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行方不明王女とレリルール学園
ふたりだけの甘い時間と天空のアレース城
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アウラとルシオラは地理の授業が終わったあと、体調が優れないルシオラを休ませる為に中庭の大木の下で休んでいた。
ルシオラはアウラの膝の上に頭をのせて目を閉じて、アウラはルシオラの頭を優しく撫でる。 降り注ぐ木漏れ日が気持ちいい。
「ルシオラ、具合はどう……?」
「ん。 なんだろう、今はすごく楽だ……」
「本当に?」
「うん、本当。 心配かけてごめんね」
ルシオラは自分を心配そうに見下ろすアウラを見上げ、アウラのウェーブかかった黒髪に、くるくると戯れるように右手で優しく触れる。
「……こうして、アウラとふたりで過ごしているとヘルバの森にいた頃を思い出すね」
「そうだね。 ここみたいに人が多い場所になれてないから、あの頃が遠い昔みたいで懐かしい」
アウラとルシオラがレリルール学園に中途編入して8日が過ぎようとしていた。
「…………僕達の空間を周りから閉ざして〈防音の盾〉」
「これは防音の結界? どうして?」
(上級レベルの魔法だったと思うけど、いつから防音の魔法を使えるようになっていたの)
アウラは急にルシオラが魔法を使って驚く。 防音の結界の外部からは見た目はなにも変わらないが、ルシオラとアウラには透明な膜がはっているのが分かる。
普段ルシオラは魔法薬を制作時以外は、あんまり魔法を使わない。
理由は分からないが、祖母ルクルが魔法薬制作以外の魔法を禁止した為である。
「んー……、あのさアウラは、もし僕達がヘルバの森以外の場所に帰るようになったら、どう……思う?」
「急にどうしたの? もしかしてラーナ様に耳打ちされたことと関係ある?」
アウラは占いの教室でラーナ第三王妃が、ルシオラに何かを耳打ちしていたことを思い出す。
「……学園長を頼ったらどうだって言われた」
「えっ」
アウラはルシオラの言葉に一瞬驚いたが、ラーナ第三王妃がルシオラの両親であるカエルラとロイザ学園長、そしてアウラの実母、第五王妃はレリルール学園の同級生だとラーナ第三王妃が言っていたことを思い出す。
ラーナ第三王妃がルシオラの父親が誰かを知っていてもおかしくはない。
「私達が、まだ16歳だから……」
アウラの言葉にルシオラは、こくと縦に頷く。
レリルール王国の周辺国、東北にある隣国、第一王妃の故郷『フィリーアゼ王国』をはじめ、南東方角にある第二王妃のサバラ王国、そして東北東の方角にある第四王妃の中ノ皇国は18歳から成人をむかえる。 レリルール王国は20歳から成人と認められ、他国に比べたら遅いほうだった。
「私は師匠やルシオラ、カエルラお義母様と暮らしたヘルバの森に帰りたいけど、ルシオラが決めたことならどこへでも一緒に行くよ……」
「アウラ」
アウラはルシオラの右手をとり、指先に触れるだけの口付けをする。
「ルシオラは? どうしたいの?」
「僕は……」
ざわざわと周囲のざわめきがアウラとルシオラの耳に聞こえる。
この防音の結界〈防音の盾〉は内側の音は外側に聞こえないが、外側の音は内側に聞こえる。
アウラとルシオラがいる中庭は、ふたり以外にも生徒が利用していて、会話は聞こえないがアウラとルシオラのラブいちゃは他生徒から注目を集めていた。
そんな生徒達の中、見覚えがある生徒がアウラ達のほうへ歩いてくる。
「こほん。 ……あの、いちゃつくなら、もう少し人目に触れない場所にしたらどうかしら」
魔法薬の授業で出会ったレーナだった。 遠くに顔を真っ赤にしているアルムもいる。
「「どうして?」」
〈防音の盾〉が解除された後、アウラとルシオラのハモりにレーナだけではなく、周囲の生徒達もどうしたらいいのか言葉をなくす。
アウラとルシオラはヘルバの森で過ごしていた頃と同じようにしているだけで、どうして生徒達が困惑しているのか分からなかった。
ーーーー
レリルール王国は北西から北、東、南南東まで大陸が広がっており、その反対側、北西から西、南、南南東まで広大な海が広がっている。
その西側の海と陸の境目の上空に、天空のアレース城が雲雲の間に浮かんでいた。
「ラナ、着いたぞ」
「ありがとう」
ラーナ第三王妃はロイザ学園長が運転する【魔法の箒】から、天空のアレース城の大地へ降りる。
「ここまで【魔法の箒】を飛ばせるなんて、流石は “ マギーア ” ね。 ……私も自分で乗れたら良かったけど」
「たったひとつの魔法しか使えない以上仕方ないだろう。 その魔法のお陰で、国王陛下の代わりに自由に動けるだろう」
「そうね。 この分身の魔法があるからこそ、誰にもウィルデ宮の主である第三王妃が不在だとバレずに動けるんだもの……」
「ウィルデ宮には分身が周囲を欺いているのか」
「ええ。 臣下や侍女達の目を騙すのは申し訳ないけど、あの事を周囲に漏らさないためには仕方ないわ」
「ご存知なのは国王陛下はだけか?」
(ラピドゥスとカナリアも説明されるだろうし)
「いえ。第一王妃と第二王妃、それから王子達よ」
カナリアの母、第四王妃は眠りについているから知るすべはない。
「王妃達は除外されたのか?」
「15年前のサラのニゲル宮の出火は……私達王妃が主犯ではないと判断されてるわ。 最初に犯人から除外されたのは第四王妃よ。 彼女も被害者だし、それに……中ノ皇国は魔法未開国で第四王妃に何があっても協力しないでしょうね……」
「……魔力を持った不遇な末の皇女か」
「噂ではそうだけれど、彼女は自分のことを話たがらなかったし、人と交流することもなく、いつも遠くを見つめていたわ。 それに私の思い違いかも知れないけれど魔法使えないんじゃないかしら」
「使えない。 どういうことだ?」
「確信はないわ。 そうじゃないかと思っただけ」
「そうか」
ラーナ第三王妃とロイザ学園長は降り立った、天空のアレース城の端から透き通って底がみえる池がある庭園を歩いて行く。
池の底には巨大な都市が沈んでおり、海蛇と飛び魚を足したような姿をしている “ 水竜 ” の稚魚に似た子竜が泳いでいる。
「水竜ってドラゴンってより、日ノ島国の伝承にある “ 龍神 ” に似た姿なのね」
「ああ。 水竜と龍神は同一だからな。 水竜は基本、海底や水底で過ごしているが、稀に気紛れをおこして “ 空 ” を飛び、その姿を見た人々が “ 龍神 ” と、崇めたとアイリスが言っていたな」
ラーナ第三王妃の言葉にロイザ学園長が頷く。
「アイリスってこれから会う “ カエルム ” のアイリス様……?」
「ああ。 俺が “ マギーア ” の称号を得たときにお会いした」
ロイザ学園長とラーナ第三王妃が歩き続け、天空のアレース城の中心にある、青空色の巨大な城の前にたどり着く。
門番をしている緑色の風の妖精が扉をあけ、ふたりを城の中へ誘う。
ロイザ学園長とラーナ第三王妃は風の妖精の後を着いていく。
「ラナ、話は戻すが第一王妃が除外された理由は……」
「第一王妃はフィリーアゼ王国の第一王女よ。 レリルール王国より大国のフィリーアゼ王国の力を借りれば正攻法でなんとか出来るし、次期国王はフレイムで決まっている。 犯人の目的が次期王位なら彼女には理由がないし、アウローラは王女よ。 この国は女王は認めていない。 王位は継げないわ」
「……王は5人の伴侶をむかえる掟があるからな。 国王なら王妃が世継ぎを生むため、母が誰だが分かるが、女王は……過去に世継ぎの父は誰だと、争いの火種になったからな」
「ええ、それから王女は王位を継げない決まりになった。 だからこそ王女の母であるサラが狙われた理由が分からない」
玉座へ続く扉がある前で、風の妖精はロイザ学園長とラーナ第三王妃に頭をたれ、門番をしていた扉へ戻る。
風の妖精と入れ違いに竜巻がおき、竜巻から美しいボブヘアーに薄布を纏った風の精霊王シルフが現れる。
「我が主、現竜王がお待ちです」
「アモネス、久しぶりだな」
「これはこれは “ マギーア ” ロイザ様。 貴方様が “ マギーア ” になられた時以来ですわね。 ネロはお元気でしょうか?」
「ああ。 ネロは学園にいるからな連れてきていない……」
「……ご子息の護衛ですわね。 ネロも喜んでおられるでしょう。 ネロが主従の契約を執行従っていたのはロイザ様ではなくご子息ですから……」
「…………」
「ネロはまだ生まれていなかったご子息と契約は出来ず、代わりにロイザ様が主従の契約を代行したと」
「…………」
「魔力パワーの均衡を崩し、一国さえ滅ぼす『精霊の消失』による被害を避けるためには致し方ありませんが……」
ラーナ第三王妃はロイザ学園長とアネモスの会話にクエスチョンマークを浮かべて頭を傾げる。
「ロイザ。 『精霊の消失』って、確か “ 召喚士 ” と “ 精霊 ” が使役の契約時に、失敗すると起こる魔力の爆発よね?」
「……ああ、そうだ。 精霊から使役の契約を執行を実行した時に起こりやすい」
「え、それって」
ラーナ第三王妃の中で何かが結び付いて、ロイザ学園長に確認しよう口を開くが、
「おい、アネモス。 いつまでしゃべっておるのか? 早う我の元へ連れてまいれ」
「我が主、只今お連れいたします。 ロイザ様、ラーナ様こちらへ」
少女のような、それでも凛と透き通る淑女のような声が扉の奥から聞こえる。
アネモスが扉を開き、玉座の奥に漆黒のクジラに似た巨大魚の竜が眠りについている。
この漆黒の竜がバハムートだ。 その前に玉座があり、
「ああ、久しいな。 ディアトロとレリルールの末裔か」
紫色の長い髪はツインテールで纏め、胸元があいた魔女の衣装を着てる16歳の少女が玉座にだらしなく横になり、膝宛を枕がわりにしている。
「ようこそ、天空のアレース城へ。 アイリス・ロロン・バハムートは、そなた達を歓迎する」
少女の黄金の瞳と縦長に細い瞳孔が、魅惑的に煌めく。
アイリス・ロロン・バハムートはレリルール王国建国時から “ カエルム ” の称号を得て、1度も代替わりをしていない。
前竜王バハムートと “ 竜使い ” の魔女の間に生まれたドラコニュートの魔女だ。
ルシオラはアウラの膝の上に頭をのせて目を閉じて、アウラはルシオラの頭を優しく撫でる。 降り注ぐ木漏れ日が気持ちいい。
「ルシオラ、具合はどう……?」
「ん。 なんだろう、今はすごく楽だ……」
「本当に?」
「うん、本当。 心配かけてごめんね」
ルシオラは自分を心配そうに見下ろすアウラを見上げ、アウラのウェーブかかった黒髪に、くるくると戯れるように右手で優しく触れる。
「……こうして、アウラとふたりで過ごしているとヘルバの森にいた頃を思い出すね」
「そうだね。 ここみたいに人が多い場所になれてないから、あの頃が遠い昔みたいで懐かしい」
アウラとルシオラがレリルール学園に中途編入して8日が過ぎようとしていた。
「…………僕達の空間を周りから閉ざして〈防音の盾〉」
「これは防音の結界? どうして?」
(上級レベルの魔法だったと思うけど、いつから防音の魔法を使えるようになっていたの)
アウラは急にルシオラが魔法を使って驚く。 防音の結界の外部からは見た目はなにも変わらないが、ルシオラとアウラには透明な膜がはっているのが分かる。
普段ルシオラは魔法薬を制作時以外は、あんまり魔法を使わない。
理由は分からないが、祖母ルクルが魔法薬制作以外の魔法を禁止した為である。
「んー……、あのさアウラは、もし僕達がヘルバの森以外の場所に帰るようになったら、どう……思う?」
「急にどうしたの? もしかしてラーナ様に耳打ちされたことと関係ある?」
アウラは占いの教室でラーナ第三王妃が、ルシオラに何かを耳打ちしていたことを思い出す。
「……学園長を頼ったらどうだって言われた」
「えっ」
アウラはルシオラの言葉に一瞬驚いたが、ラーナ第三王妃がルシオラの両親であるカエルラとロイザ学園長、そしてアウラの実母、第五王妃はレリルール学園の同級生だとラーナ第三王妃が言っていたことを思い出す。
ラーナ第三王妃がルシオラの父親が誰かを知っていてもおかしくはない。
「私達が、まだ16歳だから……」
アウラの言葉にルシオラは、こくと縦に頷く。
レリルール王国の周辺国、東北にある隣国、第一王妃の故郷『フィリーアゼ王国』をはじめ、南東方角にある第二王妃のサバラ王国、そして東北東の方角にある第四王妃の中ノ皇国は18歳から成人をむかえる。 レリルール王国は20歳から成人と認められ、他国に比べたら遅いほうだった。
「私は師匠やルシオラ、カエルラお義母様と暮らしたヘルバの森に帰りたいけど、ルシオラが決めたことならどこへでも一緒に行くよ……」
「アウラ」
アウラはルシオラの右手をとり、指先に触れるだけの口付けをする。
「ルシオラは? どうしたいの?」
「僕は……」
ざわざわと周囲のざわめきがアウラとルシオラの耳に聞こえる。
この防音の結界〈防音の盾〉は内側の音は外側に聞こえないが、外側の音は内側に聞こえる。
アウラとルシオラがいる中庭は、ふたり以外にも生徒が利用していて、会話は聞こえないがアウラとルシオラのラブいちゃは他生徒から注目を集めていた。
そんな生徒達の中、見覚えがある生徒がアウラ達のほうへ歩いてくる。
「こほん。 ……あの、いちゃつくなら、もう少し人目に触れない場所にしたらどうかしら」
魔法薬の授業で出会ったレーナだった。 遠くに顔を真っ赤にしているアルムもいる。
「「どうして?」」
〈防音の盾〉が解除された後、アウラとルシオラのハモりにレーナだけではなく、周囲の生徒達もどうしたらいいのか言葉をなくす。
アウラとルシオラはヘルバの森で過ごしていた頃と同じようにしているだけで、どうして生徒達が困惑しているのか分からなかった。
ーーーー
レリルール王国は北西から北、東、南南東まで大陸が広がっており、その反対側、北西から西、南、南南東まで広大な海が広がっている。
その西側の海と陸の境目の上空に、天空のアレース城が雲雲の間に浮かんでいた。
「ラナ、着いたぞ」
「ありがとう」
ラーナ第三王妃はロイザ学園長が運転する【魔法の箒】から、天空のアレース城の大地へ降りる。
「ここまで【魔法の箒】を飛ばせるなんて、流石は “ マギーア ” ね。 ……私も自分で乗れたら良かったけど」
「たったひとつの魔法しか使えない以上仕方ないだろう。 その魔法のお陰で、国王陛下の代わりに自由に動けるだろう」
「そうね。 この分身の魔法があるからこそ、誰にもウィルデ宮の主である第三王妃が不在だとバレずに動けるんだもの……」
「ウィルデ宮には分身が周囲を欺いているのか」
「ええ。 臣下や侍女達の目を騙すのは申し訳ないけど、あの事を周囲に漏らさないためには仕方ないわ」
「ご存知なのは国王陛下はだけか?」
(ラピドゥスとカナリアも説明されるだろうし)
「いえ。第一王妃と第二王妃、それから王子達よ」
カナリアの母、第四王妃は眠りについているから知るすべはない。
「王妃達は除外されたのか?」
「15年前のサラのニゲル宮の出火は……私達王妃が主犯ではないと判断されてるわ。 最初に犯人から除外されたのは第四王妃よ。 彼女も被害者だし、それに……中ノ皇国は魔法未開国で第四王妃に何があっても協力しないでしょうね……」
「……魔力を持った不遇な末の皇女か」
「噂ではそうだけれど、彼女は自分のことを話たがらなかったし、人と交流することもなく、いつも遠くを見つめていたわ。 それに私の思い違いかも知れないけれど魔法使えないんじゃないかしら」
「使えない。 どういうことだ?」
「確信はないわ。 そうじゃないかと思っただけ」
「そうか」
ラーナ第三王妃とロイザ学園長は降り立った、天空のアレース城の端から透き通って底がみえる池がある庭園を歩いて行く。
池の底には巨大な都市が沈んでおり、海蛇と飛び魚を足したような姿をしている “ 水竜 ” の稚魚に似た子竜が泳いでいる。
「水竜ってドラゴンってより、日ノ島国の伝承にある “ 龍神 ” に似た姿なのね」
「ああ。 水竜と龍神は同一だからな。 水竜は基本、海底や水底で過ごしているが、稀に気紛れをおこして “ 空 ” を飛び、その姿を見た人々が “ 龍神 ” と、崇めたとアイリスが言っていたな」
ラーナ第三王妃の言葉にロイザ学園長が頷く。
「アイリスってこれから会う “ カエルム ” のアイリス様……?」
「ああ。 俺が “ マギーア ” の称号を得たときにお会いした」
ロイザ学園長とラーナ第三王妃が歩き続け、天空のアレース城の中心にある、青空色の巨大な城の前にたどり着く。
門番をしている緑色の風の妖精が扉をあけ、ふたりを城の中へ誘う。
ロイザ学園長とラーナ第三王妃は風の妖精の後を着いていく。
「ラナ、話は戻すが第一王妃が除外された理由は……」
「第一王妃はフィリーアゼ王国の第一王女よ。 レリルール王国より大国のフィリーアゼ王国の力を借りれば正攻法でなんとか出来るし、次期国王はフレイムで決まっている。 犯人の目的が次期王位なら彼女には理由がないし、アウローラは王女よ。 この国は女王は認めていない。 王位は継げないわ」
「……王は5人の伴侶をむかえる掟があるからな。 国王なら王妃が世継ぎを生むため、母が誰だが分かるが、女王は……過去に世継ぎの父は誰だと、争いの火種になったからな」
「ええ、それから王女は王位を継げない決まりになった。 だからこそ王女の母であるサラが狙われた理由が分からない」
玉座へ続く扉がある前で、風の妖精はロイザ学園長とラーナ第三王妃に頭をたれ、門番をしていた扉へ戻る。
風の妖精と入れ違いに竜巻がおき、竜巻から美しいボブヘアーに薄布を纏った風の精霊王シルフが現れる。
「我が主、現竜王がお待ちです」
「アモネス、久しぶりだな」
「これはこれは “ マギーア ” ロイザ様。 貴方様が “ マギーア ” になられた時以来ですわね。 ネロはお元気でしょうか?」
「ああ。 ネロは学園にいるからな連れてきていない……」
「……ご子息の護衛ですわね。 ネロも喜んでおられるでしょう。 ネロが主従の契約を執行従っていたのはロイザ様ではなくご子息ですから……」
「…………」
「ネロはまだ生まれていなかったご子息と契約は出来ず、代わりにロイザ様が主従の契約を代行したと」
「…………」
「魔力パワーの均衡を崩し、一国さえ滅ぼす『精霊の消失』による被害を避けるためには致し方ありませんが……」
ラーナ第三王妃はロイザ学園長とアネモスの会話にクエスチョンマークを浮かべて頭を傾げる。
「ロイザ。 『精霊の消失』って、確か “ 召喚士 ” と “ 精霊 ” が使役の契約時に、失敗すると起こる魔力の爆発よね?」
「……ああ、そうだ。 精霊から使役の契約を執行を実行した時に起こりやすい」
「え、それって」
ラーナ第三王妃の中で何かが結び付いて、ロイザ学園長に確認しよう口を開くが、
「おい、アネモス。 いつまでしゃべっておるのか? 早う我の元へ連れてまいれ」
「我が主、只今お連れいたします。 ロイザ様、ラーナ様こちらへ」
少女のような、それでも凛と透き通る淑女のような声が扉の奥から聞こえる。
アネモスが扉を開き、玉座の奥に漆黒のクジラに似た巨大魚の竜が眠りについている。
この漆黒の竜がバハムートだ。 その前に玉座があり、
「ああ、久しいな。 ディアトロとレリルールの末裔か」
紫色の長い髪はツインテールで纏め、胸元があいた魔女の衣装を着てる16歳の少女が玉座にだらしなく横になり、膝宛を枕がわりにしている。
「ようこそ、天空のアレース城へ。 アイリス・ロロン・バハムートは、そなた達を歓迎する」
少女の黄金の瞳と縦長に細い瞳孔が、魅惑的に煌めく。
アイリス・ロロン・バハムートはレリルール王国建国時から “ カエルム ” の称号を得て、1度も代替わりをしていない。
前竜王バハムートと “ 竜使い ” の魔女の間に生まれたドラコニュートの魔女だ。
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