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42 拒む理由はない
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一旦、話を切り上げてから雪音ちゃんの部屋をあとにする。「私のことはお気になさらず続けてください!」と変な主張をする雪音ちゃん。
悪いが、流石に女子高校生を前にして続きを繰り広げるのは無理。俺のメンタルがもたないよ。
そうして、不服そうな雪音ちゃんを残して、俺の部屋へと戻ったのだが、すごく気まずい。こんな時に限ってイアンもいないし、誰か助けてくれよ。やっぱり雪音ちゃんにも一緒に居てもらえばよかったかも。
我が物顔で部屋に入ってくるマルセルを追い返すこともできずに、室内をうろうろする。
そんな俺を見て、マルセルは悠然と腕を組む。
「それで? 私の気持ちに応えてくださるということでよろしいですね?」
「だから。なんでそんな偉そうなんだよ」
上から目線のマルセルは、俺が人間でも気にしないと言ってくれた。くれたのだが。
「早く言ってくれればよかったのに」
「言ったけど!? 俺が何度! 人間だって主張したと思っている!」
「それはそうですが。神様だとバレてはいけないという話は結局なんですか?」
「知らねぇよ! こっちが聞きたいわ!」
あの謎ルールは、いつの間にかぬるっと存在していた。俺や雪音ちゃんが作ったものではない。
おそらく、俺のことを雪音ちゃんがカミ様カミ様言いまくるのに、俺が神ではないと言い始めたため、異世界住民さんも混乱したのだろう。どうにか辻褄を合わせようとして、誕生したのがあの謎ルールというわけだ。
「マルセルも! 神である俺が好きなだけであって、人間である俺のことは嫌いなんだろ!」
「ですから。何度言わせるんですか」
カツカツと寄ってきたマルセルは、あっという間に俺の前までやって来ると、こちらに手を伸ばしてくる。
反射的に一歩下がろうとするが、マルセルの方がはやかった。
俺の肩に手を置いたマルセルは、真っ直ぐに視線を向けてくる。その力強さに、ちょっとだけ動揺してしまった。
「っ! な、なに?」
「ミナト様」
うぇ、なにこいつ。離せよ、ボケ。んな至近距離で顔を覗き込むんじゃない。普通に恥ずいだろ。
でもなんだか、顔を逸らすこともできなくて。結局、マルセルの瞳をじっと眺めることしかできないでいる。
俺が動かないのをいいことに、マルセルがそっと俺の顎に手を添えてくる。くすぐったいからやめて。
「私は、ミナト様が好きなんです。あなたが神であろうが人間であろうが」
「そ、それはつまり」
「最後まで聞いて?」
「っ!」
突然耳元で囁かれて、肩を揺らす。
おまえ! なにその、ふざけ、はぁ!?
言葉にならなず、はくはくと口を開閉する俺は、多分顔が真っ赤になっていると思う。なんか頬が熱いし。
「私じゃだめですか? 諸々のことは謝ります。でもまずは、私のことを見てくれません?」
「お、俺はいつも、マルセルのこと、見てる、けどぉ?」
たどたどしく言葉を紡ぐ俺に、マルセルが微笑む。そのまま力強く抱き寄せられて、思わず無意味に息を止める。
背中に手をまわされて、鼻をかすめる甘い香水に心臓がばくばくと音を立てる。これ夢じゃないよな。鏡を見なくとも、己の顔が火照っていることがわかり、もう限界であった。
「マルセル?」
とりあえず解放して欲しくて名前を呼ぶが、マルセルは放してくれない。
それどころか、俺にも腕をまわせと要求してくる。
「そ、そんな恥ずかしいことできるかよ。恋人じゃあるまいに」
「私は恋人のつもりですが?」
「そ……!」
そうなの?
いやでもそうなのか? 俺はマルセルのことが好き。マルセルも俺のことが好き。んでもって、マルセルは俺のことを人間だと理解してくれたわけで。
だとすれば、別にもうマルセルのことを拒む理由はないな。
おずおずと、両手を持ち上げる。そうして、おそるおそるマルセルの背中にまわせば、よりいっそう強く抱き締められてしまった。
そうしてしばらく抱きあっていたら、なんか想いが込み上げてくる。
「す、好きだよ。マルセル」
ふと離れた手。
再び両肩を掴まれて、顔を覗き込まれる。きらきら王子様は、いつになくにやけた顔をしていた。
「私も好きですよ」
「お、おう」
なんか照れる。
誤魔化すように俯くが、マルセルがくすくす笑っているのがわかってしまい、どうにもくすぐったくて仕方がなかった。
悪いが、流石に女子高校生を前にして続きを繰り広げるのは無理。俺のメンタルがもたないよ。
そうして、不服そうな雪音ちゃんを残して、俺の部屋へと戻ったのだが、すごく気まずい。こんな時に限ってイアンもいないし、誰か助けてくれよ。やっぱり雪音ちゃんにも一緒に居てもらえばよかったかも。
我が物顔で部屋に入ってくるマルセルを追い返すこともできずに、室内をうろうろする。
そんな俺を見て、マルセルは悠然と腕を組む。
「それで? 私の気持ちに応えてくださるということでよろしいですね?」
「だから。なんでそんな偉そうなんだよ」
上から目線のマルセルは、俺が人間でも気にしないと言ってくれた。くれたのだが。
「早く言ってくれればよかったのに」
「言ったけど!? 俺が何度! 人間だって主張したと思っている!」
「それはそうですが。神様だとバレてはいけないという話は結局なんですか?」
「知らねぇよ! こっちが聞きたいわ!」
あの謎ルールは、いつの間にかぬるっと存在していた。俺や雪音ちゃんが作ったものではない。
おそらく、俺のことを雪音ちゃんがカミ様カミ様言いまくるのに、俺が神ではないと言い始めたため、異世界住民さんも混乱したのだろう。どうにか辻褄を合わせようとして、誕生したのがあの謎ルールというわけだ。
「マルセルも! 神である俺が好きなだけであって、人間である俺のことは嫌いなんだろ!」
「ですから。何度言わせるんですか」
カツカツと寄ってきたマルセルは、あっという間に俺の前までやって来ると、こちらに手を伸ばしてくる。
反射的に一歩下がろうとするが、マルセルの方がはやかった。
俺の肩に手を置いたマルセルは、真っ直ぐに視線を向けてくる。その力強さに、ちょっとだけ動揺してしまった。
「っ! な、なに?」
「ミナト様」
うぇ、なにこいつ。離せよ、ボケ。んな至近距離で顔を覗き込むんじゃない。普通に恥ずいだろ。
でもなんだか、顔を逸らすこともできなくて。結局、マルセルの瞳をじっと眺めることしかできないでいる。
俺が動かないのをいいことに、マルセルがそっと俺の顎に手を添えてくる。くすぐったいからやめて。
「私は、ミナト様が好きなんです。あなたが神であろうが人間であろうが」
「そ、それはつまり」
「最後まで聞いて?」
「っ!」
突然耳元で囁かれて、肩を揺らす。
おまえ! なにその、ふざけ、はぁ!?
言葉にならなず、はくはくと口を開閉する俺は、多分顔が真っ赤になっていると思う。なんか頬が熱いし。
「私じゃだめですか? 諸々のことは謝ります。でもまずは、私のことを見てくれません?」
「お、俺はいつも、マルセルのこと、見てる、けどぉ?」
たどたどしく言葉を紡ぐ俺に、マルセルが微笑む。そのまま力強く抱き寄せられて、思わず無意味に息を止める。
背中に手をまわされて、鼻をかすめる甘い香水に心臓がばくばくと音を立てる。これ夢じゃないよな。鏡を見なくとも、己の顔が火照っていることがわかり、もう限界であった。
「マルセル?」
とりあえず解放して欲しくて名前を呼ぶが、マルセルは放してくれない。
それどころか、俺にも腕をまわせと要求してくる。
「そ、そんな恥ずかしいことできるかよ。恋人じゃあるまいに」
「私は恋人のつもりですが?」
「そ……!」
そうなの?
いやでもそうなのか? 俺はマルセルのことが好き。マルセルも俺のことが好き。んでもって、マルセルは俺のことを人間だと理解してくれたわけで。
だとすれば、別にもうマルセルのことを拒む理由はないな。
おずおずと、両手を持ち上げる。そうして、おそるおそるマルセルの背中にまわせば、よりいっそう強く抱き締められてしまった。
そうしてしばらく抱きあっていたら、なんか想いが込み上げてくる。
「す、好きだよ。マルセル」
ふと離れた手。
再び両肩を掴まれて、顔を覗き込まれる。きらきら王子様は、いつになくにやけた顔をしていた。
「私も好きですよ」
「お、おう」
なんか照れる。
誤魔化すように俯くが、マルセルがくすくす笑っているのがわかってしまい、どうにもくすぐったくて仕方がなかった。
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