月が導く異世界道中

あずみ 圭

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六章 アイオン落日編

掘り出し物

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 最近、ローレルに向かう前頃から感じていた事だけど。
 ツィーゲで僕に向けられる視線が少しくすぐったく感じる事があった。
 あいつやりやがった的な。
 駆け上がりきったぜ、みたいな。
 勢いある若い商人としてじゃなく、勢いのままに成り上がって土台を固めた成功者として見られる機会が増えた。
 嫉妬の視線は多かった。
 僕の場合は特に周囲が優秀過ぎるのとレンブラントさんとの強いコネがあるから仕方ない事だ。
 ついでにいえば僕はロッツガルドだ四大国だと外出も非常に多い。
 少し前までは簡単に足元をすくえる相手、今だけ勢いに乗ってる奴、と思って色々面倒な冒険者に商人にカタギじゃない方々まで商会にちょっかいをかけてくるのは幾らでもいたんだ。
 それが急激に減ってきてる。
 もっともツィーゲは今独立目指して戦争中、良くも悪くも商機は爆増している。
 クズノハ商会に吸い付いて楽に儲けよう、稼ごうという輩もそっちに夢中なのかもしれない。
 ただ僕が街中を歩いている時、ツィーゲに認めてもらえている気分になる機会が増えたってだけの事。 

「見ろよ、ライドウだ。あいつ結局ルーキーから中堅ぶっ飛ばして大店おおだなの仲間入りしやがった」

「ね。ここで一回もこけずに加速しまくって大成功なんて聞いた事ない」

「初めの無能も今となれば周囲を欺く罠だったんだろうな。亜人雇うわ何でも屋でデビューするわ店開いた途端に学園都市に出張に行くわ不確かな流通量しかない蜃気楼都市産の品物をメインで扱うわ……自爆する要素しかなかったってのにさ」

「……世界でこの街でだけなら亜人の店員が受け入れられる素地はあった。レンブラント商会の強力な庇護があったから学園都市での人脈作りを優先しても問題無かった。これから蜃気楼都市がツィーゲの大きな要素になるのもどこぞから聞いたんだろ。アルパインと一緒に街に戻ってきた時に、もう全部既定路線で決まってたんだよ。結局この世で誰が成功するかなんて巨大な権力に気に入られるかどうか、ただそれだけなんだ……」

 若干一名陰謀論に染まってる人もいて、ついでに初期の僕を知ってる人もいて。
 それでも……全部が全部じゃなくてもクズノハ商会を日常として受け入れてくれている人が増えていくのは嬉しい。
 さてと。

「六夜さんが待ってるってここ?」

「ええ。うふふ、若様を呼び出すなんて一体どれだけ偉いつもりなんでしょうアレは。おかげで今日はまだあまり食べられていませんし」

「……あのさ、付いてきたのって六夜さんに何かお礼が言いたかったから、なんだよな? お礼参り的な意味のお礼じゃないよな?」

 一応。
 そう一応確認する。
 冒険者ギルド経由でツィーゲに来ているローレルの伝説の一人、六夜さんから会いたいと連絡を受けた。
 直接念話で連絡をくれても良いのに、わざわざギルドを通して。
 深刻な要件とかじゃなく、純粋にあの人が街の筋を気にしている律義な人って事だろうな。
 見た目はともかく実年齢は活動している時間だけの経過で見ても世紀単位の御長寿なんだし。

「……あ、ええ。そうでした。今日は普通にお礼でした」

「前に痛い目見てるからって……いや。澪もわかってるか、大丈夫だよね」

「はい!」

 冒険者ギルドの隣。
 ここにはツィーゲの名物フードコートがある。
 ずらっと店が並び屋台も毎日出ていて、近くの広場に置かれたイスとテーブルは誰でも自由に使える……冒険者に限らず常に凄まじい人が集まる場所だ。
 ちなみに巴や澪、クズノハ商会の面々にも大人気の場所だ。
 人が日常的に集まる場所だけに普通は治安も心配されるけど、冒険者ギルドの隣という立地が効いているのかスリ程度の軽犯罪をたまに聞くくらいで基本的には子ども連れの家族でも安全なところだ。
 巴や澪が一時期高頻度で徘徊したから、それで強面の冒険者すら震えあがって犯罪が減った、なんて冗談も聞いた事ある。
 フードコートと広場、両方ともレンブラントさんが街に土地を寄付して実現したとかなんとか。
 今やツィーゲを訪れる人が必ず来る場所の一つになってて、結果的に街の利益を大幅に上げているのが凄まじい。
 食の一等地だから屋台の抽選は物凄い倍率だそうで、毎週毎週色んな理由で店を持ってない人たちが目を血走らせて抽選に参加しているらしい。
 まあ今日はね、六夜さんとの約束の店に行くって目的があるから。
 澪も控えめに店を覗いては買い物をしてますけどね。
 ここ、賑やかで人も集まるけど出ているモノについては安いとは限らない。
 さっき横を通った屋台は荒野の大型陸ガニの脚と汁物を出していたけど単位は金貨だった。
 汁は二杯で金貨一枚、脚は小さいので金貨一枚、ハサミは金貨二枚。
 高めに聞こえるかもしれないけど、陸ガニのサイズは人と大差なくボリューム満点だ。
 ……駄目だな感覚が壊れかけてる。高いわ。
 亜空でたまに出てくる料理のサイズだと一体どうなるんだろうな。
 値段帯で大体配置がまとまっているから余程間違える事もないけど、使おうと思えば相当な金額を使える。
 ……ええ、澪はね。
 面白いくらいに使う。
 多分ツィーゲでもトップクラスのここのお得意様だろう。
 値段を気にしない上に量も物凄いし、気に入れば時折お土産にする。
 ここに辿り着くまで、中々のセールスをかわしてきている。たまに直撃も受けた。
 
「おーライドウ君! 澪さん! ここだ、ここ!」

 店内に入るとその店の食べ物を中心にした匂いに空気が変わる。
 見るからにアサシンな感じの六夜さんが朗らかに僕らを呼んでいた。
 当たり前の様に満席、屋台じゃなくここで店を持ってるというのは料理人にとって中々凄い事だとか。
 ここ、喫茶店ですけどね。
 美味い不味いとかランクの付け方がいまいちわからない種類の飲食店ではある。
 出てくるコーヒーか紅茶、軽食で競ってるんだろうか。
 マスターの人柄、と言われても納得しそうな僕がいる。

「ご無沙汰してます、六夜さん。街にいらしてるのは聞いていたんですが、中々挨拶もできなくて」

「小耳に挟むだけでもクズノハ商会と君の多忙さはわかるさ。こちらこそ呼び立てて済まなかった。さ、お二人とも座ってくれ」

「手短に頼みますね、六夜。今日もここは興味深い料理が溢れていますから」

「おや、澪さんは店も持たれているのに探究も未だ旺盛にしているか。素晴らしいな。確かにここ、いやツィーゲは料理もそれ以外もとんでもない発展を遂げている。私も度肝を抜かれた。この唐揚げなど実に良く出来ている」

「!」

 六夜さんが傍らの紙袋から肉の唐揚げを一つ取り出して口に放る。
 この店のメニューじゃないな。
 ここではちゃんと店でも注文さえすれば別店舗や屋台の食べ物を持ち込める所が殆どだ。
 そして唐揚げを澪が見ている。
 鼻も微かに動いている。
 なんてわかり易い興味。

「偶然立ち寄っただけの屋台だが大当たりだった。まさかこれがツィーゲの平均だとすれば恐ろしいが……ライドウ君たちもどうかな」

 察してくれたのか僕らに袋の口を向けてくれる六夜さん。
 唐揚げはずるいよね、何ともまあ見た目の時点では良い感じしかしないとことか。
 
「鳥ですか。定番ですけど、香りが実に複雑……あむ。……っ!」

 澪が料理人の目をしている。
 僕もお一つ頂く。
 ……おお。
 これは……凄い。
 みっしりと詰まったモモ肉、衣は市販の唐揚げ粉の様に味がついた薄めながら薄すぎずカリっとした食感を残し。
 噛み締めた時の肉汁からはややスパイシーな強めの下味を感じる。
 
「……っ」

「美味いですね」

 澪もかなり驚いているようだ。
 ツィーゲでならどこでも食べられる味、じゃない。
 好みに合っているのを差し引いてもこれは、掘り出し物だ。

「だろう? 私はタレ系じゃなく下味や衣に拘るタイプのが好きでね」

「わかります。僕もです。タレかけで味を増やすのがダメとは言いませんが、好みはやはり衣を濡らさず下味と粉に拘る方で」

「嬉しいな、同志が増えた。これは実に良くバランスを取っているが、ありがちなアレを敢えて使っていないんだ。わかるかい?」

「……ニンニク」

「その通り! なのにスパイシーな後味をきちんと残している。相当な工夫が必要だよ、これは」

「ですね」

 うんうんと頷きながら日本人的な鳥の唐揚げ談義をついついしてしまった。
 でも向こうの、しかも美味い唐揚げを思い出す程に六夜さんがくれたこれは美味しかった。
 凄いなツィーゲ。

「……六夜」

「どうだい、澪さんも気に入ってくれたかな?」

「買った店を教えなさい」

「ん、どこだったか。始めに言ったがふらっと寄った屋台だったからな。来た道を戻る内に見つかるかもしれないが……」

「では戻りましょう」

「んん?」

「屋台は売り切れで店を閉めます。もう昼下がりですからこの味からすると一刻の猶予もありません」

「いや、今日は話があって君らを呼んだ訳で」

「明日にします」

「おいおい、澪」

「……だって若様、この唐揚げ美味しかったと」

「いや、確かに言ったけども」

「私も確かに幾らかの衝撃を受ける味でした。ですが若様が美味しいと仰っただけじゃなくあんなに楽しそうに語られたからには……この澪、絶対に見過ごす訳には、参りません!!」

「……えー」

 何だその不退転の決意みたいな物凄い圧は。
 ガーリック系のスパイスを使わずによくもここまで、馬鹿ウマな唐揚げを作り上げたと感心したのはしたよ。
 もしかしてガーリックバージョンが別にあったらそれも食べてみたいなと思ったりもしてる。
 でもそれで六夜さんを引き回すのは本末転倒だろうに。

「……ほー、なるほど」

 僕らのやり取りを見ていた六夜さんが何か納得するように何度も頷く。

「すみません、六夜さん。まずお話というのを」

「若様!」

「……いや、そういう事なら澪さんの希望を優先しよう。明日でも君らは時間があるのだろ?」

「ええ、それは大丈夫ですが。良いんですか?」

「私は無理です。厨房で物凄く大事な用事が出来ましたから」

「……澪ー」

 それ完全に唐揚げ山盛りタイムになるやつ。
 幸い亜空であれ嫌いなのは殆どいないけども。

「元々今日明日を急ぐ用事ではなかったし。君らに礼を言いたかったのが大部分だ。なら澪さんの望みを叶えるのも用件の内、さ」

「……ありがとうございます」

 最近はよっぽどここまで料理関係でも僕といる時に無理を言う事はなかったんだけどな。
 ……そう考えると澪の我がままも久々か。
 六夜さんの好意に甘える事にした。

「ではすぐに出ますよ六夜!」

「ああ、もちろん。道は覚えているから安心してくれ澪さん」

「店が閉まる方を心配しているんです私は!!」

 苦笑しながら六夜さんが席を立つ。
 僕も立とうとしたその時、彼がとんでもない爆弾を店に落としてくれた。

「そうか、失礼。しかし澪さん、ライドウ君とようやく無事結ばれた訳か。いや、おめでとう。また改めて何かお祝いをしなくてはいけないな。ライドウ君も頑張ったじゃないか、意外と早くて驚いたよ」

「………………ん?」

 な、何をいきなりひそめるでもない普通のノリの声で言ってくれるんだ、この人は!
 思わず間抜けな声が出ちゃったでしょうが!
 周囲の視線が澪と僕に無茶苦茶集中するのがわかる。

「あら、その節はどうも。貴方の予言、本当に当たって驚きました。それについては私も貴方に何かしらお礼をしようと思ってましたよ。まずはその! 唐揚げの確保からですけれどね!」

 澪は平然と嬉しそうに応じてるし!?
 持とうよ恥じらい!
 僕は顔真っ赤ですよ、正直!
 そして何故澪にはそこそこ温かい視線もあるのに、僕の方には軒並み迷惑な感じの、そしてしばらく感じてなかった強烈な妬みの視線がぶつけられるんだ。
 おい、人垣が出来たぞ。
 澪と六夜さんが見えん!

「はは、では案内つかまつろう。ライドウ君、また明日。美味しいのが出来たら私にもお裾分けしてくれると嬉しいよ」

「若様、私久しぶりに燃えてきました! こんな揚げ物如き、今の私ならさほどお待たせしません!」

 壁の向こうから機嫌の良い声が聞こえてくる。
 いや、澪。
 ナリは小さくても唐揚げは……宇宙なんだ。
 うん、やっぱり美味い。
 六夜さんが置いてったんだから、これはもらっても良いだろう。
 肉汁、良いなあ。
 この凄い感情が渦巻いてる店内も、これで何とかなればいいのになあ。

「あ、そうか。明日もこの店来るんだ、僕。マジか……」

 六夜さんと澪がいなくなった店内で僕だけに集まる凶悪な視線に囲まれながら。
 僕はとんでもなく居心地の悪くなった店内で唐揚げとコーヒーを楽しむ。
 うん、これは別々のが良いな。
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