26 / 43
第四章
蔓延する呪詛①
しおりを挟む
翌日、綾奈は昨日より幾分か明るい気持ちでいつもの学校生活を送った。
今日学校に行けば明日は土曜日で休みだ。
美也とショッピングに行く約束をして、綾奈はうきうきしていた。
沙希は相変わらず休みだった。沙希に続いて、昨日は元気だった海も休んでいた。
平気そうにしていたけれど、沙希に首を絞められるというショッキングな体験をしたのだから無理からぬことかもしれない。
海は休んでくれたおかげで、綾奈は隣りの席の辰真に話しかける機会が持てた。
海がいる時に辰真に話しかけたりしたら、なんて言われるかわかったものではない。
「辰真くん」
綾奈が名前を呼ぶと、辰真は明るく笑った。
「よっ、綾奈。調子はどうだ?元気?」
「うん、いちおう元気」
「よかった。幽霊屋敷に行ってから山岸がずっと休みだし、今日は大槻まで休みだからちょっと心配だったんだよな」
「そうだね」
「あのさ、綾奈。ヘンなこと言うヤツって思われたくないからちょっと聞きにくいんだけど、あそこ行ってから、なんか変わったこととかねえ?」
遠慮がちな辰真の質問に綾奈は目をぱちくりさせる。
ドキンと心臓が不穏な脈を打ったことを隠して、綾奈はあくまで知らないふりで首を傾げた。
「変わったこと?」
「えっと、その。たとえば、なんか妙なモンを見たとか」
「それって、まさか―…」
「うーん、アレだよ。幽霊的なの」
少し恥かしそうな顔で辰真が尋ねた。それに対して、笑って返す余裕は綾奈にはなかった。
顔を青褪めさせた綾奈を見て、辰真がしまったという顔をする。
「わりぃ、忘れてくれよ。驚かすつもりはなかったんだ。なんか、ごめんな」
「ううん、いいの。私こそごめん、大袈裟に驚いたりして。
ダメだね、私。やっぱり海が言うように怖がりなの、治ってないのかも」
誤魔化し笑いをする綾奈に辰真がにっと笑いかける。
「いいじゃねぇか、女子は怖がりでも。かわいいと思うぜ」
可愛いなんて男子から言われ慣れていない綾奈は、それが自分個人を特定して言ったわけじゃないとわかっていても、つい赤面してしまう。
辰真がもてるのもうなずける。
爽やかで男前で、明るくてリップサービスも上手いとなれば、女子が惚れないはずがない。
男子になんて興味ないというスタンスを貫いてきた綾奈でさえ、思わずかっこいいと思ってしまった。
「えっ、あ、うん。そうだね、私、女子っぽくないから怖がりぐらいでちょうどいいのかもしれないね」
てんぱって、ついわけのわからないことを口走る。
そんな綾奈に、辰真はさらなる爆弾を落とした。
「心配しなくても、綾奈は女子っぽくてカワイイとおもうぜ」
さらりとそう言ってのけた辰真に、今度こそ綾奈は白旗を上げた。
辰真のことは別に好きじゃないから、海の恋のキューピットをするなどと言ったけれど、自分も辰真に魅かれはじめている。そう認めざるをえないようだ。
恥かしくなってきて、綾奈は慌てて話を転換する。
「あっ、えっと、辰真くんさ、幽霊的なやつ見たんだよね?いったい何を見たの?」
あまりに不自然な話の転換だ。しかも、掘り下げるべき話題ではない。
綾奈は自分の不器用さにがっかりした。
辰真はそれを気にしたふうはなく、急にまた真剣な表情になる。
「昨日の夜、ブツブツ誰かが喋っている声で目が覚めたんだよな。
声は部屋の隅から聞こえてたんだ。
電気を点けると明るさで本格的に目が覚めちまうから、暗いままで部屋の隅を見たんだ」
一旦言葉を切り、辰真はゆっくりと瞬きをした。
「……そうしたら、いたんだよ」
「な、なにが?」
「白い着物の女。そいつは部屋の隅で膝を抱えて座り込んでてさ、こう繰り返すんだ。呪ってやる、呪ってやるって」
辰真の言葉を頭の中で思い浮かべて綾奈はぞっとした。語る辰真の顔色もよくない。
「もしかして、おれミコトサマに……」
言い掛けて、辰真ははっとした顔になった。
それからいつもの明るい笑顔を浮かべて、顔の前で大きく手を振る。
「なんて、ないない。たぶん寝惚けてたんだな。朝になったら女なんて部屋にいなかったし、幽霊屋敷なんか行ったから悪い夢でも見ちまったんだよな」
「うん、そうだね。悪い夢だよ、きっと」
「だよな。ははっ、おれも意外と臆病なのかもな。でもまあ、もし仮にマジでやばいことがあったらさ、おれに相談してくれよな、綾奈」
「うん、ありがとう。そうするね」
無理やり笑顔を浮かべながら、綾奈の心の中は穏やかではなかった。
まずいことが起きている。
そんな気がしながらも、それを考えるのはあまりに怖くて、すべては気のせいなのだと、綾奈は逃避した。怖いことを考えるのをやめ、明日のショッピングに思いを馳せた。
今日学校に行けば明日は土曜日で休みだ。
美也とショッピングに行く約束をして、綾奈はうきうきしていた。
沙希は相変わらず休みだった。沙希に続いて、昨日は元気だった海も休んでいた。
平気そうにしていたけれど、沙希に首を絞められるというショッキングな体験をしたのだから無理からぬことかもしれない。
海は休んでくれたおかげで、綾奈は隣りの席の辰真に話しかける機会が持てた。
海がいる時に辰真に話しかけたりしたら、なんて言われるかわかったものではない。
「辰真くん」
綾奈が名前を呼ぶと、辰真は明るく笑った。
「よっ、綾奈。調子はどうだ?元気?」
「うん、いちおう元気」
「よかった。幽霊屋敷に行ってから山岸がずっと休みだし、今日は大槻まで休みだからちょっと心配だったんだよな」
「そうだね」
「あのさ、綾奈。ヘンなこと言うヤツって思われたくないからちょっと聞きにくいんだけど、あそこ行ってから、なんか変わったこととかねえ?」
遠慮がちな辰真の質問に綾奈は目をぱちくりさせる。
ドキンと心臓が不穏な脈を打ったことを隠して、綾奈はあくまで知らないふりで首を傾げた。
「変わったこと?」
「えっと、その。たとえば、なんか妙なモンを見たとか」
「それって、まさか―…」
「うーん、アレだよ。幽霊的なの」
少し恥かしそうな顔で辰真が尋ねた。それに対して、笑って返す余裕は綾奈にはなかった。
顔を青褪めさせた綾奈を見て、辰真がしまったという顔をする。
「わりぃ、忘れてくれよ。驚かすつもりはなかったんだ。なんか、ごめんな」
「ううん、いいの。私こそごめん、大袈裟に驚いたりして。
ダメだね、私。やっぱり海が言うように怖がりなの、治ってないのかも」
誤魔化し笑いをする綾奈に辰真がにっと笑いかける。
「いいじゃねぇか、女子は怖がりでも。かわいいと思うぜ」
可愛いなんて男子から言われ慣れていない綾奈は、それが自分個人を特定して言ったわけじゃないとわかっていても、つい赤面してしまう。
辰真がもてるのもうなずける。
爽やかで男前で、明るくてリップサービスも上手いとなれば、女子が惚れないはずがない。
男子になんて興味ないというスタンスを貫いてきた綾奈でさえ、思わずかっこいいと思ってしまった。
「えっ、あ、うん。そうだね、私、女子っぽくないから怖がりぐらいでちょうどいいのかもしれないね」
てんぱって、ついわけのわからないことを口走る。
そんな綾奈に、辰真はさらなる爆弾を落とした。
「心配しなくても、綾奈は女子っぽくてカワイイとおもうぜ」
さらりとそう言ってのけた辰真に、今度こそ綾奈は白旗を上げた。
辰真のことは別に好きじゃないから、海の恋のキューピットをするなどと言ったけれど、自分も辰真に魅かれはじめている。そう認めざるをえないようだ。
恥かしくなってきて、綾奈は慌てて話を転換する。
「あっ、えっと、辰真くんさ、幽霊的なやつ見たんだよね?いったい何を見たの?」
あまりに不自然な話の転換だ。しかも、掘り下げるべき話題ではない。
綾奈は自分の不器用さにがっかりした。
辰真はそれを気にしたふうはなく、急にまた真剣な表情になる。
「昨日の夜、ブツブツ誰かが喋っている声で目が覚めたんだよな。
声は部屋の隅から聞こえてたんだ。
電気を点けると明るさで本格的に目が覚めちまうから、暗いままで部屋の隅を見たんだ」
一旦言葉を切り、辰真はゆっくりと瞬きをした。
「……そうしたら、いたんだよ」
「な、なにが?」
「白い着物の女。そいつは部屋の隅で膝を抱えて座り込んでてさ、こう繰り返すんだ。呪ってやる、呪ってやるって」
辰真の言葉を頭の中で思い浮かべて綾奈はぞっとした。語る辰真の顔色もよくない。
「もしかして、おれミコトサマに……」
言い掛けて、辰真ははっとした顔になった。
それからいつもの明るい笑顔を浮かべて、顔の前で大きく手を振る。
「なんて、ないない。たぶん寝惚けてたんだな。朝になったら女なんて部屋にいなかったし、幽霊屋敷なんか行ったから悪い夢でも見ちまったんだよな」
「うん、そうだね。悪い夢だよ、きっと」
「だよな。ははっ、おれも意外と臆病なのかもな。でもまあ、もし仮にマジでやばいことがあったらさ、おれに相談してくれよな、綾奈」
「うん、ありがとう。そうするね」
無理やり笑顔を浮かべながら、綾奈の心の中は穏やかではなかった。
まずいことが起きている。
そんな気がしながらも、それを考えるのはあまりに怖くて、すべては気のせいなのだと、綾奈は逃避した。怖いことを考えるのをやめ、明日のショッピングに思いを馳せた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる