行方不明王女ちゃんと魔法使いくん~一緒に育った義兄妹の恋物語~

此花チリエージョ

文字の大きさ
23 / 28
行方不明王女とレリルール学園

ふたりだけの甘い時間と天空のアレース城

しおりを挟む
 アウラとルシオラは地理の授業が終わったあと、体調が優れないルシオラを休ませる為に中庭の大木の下で休んでいた。
 ルシオラはアウラの膝の上に頭をのせて目を閉じて、アウラはルシオラの頭を優しく撫でる。 降り注ぐ木漏れ日が気持ちいい。

「ルシオラ、具合はどう……?」
「ん。 なんだろう、今はすごく楽だ……」
「本当に?」
「うん、本当。 心配かけてごめんね」

 ルシオラは自分を心配そうに見下ろすアウラを見上げ、アウラのウェーブかかった黒髪に、くるくると戯れるように右手で優しく触れる。

「……こうして、アウラとふたりで過ごしているとヘルバの森にいた頃を思い出すね」
「そうだね。 ここみたいに人が多い場所になれてないから、あの頃が遠い昔みたいで懐かしい」

 アウラとルシオラがレリルール学園に中途編入して8日が過ぎようとしていた。

「…………僕達の空間を周りから閉ざして〈防音の盾サウンドプルーフィング・スクートゥム〉」
「これは防音の結界? どうして?」
(上級レベルの魔法だったと思うけど、いつから防音の魔法を使えるようになっていたの)

 アウラは急にルシオラが魔法を使って驚く。 防音の結界の外部からは見た目はなにも変わらないが、ルシオラとアウラには透明な膜がはっているのが分かる。
 普段ルシオラは魔法薬を制作時以外は、あんまり魔法を使わない。
 理由は分からないが、祖母ルクルが魔法薬制作以外の魔法を禁止した為である。

「んー……、あのさアウラは、もし僕達がヘルバの森以外の場所に帰るようになったら、どう……思う?」
「急にどうしたの? もしかしてラーナ様に耳打ちされたことと関係ある?」

 アウラは占いの教室でラーナ第三王妃が、ルシオラに何かを耳打ちしていたことを思い出す。

「……学園長を頼ったらどうだって言われた」
「えっ」

 アウラはルシオラの言葉に一瞬驚いたが、ラーナ第三王妃がルシオラの両親であるカエルラとロイザ学園長、そしてアウラの実母、第五王妃はレリルール学園の同級生だとラーナ第三王妃が言っていたことを思い出す。
 ラーナ第三王妃がルシオラの父親が誰かを知っていてもおかしくはない。

「私達が、まだ16歳未成年だから……」

 アウラの言葉にルシオラは、こくと縦に頷く。
 レリルール王国の周辺国、東北にある隣国、第一王妃の故郷『フィリーアゼ王国』をはじめ、南東方角にある第二王妃のサバラ王国、そして東北東の方角にある第四王妃の中ノ皇国は18歳から成人をむかえる。 レリルール王国は20歳はたちから成人と認められ、他国に比べたら遅いほうだった。

「私は師匠やルシオラ、カエルラお義母様と暮らしたヘルバの森に帰りたいけど、ルシオラが決めたことならどこへでも一緒に行くよ……」
「アウラ」

 アウラはルシオラの右手をとり、指先に触れるだけの口付けをする。

「ルシオラは? どうしたいの?」
「僕は……」

 ざわざわと周囲のざわめきがアウラとルシオラの耳に聞こえる。
 この防音の結界〈防音の盾サウンドプルーフィング・スクートゥム〉は内側の音は外側に聞こえないが、外側の音は内側に聞こえる。
 アウラとルシオラがいる中庭は、ふたり以外にも生徒が利用していて、会話は聞こえないがアウラとルシオラのラブいちゃは他生徒から注目を集めていた。
 そんな生徒達の中、見覚えがある生徒がアウラ達のほうへ歩いてくる。

「こほん。 ……あの、いちゃつくなら、もう少し人目に触れない場所にしたらどうかしら」

 魔法薬の授業で出会ったレーナだった。 遠くに顔を真っ赤にしているアルムもいる。

「「どうして?」」

 〈防音の盾サウンドプルーフィング・スクートゥム〉が解除された後、アウラとルシオラのハモりにレーナだけではなく、周囲の生徒達もどうしたらいいのか言葉をなくす。
 アウラとルシオラはヘルバの森で過ごしていた頃と同じようにしているだけで、どうして生徒達が困惑しているのか分からなかった。



 ーーーー



 レリルール王国は北西から北、東、南南東まで大陸が広がっており、その反対側、北西から西、南、南南東まで広大な海が広がっている。
 その西側の海と陸の境目の上空に、天空のアレース城が雲雲の間に浮かんでいた。

「ラナ、着いたぞ」
「ありがとう」

 ラーナ第三王妃はロイザ学園長が運転する【魔法の箒】から、天空のアレース城の大地へ降りる。

「ここまで【魔法の箒】を飛ばせるなんて、流石は “ マギーア ” ね。 ……私も自分で乗れたら良かったけど」
「たったひとつの魔法しか使えない以上仕方ないだろう。 その魔法のお陰で、国王陛下の代わりに自由に動けるだろう」
「そうね。 この分身の魔法があるからこそ、誰にもウィルデ宮の主である第三王妃が不在だとバレずに動けるんだもの……」
「ウィルデ宮には分身アバターが周囲を欺いているのか」
「ええ。 臣下や侍女達の目を騙すのは申し訳ないけど、あの事を周囲に漏らさないためには仕方ないわ」
「ご存知なのは国王陛下はだけか?」
(ラピドゥスとカナリアも説明されるだろうし)
「いえ。第一王妃と第二王妃、それから王子達よ」

 カナリアの母、第四王妃は眠りについているから知るすべはない。

「王妃達は除外されたのか?」
「15年前のサラのニゲル宮の出火は……私達王妃が主犯ではないと判断されてるわ。 最初に犯人から除外されたのは第四王妃よ。 彼女も被害者だし、それに……中ノ皇国は魔法未開国で第四王妃に何があっても協力しないでしょうね……」
「……魔力を持った不遇な末の皇女か」
「噂ではそうだけれど、彼女は自分のことを話たがらなかったし、人と交流することもなく、いつも遠くを見つめていたわ。 それに私の思い違いかも知れないけれど魔法使えないんじゃないかしら」
「使えない。 どういうことだ?」
「確信はないわ。 そうじゃないかと思っただけ」
「そうか」

 ラーナ第三王妃とロイザ学園長は降り立った、天空のアレース城の端から透き通って底がみえる池がある庭園を歩いて行く。
 池の底には巨大な都市が沈んでおり、海蛇と飛び魚を足したような姿をしている “ 水竜 ” の稚魚に似た子竜が泳いでいる。

「水竜ってドラゴンってより、日ノ島国の伝承にある “ 龍神 ” に似た姿なのね」
「ああ。 水竜と龍神は同一だからな。 水竜は基本、海底や水底で過ごしているが、稀に気紛れをおこして “ 空 ” を飛び、その姿を見た人々が “ 龍神 ” と、崇めたとアイリスが言っていたな」

 ラーナ第三王妃の言葉にロイザ学園長が頷く。

「アイリスってこれから会う “ カエルム ” のアイリス様……?」
「ああ。 俺が “ マギーア ” の称号を得たときにお会いした」

 ロイザ学園長とラーナ第三王妃が歩き続け、天空のアレース城の中心にある、青空色の巨大な城の前にたどり着く。
 門番をしている緑色の風の妖精が扉をあけ、ふたりを城の中へ誘う。 
 ロイザ学園長とラーナ第三王妃は風の妖精の後を着いていく。

「ラナ、話は戻すが第一王妃が除外された理由は……」
「第一王妃はフィリーアゼ王国の第一王女よ。 レリルール王国より大国のフィリーアゼ王国の力を借りれば正攻法でなんとか出来るし、次期国王はフレイムで決まっている。 犯人の目的が次期王位なら彼女には理由がないし、アウローラは王女よ。 この国は女王は認めていない。 王位は継げないわ」
「……王は5人の伴侶をむかえる掟があるからな。 国王なら王妃が世継ぎを生むため、母が誰だが分かるが、女王は……過去に世継ぎの父は誰だと、争いの火種になったからな」
「ええ、それから王女は王位を継げない決まりになった。 だからこそ王女の母であるサラが狙われた理由が分からない」

 玉座へ続く扉がある前で、風の妖精はロイザ学園長とラーナ第三王妃に頭をたれ、門番をしていた扉へ戻る。
 風の妖精と入れ違いに竜巻がおき、竜巻から美しいボブヘアーに薄布を纏った風の精霊王シルフが現れる。

「我が主、がお待ちです」
「アモネス、久しぶりだな」
「これはこれは “ マギーア ” ロイザ様。 貴方様が “ マギーア ” になられた時以来ですわね。 ネロはお元気でしょうか?」
「ああ。 ネロは学園にいるからな連れてきていない……」
「……ご子息の護衛ですわね。 ネロも喜んでおられるでしょう。 ネロが主従の契約を執行したがっていたのはロイザ様ではなくご子息ですから……」
「…………」
「ネロはまだ生まれていなかったご子息と契約は出来ず、代わりにロイザ様がしたと」
「…………」
魔力マナパワーの均衡を崩し、一国さえ滅ぼす『精霊の消失スピーリトゥス・ディスアピアランス』による被害を避けるためには致し方ありませんが……」

 ラーナ第三王妃はロイザ学園長とアネモスの会話にクエスチョンマークを浮かべて頭を傾げる。

「ロイザ。 『精霊の消失スピーリトゥス・ディスアピアランス』って、確か “ 召喚士 ” と “ 精霊 ” が使役の契約時に、失敗すると起こる魔力マナの爆発よね?」
「……ああ、そうだ。 精霊使役の契約を執行を実行した時に起こりやすい」
「え、それって」

 ラーナ第三王妃の中で何かが結び付いて、ロイザ学園長に確認しよう口を開くが、

「おい、アネモス。 いつまでしゃべっておるのか? はよう我の元へ連れてまいれ」
「我が主、只今お連れいたします。 ロイザ様、ラーナ様こちらへ」

 少女のような、それでも凛と透き通る淑女のような声が扉の奥から聞こえる。
 アネモスが扉を開き、玉座の奥に漆黒のクジラに似た巨大魚の竜が眠りについている。
  この漆黒の竜がバハムートだ。 その前に玉座があり、

「ああ、久しいな。 ディアトロとレリルールのか」

 紫色の長い髪はツインテールで纏め、胸元があいた魔女の衣装を着てる16歳の少女が玉座にだらしなく横になり、膝宛を枕がわりにしている。

「ようこそ、天空のアレース城我が城へ。 アイリス・ロロン・バハムートは、そなた達を歓迎する」

 少女の黄金の瞳と縦長に細い瞳孔が、魅惑的に煌めく。
 アイリス・ロロン・バハムートはレリルール王国建国時から “ カエルム ” の称号を得て、1度も代替わりをしていない。
 バハムートと “ 竜使い ” の魔女の間に生まれたドラコニュートの魔女だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された聖女ですが辺境領主と幸せになります。禁術で自滅した偽聖女と王太子の完治?無理ですね。

ささい
恋愛
十年間、奇跡を起こせなかった聖女エミリシアは、王太子に追放された。 辺境の村ミューレンベルクで静かに暮らし始めた彼女は、領主レオフィリスの優しさに触れ、心の平穏を取り戻していく。 ある日、村で疫病が発生。子供たちの命を救いたい一心で祈った時、ついに聖女の力が目覚めた。 その後、王都から助けを求める使者が現れる。 追放した王太子とその婚約者候補リディエッタが、禁術の反動で倒れたという。 エミリシアは命を救うため王都へ向かうが、二人の完治は不可能だった。 全てを終え、彼女はレオフィリスと共に愛する村へ帰る。 ◇ 命を見捨てなかった。浄化はした。治癒は。 ◇ ※他サイトにも投稿しております。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...