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第二章
三日目の夜
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いまはまず逃げなくては。それからどれほど走っただろうか。ベインもロナルドも体力はあるが、すでに根性勝負といったところで互いに息を切らし、あごから伝う汗を何度も拭いながら足を進める、そんなときだった。
「ベイン! ベインじゃねえか!」
出会い頭に飛んできた声にベインは心臓が止まるかと思った。汗だくになりながら振り返れば、じゃらじゃらと宝石を身につけた小太りな男が自分を見ていた。
「ば……バロンさん……」
「よう、探したぜ。まあ、探してんのはおめえじゃなくてアレクなんだけどよ。おめえひとりか?」
背後に数人の護衛を連れてベインの背後に視線を向けるバロンにベインはごくりとのどを鳴らす。
「そ、それよりこの地下通路に警備隊が!」
「ああっ!? 警備隊だあ?」
「さっき見つかっちまって逃げてるとこです! しつこいヤツでまだ追ってきやがるんですわ。バロンさんも捕まらないように逃げた方がいいですよ! じゃあ、俺はお先に!」
「お……おいっ!」
呆然とするバロンに見向きもせず、ベインは脇をすり抜けて駆けだす。その後方で。
「ベイーーンッ!」
ロナルドの叫びがこだました。
「ま、まじかよ! なんで警備隊が……」
「バロンさん! 俺らも逃げましょう!」
「だめだ! アレクを取り戻さねえと!」
「捕まっちまいますよ!」
「けどアレクが……」
「バロンさんっ! 捕まったら元も子もないっすよ! 見つけてもまた離れることになる! いまは身を隠しましょう!」
「そ……そうだな……ぬう……っ!」
必死の形相で護衛にうながされ、バロンはたたらを踏んで悔しそうに顔を歪めるとベインの後を追って駆けだした。
後を追いかけていたロナルドは視線の先にそんなバロンの後ろ姿をとらえる。
「あれは! バロンか!?」
「やべえっ! 行くぞっ!!」
駆けだしたバロンもまたロナルドの姿を後方にとらえ、叫ぶ。
先頭にベイン、次いでバロン、そして追いかけるロナルドという構図を作りあげ、いち早く分かれ道にさしかかったベインは右へ曲がり、バロンは左へ折れる。最後に分かれ道に到着したロナルドはバロンの背中を追って左に足を向けた。
「はあっはっ、やっと……いなくなりやがった……」
ロナルドがバロンを追って消えていく姿を遠目で確認したベインは、どさりとその場に尻餅をつき、短い呼吸を繰り返しながらがくりとうなだれた。
◇
「確か……この先に……」
首をかしげながらぶつぶつとつぶやき、松明で照らされた道にぼうっと浮かび上がるのはモーリッシュの姿。
そんなモーリッシュの後方ではマーリナスたちが息をひそめてバロンの動向を見守っていた。
実はモーリッシュとすれ違ったあのとき、マーリナスはすでにモーリッシュがすぐそこに身をひそめていること知っていたのである。
地下街の所々には探知魔法によって警備兵の侵入を警戒している地区があったようだが、この地下遺跡に関してその魔法はかけられていなかった。おそらく縦横無尽に走るこの大迷路をカバーすることができずに諦めたのだろう。
そのためバロン屋敷の地下牢入口を起点として探索を開始したときから、探知魔法が使える警備兵はみな魔法を駆使してモーリッシュやバロンとの接触に備えていたのだ。
だからモーリッシュとすれ違う少し前からマーリナスには警備兵と違う人影がひそんでいることはわかっていた。だが感知したのは大人がひとり。そこにアレクとおぼしき影を感知することはかなわなかった。
とらえた影の正体まではさすがにわからなかったが、ここにいるのはモーリッシュかバロン。そしてその関係者以外にない。
だから敢えて情報を流したのだ。「モーリッシュとアレクを探している」と。
そうして情報を流せば必ず動きだすとにらんだ。まさかその影の正体がモーリッシュ本人だったとは、目にするまで思いもしなかったが。
だがモーリッシュがここにいるということはバロンとの取り引きがまだ終わっていないことを指す。
実際のところ、モーリッシュにはバロンの国外逃亡の手引きをする役目が残っていたのだから、すぐに動くことはできなかったのだが。
警備隊がこの地下遺跡に侵入したことを知り、追われる身とわかれば取り引きに必要な「商品」であるアレクをむざむざと置いていくはずがない。きっと迎えに行くだろうと踏んで後を追いかけた。
もちろんモーリッシュはそのつもりだったが、いくつか見当はつくものの、それとて確実なものではない。
まず一番距離の近かった偽物の隠し金庫へと足を運び、中を開いてみたが中身は空っぽ。大きなため息をついて二つ目の隠し金庫へと向かったがそこもハズレ。
事情がわからずアレクを迎えに行くつもりだと踏んでいたマーリナスは、モーリッシュが金庫だけを巡っていることに疑念を覚える。
アレクを迎えにいかずに逃走資金でも取りにいくつもりなのかと、あたまを悩ませ始めたのである。
それは同行していた兵も同様で、みなモーリッシュの動向に首をかしげていた。
「アレクを迎えにいくつもりはなさそうですね」
「ああ……そのようだな」
もしや、すでに取り引きは終わってしまっているのだろうか。そんな焦りさえマーリナスの中に生まれ始めた。
モーリッシュの後をつけて五つほど金庫を回った頃には時間はゆうに真夜中を回っており、既にアレクが潜入してから三日目に差し掛かろうとしている。
その焦りがさらにマーリナスを追い詰めた。
「ベイン! ベインじゃねえか!」
出会い頭に飛んできた声にベインは心臓が止まるかと思った。汗だくになりながら振り返れば、じゃらじゃらと宝石を身につけた小太りな男が自分を見ていた。
「ば……バロンさん……」
「よう、探したぜ。まあ、探してんのはおめえじゃなくてアレクなんだけどよ。おめえひとりか?」
背後に数人の護衛を連れてベインの背後に視線を向けるバロンにベインはごくりとのどを鳴らす。
「そ、それよりこの地下通路に警備隊が!」
「ああっ!? 警備隊だあ?」
「さっき見つかっちまって逃げてるとこです! しつこいヤツでまだ追ってきやがるんですわ。バロンさんも捕まらないように逃げた方がいいですよ! じゃあ、俺はお先に!」
「お……おいっ!」
呆然とするバロンに見向きもせず、ベインは脇をすり抜けて駆けだす。その後方で。
「ベイーーンッ!」
ロナルドの叫びがこだました。
「ま、まじかよ! なんで警備隊が……」
「バロンさん! 俺らも逃げましょう!」
「だめだ! アレクを取り戻さねえと!」
「捕まっちまいますよ!」
「けどアレクが……」
「バロンさんっ! 捕まったら元も子もないっすよ! 見つけてもまた離れることになる! いまは身を隠しましょう!」
「そ……そうだな……ぬう……っ!」
必死の形相で護衛にうながされ、バロンはたたらを踏んで悔しそうに顔を歪めるとベインの後を追って駆けだした。
後を追いかけていたロナルドは視線の先にそんなバロンの後ろ姿をとらえる。
「あれは! バロンか!?」
「やべえっ! 行くぞっ!!」
駆けだしたバロンもまたロナルドの姿を後方にとらえ、叫ぶ。
先頭にベイン、次いでバロン、そして追いかけるロナルドという構図を作りあげ、いち早く分かれ道にさしかかったベインは右へ曲がり、バロンは左へ折れる。最後に分かれ道に到着したロナルドはバロンの背中を追って左に足を向けた。
「はあっはっ、やっと……いなくなりやがった……」
ロナルドがバロンを追って消えていく姿を遠目で確認したベインは、どさりとその場に尻餅をつき、短い呼吸を繰り返しながらがくりとうなだれた。
◇
「確か……この先に……」
首をかしげながらぶつぶつとつぶやき、松明で照らされた道にぼうっと浮かび上がるのはモーリッシュの姿。
そんなモーリッシュの後方ではマーリナスたちが息をひそめてバロンの動向を見守っていた。
実はモーリッシュとすれ違ったあのとき、マーリナスはすでにモーリッシュがすぐそこに身をひそめていること知っていたのである。
地下街の所々には探知魔法によって警備兵の侵入を警戒している地区があったようだが、この地下遺跡に関してその魔法はかけられていなかった。おそらく縦横無尽に走るこの大迷路をカバーすることができずに諦めたのだろう。
そのためバロン屋敷の地下牢入口を起点として探索を開始したときから、探知魔法が使える警備兵はみな魔法を駆使してモーリッシュやバロンとの接触に備えていたのだ。
だからモーリッシュとすれ違う少し前からマーリナスには警備兵と違う人影がひそんでいることはわかっていた。だが感知したのは大人がひとり。そこにアレクとおぼしき影を感知することはかなわなかった。
とらえた影の正体まではさすがにわからなかったが、ここにいるのはモーリッシュかバロン。そしてその関係者以外にない。
だから敢えて情報を流したのだ。「モーリッシュとアレクを探している」と。
そうして情報を流せば必ず動きだすとにらんだ。まさかその影の正体がモーリッシュ本人だったとは、目にするまで思いもしなかったが。
だがモーリッシュがここにいるということはバロンとの取り引きがまだ終わっていないことを指す。
実際のところ、モーリッシュにはバロンの国外逃亡の手引きをする役目が残っていたのだから、すぐに動くことはできなかったのだが。
警備隊がこの地下遺跡に侵入したことを知り、追われる身とわかれば取り引きに必要な「商品」であるアレクをむざむざと置いていくはずがない。きっと迎えに行くだろうと踏んで後を追いかけた。
もちろんモーリッシュはそのつもりだったが、いくつか見当はつくものの、それとて確実なものではない。
まず一番距離の近かった偽物の隠し金庫へと足を運び、中を開いてみたが中身は空っぽ。大きなため息をついて二つ目の隠し金庫へと向かったがそこもハズレ。
事情がわからずアレクを迎えに行くつもりだと踏んでいたマーリナスは、モーリッシュが金庫だけを巡っていることに疑念を覚える。
アレクを迎えにいかずに逃走資金でも取りにいくつもりなのかと、あたまを悩ませ始めたのである。
それは同行していた兵も同様で、みなモーリッシュの動向に首をかしげていた。
「アレクを迎えにいくつもりはなさそうですね」
「ああ……そのようだな」
もしや、すでに取り引きは終わってしまっているのだろうか。そんな焦りさえマーリナスの中に生まれ始めた。
モーリッシュの後をつけて五つほど金庫を回った頃には時間はゆうに真夜中を回っており、既にアレクが潜入してから三日目に差し掛かろうとしている。
その焦りがさらにマーリナスを追い詰めた。
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