「それにしても屋敷が騒がしいですね」
首を伸ばして窓の外を確認するアロンはなにがあったか知らないらしい。どうやらヴィアン家に戻ってきたその足で俺の部屋に突入してきたようだ。ブルース兄様にただいま報告しなくていいんか?
だがアロンを退出させるのも面倒なので、俺はここまでの経緯を説明してやる。
「怪しいお兄さんがいるの」
「怪しい? ニックのことですか?」
たぶんアロンはニックのことが嫌いなんだと思う。でもセドリックのことも嫌いだよな、こいつ。ついでにクレイグ団長のことも嫌いだと思われる。要するにみんなのことが嫌いなのだ。クソ野郎め。
「ニックじゃなくて。普通に怪しいお兄さんがいるんだよ」
「普通に怪しいってなんですか。話がよくわかりません」
考え込むアロンに、ティアンが仕方がないと口を挟んでくる。そしてここ最近屋敷に侵入しているアリーお兄さんついて教えてやったティアンは、ついでに黒猫ユリスを撫でている。それ俺の猫だぞ。勝手に触るな。
「……アリー」
ぽつりと呟いたアロンをみて、俺はピンときた。そうだよ、どこかで見覚えあると思っていたが。
「アロンにそっくり!」
髪色といい、一見すると涼し気な目元といい雰囲気がアロンそっくり。しかも適当なところなんかもアロンに似ている。アリーお兄さんもなんかこう、クソ野郎みたいな空気を醸し出していた。
アリーお兄さんとアロンがそっくりであることを伝えると、アロンが「なるほど」と頷いた。そして「まだ捕まえられないんですよね、その不審者。セドリック殿もたいしたことないですね」と突然セドリックをディスりはじめる。やっぱりセドリックのことも嫌いみたいだ。
「じゃあ俺が捕まえてきてやりますよ」
にやりと悪い笑みを浮かべたアロンは、もはや悪人にしか見えなかった。
「おはよ」
結局ティアンがうるさくて熟睡できなかった。眠い目を擦ってベッドをおりると、にこやかに挨拶するアロンがいた。
昨晩、図々しくも俺と同じベッドで寝ていたティアンは先に起きたらしい。お高そうなベッドなだけあって子供ふたりくらいなら余裕で寝れる。黒猫ユリスはいつも通り布団に潜り込んでぬくぬく寝ていた。俺はティアンが黒猫ユリスを奪ってしまうのではないかと気が気じゃなかった。何度も目を覚ましては、ティアンが黒猫を握っていないか確認した。俺の猫は渡さない。そんなことをしていたせいで寝不足である。
「顔洗ってきてくださいね。朝ごはん食べましょう」
「うーん」
「寝ぼけてます?」
アロンを無視して顔を洗う。ちょっと目の覚めた俺はベッドの中に埋まっている黒猫ユリスを引っ張り出す。
『寒い』
「起きろ! 朝!」
『うるさ』
むにゃむにゃする黒猫ユリスを椅子に置いて、ジャンの手を借りて着替えを済ませる。そうして朝ごはんを食べようとしてようやく気がついた。
「なんでアロンがいるの?」
「ようやくですか。寝ぼけてました?」
実家に帰ったはずのクソ野郎がなぜここに。
「……実家も追い出されたの?」
「もってなんですか。俺ヴィアン家を追い出されたことになってんですか?」
ゆったりと足を組んだアロンは、ひとり優雅に紅茶を飲んでいる。どうやらジャンに用意させたらしい。俺の子分を勝手にこき使うんじゃない。
ムスッとしていると、部屋に入ってきたティアンが「おはようございます」と微笑んでくる。着替えもすませて普段通りだ。早起きだな。「ユリス様のせいでろくに眠れませんでした」と朝っぱらから愚痴をこぼしている。
「それってどういう意味?」
なぜかティアンの愚痴に食いついたアロンはどんだけ悪口の類いが好きなのか。呆れていると「嫉妬は醜いですよ」とわかったような顔でティアンが肩をすくめている。
嫉妬? よくわからんがアロンは嫉妬しているらしい。
「……アロンも猫と一緒に寝たいってこと?」
俺の猫が狙われている。これはピンチ。黒猫ユリスが丸くなっている椅子を引き寄せれば『なにをする!』と抗議の声が上がったが無視。だって猫をアロンに奪われたら大変だもん。
「どうしてそういう解釈になるのか」
わからんと片眉を上げたアロンは「猫には興味ないです」と言い放つ。
「俺もユリス様と一緒に寝たいです」
「俺が可愛いから?」
「はい」
ふむふむ。俺が美少年なばっかりに。気持ちはよくわかるぞとアロンの肩を叩けば「これどういう会話ですか?」とティアンが半眼になっていた。
「今朝早くに帰ってきました。ユリス様に会いたくて」
「お土産は?」
どうみても手ぶらにしか見えないアロンを凝視する。俺のお土産どこいった。軽く肩をすくめたアロンは「妹に会うために帰ったんですけどね。肝心の妹が不在だったので引き返してきました」と息を吐く。それってつまりお土産なしってことか? そうなのか?
それにしても自分で兄を呼び出しておいて不在とは。さすがはアロンの妹だな。だがアロンもちょっとくらい待ってやれよ。なんで早々に戻ってくるんだよ。ふたり揃ってなんかあれだな。クソだな。
「それにしても屋敷が騒がしいですね」
首を伸ばして窓の外を確認するアロンはなにがあったか知らないらしい。どうやらヴィアン家に戻ってきたその足で俺の部屋に突入してきたようだ。ブルース兄様にただいま報告しなくていいんか?
だがアロンを退出させるのも面倒なので、俺はここまでの経緯を説明してやる。
「怪しいお兄さんがいるの」
「怪しい? ニックのことですか?」
たぶんアロンはニックのことが嫌いなんだと思う。でもセドリックのことも嫌いだよな、こいつ。ついでにクレイグ団長のことも嫌いだと思われる。要するにみんなのことが嫌いなのだ。クソ野郎め。
「ニックじゃなくて。普通に怪しいお兄さんがいるんだよ」
「普通に怪しいってなんですか。話がよくわかりません」
考え込むアロンに、ティアンが仕方がないと口を挟んでくる。そしてここ最近屋敷に侵入しているアリーお兄さんついて教えてやったティアンは、ついでに黒猫ユリスを撫でている。それ俺の猫だぞ。勝手に触るな。
「……アリー」
ぽつりと呟いたアロンをみて、俺はピンときた。そうだよ、どこかで見覚えあると思っていたが。
「アロンにそっくり!」
髪色といい、一見すると涼し気な目元といい雰囲気がアロンそっくり。しかも適当なところなんかもアロンに似ている。アリーお兄さんもなんかこう、クソ野郎みたいな空気を醸し出していた。
アリーお兄さんとアロンがそっくりであることを伝えると、アロンが「なるほど」と頷いた。そして「まだ捕まえられないんですよね、その不審者。セドリック殿もたいしたことないですね」と突然セドリックをディスりはじめる。やっぱりセドリックのことも嫌いみたいだ。
「じゃあ俺が捕まえてきてやりますよ」
にやりと悪い笑みを浮かべたアロンは、もはや悪人にしか見えなかった。
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