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事件前の王国
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──むかしむかしある所に、大層美しい少女がいたそうだ。透き通る大空のような蒼穹の髪を持ち、同じく蒼穹の双眸を持っていた少女は、ある日山に出かけたそうだ。
両親は病弱であった少女を心配しながらも、帰りを待ったと言う。だが、その夜。どれほど待っても少女は、戻って来なかった。
心配になった少女の両親は、暗闇の山へと少女を探しに出かけた。
少女は、全身をウロコで覆われたとてもとても大きなドラゴンに包まれて眠っていた。
両親は何度も何度も声をかけた。しかし、少女は一向に返事をしない。
そのまま少女は目を覚ますことはなく、両親は亡くなり、少女の存在は伝説になったとさ──
「馬鹿げてるよね、ドラゴンなんて何千年も前に滅されたって言うのに」
王立魔術学院"イグノーン"一年生の一限目、歴史の授業中に白銀の髪を持つ華奢な女子生徒がポツリとこぼした。
現国王ロナウゼルセが王位についてはや五年。誰もがダメ王子と言っていたのは過去の話となっていた。
貿易やその他国政など、全てにおいて全国王であるロナウゼルセの父を凌駕していた。
そのロナウゼルセが半ば強引に案を通し、作られたのが王立魔術学院なのであった。
前国王は私立の魔術学院は認めていたが、国立は頑なに認めようとしなかった。その理由は未だに知られていない。
「マジだよな。ってかよ、ドラゴンってホントにいたのか?」
声は潜めてはいる。だが、その声からも興奮は見て取れた。
「ロッキー、それは言っちゃダメって言われたじゃん」
ロッキーと呼ばれたイヌ顔の少年は、面白くなさそうに元よりこの話を振った銀髪の女子を見る。
「てかよ、マリア。俺らもう18だぜ? なんでそんないい歳こえて童話なんて勉強してんだよ」
ロッキーは焦げ茶色の毛を掻きながら、ポツリと零す。王国では生まれた年を1歳と考える。そのため、日本で言う所の17歳にあたる年齢で浦島太郎のお話を勉強しているようなものなのだ。
ロッキーがげんなりする気持ちも分からなくはない。
「でも、王国が決めた必修科目なんだから仕方ないじゃない」
柔く吹いた風にきめ細かい銀髪を揺らしながら、マリアは答えた。
だがやはり、その声に授業を楽しんでいるというものは見られない。
「同じ童話勉強するなら、《禁忌の象徴》のがいいって」
「ほんとにね。存在することすら悪とされた幻の魔術師"イグノアール"。ほんとに居たのかしら」
先ほどまでの死んだ魚のような目とは違い、キラキラと輝く瞳を見せる。
「居たんだったら会いたかったよ。世界の理に触れる魔法を使えた人だったみたいだし」
白の羽根が持ち手に付いた、芯のない鉛筆をコツコツと机に打ち付けながら、ロッキーは夢見心地で語る。
「そこ! 私語は慎んで!」
そこへ童話授業の担当教員である緑髪の女性が声を荒らげた。小柄で幼さの残る顔。しかしながら、その顔立ちに似合わないスタイルの良さはギャップがあり、なかなか魅力的だと思う。
胸元のざっくり空いたチャイナドレスのような衣装に身を包み、ホワイトボードのような白い板の上に人差し指を走らせる。
すると人差し指が通ったところが瞬く間に、光を持ち文字となる。
「えー、至って平凡な家に生まれた蒼穹の髪に瞳を持つ少女"ラファーニェ"は──」
童話授業の担当教員は、第一統魔術"日常魔法"の一種である光文字を用いて《蒼穹の眠り姫》についての説明を始めた。
ちなみに芯のない羽根ペンも芯の部分に光を灯す、光文字の別の使用法である。
「──と、まぁ。幼少期を貧しい暮らしで乗り切ったラファーニェは」
そこまで言うと、ちょうど終業のチャイムが鳴り響く。第一統魔術の一種、拡張化により日本のどんなテーマパークよりも広い王立魔術学院の敷地全体にチャイムが同時に轟く。
「じゃあ今日はここまでにしておきましょう」
緑髪をバサッと靡かせ、ロッキーたち生徒に背を向けてスタスタと歩き始める。
背筋がピンっと伸びており、いかにも堅苦しそうなイメージを与える。
「なんか魔術演算とか教えそうな見た目なのにな」
その姿を見て、金髪碧眼のヒョロい男が薄い笑みで言う。
「イグターったら」
その男をイグターと呼び、どこか楽しげなマリアは広げていた教科書をまとめる。
そして机上で、トントンとそれらを整えてから紺色のリュックサックの中に詰め込む。
「もう終わりなのか?」
「いいえ。後は召喚魔法の実技演習が残っているわ」
召喚魔法の実技演習はかなりしんどいものなのだろう。マリアの顔に嫌気というものが一気に迸る。
「俺は第二統魔術の中の火焔術の授業だわ」
「あー、あの先生のね」
マリアは先生の顔を思い浮かべ、苦笑を見せる。
それほどまでにクセが強い先生なのだろう。
「で、イグター。お前は?」
ロッキーは何故かドヤ顔を浮かべるイグターに質問をする。
「終わりだ」
「「はぁ!?」」
ロッキーとマリアは声を揃えて、悲鳴にも近いそれを上げた。
「ちょっと待てよ、おい。まだ一限終わったばっかりだぞ!?」
「今日はこれだけ」
憎たらしい程の満面の笑み。
「まぁ、せいぜい頑張ってねー」
コロコロと笑い腕をはためかせて手を振る。
「何なのよ。もうっ」
マリアは頬を膨らませ、ため息をつく。
「ほんとな。まぁ、俺は明後日全休だからいいけど」
「うっそ!? ずるーい!!」
目を丸くして驚く。その顔は普段の可愛らしいマリアの顔とはかけ離れており、ロッキーは思わず吹き出してしまう。
「何よっ!」
再度頬を膨らませ、怒ってるよアピールをするマリア。
「あはは、気にすんなって」
笑顔で交わし、ロッキーは黒を主としたショルダーバッグを右肩にかける。
「んまぁ、行くわ」
そして軽く手を振る。
「あ、待ってよっ!」
いつの間にか教室に残っているのはロッキーとマリアだけになっていた。他のみんなは、次の授業に向かったのだろう。
二人となり閑散とした教室に、マリアの透き通る声が響いた。そして急いで、紺色のリュックサックを背負いマリアは教室を出た。
──だがこの後、誰も予想できない事が起こったのだ。王国全土に震撼するあのとんでもない事件が──
両親は病弱であった少女を心配しながらも、帰りを待ったと言う。だが、その夜。どれほど待っても少女は、戻って来なかった。
心配になった少女の両親は、暗闇の山へと少女を探しに出かけた。
少女は、全身をウロコで覆われたとてもとても大きなドラゴンに包まれて眠っていた。
両親は何度も何度も声をかけた。しかし、少女は一向に返事をしない。
そのまま少女は目を覚ますことはなく、両親は亡くなり、少女の存在は伝説になったとさ──
「馬鹿げてるよね、ドラゴンなんて何千年も前に滅されたって言うのに」
王立魔術学院"イグノーン"一年生の一限目、歴史の授業中に白銀の髪を持つ華奢な女子生徒がポツリとこぼした。
現国王ロナウゼルセが王位についてはや五年。誰もがダメ王子と言っていたのは過去の話となっていた。
貿易やその他国政など、全てにおいて全国王であるロナウゼルセの父を凌駕していた。
そのロナウゼルセが半ば強引に案を通し、作られたのが王立魔術学院なのであった。
前国王は私立の魔術学院は認めていたが、国立は頑なに認めようとしなかった。その理由は未だに知られていない。
「マジだよな。ってかよ、ドラゴンってホントにいたのか?」
声は潜めてはいる。だが、その声からも興奮は見て取れた。
「ロッキー、それは言っちゃダメって言われたじゃん」
ロッキーと呼ばれたイヌ顔の少年は、面白くなさそうに元よりこの話を振った銀髪の女子を見る。
「てかよ、マリア。俺らもう18だぜ? なんでそんないい歳こえて童話なんて勉強してんだよ」
ロッキーは焦げ茶色の毛を掻きながら、ポツリと零す。王国では生まれた年を1歳と考える。そのため、日本で言う所の17歳にあたる年齢で浦島太郎のお話を勉強しているようなものなのだ。
ロッキーがげんなりする気持ちも分からなくはない。
「でも、王国が決めた必修科目なんだから仕方ないじゃない」
柔く吹いた風にきめ細かい銀髪を揺らしながら、マリアは答えた。
だがやはり、その声に授業を楽しんでいるというものは見られない。
「同じ童話勉強するなら、《禁忌の象徴》のがいいって」
「ほんとにね。存在することすら悪とされた幻の魔術師"イグノアール"。ほんとに居たのかしら」
先ほどまでの死んだ魚のような目とは違い、キラキラと輝く瞳を見せる。
「居たんだったら会いたかったよ。世界の理に触れる魔法を使えた人だったみたいだし」
白の羽根が持ち手に付いた、芯のない鉛筆をコツコツと机に打ち付けながら、ロッキーは夢見心地で語る。
「そこ! 私語は慎んで!」
そこへ童話授業の担当教員である緑髪の女性が声を荒らげた。小柄で幼さの残る顔。しかしながら、その顔立ちに似合わないスタイルの良さはギャップがあり、なかなか魅力的だと思う。
胸元のざっくり空いたチャイナドレスのような衣装に身を包み、ホワイトボードのような白い板の上に人差し指を走らせる。
すると人差し指が通ったところが瞬く間に、光を持ち文字となる。
「えー、至って平凡な家に生まれた蒼穹の髪に瞳を持つ少女"ラファーニェ"は──」
童話授業の担当教員は、第一統魔術"日常魔法"の一種である光文字を用いて《蒼穹の眠り姫》についての説明を始めた。
ちなみに芯のない羽根ペンも芯の部分に光を灯す、光文字の別の使用法である。
「──と、まぁ。幼少期を貧しい暮らしで乗り切ったラファーニェは」
そこまで言うと、ちょうど終業のチャイムが鳴り響く。第一統魔術の一種、拡張化により日本のどんなテーマパークよりも広い王立魔術学院の敷地全体にチャイムが同時に轟く。
「じゃあ今日はここまでにしておきましょう」
緑髪をバサッと靡かせ、ロッキーたち生徒に背を向けてスタスタと歩き始める。
背筋がピンっと伸びており、いかにも堅苦しそうなイメージを与える。
「なんか魔術演算とか教えそうな見た目なのにな」
その姿を見て、金髪碧眼のヒョロい男が薄い笑みで言う。
「イグターったら」
その男をイグターと呼び、どこか楽しげなマリアは広げていた教科書をまとめる。
そして机上で、トントンとそれらを整えてから紺色のリュックサックの中に詰め込む。
「もう終わりなのか?」
「いいえ。後は召喚魔法の実技演習が残っているわ」
召喚魔法の実技演習はかなりしんどいものなのだろう。マリアの顔に嫌気というものが一気に迸る。
「俺は第二統魔術の中の火焔術の授業だわ」
「あー、あの先生のね」
マリアは先生の顔を思い浮かべ、苦笑を見せる。
それほどまでにクセが強い先生なのだろう。
「で、イグター。お前は?」
ロッキーは何故かドヤ顔を浮かべるイグターに質問をする。
「終わりだ」
「「はぁ!?」」
ロッキーとマリアは声を揃えて、悲鳴にも近いそれを上げた。
「ちょっと待てよ、おい。まだ一限終わったばっかりだぞ!?」
「今日はこれだけ」
憎たらしい程の満面の笑み。
「まぁ、せいぜい頑張ってねー」
コロコロと笑い腕をはためかせて手を振る。
「何なのよ。もうっ」
マリアは頬を膨らませ、ため息をつく。
「ほんとな。まぁ、俺は明後日全休だからいいけど」
「うっそ!? ずるーい!!」
目を丸くして驚く。その顔は普段の可愛らしいマリアの顔とはかけ離れており、ロッキーは思わず吹き出してしまう。
「何よっ!」
再度頬を膨らませ、怒ってるよアピールをするマリア。
「あはは、気にすんなって」
笑顔で交わし、ロッキーは黒を主としたショルダーバッグを右肩にかける。
「んまぁ、行くわ」
そして軽く手を振る。
「あ、待ってよっ!」
いつの間にか教室に残っているのはロッキーとマリアだけになっていた。他のみんなは、次の授業に向かったのだろう。
二人となり閑散とした教室に、マリアの透き通る声が響いた。そして急いで、紺色のリュックサックを背負いマリアは教室を出た。
──だがこの後、誰も予想できない事が起こったのだ。王国全土に震撼するあのとんでもない事件が──
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