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第一章 木嶋真奈の日記より抜粋①

第十一話 ダイエットしないと木登りできないんだよ……

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「遅い……!」
「すんません! 俺、総合教育棟にいたんで……」
「あっ、ドア閉めて。そのドア防音になってるから」
「あ、うす」
「あと、そこ昨日先輩がカエル射抜いた針そのまんまになってるから気をつけて」
「うおっ」
「今はもうカエルいないから大丈夫だよ……。君、この後授業は?」
「ないっす。木曜は二限だけなんで」
「じゃあ、これ以上何かあってもめんどうだから、これから学校にいる時は基本この部屋にいて。私講義終わったらすぐ来るから。それまでトイレと講義以外は外出ないようにして」
「分かっ、りました……」
 
 本当に理解したのか怪しい返事だな……。
 所変わって、私達は手芸サークル室にいる。
 何が起こるか分からない今、唯一安全なのはこの部屋だけだと言っても過言ではない。私なら人が近づけばすぐ察知できるし、常にチェックしているので盗聴器などが仕掛けられている心配もない。
 昼休みに通話で話を聞いたのだけれど、帰国子女か留学生かなにかなのではないかと思うほど悠斗の日本語があまりに下手すぎて、全く意味が分からなかった。
 ということで、詳しい状況を把握するために、私の三限が終わり次第、わざわざ食堂からも講義棟からも離れた、この部屋に集まったというわけだ。
 
「んで、今日何が起きたわけ?」
「あの……! 二限に、笑われて! それで、見たら、俺ので! それで、そしたら、みんな持ってて……!」
「おーけー、何も分からない」
 
 いくら附属校からのエスカレーターとは言え、本当にこんなバカがうちに入れていいのだろうか。日本語すらロクに扱えない奴が文学部だぞ……。
 なんとか悠斗の要領の得ない話をまとめると、次のような事らしい。
 
 一、一限のなかった悠人は暇してて講義室で寝ていた。
 二、二限で教養の英語の講義を遊びながら受けていた。
 三、講義中、妙に女の子とのやり取りでからかわれるので問い詰めると、悠斗の好きな子とのラインが流出していた。
 四、二限終わり次第すぐに調べると、文学部のほとんどの生徒がラインのスクショ(スクリーンショット)を持っていた。
 五、慌てた悠斗はとりあえず私に連絡をし、今に至る。
 
「なるほどね……。スマホを取られたことに覚えは?」
「うーん……。それこそ昨日言った、スマホ紛失事件、とかですかね?」
「じゃあ、そこらへんのこと詳しく聞こうか?」
「うす」
「あっ、君興奮して喋るとまじで何言ってるか分からないから、落ち着いて喋って。私が質問することに答えるだけでいいから」
「了解っす!」
 
 悠斗は笑顔でサムズアップして元気そうだ。
 自分が被害者だとちゃんと分かっているのだろうか……。
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