月が導く異世界道中

あずみ 圭

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終章 月と亜空落着編

解放と中継

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 普段陰謀ばかり考えている人種はやはり疑い深くなるらしい。
 とりま聞きたい事は全部聞けたからロナを魔族のとこに帰す事にしたんだ。
 
「本当にここは海底なのか」

 ときた。
 転移は無駄だと言うのが識の方便なのか、それとも本当なのかが気になって仕方ないのだと。
 そんなものなんだろうか。
 正直僕が逆の立場だったとしたら、そこ気にしたかなと思ってしまった。
 多分気にしない。
 というかそんな余裕がない。
 むしろ自分の国の現状が何より気になる。
 だって勇者とヒューマン、己が天敵に国を攻められてる最中だ。
 図太い。

「……何も見えない」

 外が見える窓は一応あるからそちらに案内したところ、ロナは窓に顔を押し付けて外を確認しようと頑張ったけど駄目だった。
 そりゃ深海だからね。
 光なんて届く訳もなく、真っ暗に決まってる。
 窓なんてついてるのも十割エルドワの技術自慢に過ぎない。
 なんて僕なんかは無意味なものはいらないのではと軽々に考えてしまったのだけど、実際には海王他外の海で実際暮らしている種族からは海底仕様の窓は絶賛高評価されてたりする。
 内と外が逆転するだけで技術の見え方も色々変わる。
 極めて簡単な事に改めて気づかされました、まる。
 ロナには海の底は暗い事とその理由を教えてやったら暗視のスキルか魔術かを使って外を確認していた。
 しばらくして巨大な何かが泳いでやってきたみたいで、ここが深海だと納得してくれた。
 ……亜空の、だけどね。
 まあ、言わなくて良い事は言わないですよ。

「何も見えない」

 そしていざ帰す時、ロナはまた同じ事を口にした。
 目隠しをしたから。
 ケリュネオン辺りからなら地理はわかるのか聞いたら何を当然の事を、と識が青筋を立てそうな返答が返ってきたのでその辺りまで送ってやる。
 結果的にはロナとの再会で僕が得たものはとても大きい。
 別に口ぶりがどうだろうと気にはならない。
 或いは……今でも自分がクズノハ商会に殺される方が魔族、いやゼフの利になると考えて煽ってるのか。
 わからないし、興味もあまりない。
 古典的ながら目隠しをして魔術を使わないよう忠告、その上ぐるぐるバット方式で程よく整った所で霧の門で転移。
 今に至る。

「うー……最後の最後に酷い拷問だわ……信じられない」

 魔将と呼ばれるほどの強者でもぐるぐるバットは辛いらしい。
 これまでの御礼を忘れていました、と澪が回数を二百程強制的に追加した所為もあるな。
 糸をああ使うとは……澪、恐るべし。
 巴の方は新しい刀を愛でているからか、ロナの言動にはそこまで苛立っていないようだ。
 澪が代わりに何かやってくれるという二人の確かな絆のなせる……違うな。

「目隠しを取るからちょっと止まってて」

「善処はするわ」

 ふらふらしてる。
 目隠しを外すくらいなら問題ない。
 
「ケリュネオンから北に少しといったとこだけど、ここで問題ないだろ?」

「たいした、ものね。ええ、何も問題ない。超長距離転移……ライドウが直々に私を送る理由は魔力なのね。貴方のあのとんでもない魔力ならどこぞの海の底から魔族の勢力圏まで一瞬で移動できる、と」

 魔力?
 ああ、そういう。
 都合の良い勘違いだ、突っ込まずにそのままそのまま、だな。

「まあ国の一つや二つまたぐ位なら問題ないよ」

「……無茶苦茶ね。もう一生見ないでしょうけど深海なんて世界も見せられた事だし、信じておく事にする」

「確かに、魔族が深海に至るのはまだずっと先だろうね」

 こっちの海だと海王も邪魔してくる感じだしね。
 他ならぬロナの言い分だけどさ。

「言ってくれるわ。で、本当に私はここから自由なのね?」

「もちろん。陛下によろしく」

「……そう。一応、礼は言っておくわね。ありがとう、ライドウ」

「珍しい。ロナには不要だろうがこちらも一応、この先はとうに帝国に落とされてる。ま、気をつけて」

「! ええ、じゃあ」

 ロナはこちらを振り返らずに右手に広がる森に駆けていくと、木々に紛れて姿を消した。
 魔力ねえ。
 僕が直接こっちに来たのは帝国の勢いの確認だ。
 智樹の基本戦術は空中からの高火力で先制して蹂躙、だ。
 魅了の効果が高くなった事で戦術が変わったのか、より強力になっただけで方向性は一緒なのか。
 対する魔族はどう対応してるのか。
 押されてるんだから劣勢は劣勢でも出方を見れば考えてる事も少しはわかる、と思う。
 見て聞いて戻ればみんなの意見も聞ける。
 さっき界で確認したら帝国軍はもっと北で進軍中だ。
 ロナには悪いけど先回りして戦争の様子を観察させてもらうか。

「ケリュネオンは……またでいいか。今回の帝国の進軍でも存在は隠せてるんだから」

 偵察部隊には消えてもらったのが少なくとも短期的には良かったのか、ケリュネオン近辺に帝国軍の影はない。
 既に兵を出し先輩も従軍する後続のリミア王国は多分帝国よりは理性的だろう。
 今のところ安心という訳だ。
 流石にこんなに早くヒューマンの大国と国交回復なんて難易度が高すぎる。

「さてと」

 転移する。
 外商部隊が地図を作ってくれてるおかげで転移先にも困らない。
 彼らは人目に付かないポイントもチェックしてくれている。
 いくつか経由しながら今小競り合いをしている場所の近くに到着する。
 ロナが森に消えるのを見てから三分ほど。
 なんかごめん。
 ……うーん。
 魔族が今都としてるらしい都市まで、いくらもないな。
 これは思ってたよりも魔族はやばいかもしれない。
 ロナの様子から実際にはそこそこ余裕があるのかとばかり。
 ひょっとすると、あれか。
 彼女は今ポーカーフェイスを解いて必死な顔で仲間のとこに向かってる?
 
「若様、お待ちしておりました」

 おっと。
 そうだ、外商部隊の一つがいるって教えてもらってたんだ。

「ごめんね、急に来たいなんて」

 人が待ってくれてるならまずそっちに対応しないと。
 考え事してる場合じゃない。

「いえ。直接ご報告できて光栄です」

 この隊のリーダーとして皆をまとめている森鬼が声を掛けてくれる。
 森鬼一人に、翼人が二人、ゴルゴンが二人か。
 ん?
 確かこの人は……。

「確か、リリトだっけ。一度別件でも報告してもらった事あるよね?」

「え、は、はい! 以前サーベルキャットという魔獣の件で直接お話をさせていただきました!」

 うんうん、思い出した。
 良かった、合ってて。

「リリトに、ロバロ、エギ、ナツハ、ウヅキ。お疲れ様、早速で申し訳ないけど今の状況を教えてもらえる?」

 全員合ってたみたいで少しばかり驚いた顔をされた。
 まあ全員顔と名前が一致するかって言われると怪しいとこもある。
 でも可能な限り頑張って覚えるようにしてますよ、僕だってね。
 ひと目でわかるのは、既に市街戦になってる。
 つまり街の外壁越しの攻防は既に帝国に軍配が上がり、遅かれ早かれ魔族は負けるだろうってとこか。

「はっ。御覧の通り、既に帝国軍は市街に入り込んでおります。今日、恐らくは夜を待たずにあの街は帝国の手に落ちるでしょう」

「うん」

「とはいえ、今の状況になるまで激しい攻防があったかといえば、ありませんでした。帝国の得意な内応による工作が功を奏しています。魅了による寝返りを内応と呼ぶべきかは別として、ですが」

「こんなに深い魔族領でも内部に魅了の被害者が複数いたの?」

 いや、ローレルで見た香水を思えば工作員を放って即座に魅了の支配下に置けばいいのか?
 元々魔族の街にそこまで根深く魅了が蔓延してるとは思えない。
 それも都合よく帝国の進軍ルートに沿ってだ。
 ふと、背をゾクっと寒気が走った。
 昔、とんでもない幸運の連続で亜空を荒らしてツィーゲに逃げようとした……冒険者の事を思い出した。
 ヒューマンの天運。
 あれ以来、アイツほどバカげた幸運に恵まれたのに遭遇した事はない。
 でも相手は勇者を先頭にしてる軍だ。
 あったとしても、不思議は無いのかもしれない。
 そんな事を考えたらどんな推理も推測も意味を失ってしまうけど。

「詳細はわかりません。ですが帝国軍の到着と前後して市街の複数個所で争いが起き、戦闘行為も始まりました」

「……爆発なんかは?」

 帝国は爆薬を戦術に組み込んだらしい。
 なら当然街の中での争いとやらにも爆発が絡みそうだ。

「ありました。大小の差はありますが、中には外壁の一部に一撃で大穴を開けるほどの爆発も」

「そっ、か」

 ただ工作員がいたとしても、十分な爆薬まで持ち込めるものだろうか。
 アイテムボックスみたいな能力を智樹が持ってるとか?
 外壁を壊すなんて完全な街への裏切り行為だ、工作員か魅了された人による仕業なのは間違いなさそう。
 
「帝国軍は到着するや否や祝福を発動、そのまま都市になだれ込む勢いで攻め込みました。街の混乱を既に知っていた、と我々は感じました」

「……」

「ですが」

「ん?」

 終わりかなと思ったらリリトが続ける。

「帝国にしても恐らくここで小休止となるかと思います。これまで陥落させてきた都市は急造で十分な防衛力が見込めない街ばかりでしたが、ここベルゴートは十分な外壁を持つ昔からの魔族の街。グリトニアはベルゴートを拠点化しリミアからの援軍や他国からの支援物資を待って再進軍するものと思われます」

「防衛力か。なるほど、確かに」

「故に連中にも隙が生まれます。数日頂ければ我々が入り込んでより詳細な――」

「駄目だ」

「え?」

 より深い情報収集を提案してくれたリリトを僕は一蹴した。
 
「智樹の魅了は危険だ。近づきすぎないようにして欲しい」

「しかし……」

「観察と報告だけで十分。魔将と呼ばれるほどの魔族だって魅了されたんだ、万が一がある。それにね」

「?」

「その魔将からそれなりの追加情報もある。だから巴も澪も識も環も。みんな現段階での安易な深入りには反対だってさ。つまり亜空として帝国の魅了には要警戒、わかった?」

 頷いてくれるリリト。
 他の四人からも肯定の意が伝わってくる。
 うん、この辺りの丘からベルゴートとかって街を注意深く観察している分には帝国の危険もないだろう。
 にしても。
 リミア王国、響先輩と物資を待つ為にここを拠点化して待つ、ねえ。
 いや、リリトのは至極納得できる意見と根拠だったよ。
 でも智樹が、となると。
 なんだろうな、もしかしたら違うような、そんな気もしてくる。
 ならここを空にして更に勢いのままに進軍する?
 それも……あまりにバカげているような……。
 
「それでは、他の部隊とも連携して現状維持で情報収集を続けます」

「他の隊の人にも潜入厳禁、接触厳禁を今のところは徹底してもらってね」

「すぐに伝え必ず共有いたします!」

「じゃあ、よろしく」

 用事は済んだんだ、一度亜空に帰ろう。
 新しい脇差の銘の件もある。
 巴がロナから吸い出した情報も気になる。
 あー……。
 魔族にヒューマンが攻められた時は有無を言わさず知る羽目になってきたってのにさ。
 逆になるとぱったりと情報が入ってこない。
 なんだかなぁ。
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