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六章 アイオン落日編
氾濫と崩壊
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「百折不撓!」
「星綴・水瓶!」
対応は早かった。
まだ二発目か、もう二発目か。
その意識の違いもまた、彼らが一流の領域にある証だろう。
ラニーナ、ハザルのスキル発動直後、散開したアルパイン全員を歪な閃光が貫く。
速い、などという生易しいものではない。
彼女の杖から放たれた魔術はほんの短い詠唱後に発動した瞬間、アルパイン各自の回避や防御を嘲笑うかの様に全員に直撃した。
「他愛無い。煽った割には随分と可愛らしい実力ね、トア。アルパイン」
「っ! 連射でくる! ハザル、支援も妨害も後回し、回復だけ切らさないで!」
トアが手短に指示を出す。
ここは黄金街道そば。
アルパインは女神の使徒アルテ=バレットと接触した後街を出て黄金街道に入った。
アルテが襲撃をかけてくるくるかどうかは五分だと思っていたトアはその瞬間に微かに安堵した。
それは他のメンバーも似たようなものだろう。
しかし、襲撃はあった。
黄金街道を進むトア達を、何者かが襲撃したのだ。
何の変哲もない日用品辺りを商いそうな隊商とすれ違った時、甲高い笛の音が鳴り響いた。
一瞬で臨戦態勢になったトア達は隊商に扮した刺客を撃退、しかし直後に黄金街道の外壁をぶち破って仕掛けてきた追撃部隊との戦闘で黄金街道から追い立てられてしまう。
さらに二つほど刺客を退けたところで本命のアルテ=バレットが出てきたという訳だ。
彼女以外の襲撃者は全て片付けて残りはアルテただ一人なのだが、追い詰められているのはむしろアルパインの方だった。
「ルイザ!」
「ダメだ、詠唱の中断はスキルでも狙えそうにない! 何かでガードしている!」
「冒険者などという力、しぶといばかりで本当に醜い。カンダチ・イツキ」
再び、アルテの杖から放たれた光が枝分かれし正確にトア達全員を貫く。
三度も魔術による全体攻撃、それも直撃を受けたダメージは大きい。
既に何度も戦闘をこなした後というのもあり、肩で息をするトアの動きが鈍り、後衛のルイザが度重なるダメージ
に膝を突くのも無理からぬ光景だった。
「ったく、いい性格してる。これだけ出鱈目な魔術を扱う癖に波状攻撃の後じゃなきゃ出てこないなんてね」
「学が無いもんで確認だがな。ありゃ……何だ? ハザルの障壁が紙切れほどの役にも立たんかった」
「嫌らしい攻めをしてくるのは……トアが煽りまくったからじゃないですかね。あとラニーナ、学が無いとか、そういうんじゃないですよ。多分あれ……雷です、から」
「ハザルだって……結構煽ってたでしょ。雷って何よ、あの空で光るアレ?」
「馬鹿にするなよ、ハザル。雷属性なんぞ、聞いた事も無い」
軽口でペースを保とうとするトアとラニーナに、ハザルが応じる。
「……そりゃ雷属性なんてロッツガルドやアカデミーでしか記録も文献もありませんからね。アレが本当に女神の使徒なら、まあ、あり得なくもない話ですよ」
「私もそれなりに生きているが確かに聞いた事は無いな。こちらの魔術を悉く上回ってくる属性魔術など」
ルイザが立ち上がって再びアルテを睨む。
回復スキルに魔術。どちらもアルパインは高レベルで使いこなす。
ゆえに一撃で殺すか意識を刈り取らない限り、野戦でアルパインを仕留めるのは難しい。
地味ながら立て直しと継戦能力において、トア達は超一流であった。
もっとも……今現在の彼女らへの評価としては正確ともいえない。
既にパーティとして円熟の域に達していたアルパインだが、全員が自らのジョブを一新している。
新たな力が新たな個性、新たな道を拓いている可能性も十分にあった。
「あるんですよ、そんな冗談みたいな属性。でしょう、アルテ。女神の使徒というのは皆が雷を扱うんですか? 伝承に綴られるだけの……至高の属性、全克属性なんてインチキを」
「至高、よ。インチキではないの、タネも仕掛けもない。ただ……雷は全てを貫き跪かせる」
「魔術でありながら、魔力への特攻性質を持つ、ですか。他の全ての魔術を破壊し、一方的に相手に到達する必至の刃。どこまで本当なのかと思っていましたが……困ったもんですよ。カンダチ、という名前は全く知りませんでしたけど」
「死者への手向けとして答えてあげましょう、ハザル。使徒であれば全員が雷を扱うわ。とはいえ、現代に存在する使徒は二人。忌まわしい事だけど、私達以外ではアルパインというパーティを全滅させる事は世界の誰にも出来ないでしょう。認めざるを得ません。何せ、私の術を三度も食らって全員が口をきけるんですからね」
「そりゃあ、私達は冒険者ですからね。魔術がダメでもスキルがある」
ハザルが二発目を警戒して早々に使ったスキルは彼の新しいジョブに連なる星のスキル。
ゾディアックという系統にぶら下がる複数のスキルの一つ。
星座という、ハザルからすれば聞き慣れない名前で破格のスキルが幾つも存在する。
それが異なる世界、異なる空に浮かぶ神話に根差す物である事を、彼は知らない。
アクエリアスの効果は持続回復。
同時にラニーナが使ったクエイカーのスキルは百折不撓。
パーティの痛みを軽減し、気力と活力を高く維持するスキル。
どちらも魔術ではないがために、他の魔術を駆逐蹂躙する雷属性の魔術を浴びても依然として効果を維持している。
別に回復魔術も施し負傷は回復、体力も気力も高く保つ事で戦う、或いは生きる意思を失わせない。
トア達にとって、生き延びるための基本だった。
「スキル……紛い物の力ね。女神が人に与えたる真の贈り物は魔術。人の内から湧きいずる魔力を編む技術こそヒューマンが真に究めるべきものですのに」
勝ちをまるで疑っていない、そして確かな力を持つアルテの言葉。
実際、魔術による攻撃が届かない。
向こうから仕掛けてくる分には必ず次弾を備えている様子だし、こちらから仕掛ける分には雷属性で迎撃される。
守りに使う分には相手の攻撃を撃ち落とし無力化する事だけと割り切っているのか強弱の使い分けもまた鬱陶しい程に教科書通りの優等生そのもの。
トアは一応アルテの魔力切れを狙う手も考えてルイザに視線を送るが首を横に振られる。
どうやらアルテの魔力は潤沢、もしくは雷属性は燃費まで至高という事らしい。
けれど、トアはアルテの言葉にまだ勝機を、生きる道を見出していた。
(確かに強い。けど……違う。アルテには驕りがある。もしもアルテじゃなくあの人が今私たちの前に立っていたら……もう全員死んでる。優等生型だけに崩せれば一気にいけるかもしれないけれど、賭けるには分が悪すぎる。確実に仕留められないなら私たちがそのチャンスを使ってしまう訳にはいかない。だから崩さない、仕込むだけで、かつ、逃げる)
逃走にあたっては不安な要素も幾つかある。
黄金街道でもお構いなしに仕掛けてきた以上、ツィーゲに帰還するまでは気の抜ける場所が一切ない。
だが、彼らはアルパインだ。
二週間でも三週間でも荒野で探索し生還し続けた猛者だ。
ふと、トアの口元に笑みが浮かんだ。
「なるほど、だから冒険者が気に入らないんですか。意外とわかりやすい人ですね」
その笑みを確かめたハザルは心中に安堵が広がるのを感じた。
まだ手を考え、そして思いついた様子のリーダーに。
トビカトウとかいう謎のジョブに就き、まだ日が浅いからパーティとしての戦力で考えれば今は脱皮したての甲殻類的な弱さがあるのも事実。
相手が雷属性なんて眉唾物の伝説を持ち出してくれば流石のハザルだって危機感だって当然感じる。
むしろ内心焦りまくっているくらいだ。
それでも生きる為、全員で帰る為、彼は全員で作戦を共有する時間を稼ぎに出る。
「冒険者ギルドなど竜の戯れに過ぎませんからね」
「違うでしょ! 貴女はただ、自分のアドバンテージが通じない冒険者が怖いだけです。スキルは消せないようですからね、いくら魔術に強くても周囲がスキルばかり使ったら意味がなくなる。ヒューマンが皆魔術だけに傾倒すれば、さぞ貴女にとっては気持ちの良い世界になるでしょうから」
トアが念話でハザル、ルイザ、ラニーナに作戦を伝え共有していく。
「本当に……不愉快な男ですねハザル。ああ……そうですね、貴方はマグレで出来た秘薬で増長した挙句、悉く女に酷い目に遭わされてツィーゲに流れ着いたとか。その秘薬クラカントも最早値はある程度張りますがさして珍しくもない位置に落ち着き。しかし女と見れば蔑み、邪推するようになるなど……哀れですね」
「!?」
あまり知る人もいない筈の過去がアルテの口から暴露され、ハザルはたじろぐ。
アルテの怒りや動揺を誘おうとした結果、自分自身に跳ね返る。
これはいわゆるブーメランだろう。
「黒歴史くらい誰にでもあるでしょ」
「マグレでも出来ただけ凄いじゃない」
「割と気遣いだって出来る」
よろめいて精神的ダメージに呻くハザルに仲間からのフォローが飛ぶ。
まあ、本当に女に対して酷い男であれば女性三人とパーティは組めない。
いつか真が指摘したように、ハザルは意外と主人公適性もある男でもある。
ともあれ彼の犠牲によって攻勢に出る策の詳細はアルパイン皆で共有できた。
仕掛け時だ。
「くっそーー!! 人の古傷抉りやがって! 食らえブリザードホワイトアウト!」
ハザルが如何にも自棄になったかの振舞いから不意打ち気味に魔術名を叫ぶ。
突如アルテの周囲に白い竜巻状の雪嵐が荒れ狂う。
「馬鹿馬鹿しい、今更この程度の術を……っ?」
腕を一振り、アルテは煩わしい雪嵐を消そうとする。
が、嵐は消えない。
「それ、震斧割祭!」
「神至の領域」
ラニーナとルイザのスキルが次いで発動。
アルテの立つ地面が急に裂け、強く揺れる。
「っ、威力が無い! 幻か! 揺れはスキル……悪足掻きを!! 雷撃樹!!」
そう、ハザルの魔術発動はフェイク。
実際には魔力を込めて回復効果を持つ魔道具を発動させただけだ。
魔術を使ったぞというポーズに過ぎない。
術名だってトアから仕掛ける幻術を聞いてそれっぽく適当に叫んだ。
更にスキルの発動はもう一つ。
だがそちらの効果はアルテにはよくわからない。
だが使用した魔術は確実にアルパイン全員にダメージを加えている。
動きは止まり、幻術も晴れるはず。
彼女の読みは正しかった。
視界を埋める荒れ狂う雪は消え、揺れも限定的なエリアだ。
魔術師とは思えない身軽さで即座にその場から飛び退き、揺れと地割れからも逃れる。
「なっ! いない!?」
前方にアルパインの姿が無い。
誰一人、いない。
見渡しても、人影一つ見えない。
「ありえ、ない」
だがアルテには必中の雷がある。
どこかに隠れていたとしても、既に一撃を入れてある以上近場にいるなら外れはしない。
即座に驚きを封じ込め、確実な一手の為に詠唱を始めるアルテ。
「飛燕累! ……場数不足よ、優等生」
「っ!?」
突如生じた気配に咄嗟に杖で防御姿勢を取るアルテ。
そこに至近距離からトアの二連撃が加えられる。
賢人と上位竜に由来する贅沢な二振りの短剣による高威力の攻撃。
かなりの名品だっただろう杖が、耐えきれずに叩き斬られ……砕けた。
「え!!」
アルテの気質が一気に変わった。
殺意を露わに襲撃者、トアを見る。
反応は速く、明らかにこれまでのパターンを逸脱していた。
「この、ヒューマン風情が!」
「今さら、足掻くな!」
「雷纏身」
スキルではなく、純粋な身体能力頼りの一撃をトアが放つ。
至近距離、明らかに戦士の距離だ。
下手にスキル発動で隙を与えるよりも確実にダメージを与える方を彼女は選んだ。
だが、その高速の一撃は信じられない事にアルテの手に腕を掴まれ不発に終わった。
「びっくり箱ね、あんた」
「消し飛べ」
「冗談!」
「雷霆砲」
「っ、ぐ!! 何の……ふぅぅ!!」
「おま、え!」
掴まれていない手に握ったドマの短剣で追撃するトア、これまでとは違う枝分かれの無いただ力強く太い雷を放つアルテ、超人的な動きで身をよじって強引に回避を試みるも掴まれた腕を丸ごと吹っ飛ばされるトア、嗤うアルテ、腕の代償に自由を得たトア。
地に落ちかけた賢人の短剣を口で加えアルテに飛び掛かり無事な手で握ったままの短剣と共にアルテの脇を駆けざま、再びの連撃を浴びせる。
アルテの片目付近に血飛沫が舞い、そしてトアはそのまま逃走に入った。
血が目に入り、しかもまたすぐ近距離での戦闘を継続すると踏んでいたトアがそのまま逃走するという選択に出た事でアルテの思考と判断が少しの間保留される。
それがこの場での勝負を分けた。
「雷撃樹! ? 雷撃樹! ……っ、ぐ……トア、冒険者、あのゴミどもぉぉ!!」
仲間の不在も一瞬頭から抜けていたアルテは我に返ると即座に全体攻撃の雷を放つ。
だが、枝分かれする閃光は誰も貫かなかった。
繰り返すも、結果は同じ。
逃げられた。
その事実がアルテを激情に染める。
脳裏にはあの時の、上位竜の頂点と始まりの冒険者との戦いが浮かぶ・
(あれは、確かに私の慢心が生んだ戦いだった。情報も集めず、戦うべきではなかった相手だ。でも! 今回は違う。いくらあの時の傷が癒えてないとはいえ、明らかにあいつらよりも弱い、ただのヒューマンの冒険者どもだった! この、私に、女神の使徒に選ばれた私に、勉強不足と。実践向きではないとはいえ、記念に賜った杖までも砕いて……この屈辱、絶対に忘れない……ツィーゲっ……!)
追うにしても、行方は有力な候補が幾つもある。
仲間の誰かの故郷か、それともツィーゲか。
その全てを大きな戦いを前にした今から手配するのは良策ではない。
せめてツィーゲに帰っていてくれれば、あの街を焼く時に一緒に始末してやる。
アルテは密かにそう誓った。
そんな彼女が突如平原に完成していた長大な防壁の存在を報告され、怒りの奇声を上げたのはその夜の事だった。
「星綴・水瓶!」
対応は早かった。
まだ二発目か、もう二発目か。
その意識の違いもまた、彼らが一流の領域にある証だろう。
ラニーナ、ハザルのスキル発動直後、散開したアルパイン全員を歪な閃光が貫く。
速い、などという生易しいものではない。
彼女の杖から放たれた魔術はほんの短い詠唱後に発動した瞬間、アルパイン各自の回避や防御を嘲笑うかの様に全員に直撃した。
「他愛無い。煽った割には随分と可愛らしい実力ね、トア。アルパイン」
「っ! 連射でくる! ハザル、支援も妨害も後回し、回復だけ切らさないで!」
トアが手短に指示を出す。
ここは黄金街道そば。
アルパインは女神の使徒アルテ=バレットと接触した後街を出て黄金街道に入った。
アルテが襲撃をかけてくるくるかどうかは五分だと思っていたトアはその瞬間に微かに安堵した。
それは他のメンバーも似たようなものだろう。
しかし、襲撃はあった。
黄金街道を進むトア達を、何者かが襲撃したのだ。
何の変哲もない日用品辺りを商いそうな隊商とすれ違った時、甲高い笛の音が鳴り響いた。
一瞬で臨戦態勢になったトア達は隊商に扮した刺客を撃退、しかし直後に黄金街道の外壁をぶち破って仕掛けてきた追撃部隊との戦闘で黄金街道から追い立てられてしまう。
さらに二つほど刺客を退けたところで本命のアルテ=バレットが出てきたという訳だ。
彼女以外の襲撃者は全て片付けて残りはアルテただ一人なのだが、追い詰められているのはむしろアルパインの方だった。
「ルイザ!」
「ダメだ、詠唱の中断はスキルでも狙えそうにない! 何かでガードしている!」
「冒険者などという力、しぶといばかりで本当に醜い。カンダチ・イツキ」
再び、アルテの杖から放たれた光が枝分かれし正確にトア達全員を貫く。
三度も魔術による全体攻撃、それも直撃を受けたダメージは大きい。
既に何度も戦闘をこなした後というのもあり、肩で息をするトアの動きが鈍り、後衛のルイザが度重なるダメージ
に膝を突くのも無理からぬ光景だった。
「ったく、いい性格してる。これだけ出鱈目な魔術を扱う癖に波状攻撃の後じゃなきゃ出てこないなんてね」
「学が無いもんで確認だがな。ありゃ……何だ? ハザルの障壁が紙切れほどの役にも立たんかった」
「嫌らしい攻めをしてくるのは……トアが煽りまくったからじゃないですかね。あとラニーナ、学が無いとか、そういうんじゃないですよ。多分あれ……雷です、から」
「ハザルだって……結構煽ってたでしょ。雷って何よ、あの空で光るアレ?」
「馬鹿にするなよ、ハザル。雷属性なんぞ、聞いた事も無い」
軽口でペースを保とうとするトアとラニーナに、ハザルが応じる。
「……そりゃ雷属性なんてロッツガルドやアカデミーでしか記録も文献もありませんからね。アレが本当に女神の使徒なら、まあ、あり得なくもない話ですよ」
「私もそれなりに生きているが確かに聞いた事は無いな。こちらの魔術を悉く上回ってくる属性魔術など」
ルイザが立ち上がって再びアルテを睨む。
回復スキルに魔術。どちらもアルパインは高レベルで使いこなす。
ゆえに一撃で殺すか意識を刈り取らない限り、野戦でアルパインを仕留めるのは難しい。
地味ながら立て直しと継戦能力において、トア達は超一流であった。
もっとも……今現在の彼女らへの評価としては正確ともいえない。
既にパーティとして円熟の域に達していたアルパインだが、全員が自らのジョブを一新している。
新たな力が新たな個性、新たな道を拓いている可能性も十分にあった。
「あるんですよ、そんな冗談みたいな属性。でしょう、アルテ。女神の使徒というのは皆が雷を扱うんですか? 伝承に綴られるだけの……至高の属性、全克属性なんてインチキを」
「至高、よ。インチキではないの、タネも仕掛けもない。ただ……雷は全てを貫き跪かせる」
「魔術でありながら、魔力への特攻性質を持つ、ですか。他の全ての魔術を破壊し、一方的に相手に到達する必至の刃。どこまで本当なのかと思っていましたが……困ったもんですよ。カンダチ、という名前は全く知りませんでしたけど」
「死者への手向けとして答えてあげましょう、ハザル。使徒であれば全員が雷を扱うわ。とはいえ、現代に存在する使徒は二人。忌まわしい事だけど、私達以外ではアルパインというパーティを全滅させる事は世界の誰にも出来ないでしょう。認めざるを得ません。何せ、私の術を三度も食らって全員が口をきけるんですからね」
「そりゃあ、私達は冒険者ですからね。魔術がダメでもスキルがある」
ハザルが二発目を警戒して早々に使ったスキルは彼の新しいジョブに連なる星のスキル。
ゾディアックという系統にぶら下がる複数のスキルの一つ。
星座という、ハザルからすれば聞き慣れない名前で破格のスキルが幾つも存在する。
それが異なる世界、異なる空に浮かぶ神話に根差す物である事を、彼は知らない。
アクエリアスの効果は持続回復。
同時にラニーナが使ったクエイカーのスキルは百折不撓。
パーティの痛みを軽減し、気力と活力を高く維持するスキル。
どちらも魔術ではないがために、他の魔術を駆逐蹂躙する雷属性の魔術を浴びても依然として効果を維持している。
別に回復魔術も施し負傷は回復、体力も気力も高く保つ事で戦う、或いは生きる意思を失わせない。
トア達にとって、生き延びるための基本だった。
「スキル……紛い物の力ね。女神が人に与えたる真の贈り物は魔術。人の内から湧きいずる魔力を編む技術こそヒューマンが真に究めるべきものですのに」
勝ちをまるで疑っていない、そして確かな力を持つアルテの言葉。
実際、魔術による攻撃が届かない。
向こうから仕掛けてくる分には必ず次弾を備えている様子だし、こちらから仕掛ける分には雷属性で迎撃される。
守りに使う分には相手の攻撃を撃ち落とし無力化する事だけと割り切っているのか強弱の使い分けもまた鬱陶しい程に教科書通りの優等生そのもの。
トアは一応アルテの魔力切れを狙う手も考えてルイザに視線を送るが首を横に振られる。
どうやらアルテの魔力は潤沢、もしくは雷属性は燃費まで至高という事らしい。
けれど、トアはアルテの言葉にまだ勝機を、生きる道を見出していた。
(確かに強い。けど……違う。アルテには驕りがある。もしもアルテじゃなくあの人が今私たちの前に立っていたら……もう全員死んでる。優等生型だけに崩せれば一気にいけるかもしれないけれど、賭けるには分が悪すぎる。確実に仕留められないなら私たちがそのチャンスを使ってしまう訳にはいかない。だから崩さない、仕込むだけで、かつ、逃げる)
逃走にあたっては不安な要素も幾つかある。
黄金街道でもお構いなしに仕掛けてきた以上、ツィーゲに帰還するまでは気の抜ける場所が一切ない。
だが、彼らはアルパインだ。
二週間でも三週間でも荒野で探索し生還し続けた猛者だ。
ふと、トアの口元に笑みが浮かんだ。
「なるほど、だから冒険者が気に入らないんですか。意外とわかりやすい人ですね」
その笑みを確かめたハザルは心中に安堵が広がるのを感じた。
まだ手を考え、そして思いついた様子のリーダーに。
トビカトウとかいう謎のジョブに就き、まだ日が浅いからパーティとしての戦力で考えれば今は脱皮したての甲殻類的な弱さがあるのも事実。
相手が雷属性なんて眉唾物の伝説を持ち出してくれば流石のハザルだって危機感だって当然感じる。
むしろ内心焦りまくっているくらいだ。
それでも生きる為、全員で帰る為、彼は全員で作戦を共有する時間を稼ぎに出る。
「冒険者ギルドなど竜の戯れに過ぎませんからね」
「違うでしょ! 貴女はただ、自分のアドバンテージが通じない冒険者が怖いだけです。スキルは消せないようですからね、いくら魔術に強くても周囲がスキルばかり使ったら意味がなくなる。ヒューマンが皆魔術だけに傾倒すれば、さぞ貴女にとっては気持ちの良い世界になるでしょうから」
トアが念話でハザル、ルイザ、ラニーナに作戦を伝え共有していく。
「本当に……不愉快な男ですねハザル。ああ……そうですね、貴方はマグレで出来た秘薬で増長した挙句、悉く女に酷い目に遭わされてツィーゲに流れ着いたとか。その秘薬クラカントも最早値はある程度張りますがさして珍しくもない位置に落ち着き。しかし女と見れば蔑み、邪推するようになるなど……哀れですね」
「!?」
あまり知る人もいない筈の過去がアルテの口から暴露され、ハザルはたじろぐ。
アルテの怒りや動揺を誘おうとした結果、自分自身に跳ね返る。
これはいわゆるブーメランだろう。
「黒歴史くらい誰にでもあるでしょ」
「マグレでも出来ただけ凄いじゃない」
「割と気遣いだって出来る」
よろめいて精神的ダメージに呻くハザルに仲間からのフォローが飛ぶ。
まあ、本当に女に対して酷い男であれば女性三人とパーティは組めない。
いつか真が指摘したように、ハザルは意外と主人公適性もある男でもある。
ともあれ彼の犠牲によって攻勢に出る策の詳細はアルパイン皆で共有できた。
仕掛け時だ。
「くっそーー!! 人の古傷抉りやがって! 食らえブリザードホワイトアウト!」
ハザルが如何にも自棄になったかの振舞いから不意打ち気味に魔術名を叫ぶ。
突如アルテの周囲に白い竜巻状の雪嵐が荒れ狂う。
「馬鹿馬鹿しい、今更この程度の術を……っ?」
腕を一振り、アルテは煩わしい雪嵐を消そうとする。
が、嵐は消えない。
「それ、震斧割祭!」
「神至の領域」
ラニーナとルイザのスキルが次いで発動。
アルテの立つ地面が急に裂け、強く揺れる。
「っ、威力が無い! 幻か! 揺れはスキル……悪足掻きを!! 雷撃樹!!」
そう、ハザルの魔術発動はフェイク。
実際には魔力を込めて回復効果を持つ魔道具を発動させただけだ。
魔術を使ったぞというポーズに過ぎない。
術名だってトアから仕掛ける幻術を聞いてそれっぽく適当に叫んだ。
更にスキルの発動はもう一つ。
だがそちらの効果はアルテにはよくわからない。
だが使用した魔術は確実にアルパイン全員にダメージを加えている。
動きは止まり、幻術も晴れるはず。
彼女の読みは正しかった。
視界を埋める荒れ狂う雪は消え、揺れも限定的なエリアだ。
魔術師とは思えない身軽さで即座にその場から飛び退き、揺れと地割れからも逃れる。
「なっ! いない!?」
前方にアルパインの姿が無い。
誰一人、いない。
見渡しても、人影一つ見えない。
「ありえ、ない」
だがアルテには必中の雷がある。
どこかに隠れていたとしても、既に一撃を入れてある以上近場にいるなら外れはしない。
即座に驚きを封じ込め、確実な一手の為に詠唱を始めるアルテ。
「飛燕累! ……場数不足よ、優等生」
「っ!?」
突如生じた気配に咄嗟に杖で防御姿勢を取るアルテ。
そこに至近距離からトアの二連撃が加えられる。
賢人と上位竜に由来する贅沢な二振りの短剣による高威力の攻撃。
かなりの名品だっただろう杖が、耐えきれずに叩き斬られ……砕けた。
「え!!」
アルテの気質が一気に変わった。
殺意を露わに襲撃者、トアを見る。
反応は速く、明らかにこれまでのパターンを逸脱していた。
「この、ヒューマン風情が!」
「今さら、足掻くな!」
「雷纏身」
スキルではなく、純粋な身体能力頼りの一撃をトアが放つ。
至近距離、明らかに戦士の距離だ。
下手にスキル発動で隙を与えるよりも確実にダメージを与える方を彼女は選んだ。
だが、その高速の一撃は信じられない事にアルテの手に腕を掴まれ不発に終わった。
「びっくり箱ね、あんた」
「消し飛べ」
「冗談!」
「雷霆砲」
「っ、ぐ!! 何の……ふぅぅ!!」
「おま、え!」
掴まれていない手に握ったドマの短剣で追撃するトア、これまでとは違う枝分かれの無いただ力強く太い雷を放つアルテ、超人的な動きで身をよじって強引に回避を試みるも掴まれた腕を丸ごと吹っ飛ばされるトア、嗤うアルテ、腕の代償に自由を得たトア。
地に落ちかけた賢人の短剣を口で加えアルテに飛び掛かり無事な手で握ったままの短剣と共にアルテの脇を駆けざま、再びの連撃を浴びせる。
アルテの片目付近に血飛沫が舞い、そしてトアはそのまま逃走に入った。
血が目に入り、しかもまたすぐ近距離での戦闘を継続すると踏んでいたトアがそのまま逃走するという選択に出た事でアルテの思考と判断が少しの間保留される。
それがこの場での勝負を分けた。
「雷撃樹! ? 雷撃樹! ……っ、ぐ……トア、冒険者、あのゴミどもぉぉ!!」
仲間の不在も一瞬頭から抜けていたアルテは我に返ると即座に全体攻撃の雷を放つ。
だが、枝分かれする閃光は誰も貫かなかった。
繰り返すも、結果は同じ。
逃げられた。
その事実がアルテを激情に染める。
脳裏にはあの時の、上位竜の頂点と始まりの冒険者との戦いが浮かぶ・
(あれは、確かに私の慢心が生んだ戦いだった。情報も集めず、戦うべきではなかった相手だ。でも! 今回は違う。いくらあの時の傷が癒えてないとはいえ、明らかにあいつらよりも弱い、ただのヒューマンの冒険者どもだった! この、私に、女神の使徒に選ばれた私に、勉強不足と。実践向きではないとはいえ、記念に賜った杖までも砕いて……この屈辱、絶対に忘れない……ツィーゲっ……!)
追うにしても、行方は有力な候補が幾つもある。
仲間の誰かの故郷か、それともツィーゲか。
その全てを大きな戦いを前にした今から手配するのは良策ではない。
せめてツィーゲに帰っていてくれれば、あの街を焼く時に一緒に始末してやる。
アルテは密かにそう誓った。
そんな彼女が突如平原に完成していた長大な防壁の存在を報告され、怒りの奇声を上げたのはその夜の事だった。
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