聖女召喚に巻き込まれた単なるアイドルですが異世界で神と崇められています。誰か聖女を止めてくれ

岩永みやび

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41 人の話はよく聞け

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「ん? ということは」

 雪音ちゃんの部屋にて、先程ぶん投げたイヤーカフを見つめる。あれのせいで俺の居場所がマルセルに筒抜けということはだ。

 さっと顔を青くする俺に代わって、雪音ちゃんが「もうここに居るってバレてますよね?」と嫌な事実を突きつけてくる。

 そして、タイミングを見計らったかのように響いたノックの音。

「俺はいないって言って!」
「え……! わ、わかりました」

 すかさず、雪音ちゃんの護衛である茶髪青年にお願いすれば、彼は冷や汗たらたらで大きく頷いてくれた。大丈夫か? いかにも隠し事してます的な顔してるけど。

 内心でハラハラしつつ、扉から見えない位置へと避難する。なぜか駆け寄ってくる雪音ちゃんと一緒になって、ソファーの後ろへと屈み込んだ。雪音ちゃんは隠れる必要ないでしょうが。

「で、殿下!」
「ミナト様は?」

 緊張しきった青年が、マルセルの対応をしてくれる。こちらは必死に身を隠しているため、マルセルの様子を窺うことは叶わない。けれども、彼が不機嫌であることはわかった。声が低い。

「ミナト様は、えっと、ここには居ないとのことです!」

 居ないとのことですってなに? 大丈夫かよ、あいつ。受け答えが非常に怪しい。なんだか不安になっていると、雪音ちゃんに袖を引っ張られた。

「あの人、騎士としては優秀らしいんですけど。なんかちょっと抜けてて。顔はイケメンなんだけどなぁ」

 こそっと耳打ちしてくる雪音ちゃんは、彼をめぐって苦労したことがあるのだろう。そしてその言葉には、ものすごく説得力があった。

「居ないとのことです? 誰がそう言った」
「ミナト様です!」

 なんの躊躇いもなく馬鹿正直に答えた青年は、やりきったという雰囲気であった。もうダメだ。

 顔を覆う俺を励ますように、雪音ちゃんが肩を叩いてくれる。なにやら扉付近で揉める声がして、こちらへと足音が近付いてくる。絶対にマルセルじゃん。

「ミナト様」

 頭上から降ってくる声は、どう考えてもマルセルのものである。てかおまえ、勝手に聖女の部屋にずかずか入ってくんな。

 せめてもの抵抗で、両手で顔を覆ったまましっかり俯いておく。どうかこのまま、マルセルが諦めて引き返してくれますように。

 そんな願いは、当然叶うはずもなく。

「ミナト様。たまには私の話も、最後まで聞いてください」

 まるで俺が、毎度話を最後まで聞かねぇみたいな言い方しやがる。

 マルセルの顔を見ないように、俯きポーズを保ったまま耳だけ傾けてやる。どうせ別れ話だろ。いや俺ら別に付き合ってはいないけどさ。

「私は、ミナト様のことが好きですよ」
「やめて!」

 なにを言い出すんや、こいつ。
 恥ずかしげもなく言ってのけるマルセルに、思わず顔を上げてしまった。その隙を見逃さないマルセルは、俺の両手を握ると、じっと顔を覗き込んでくる。

「離せよ!」
「ですから。話を聞いてくださいと」
「聞いてるよ! 俺ら別れようって話だろ? 付き合ってはないけどさ」
「違います」

 でもなんかそういう雰囲気の話だろ。なにが好きです、だ。

「お、俺は。その。マルセルのこと結構好きだけど!」
「ありがとうございます」
「話を遮るな!」

 勝手に口を挟んでくるマルセルを精一杯睨みつけてやるが、腹黒王子は涼しい顔である。なんその余裕の笑み。腹立つわ。

「でもマルセルは俺のこと嫌いだろ!」
「好きですって、今言いましたよね? 人の話はきちんと聞いてくださいと、何度言わせるんですか」
「なにキレてんだよ」

 お怒りモードらしいマルセルは、眉間に皺を刻んでいた。だが俺としては怒られる覚えなんてない。むしろ俺に勝手にGPSつけてたことや、俺が人間だと知って顔を覆うというクソ失礼な行動をしたマルセルに対して、俺がキレるべき場面である。

「とにかく俺に謝れよ」

 とりあえず謝罪を要求すれば、マルセルがすんっと真顔になる。なんやその顔。文句でもあんのか。

「何に対する謝罪ですか」
「随分と上から目線の質問だな」

 偉そうなマルセルを睨みつけてやるが、あんまり効果はなさそうだ。仕方がないので、マルセルのやらかした諸々を説明してやれば、彼は黙って聞いてくれる。表情はすごく不機嫌だが。

 そうして、再度謝れと要求すると、マルセルは「そうですか」となんとも微妙な反応を返してくる。

「わかりました。イヤーカフの件については謝罪します。不快な思いをさせてしまい申し訳ない」
「その他の件はどうなった」

 俺の問いかけをまるっと無視して、マルセルは俺のことを引き寄せる。ハグするように背中に手をまわされて、一瞬だけドキッとしたものの、すぐに我に返る。

「なんか、いい感じの雰囲気に無理矢理持っていって、全部曖昧に誤魔化そうとしてないか?」
「……いえ、そんなことは」

 そんなことは? あるんだろ?

 力任せにマルセルの腕から脱出して、距離を取る。そんな俺に、マルセルがムスッとした顔で近寄ってくる。

「カミ様がんばれ」

 反射的に逃げようとしたその瞬間。ものすごく小さな声で、ぼそっと呟かれた応援の言葉に、勢いよく振り返る。

「……雪音ちゃん。いたの?」
「ずっと一緒にいたじゃないですか! え、存在忘れてたんですか!」

 やべぇ、そういやここ、雪音ちゃんの部屋だったわ。
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