異世界冒険記 勇者になんてなりたくなかった

リョウ

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第2章 国立キャルメット学院の悲劇

生まれた新たな問題

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 それからしばらくしてバニラとガースが目を覚ました。
 モモリッタはまだ目を覚まさないが、呼吸は安定をしているのでもう大丈夫だろう。

「とりあえず、報告にだけ行くか」

 そう言ったのはククッスだった。ゆっくりと腰をあげ、立ち上がる。

「どこに行くのかしら?」

 そんなククッスに、サーニャが問いた。

「生徒たちのもとにですよ。生徒たちはいま、演習施設に避難をしておりますので」

「そうですか。なら、私も行きます」

「サーニャ様が、ですか?」

「何があったか、詳しく知らないと」

「そういうことですか。なら、皆で行きましょう。先生方もコータたちの心配をしているでしょうし」

 ククッスはコータたちを一瞥して言う。そしてマレアがゆっくりと立ち上がる。

「そう言えば、私たちの対戦相手だった人たちは?」

「多分死んでるだろう。元々森で現れたオーガはオリビアとパイロスだったし」

 続いて立ち上がったガースが告げる。

「そうだったの」

 驚きを隠せないリゼッタが弱々しく呟く。

「はい。それを倒すことが出来ず、リゼッタ様に危険を及ぼしてしまい、誠に申し訳ございません」

 立ち上がると同時に頭を下げるバニラ。そんなバニラに、リゼッタは優しく微笑みかける。

「バニラが無事で良かったわ」

「コータ。モモリッタのこと、頼むわ」

 ククッスがどこか楽しそうに言う。

「え、どうして俺なんですか?」

「助けたかったんだろ? せっかく助けられたんだから、最後まで面倒みろよ」

 そう告げると、ククッスは歩き出す。それに続いてサーニャたちも歩き出す。誰一人として、コータに手を差し伸ばすものはいない。

「まじかよ……」

 コータはか弱い声で呟き、モモリッタを背負うのだった。


 * * * *

 校舎へと向かう道中。サーニャはククッスに状況の説明を受けていた。それに対し、サーニャが幾つか質問を投げかける。ククッスは的確に解答し、サーニャは考え込むような様子を見せる。

「一番の問題はどうしてオーガである、インタルが学院に潜伏できたのか、だ」

「普通に採用されたのではないのですか?」

 サーニャの独り言のような呟きに、マレアが声を上げた。

「そうだと思うのだが、学院の採用はある程度の実績が必要になるのだ」

「なるほど。魔物であるインタルに実績は作れない、とお考えなのですね」

「そういうことだ」

 普通の魔物は人間として暮らすことは尋常では無いほどに難しい。だが、オーガだけは別だ。
 オーガは元々人間であり、人間に化ける魔法さえ手にすれば幾らでも人間社会に溶け込める。
 だが、オーガが人間から生まれた魔物だということは、第2王女であるサーニャですら知らない。
 人族の誰に聞いても知らないだろう。知っているのは、魔族の極一部。それゆえ、オーガが人の社会に溶け込める理由が分からないのだ。


「それにどうして貴族を魔物化しなかったのか、というのも不思議で仕方がない」

「そうですね。長らく教師をしていたのなら、平民より貴族のほうが魔力に優れていることは分かるはず。魔力が優れている方がより一層、強い魔物へと変化させられたはずでしょうに」

 サーニャの呟き、今度はルーストが返す。

「お父様に報告しなければ」

 サーニャが決意を固めたところで、コータたちは剣術模擬場に辿り着いた。
 剣術模擬場に入ると、そこは人で溢れかえっていた。
 そしてククッスの姿を見つけるや否や、教師たちが駆け寄ってくる。

「先生、どうなりましたか?」

「えぇ、終わりましたよ」

 ククッスの言葉を聞くなり、先生たちは安堵の息をこぼした。だが、それと同時に表情を暗くした。

「……申し訳ございません」

「先生のせいじゃないです! 我々教師の力が及ばないせいで――」

 どうやら守りきれなかった生徒や同僚の教師たちのことを思ったらしい。

 もっと早くに対応できていれば。平民出の生徒たちに不安を与えるようなことがなければ。
 違った結果を生んでいたかもしれない。

 教育に従事する者として、これからも苦悩していくに違いない。

「あ、そう言えば」

 一人の男性教師が何かを思い出したような表情で、声を上げた。

「アストラス先生がまだ帰ってきていないんです」

「どういうことですか?」

 その言葉に1番に反応したのはリゼッタだ。その返しに驚いたのか、男性教師は少し驚いた様子を見せから早口で答える。

「学院長を探しに行くと行って出て行ったきりで」

「それなら向こう側にいるかもしれないな」

 渋い顔を浮かべたククッスはそう呟く。

「私も行きます」

「私も」

 リゼッタに続き、マレアも声を上げる。それを受け、ククッスは額に手を当てた。勘弁してくれ、そう言わんばかりだ。

「お前らが行くと言ったら皆行きたがるだろ」

「私たちは皆さんとは違う場所に居たので、アストラス先生も心配しているはずです」

 芯の通ったリゼッタの言葉を受け、流石のククッスも何も言い返すことが出来なくなる。
 無言を肯定と捉えた生徒たちが声を上げる。その生徒たちに向かい、ククッスは厳しい視線を浴びせる。

「お前たちはここにいろ。行っていいのは、模擬戦争で森へと行っていた者だけだ」

 途端に生徒たちからは不満の声が洩れた。だが、それに反抗する声は上がることがなかった。

「では、行くぞ」

 ククッスはリゼッタたちを一瞥し、声を上げた。それに従い、リゼッタたちは動き出した。




「あの、サーニャ様」

「なんだ」

 コータの呼び掛けに、少し驚きの声を洩らすサーニャ。

「どうして学院に?」

「あぁ、少し事情が変わったのだ」

「どういうことですか?」

 コータの問いに、サーニャは答えない。代わりにルーストが口を開いた。

「エルフ側から、会談の日程を早めて欲しいと通達があったのです。それでコータさんを迎えに来たということです」

「理由は分かりました。ですが、どうしてエルフは会談を早めたいのですか?」

「それは分からない。だが、エルフ側にも何かあったことは確かだろう」

 そう答えたサーニャは、後ろを歩くコータの方を振り返る。

「それにしても、コータ。私たち王族に対する言葉遣いが良くなったんじゃないか?」

「そうですか?」

「えぇ。少し丸みを帯びたように感じますよ」

 自分では分かっていなかった変化に戸惑うコータに、ルーストは微笑みを浮かべた。
 何だかそれが照れくさくなり、コータは頬を掻く。

「でも、コータに畏まられてもこそばゆいだけだな」

 だが、そんな空気をぶち壊さんとばかりにサーニャが大きな声で笑う。

「サーニャ様、はしたないですよ」

 ルーストの言葉に、サーニャはすまない、と小声で謝罪をしてから、大きく咳払いをする。

「着きました」

 そんな会話をしているうちに、もう一つの避難場所として生徒たちが隠れている魔法道場に着いた。コータが魔法を暴走させ、何度も何度も魔法制御の訓練をしてきた場所だ。
 少し懐かしさを覚えながらも中に入る。すると、そこには剣術模擬場と同じく、ごった返すほどの人がいた。

「クルス先生!」

 人と人の間を縫うようにして姿を見せたのは、女性教師だ。その形相は安堵、と言うよりは不安が強く滲んでいるように思える。

「どうかしましたか?」

 宥める意味も込め、ククッスはできる限り優しく口調で問いかける。
 しかし女性教師に落ち着く様子は見受けられず、早口で説明を始めた。

「アストラス先生が! アストラスが、帰ってこないんです!」

 瞬間、コータは走り出した。それに続きリゼッタが駆け出す。
 それを追うようにサーニャも走り出す。

「お、おい!!」

 ククッスが呼びかけても止まらない。ククッスは頭を抱えながら周囲を確認する。そこで周りにいたはずのバニラたちの姿でさえ、消えていることに気づく。

「マジかよ」

 幾らオーガを撃退したとはいえ、彼らは学生であり、ククッスは教師だ。

「めんどくさいな!」

 そう叫び、ククッスもコータたちを追いかけるのだった。
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