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六章 アイオン落日編
物理的麻酔
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トアの新たなスキルである幻術を軸にした逃走作戦。
雑な解説をすると目くらましの後、仲間を隠して奇襲、相応のダメージを与えて立ち直る前に逃げ切るというもの。
実際には雷属性の魔術が有する攻撃対象へのロックオン補正というインチキじみた特性の為に失敗が見えていたのだが、介入者の存在によって未来は変わった。
つくづくアルパインの面々にはツキがある。
「た、助かった。礼を言う」
「相手が女神の使徒でなければ私の助けなど必要なかったでしょうけど。危ない所でしたよ、貴方たち」
肩で息をするラニーナに落ち着いた様子の言葉がかけられる。
見覚えはないが、神官や司祭が纏うであろう衣服の存在に彼女が女神か精霊の神殿に属する者だと察した。
(? だとすると助けの手なのか? 今回の私たちの行動は明らかに……)
「別に女神にも精霊にも仕えておりませんよ。安心なさい。ま、必要であれば女神だろうと精霊だろうと名前を拝借しますけれど……ね」
「逃走を手助けしてくれた、と思っていいんですかね?」
ハザルも司祭風の女性の正体を掴みかね、探りを入れる。
ルイザは周囲の光景を訝しげに確認中。
「良いですよ。まったく、あのレンブラントとかいう商人に良い様に扱われてますよ」
「ツィーゲで依頼を受けた冒険者? 見覚えが無いが……ウチのリーダーはどうなっているか、わかるか?」
ハザルの問いに若干の苦々しさを感じさせる表情で応じた女性。
次はルイザだ。
殿を務めたトアを案じていた。
トアのスキルは見事に決まり、雪嵐が消されると同時にパーティの姿をアルテの視界から消し、そして奇襲も予定通り仕掛けた。
だがその後の展開までうまくいったかはわからない。
散開しながら逃走を図ったアルパインは各々がその最中に脳裏に響いた声に導かれてここにいる。
「トアですね。直に来るでしょう、貴方たちの気配を追って……ああ、来ましたね」
「やー、強かったー」
『!』
三人の前に突如ぬっと現れたトア。
片腕を失った姿はインパクト抜群で、仲間たちは一瞬言葉を失う。
「トア、お前……」
「平然と話している場合か、ハザル!」
「わかってます! すぐ応急処置済ませますからこっち、早く!」
ハザルが装備していた複数のポーチを全開、ポーション各種を整理しながら並べていく。
ルイザとラニーナもトアに駆け寄り腕以外の負傷個所に気を配る。
そんな様子を見ていた銀髪の司祭は額を抑えて天を仰いだ。
心底呆れている様子だった。
「トア。あそこまで踏み込む必要は無かったんじゃないですか? あんなに可愛い妹さんがいるんですから、死に急ぐような無茶は感心しませんよ」
「? え!! ぎ、ギネビア!?」
「呼び捨てされる覚えはありませんが、そのギネビアです。初めまして」
「アズノワールと六夜に会っただけでも信じられないのに! うわ、本物! 銀の拳ギネビア!」
「待てい、待ちませい。シルバーデビルって何ですか! 知りませんよ、私は! プリースト!」
「あははは」
「笑ってんじゃありません!」
「い、いやギネビア殿? この通りトアは重傷だ。済まないが先に治療を」
「ルイザ、でしたか。だったらトアの方がこんなお気楽な様子でいる訳が無いでしょう」
「……? あ。確かに片腕を失った割には」
トアが元気過ぎる。
無理をしている様子もない。
確かに不自然だった。
「まあ、重傷には違いありません。問題はトアの方も気付いてない点ですが。忍術……忍者の技ですか。わからないでもありませんが……諸刃の刃ですね」
「トア! お前、腕は平気なのか!?」
ラニーナもギネビアの言葉に納得しつつトアに尋ねる。
「へへ、流石にギネビアにはバレちゃったけど。これ幻術スキルの一つなの。あんまり驚かすのも悪いからもう解除するよー」
はぁ、と重いため息を吐くギネビアに対してトアは本当に何でもなさそうにそう宣言した。
そして……スキルが解除された。
「……え?」
『ぎゃーーー!!』
既に血も流れていなかった片腕のトア。
その幻術が解かれた後に明らかになった本来の姿は、上腕二頭筋辺りで辛うじて繋がっているだけの……今にも千切れ落ちそうな炭のような真っ黒い腕だった。
トアがあれ、といった様子で自分の惨状を確認。
思わず間の抜けた声が出た。
そして仲間たち。
嗅覚などにも訴えかけてくるトアの変り果てた腕を目にして、見事に一致した叫び声を放った。
「あ、え? 私、うで……あ、ああ――」
「麻酔!!」
「ぅぎっ!!」
現実が呑み込めてきたトアがパニックを起こす直前。
ギネビアが掌底でトアの顎と延髄を撃ち抜く。
両の手は雷の如き鋭さで一閃、百人が百人とも本職と頷くグラップラーの極みだった。
どうした作用かはともかく、トアは騒ぐ事なく力なく。
ただその場で崩れ落ちた。
「痛覚その他まで術者本人も騙すスキルとは、トビカトウ、恐ろしいものですね。しかし使い方を間違えればとても危険です。慣れるまで乱用しないよう言い聞かせなくては」
「あ、あのギネビア、さん?」
「ハザル、でしたね。良い道具と薬を備えています。立派ですよ。ではトアの応急処置を始めますかね。そうそう、トアが既に口にしましたが私はギネビア。少しばかり長く生きているローレルの冒険者、のようなものです」
ハザルに適切な指示を出しながら魔術を複数発動させてトアの治療に当たるギネビア。
「……レンブラント商会からの依頼を受けているという事は、この後はツィーゲ帰還のフォローに回ってくれると考えて良いのかな、ギネビア殿」
ラニーナの確認にギネビアは動きを少し止め……首を横に振った。
「いいえ。申し訳ないのだけどそれは無し。アルパインには戦争が片付くまでツィーゲに戻ってもらう訳にはいきません」
『!?』
「このまま建て前だったパーティメンバーの里帰りを続けてもらいます」
「いや、それは困る。危険を冒してまで手に入れたアルテ=バレットの情報についてツィーゲに報告しなくては」
「報告されては困るんですよ、ルイザ」
「……意味が、わからんなギネビア殿。それはまるでツィーゲに情報を持ち帰らせたくない、と言っているように聞こえる」
「正解です」
「! まさかアイオンの手の者か!?」
「それは間違い。今アルテという娘の情報をツィーゲに持ち帰ると、多分クズノハ商会にも伝わる。それは……女神の使徒に少し不利が過ぎる。雷属性の特性の一部を彼らに届けたのが私が助けた冒険者パーティとなると……肩入れし過ぎかと思いますのでね」
意味がわからない、といった様子のアルパインの三人。
その間もギネビアは少なくともハザルが注視している限りでも見惚れるような治癒術式と適切なポーションの使用でトアの状態をある程度回復させていっている。
この場で腕を繋げる程に回復させるのは無理だが、ギネビアが最善を尽くしているのはハザルも保証するところだった。
「……トアは私達の事を知っていますが。我々は遥か昔の人物なんです。そして世の表舞台に出ず、世界のバランスや覇権には関わらないよう生きると、古い友に約束した身でもあります。色々と言いくるめられて貴方がたを助けている事が最早グレーゾーンの行いでして」
「……もしかして、見た目通りの年では無いのか? 明らかにヒューマンに見えるが……しかしこの場所、この空間。どこにもアルテの気配も感じないし、それどころか黄金街道がどちらかすらわからない。精霊の力に満ちているようで……意思は微塵も感じない。お前は一体……?」
「年長者にお前、は頂けませんよ。少なくともトアを治療している、敵ではない私に」
「これでも私はヒューマンの何世代かは生きている身だ」
「こっちは人生が歴史です。……記憶の限り、年上のエルフもいませんしね」
「?」
「さて。ここで道を開きながら治療するにはこの辺りまでが限界です。続きは……ルイザ、貴女の故郷でする事にしましょうか」
「!? 何故、私の里の位置を知っている!」
「レンブラントから全員の身上書は見せてもらっていますから」
何でもない事の様にギネビアが言い放つ。
「あ、あの商人……! いつの間にそんなものを仕上げて!」
「知られて困る過去なんぞ無いから別に困らんが」
「全部、知られて……!?」
「物資の運搬にこき使われるのもそろそろ御免ですし、あんな無茶苦茶をやる商人に付き合わされてはペースが狂わされてかないません。少しばかり意趣返しを兼ねて皆さんとご一緒しようかと思います。よろしく、アルパイン」
レンブラントとはあまり相性が良くない様子のギネビア。
何やらストレスも溜まっているようだ。
「ご一緒……っ。いや、困る! 本当に困るんだギネビア殿! 今私の里に戻るのはひっじょーに困る! 身内の事情があるのだ。ここはラニーナの故郷を訪れるのが良いと思う!」
「……今時でも少子化からの子作り懇願ですか? 別にラニーナの故郷でも構わないですけど、治療に集中するなら森の中の方が向いているんですよ、私の場合」
「っ! ……それは、こじつけでなく?」
「少しツィーゲで都会の熱気にあてられましたから。私自身もリラックスしたいですし森には精霊も妖精も豊富に存在するでしょう? トアのは見ての通り大怪我ですから。元通りにするまでの過程も別に隠しませんし、プラスになると思いますよ、色々」
若干こじつけの混じっているようで、本当に必要な気にもさせる言い回し。
だがルイザはギネビアの物理的麻酔によって眠っているトアを見て、一瞬泣きそうな表情を浮かべ……折れた。
「わかった。だが案内はどうすればいい?」
「必要ありませんよ。あっちに歩けば十五分もすれば着きますから。では行きますか」
「? あっち……て。ちょ、なにその意味不明なスキル! そうだ、ここ! この空間の説明もまだされてない!」
「歴史ミステリーです」
「あの、ギネビアさん。トアの頭を鷲掴みで持ち歩くのはちょっと、即席で担架用意できますから! ステイ! しばしステイでお願いします! ラニーナ、手伝いを!」
「応!」
「……ふむ……支援系ハーレム主人公うっかり風味……あり、なのかしら? 現代っ子はわからないわねー」
ギネビアは首を傾げる。
そしてさほどの時間もかからずツィーゲにアルパイン失踪の報せが入る事になる。
ギネビアとしてはレンブラントに少しばかり仕返しをしたつもりでもあったのだが、当のレンブラントは実に冷静に報告を聞き、そして。
「ルイザ、ラニーナ、ハザルの身内に手紙を送る。内容はホームとトアの妹の死守。レンブラント商会の存在に賭けて守りきるから安心するようにと」
長く生きれば必ずしも若者の先を読めるとは限らない。
他のメンバー同様、本人も知らぬ数々の異名を持つ始まりの冒険者の一人ギネビア。
その正体は意外と策を拳でぶち抜くタイプであり、意外と大衆にも見抜かれていたりする御仁でもあった。
例えばそう、銀の拳の通り名の様に。
雑な解説をすると目くらましの後、仲間を隠して奇襲、相応のダメージを与えて立ち直る前に逃げ切るというもの。
実際には雷属性の魔術が有する攻撃対象へのロックオン補正というインチキじみた特性の為に失敗が見えていたのだが、介入者の存在によって未来は変わった。
つくづくアルパインの面々にはツキがある。
「た、助かった。礼を言う」
「相手が女神の使徒でなければ私の助けなど必要なかったでしょうけど。危ない所でしたよ、貴方たち」
肩で息をするラニーナに落ち着いた様子の言葉がかけられる。
見覚えはないが、神官や司祭が纏うであろう衣服の存在に彼女が女神か精霊の神殿に属する者だと察した。
(? だとすると助けの手なのか? 今回の私たちの行動は明らかに……)
「別に女神にも精霊にも仕えておりませんよ。安心なさい。ま、必要であれば女神だろうと精霊だろうと名前を拝借しますけれど……ね」
「逃走を手助けしてくれた、と思っていいんですかね?」
ハザルも司祭風の女性の正体を掴みかね、探りを入れる。
ルイザは周囲の光景を訝しげに確認中。
「良いですよ。まったく、あのレンブラントとかいう商人に良い様に扱われてますよ」
「ツィーゲで依頼を受けた冒険者? 見覚えが無いが……ウチのリーダーはどうなっているか、わかるか?」
ハザルの問いに若干の苦々しさを感じさせる表情で応じた女性。
次はルイザだ。
殿を務めたトアを案じていた。
トアのスキルは見事に決まり、雪嵐が消されると同時にパーティの姿をアルテの視界から消し、そして奇襲も予定通り仕掛けた。
だがその後の展開までうまくいったかはわからない。
散開しながら逃走を図ったアルパインは各々がその最中に脳裏に響いた声に導かれてここにいる。
「トアですね。直に来るでしょう、貴方たちの気配を追って……ああ、来ましたね」
「やー、強かったー」
『!』
三人の前に突如ぬっと現れたトア。
片腕を失った姿はインパクト抜群で、仲間たちは一瞬言葉を失う。
「トア、お前……」
「平然と話している場合か、ハザル!」
「わかってます! すぐ応急処置済ませますからこっち、早く!」
ハザルが装備していた複数のポーチを全開、ポーション各種を整理しながら並べていく。
ルイザとラニーナもトアに駆け寄り腕以外の負傷個所に気を配る。
そんな様子を見ていた銀髪の司祭は額を抑えて天を仰いだ。
心底呆れている様子だった。
「トア。あそこまで踏み込む必要は無かったんじゃないですか? あんなに可愛い妹さんがいるんですから、死に急ぐような無茶は感心しませんよ」
「? え!! ぎ、ギネビア!?」
「呼び捨てされる覚えはありませんが、そのギネビアです。初めまして」
「アズノワールと六夜に会っただけでも信じられないのに! うわ、本物! 銀の拳ギネビア!」
「待てい、待ちませい。シルバーデビルって何ですか! 知りませんよ、私は! プリースト!」
「あははは」
「笑ってんじゃありません!」
「い、いやギネビア殿? この通りトアは重傷だ。済まないが先に治療を」
「ルイザ、でしたか。だったらトアの方がこんなお気楽な様子でいる訳が無いでしょう」
「……? あ。確かに片腕を失った割には」
トアが元気過ぎる。
無理をしている様子もない。
確かに不自然だった。
「まあ、重傷には違いありません。問題はトアの方も気付いてない点ですが。忍術……忍者の技ですか。わからないでもありませんが……諸刃の刃ですね」
「トア! お前、腕は平気なのか!?」
ラニーナもギネビアの言葉に納得しつつトアに尋ねる。
「へへ、流石にギネビアにはバレちゃったけど。これ幻術スキルの一つなの。あんまり驚かすのも悪いからもう解除するよー」
はぁ、と重いため息を吐くギネビアに対してトアは本当に何でもなさそうにそう宣言した。
そして……スキルが解除された。
「……え?」
『ぎゃーーー!!』
既に血も流れていなかった片腕のトア。
その幻術が解かれた後に明らかになった本来の姿は、上腕二頭筋辺りで辛うじて繋がっているだけの……今にも千切れ落ちそうな炭のような真っ黒い腕だった。
トアがあれ、といった様子で自分の惨状を確認。
思わず間の抜けた声が出た。
そして仲間たち。
嗅覚などにも訴えかけてくるトアの変り果てた腕を目にして、見事に一致した叫び声を放った。
「あ、え? 私、うで……あ、ああ――」
「麻酔!!」
「ぅぎっ!!」
現実が呑み込めてきたトアがパニックを起こす直前。
ギネビアが掌底でトアの顎と延髄を撃ち抜く。
両の手は雷の如き鋭さで一閃、百人が百人とも本職と頷くグラップラーの極みだった。
どうした作用かはともかく、トアは騒ぐ事なく力なく。
ただその場で崩れ落ちた。
「痛覚その他まで術者本人も騙すスキルとは、トビカトウ、恐ろしいものですね。しかし使い方を間違えればとても危険です。慣れるまで乱用しないよう言い聞かせなくては」
「あ、あのギネビア、さん?」
「ハザル、でしたね。良い道具と薬を備えています。立派ですよ。ではトアの応急処置を始めますかね。そうそう、トアが既に口にしましたが私はギネビア。少しばかり長く生きているローレルの冒険者、のようなものです」
ハザルに適切な指示を出しながら魔術を複数発動させてトアの治療に当たるギネビア。
「……レンブラント商会からの依頼を受けているという事は、この後はツィーゲ帰還のフォローに回ってくれると考えて良いのかな、ギネビア殿」
ラニーナの確認にギネビアは動きを少し止め……首を横に振った。
「いいえ。申し訳ないのだけどそれは無し。アルパインには戦争が片付くまでツィーゲに戻ってもらう訳にはいきません」
『!?』
「このまま建て前だったパーティメンバーの里帰りを続けてもらいます」
「いや、それは困る。危険を冒してまで手に入れたアルテ=バレットの情報についてツィーゲに報告しなくては」
「報告されては困るんですよ、ルイザ」
「……意味が、わからんなギネビア殿。それはまるでツィーゲに情報を持ち帰らせたくない、と言っているように聞こえる」
「正解です」
「! まさかアイオンの手の者か!?」
「それは間違い。今アルテという娘の情報をツィーゲに持ち帰ると、多分クズノハ商会にも伝わる。それは……女神の使徒に少し不利が過ぎる。雷属性の特性の一部を彼らに届けたのが私が助けた冒険者パーティとなると……肩入れし過ぎかと思いますのでね」
意味がわからない、といった様子のアルパインの三人。
その間もギネビアは少なくともハザルが注視している限りでも見惚れるような治癒術式と適切なポーションの使用でトアの状態をある程度回復させていっている。
この場で腕を繋げる程に回復させるのは無理だが、ギネビアが最善を尽くしているのはハザルも保証するところだった。
「……トアは私達の事を知っていますが。我々は遥か昔の人物なんです。そして世の表舞台に出ず、世界のバランスや覇権には関わらないよう生きると、古い友に約束した身でもあります。色々と言いくるめられて貴方がたを助けている事が最早グレーゾーンの行いでして」
「……もしかして、見た目通りの年では無いのか? 明らかにヒューマンに見えるが……しかしこの場所、この空間。どこにもアルテの気配も感じないし、それどころか黄金街道がどちらかすらわからない。精霊の力に満ちているようで……意思は微塵も感じない。お前は一体……?」
「年長者にお前、は頂けませんよ。少なくともトアを治療している、敵ではない私に」
「これでも私はヒューマンの何世代かは生きている身だ」
「こっちは人生が歴史です。……記憶の限り、年上のエルフもいませんしね」
「?」
「さて。ここで道を開きながら治療するにはこの辺りまでが限界です。続きは……ルイザ、貴女の故郷でする事にしましょうか」
「!? 何故、私の里の位置を知っている!」
「レンブラントから全員の身上書は見せてもらっていますから」
何でもない事の様にギネビアが言い放つ。
「あ、あの商人……! いつの間にそんなものを仕上げて!」
「知られて困る過去なんぞ無いから別に困らんが」
「全部、知られて……!?」
「物資の運搬にこき使われるのもそろそろ御免ですし、あんな無茶苦茶をやる商人に付き合わされてはペースが狂わされてかないません。少しばかり意趣返しを兼ねて皆さんとご一緒しようかと思います。よろしく、アルパイン」
レンブラントとはあまり相性が良くない様子のギネビア。
何やらストレスも溜まっているようだ。
「ご一緒……っ。いや、困る! 本当に困るんだギネビア殿! 今私の里に戻るのはひっじょーに困る! 身内の事情があるのだ。ここはラニーナの故郷を訪れるのが良いと思う!」
「……今時でも少子化からの子作り懇願ですか? 別にラニーナの故郷でも構わないですけど、治療に集中するなら森の中の方が向いているんですよ、私の場合」
「っ! ……それは、こじつけでなく?」
「少しツィーゲで都会の熱気にあてられましたから。私自身もリラックスしたいですし森には精霊も妖精も豊富に存在するでしょう? トアのは見ての通り大怪我ですから。元通りにするまでの過程も別に隠しませんし、プラスになると思いますよ、色々」
若干こじつけの混じっているようで、本当に必要な気にもさせる言い回し。
だがルイザはギネビアの物理的麻酔によって眠っているトアを見て、一瞬泣きそうな表情を浮かべ……折れた。
「わかった。だが案内はどうすればいい?」
「必要ありませんよ。あっちに歩けば十五分もすれば着きますから。では行きますか」
「? あっち……て。ちょ、なにその意味不明なスキル! そうだ、ここ! この空間の説明もまだされてない!」
「歴史ミステリーです」
「あの、ギネビアさん。トアの頭を鷲掴みで持ち歩くのはちょっと、即席で担架用意できますから! ステイ! しばしステイでお願いします! ラニーナ、手伝いを!」
「応!」
「……ふむ……支援系ハーレム主人公うっかり風味……あり、なのかしら? 現代っ子はわからないわねー」
ギネビアは首を傾げる。
そしてさほどの時間もかからずツィーゲにアルパイン失踪の報せが入る事になる。
ギネビアとしてはレンブラントに少しばかり仕返しをしたつもりでもあったのだが、当のレンブラントは実に冷静に報告を聞き、そして。
「ルイザ、ラニーナ、ハザルの身内に手紙を送る。内容はホームとトアの妹の死守。レンブラント商会の存在に賭けて守りきるから安心するようにと」
長く生きれば必ずしも若者の先を読めるとは限らない。
他のメンバー同様、本人も知らぬ数々の異名を持つ始まりの冒険者の一人ギネビア。
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例えばそう、銀の拳の通り名の様に。
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