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愛を伝えるにはどうしたら?
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先月は誕生日だった。
お祝いして貰えるなんて、これもまた久しぶり。
咲人さんと琉さんから、こんな大きいの扉を潜れるかなってくらい大きなくまのぬいぐるみが届いて、その時の玲司さんの嫌そうなかおったらなかった。
これ、ベッドに置くなよ、ヒートの時に使うなよと念を押されて、こんな大きいのベッドの上に載っけたら寝る場所なくなっちゃうし、ヒートの時には玲司さんも、玲司さんから貰ったいるかもいるし、使う必要ないと言ってやっと納得してくれた。
……ふかふかで気持ちいいけど、そういう対象ではない、いるかはその、玲司さんが買ってくれたから嬉しかったのであって。
欲しいと言っていた首輪はもう必要ないだろう、と連れて行かれたのはぼくには似合わないジュエリーショップで、何を、と思っていたら指輪にしようか、と少し恥ずかしそうに言う玲司さんに、どきどきして胸がきゅうっと痛くなって、それから正気に戻った。
いや桁、桁が思ったのと違う。
首を横に振るぼくに、婚約指輪なんてこんなものでしょ、と言う。確かにおじさんに、番は構わないけど籍を入れるのは玲司さんが卒業してから、と言われたから、婚約、で間違いないのかもしれないけれど。
相場なんて知らない、でもこれは高過ぎるのはぼくだってわかる。
ぼくみたいなのにこんな高いのは勿体ないし、似合わないし、こんな小さなもの、無くしてしまったら困る。
そう言うと、玲司さんは少しむっとした表情になってしまった。
俺とお揃いの指輪は嫌なの、と言われてしまって、そんなの、そんなの嫌な訳ない、欲しい、めちゃくちゃ欲しい、本当に欲しいけど、でもやっぱりこんな高いの身につけたまま生活なんて出来ない。
手を洗ったり、お風呂入ったり、掃除や料理をする時は外すでしょ、無くしてしまったら弁償なんて出来ないし、立ち直れない。
もっと、その、もっと安いやつの方が嬉しいかも。あっちにある数万円くらいのやつ。それだってぼくからしたら高い、こんな小さなものに。
そのぼくの返答はやっぱりお気に召さなかったらしい、更に怒ったようなかおに、店員さんも気まずそうだ。
何て言えばわかって貰えるかな、そう考えてると、俺があげたいんだけど、と追撃。
凜の誕生日だけど、そりゃ凜が欲しいものをあげるのがプレゼントだけど、でも俺があげたいのは値段じゃないと。
……値段じゃないならあの安いやつでも、と言いそうになって止めた、怒らせる未来しか見えなかったから。
デザインとしてそれが気に入ったんならそれでもいい、けどそうじゃないなら、ちゃんとしたのを買わせて欲しい、誕生日と一緒にするのもおかしいけど、これは凜の人生を貰う俺のけじめなんだよ、と真っ直ぐ言われて、正直、やっぱり結婚なんて現実味がなくてまだよくわからなかったけど、それでもこの真っ直ぐな瞳を断れない、と思った。
本当ならもっといいやつを買いたいんだけど、と真顔で言うものだから、慌ててこれがいい、と最初のシンプルな指輪をお願いした。
それでもまだ無くしたらどうしよう、とぶつぶつ言うぼくに、無くしたらまた買ってあげるよとか簡単に言うものだから、こういうところは価値観が違うんだよな、と思ってしまう。
値段もだし、こういうのってほいほい買うものじゃないし、何より玲司さんに貰ったものをぼくが無くしたくないんだ。全部だいじにとっておきたい。
でもぼくどんくさいから。絶対無くさない!なんて言える自信もなかった。排水溝とかに流してしまいそうで。
そう言い訳のように話すと、じゃあ、と指輪を通せるように、とネックレスも買ってくれた。
普段はこれでいいよ、でもどこか外出する時は指につけようね、一緒に、そう柔らかく笑った玲司さんがとても満足気で……その笑顔がいちばんの誕生日プレゼントなんだけどなって思ったんだ。
その日はスーツまでプレゼントされて、高そうなお店で食事。……あんまり、食べた気がしなかった。緊張するし、食べたことないようなものが多くて、複雑な味で、なんて料理名か全然わからなくて。
やっぱり全部が、ぼくにはあわなくて、不釣り合いだと言われているようで。
嬉しいは嬉しいんだ、本当に、これ以上ないってくらいしあわせ。
玲司さんは優しくて格好良くて、溜め息が出そうなくらい、全部が似合ってる。
浮いてるのはぼくだけ。着せられた感の強い真新しいスーツに、靴擦れしそうな硬い革靴、いつもと違う髪型、こどものような手に似合わない指輪。
本当にぼくでいいのかな、もっとちゃんと、綺麗で、こういうお店も似合ってて、話も弾んで、指輪を喜ぶような、こどもの産めるひとがきっといる筈なのに。
◇◇◇
『クリスマスプレゼント~?』
「どういうものか思い浮かばなくて」
ここに来てからもう八ヶ月、季節は冬。
番にしてもらって二ヶ月。誕生日を祝ってもらってから一ヶ月。
玲司さんの誕生日は二月。誕生日より先にクリスマスを迎える。
両親を除いて、プレゼントを贈るなんてこと初めてで、どういうものかがわからない。
その両親にだって、お小遣いなんてないこどもの頃だから、似顔絵とか折り紙とか、摘んだ花とか、そういう、こどもだから許されるようなものしかない。
今はお給料がある、何か買うことは出来る。
とは言ってもぼくなんかよりよっぽどお金を持っていて、何でも買えて、ぼくより詳しくてセンスもよくて、そんなひと相手にぼくが買えるものなんてない。
だからといって手作りのものも違うなと思って。夕食も食べに行こうねって言ってたし。
というかぼくより玲司さんの方が手先は器用だし、面倒だから必要最低限しかしないと言っていたけどなんなら料理も玲司さんの方が上手いかもしれない。
そんなひとに何を作れというのだ。
お祝いして貰えるなんて、これもまた久しぶり。
咲人さんと琉さんから、こんな大きいの扉を潜れるかなってくらい大きなくまのぬいぐるみが届いて、その時の玲司さんの嫌そうなかおったらなかった。
これ、ベッドに置くなよ、ヒートの時に使うなよと念を押されて、こんな大きいのベッドの上に載っけたら寝る場所なくなっちゃうし、ヒートの時には玲司さんも、玲司さんから貰ったいるかもいるし、使う必要ないと言ってやっと納得してくれた。
……ふかふかで気持ちいいけど、そういう対象ではない、いるかはその、玲司さんが買ってくれたから嬉しかったのであって。
欲しいと言っていた首輪はもう必要ないだろう、と連れて行かれたのはぼくには似合わないジュエリーショップで、何を、と思っていたら指輪にしようか、と少し恥ずかしそうに言う玲司さんに、どきどきして胸がきゅうっと痛くなって、それから正気に戻った。
いや桁、桁が思ったのと違う。
首を横に振るぼくに、婚約指輪なんてこんなものでしょ、と言う。確かにおじさんに、番は構わないけど籍を入れるのは玲司さんが卒業してから、と言われたから、婚約、で間違いないのかもしれないけれど。
相場なんて知らない、でもこれは高過ぎるのはぼくだってわかる。
ぼくみたいなのにこんな高いのは勿体ないし、似合わないし、こんな小さなもの、無くしてしまったら困る。
そう言うと、玲司さんは少しむっとした表情になってしまった。
俺とお揃いの指輪は嫌なの、と言われてしまって、そんなの、そんなの嫌な訳ない、欲しい、めちゃくちゃ欲しい、本当に欲しいけど、でもやっぱりこんな高いの身につけたまま生活なんて出来ない。
手を洗ったり、お風呂入ったり、掃除や料理をする時は外すでしょ、無くしてしまったら弁償なんて出来ないし、立ち直れない。
もっと、その、もっと安いやつの方が嬉しいかも。あっちにある数万円くらいのやつ。それだってぼくからしたら高い、こんな小さなものに。
そのぼくの返答はやっぱりお気に召さなかったらしい、更に怒ったようなかおに、店員さんも気まずそうだ。
何て言えばわかって貰えるかな、そう考えてると、俺があげたいんだけど、と追撃。
凜の誕生日だけど、そりゃ凜が欲しいものをあげるのがプレゼントだけど、でも俺があげたいのは値段じゃないと。
……値段じゃないならあの安いやつでも、と言いそうになって止めた、怒らせる未来しか見えなかったから。
デザインとしてそれが気に入ったんならそれでもいい、けどそうじゃないなら、ちゃんとしたのを買わせて欲しい、誕生日と一緒にするのもおかしいけど、これは凜の人生を貰う俺のけじめなんだよ、と真っ直ぐ言われて、正直、やっぱり結婚なんて現実味がなくてまだよくわからなかったけど、それでもこの真っ直ぐな瞳を断れない、と思った。
本当ならもっといいやつを買いたいんだけど、と真顔で言うものだから、慌ててこれがいい、と最初のシンプルな指輪をお願いした。
それでもまだ無くしたらどうしよう、とぶつぶつ言うぼくに、無くしたらまた買ってあげるよとか簡単に言うものだから、こういうところは価値観が違うんだよな、と思ってしまう。
値段もだし、こういうのってほいほい買うものじゃないし、何より玲司さんに貰ったものをぼくが無くしたくないんだ。全部だいじにとっておきたい。
でもぼくどんくさいから。絶対無くさない!なんて言える自信もなかった。排水溝とかに流してしまいそうで。
そう言い訳のように話すと、じゃあ、と指輪を通せるように、とネックレスも買ってくれた。
普段はこれでいいよ、でもどこか外出する時は指につけようね、一緒に、そう柔らかく笑った玲司さんがとても満足気で……その笑顔がいちばんの誕生日プレゼントなんだけどなって思ったんだ。
その日はスーツまでプレゼントされて、高そうなお店で食事。……あんまり、食べた気がしなかった。緊張するし、食べたことないようなものが多くて、複雑な味で、なんて料理名か全然わからなくて。
やっぱり全部が、ぼくにはあわなくて、不釣り合いだと言われているようで。
嬉しいは嬉しいんだ、本当に、これ以上ないってくらいしあわせ。
玲司さんは優しくて格好良くて、溜め息が出そうなくらい、全部が似合ってる。
浮いてるのはぼくだけ。着せられた感の強い真新しいスーツに、靴擦れしそうな硬い革靴、いつもと違う髪型、こどものような手に似合わない指輪。
本当にぼくでいいのかな、もっとちゃんと、綺麗で、こういうお店も似合ってて、話も弾んで、指輪を喜ぶような、こどもの産めるひとがきっといる筈なのに。
◇◇◇
『クリスマスプレゼント~?』
「どういうものか思い浮かばなくて」
ここに来てからもう八ヶ月、季節は冬。
番にしてもらって二ヶ月。誕生日を祝ってもらってから一ヶ月。
玲司さんの誕生日は二月。誕生日より先にクリスマスを迎える。
両親を除いて、プレゼントを贈るなんてこと初めてで、どういうものかがわからない。
その両親にだって、お小遣いなんてないこどもの頃だから、似顔絵とか折り紙とか、摘んだ花とか、そういう、こどもだから許されるようなものしかない。
今はお給料がある、何か買うことは出来る。
とは言ってもぼくなんかよりよっぽどお金を持っていて、何でも買えて、ぼくより詳しくてセンスもよくて、そんなひと相手にぼくが買えるものなんてない。
だからといって手作りのものも違うなと思って。夕食も食べに行こうねって言ってたし。
というかぼくより玲司さんの方が手先は器用だし、面倒だから必要最低限しかしないと言っていたけどなんなら料理も玲司さんの方が上手いかもしれない。
そんなひとに何を作れというのだ。
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