113 / 146
第四章
分かつ愛
しおりを挟む
「二日。二日経ったら必ずおまえを救うと約束した。その約束を破ったのはわたしだ。そのせいでおまえには要らない苦労をかけた」
「そんな……」
「自分が不甲斐ない。負傷したのもわたしの気の緩みが原因だ。おまえの責任じゃない」
「違います! マーリナスは僕を探しにきてそうなったんだ!」
確かにマーリナスは怒っていた。自分に対し、己の不甲斐なさに苛立って。三日目を過ぎてなお、アレクが生き延びたということは、「代償」を手に入れたことを意味している。
それが捜索中にあたまをよぎらなかったとでもいうのか。何度も考えた。誰と、いつ、どうやって。また酷いことをされているのではないか、傷ついているのではないか。
気がおかしくなってしまいそうだった。それでも。生きていて欲しいと切に願った。だから。
「おまえの身を守ると約束した。だが、守れなかった。謝るべきなのはわたしの方だ、アレク」
「違う! マーリナスはなにも悪くない! 僕が悪いんです!」
アレクは悲痛な叫びをあげる。夜空の下でマーリナスが悲しげに目を伏せたから。
今度はアレクが怒っていた。そんなことあるはずがない。マーリナスが悪いなんて、そんなこと絶対にない。
「だからアレク。自分を責めるな」
マーリナスの声は初夏の夜風のようにほんのりと暖かく心に触れる。穏やかで心地よくて、目を閉じて受け入れたくなる、そんな響きで心に落ちてくる。
「おまえの罪はわたしの罪と同じだ」
「マーリナス?」
「互いに約束を果たせたなかったのなら、痛み分けだろう? おまえが背負った痛みはわたしが半分背負おう。だからアレク、おまえもわたしの痛みを半分背負ってくれるか」
アレクは目を見開いた。眉を下げて困ったように苦笑を洩らしたマーリナスに。
「マーリナスの痛みを、僕が?」
「おまえの痛みはわたしが」
そのとき、アレクの胸に溢れた感情はなんだったのだろう。自分の罪はずっと自分で抱えてきた。全て自分が悪いのだと思ってきた。
苦しくて苦しくて逃げ出したくて。それでもこの呪いは決して自分を解放してくれない。
これが運命だと受け入れるしかなくて、ずっと歯を食いしばって生きていた。
その痛みを、半分寄越せとマーリナスはいう。アレクの目から堪えきれなくなった涙の粒が溢れ出す。なぜ、このひとはこんなに優しいんだろう。痛み分けだなんて。
だけど、そうできたら。マーリナスの心の痛みを半分引き受けることができたら。とても嬉しいと、アレクは思ってしまう。
そうやって寄り添って生きていけたら、どれほどしあわせだろうか。
考えた途端、アレクの顔が綻んだ。
「アレク?」
俯いてクスクスと笑い始めたアレクにマーリナスは少し驚いたような顔を浮かべた。
だって怒られると思っていたのに、こんなことになるなんて想像できるはずがない。
「わかりました。僕があなたの痛みを半分引き受けます。だからこんな僕でも、もう少し傍に居させてもらってもいいですか?」
目尻の涙を拭って顔をあげたアレクに、マーリナスは数度瞬きを繰り返し、そして小さく笑った。
「こんなわたしでよければな」
「あなただから、傍にいたいんです」
笑顔の花が咲き誇った。朝昼晩と彩を変えるプラチナ・ローズ。アレクの母がなぜその薔薇を気に入ったのか、マーリナスにはよくわかる。
切なく悲しげに揺れる薔薇は、ときに美しく愛らしく咲き誇るのだろう。それはきっとアレクにとても良く似ている。
マーリナスは目を細めると、綺麗な笑顔を浮かべるアレクの首を引き寄せた。
満天の星空の下。爽やかな夜風に乗って色とりどりの花びらが舞い踊る。
小さな花々の上で互いの指先を絡ませて、ふたりはそっと唇を重ね合わせた。
「そんな……」
「自分が不甲斐ない。負傷したのもわたしの気の緩みが原因だ。おまえの責任じゃない」
「違います! マーリナスは僕を探しにきてそうなったんだ!」
確かにマーリナスは怒っていた。自分に対し、己の不甲斐なさに苛立って。三日目を過ぎてなお、アレクが生き延びたということは、「代償」を手に入れたことを意味している。
それが捜索中にあたまをよぎらなかったとでもいうのか。何度も考えた。誰と、いつ、どうやって。また酷いことをされているのではないか、傷ついているのではないか。
気がおかしくなってしまいそうだった。それでも。生きていて欲しいと切に願った。だから。
「おまえの身を守ると約束した。だが、守れなかった。謝るべきなのはわたしの方だ、アレク」
「違う! マーリナスはなにも悪くない! 僕が悪いんです!」
アレクは悲痛な叫びをあげる。夜空の下でマーリナスが悲しげに目を伏せたから。
今度はアレクが怒っていた。そんなことあるはずがない。マーリナスが悪いなんて、そんなこと絶対にない。
「だからアレク。自分を責めるな」
マーリナスの声は初夏の夜風のようにほんのりと暖かく心に触れる。穏やかで心地よくて、目を閉じて受け入れたくなる、そんな響きで心に落ちてくる。
「おまえの罪はわたしの罪と同じだ」
「マーリナス?」
「互いに約束を果たせたなかったのなら、痛み分けだろう? おまえが背負った痛みはわたしが半分背負おう。だからアレク、おまえもわたしの痛みを半分背負ってくれるか」
アレクは目を見開いた。眉を下げて困ったように苦笑を洩らしたマーリナスに。
「マーリナスの痛みを、僕が?」
「おまえの痛みはわたしが」
そのとき、アレクの胸に溢れた感情はなんだったのだろう。自分の罪はずっと自分で抱えてきた。全て自分が悪いのだと思ってきた。
苦しくて苦しくて逃げ出したくて。それでもこの呪いは決して自分を解放してくれない。
これが運命だと受け入れるしかなくて、ずっと歯を食いしばって生きていた。
その痛みを、半分寄越せとマーリナスはいう。アレクの目から堪えきれなくなった涙の粒が溢れ出す。なぜ、このひとはこんなに優しいんだろう。痛み分けだなんて。
だけど、そうできたら。マーリナスの心の痛みを半分引き受けることができたら。とても嬉しいと、アレクは思ってしまう。
そうやって寄り添って生きていけたら、どれほどしあわせだろうか。
考えた途端、アレクの顔が綻んだ。
「アレク?」
俯いてクスクスと笑い始めたアレクにマーリナスは少し驚いたような顔を浮かべた。
だって怒られると思っていたのに、こんなことになるなんて想像できるはずがない。
「わかりました。僕があなたの痛みを半分引き受けます。だからこんな僕でも、もう少し傍に居させてもらってもいいですか?」
目尻の涙を拭って顔をあげたアレクに、マーリナスは数度瞬きを繰り返し、そして小さく笑った。
「こんなわたしでよければな」
「あなただから、傍にいたいんです」
笑顔の花が咲き誇った。朝昼晩と彩を変えるプラチナ・ローズ。アレクの母がなぜその薔薇を気に入ったのか、マーリナスにはよくわかる。
切なく悲しげに揺れる薔薇は、ときに美しく愛らしく咲き誇るのだろう。それはきっとアレクにとても良く似ている。
マーリナスは目を細めると、綺麗な笑顔を浮かべるアレクの首を引き寄せた。
満天の星空の下。爽やかな夜風に乗って色とりどりの花びらが舞い踊る。
小さな花々の上で互いの指先を絡ませて、ふたりはそっと唇を重ね合わせた。
1
あなたにおすすめの小説
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる