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19 負けた気分だよ
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「マルセルはイケメンなのか?」
「イケメンでしょ、どう見ても」
「俺とどっちがかっこいい?」
「どっ? えっとぉ。私的には断然カミ様の方が好みです。推しなので。カミ様には一生ついて行きます。でも一般的に見てですよ? 顔だけ見てですよ? 多分だけどマルセル殿下の方がかっこいいのでは?」
「……だよね」
しょんぼり。
いやわかるよ。そもそも顔立ちからして違うし。俺は日本人的かっこよさだ。だがしかし。マルセルはいかにも異国の王子様って感じできらきらしている。まずもって立っている土俵が違うのだ。
肩を落とす俺に、優しい雪音ちゃんが「カミ様もかっこいいですよ! 性格も! 私ちょっと我儘で子供っぽい大人が好きなので! カミ様ちょータイプです!」と励ましなのか罵倒なのか、よくわからないセリフを吐いている。
マルセルにキス(といっても手の甲)されてから数日。
俺の心はずっともやもやしていた。何かにつけてマルセルの甘い笑顔が頭をよぎる。俺に対してあんな優しいキスする必要あった? こっちは仮にもアイドルだぞ。かっこいい仕草では負けない自信あったのに、それがポッキリ折れてしまった。もうダメだ。あんな間近でイケメンムーブを発揮されるとへこむ。
「俺はマルセルにはなれないんだよ」
「なにを当たり前のことを」
だって! なんだあのきらきら!
俺がちょっと金髪に染めてカラコンしたくらいじゃ、ああはならないぞ。なんかもう完全敗北した気分である。灰になりそう。
わかりやすく項垂れる俺を、雪音ちゃんは懸命に励ましてくれる。すごくいい子。いい子なんだけどさ。
「カミ様も素敵ですよ! 自分の思ったこと全部口からポロッと出ちゃうところとか。テレビでも際どい発言しないかと特に生放送番組ではファンの子みんなどきどきしてましたし」
果たしてこれは励ましなのか? 俺を元気付けるフリして貶していないか?
「それにえっと。すごくこう、メンバー内で誰がモテるのかって訊かれてもいないのに自分が一番とかしゃしゃり出てくるところとか! なんかこう自己評価高くてすごく可愛いって評判でしたよ」
しゃしゃり出るって褒め言葉としてはあんまり使わないよな。やっぱ貶されてる?
「あとは、うーん。自分の主張が通るまで一歩も引かない頑なさも好評でした! 自分がセンターじゃなきゃ嫌だって駄々こねてメンバーとファン全員を困惑させたの私すごく良かったと思います! はい!」
もはや悪口じゃん。困惑させたとか言ってるし。
「……でも俺がセンターで良いってみんな言ってくれた」
「それはだって。そうしないと話進まないから」
ぽりぽりと頬を掻く雪音ちゃんは、「でも本当に好評でしたよ」と念押ししてくる。
「カミ様ファンじゃない子も、カミ様の我儘に振り回されるメンバーが可愛いって目で見ている子がほとんどでしたから。むしろカミ様が我儘言ってそれで困っている推しを見たい的な? 他のメンバー全員でカミ様の子育てしてる感がすごいんですよね、あのグループ」
「歪んだ楽しみ方だよ、それは」
「ファンの性癖歪ませた張本人がなに言ってんですか」
他人の性壁を歪ませた覚えはない。俺は俺の人生をまっすぐに歩んできただけである。
しかし雪音ちゃんの話が本当ならば、俺ってファンの子からかっこいいって思われてなかったってこと? そういやエゴサしている時にも、ちょいちょい子育てグループなる呼び方されているのを目にした記憶がある。当時は意味がわからず流していたが、今ならわかる。全力で俺を揶揄っている。なんて奴らだ。
「もう自信ない」
「大丈夫ですよ! カミ様ならやればできます!」
ありきたりの言葉で励ましてくる雪音ちゃん。
そうだな。落ち込んでも仕方ないよな。だが、そう簡単に気持ちを切り替えられるもんでもない。
はぁっと深いため息が溢れてしまう。
気がつくと、いつの間にかあの金髪を思い出してしまうのも精神的によろしくない。ふとした瞬間に、なんの前触れもなく、手の甲にキスされたことを思い出してしまうのだ。これもよろしくない。
「しばらくマルセルに会いたくない」
本音をぶち撒ければ、雪音ちゃんが「そうですか」とちょっぴり困ったように眉尻を下げていた。
「イケメンでしょ、どう見ても」
「俺とどっちがかっこいい?」
「どっ? えっとぉ。私的には断然カミ様の方が好みです。推しなので。カミ様には一生ついて行きます。でも一般的に見てですよ? 顔だけ見てですよ? 多分だけどマルセル殿下の方がかっこいいのでは?」
「……だよね」
しょんぼり。
いやわかるよ。そもそも顔立ちからして違うし。俺は日本人的かっこよさだ。だがしかし。マルセルはいかにも異国の王子様って感じできらきらしている。まずもって立っている土俵が違うのだ。
肩を落とす俺に、優しい雪音ちゃんが「カミ様もかっこいいですよ! 性格も! 私ちょっと我儘で子供っぽい大人が好きなので! カミ様ちょータイプです!」と励ましなのか罵倒なのか、よくわからないセリフを吐いている。
マルセルにキス(といっても手の甲)されてから数日。
俺の心はずっともやもやしていた。何かにつけてマルセルの甘い笑顔が頭をよぎる。俺に対してあんな優しいキスする必要あった? こっちは仮にもアイドルだぞ。かっこいい仕草では負けない自信あったのに、それがポッキリ折れてしまった。もうダメだ。あんな間近でイケメンムーブを発揮されるとへこむ。
「俺はマルセルにはなれないんだよ」
「なにを当たり前のことを」
だって! なんだあのきらきら!
俺がちょっと金髪に染めてカラコンしたくらいじゃ、ああはならないぞ。なんかもう完全敗北した気分である。灰になりそう。
わかりやすく項垂れる俺を、雪音ちゃんは懸命に励ましてくれる。すごくいい子。いい子なんだけどさ。
「カミ様も素敵ですよ! 自分の思ったこと全部口からポロッと出ちゃうところとか。テレビでも際どい発言しないかと特に生放送番組ではファンの子みんなどきどきしてましたし」
果たしてこれは励ましなのか? 俺を元気付けるフリして貶していないか?
「それにえっと。すごくこう、メンバー内で誰がモテるのかって訊かれてもいないのに自分が一番とかしゃしゃり出てくるところとか! なんかこう自己評価高くてすごく可愛いって評判でしたよ」
しゃしゃり出るって褒め言葉としてはあんまり使わないよな。やっぱ貶されてる?
「あとは、うーん。自分の主張が通るまで一歩も引かない頑なさも好評でした! 自分がセンターじゃなきゃ嫌だって駄々こねてメンバーとファン全員を困惑させたの私すごく良かったと思います! はい!」
もはや悪口じゃん。困惑させたとか言ってるし。
「……でも俺がセンターで良いってみんな言ってくれた」
「それはだって。そうしないと話進まないから」
ぽりぽりと頬を掻く雪音ちゃんは、「でも本当に好評でしたよ」と念押ししてくる。
「カミ様ファンじゃない子も、カミ様の我儘に振り回されるメンバーが可愛いって目で見ている子がほとんどでしたから。むしろカミ様が我儘言ってそれで困っている推しを見たい的な? 他のメンバー全員でカミ様の子育てしてる感がすごいんですよね、あのグループ」
「歪んだ楽しみ方だよ、それは」
「ファンの性癖歪ませた張本人がなに言ってんですか」
他人の性壁を歪ませた覚えはない。俺は俺の人生をまっすぐに歩んできただけである。
しかし雪音ちゃんの話が本当ならば、俺ってファンの子からかっこいいって思われてなかったってこと? そういやエゴサしている時にも、ちょいちょい子育てグループなる呼び方されているのを目にした記憶がある。当時は意味がわからず流していたが、今ならわかる。全力で俺を揶揄っている。なんて奴らだ。
「もう自信ない」
「大丈夫ですよ! カミ様ならやればできます!」
ありきたりの言葉で励ましてくる雪音ちゃん。
そうだな。落ち込んでも仕方ないよな。だが、そう簡単に気持ちを切り替えられるもんでもない。
はぁっと深いため息が溢れてしまう。
気がつくと、いつの間にかあの金髪を思い出してしまうのも精神的によろしくない。ふとした瞬間に、なんの前触れもなく、手の甲にキスされたことを思い出してしまうのだ。これもよろしくない。
「しばらくマルセルに会いたくない」
本音をぶち撒ければ、雪音ちゃんが「そうですか」とちょっぴり困ったように眉尻を下げていた。
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