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第4章 魔道スキルと研磨スキル

17話 欠損の治療

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 ヒロトシは一抹の不安もあったが、今は魔王の事は考えずノーザンの怪我を治す事に、アクセサリーの研磨に集中した。

「これが上手く行ってくれると、㋪美研の売り上げが更に上がるかな」

「旦那!ちょっといいですかい?」

「おお!どうしたんだ?」

 研磨工場に、ノーザンがマリアに連れられやってきたのだ。

「旦那……俺はいつまでここで何もせずいたらいいんだ?もう何もせず4日目だ……」

「悪いな……もうちょっと我慢してくれないか?」

「もうこの怪我は治らないから、奴隷商に売ってくれたら。俺も諦めがつく。だから、そうしてもらっても……」

 ヒロトシは、マリアの方を見るとマリアは首を横に振っていた。マリアもノーザンのお世話をしているとき、ヒロトシの事を信じてもうちょっと待っていてほしいと言っていたのだが、ノーザンは奴隷の立場で何もできず食事はマリア達に食べさせてもらったり、トイレなんかも付き添って貰わないと満足にできないこの状況が耐えられなくなっていたのだ。

「まあ、俺を信じてもうちょっと待ってくれないか?上手く行くと思うからさ」

「だが、このままずっとマリアさん達にお世話してもらうんじゃ申し訳ねえ」
「そんな!わたしはちっとも構いませんわ」
「しかし、俺の世話で24時間誰かがついてくれているのだぞ?マリアさん達には申し訳ねえし、それにどう考えても旦那の役には立てねえ……俺はそれが辛くて……」

「じゃあ、あと二日我慢してくれないか?あと二日でこれを完成させてみせる。」

「二日たって完成しなかったら、俺を廃棄してくれるのか?」

「そうならないように頑張るよ。しかし、成功したらその時は今までの分を頑張ってもらうからな」

「ああ……」

 ヒロトシがそう言うと、ノーザンはマリアに引き連れられて、自室に大人しく戻った。



 そして、二日後ヒロトシのアクセサリーは完成した。エメラルドは真珠の様に丸く成形され、つるつるに磨かれていた。魔宝石は原石でも小さく形を整えるとさらに小さくなり、エメラルドの直径は3mmほどのイヤリングが完成していた。
 そして、イヤリングの土台は、ミドリ渾身の作でオリハルコンを使用した物である。この魔宝石にヒロトシは魔法付与として、リジェネレートを付与をして研磨を施したのだ。

「完成だ!」
「ご主人様凄いです!マジカルアイテムを自作できるなんて、世の中がまた驚く事になりますよ!」

 ヒロトシの側で、ミドリが歓喜に震えていた。

「まあ、5か月限定のマジックアイテムだけどな」

「それでもすごいですよ!」

「それじゃあノーザンの所に行ってくるよ。お前も一緒に来るか?」

「はい!」

 そして、ヒロトシはミドリと一緒に、ノーザンがいる部屋に入った。

「ノーザンいるか?」

「旦那、やっぱりだめだったか?」

 部屋には、ノーザンが暗く沈んでルビー達数人がいた。

「なんだ?マリヤやマミヤもいたのか?」

 ノーザンの精神はもう限界に近付いていたようで、みんなで励ましていたようだ。サイファーも駆けつけていて、ヒロトシのとこに来たときは、10歳だったのに今はもう成人を果たし立派な女性となっていた。

「「「「「ご主人様。どうでしたか?」」」」」

「何をお前達まで心配しているんだよ。成功したに決まっているだろ?」

「「「「「ノーザンさん!聞きましたか?」」」」」
「私達の言った通りだったでしょ?ご主人様は失敗などしないって!」

「だ、旦那!本当にこの目と手は治るのか?」

「ああ!大丈夫だ!」

「そんな技術が、この㋪にはあると言うのか……」

「とりあえず、このイヤリングをつけてみろ」

 ヒロトシは、マリアにそのイヤリングをを手渡して、ノーザンに着けるように言った。マリアはそのイヤリングをノーザンに装備させると、じわじわと手首の先から指が生えてきたのだ。
 そして、潰された目は徐々に元の形に成形されてきた。ヒロトシ達はその様子を見て、何とも言えない気持ちになっていた。

 その再生される姿は、高ランクの魔物しか持っていない能力であり、代表とされるのはトロールである。つまり、ドワーフがその能力を持っていることになり、見慣れないその光景にビックリしていた。

「なんかすごい光景ですね……」

「ああ……見慣れないからな」

 そして、1時間ほどかかってノーザンの姿は元に戻った。

「だ、旦那!み、見える!それに俺の両手が!旦那!本当にこの恩は生涯忘れねえ!本当にありがとう!」

 ノーザンは興奮していたが、目には涙を溜めて何度もヒロトシに頭をさげていた。そして、マミヤ達にも今までお世話をしてくれた事へのお礼をしていたのだった。

「それにしても、このマジックアイテムは凄いものだな」
「本当にご主人様には不可能という文字がありませんね」
「でも、ご主人様これは言ったどういう魔法なんですか?」

 ミドリが、魔法付与の事を聞いてきた。実際、魔法付与も魔道スキルも3レベルであって、四肢欠損を治すにはスキル不足であり、普通ならこんなマジックアイテムが作りだせなかったのだ。

「ミドリ、お前にはイヤリングの留め具の部分を、オリハルコンで製作してもらっただろ?」

「はい……ですが、それとどういう関係が?」

「つまりだな。そのマジックアイテムは、期間限定で+5アイテムになっているんだよ」

 ヒロトシの説明では、魔宝石にリジェネレートを付与することで、1時間だがHPが少しづつ回復するマジックアイテムにすることができるのだ。
 しかし、それだけでは魔道スキルは3レベルの為、HPが満タンになればそれ以上の効果は発動しないので、オリハルコンを研磨することで+5アイテムにしたのである。そうすることで、リジェネレートは5レベル魔法となり、欠損が治ったと説明した。

「って事は、5か月限定でこのマジックアイテムになったと言う事ですか?」

「ちょっと違うな。欠損を治す効果は1ヶ月だと思う」

「えっ?」

「1ヶ月過ぎればこのアイテムは+4になるだろ?と言う事は、欠損を治す事はまず無理だ。しかし、4レベルのリジェネレートの回復量は持続するかと思うけどな」

「それでもすごいですよ!」

「そして、5ヶ月後には只の魔宝石の付いたイヤリングになる」

「でも、もう一度ご主人様が魔法付与をして磨けば、欠損を治すマジックアイテムにできるのですよね?」

「まあ、そういうことだな」

「「「「「す、すごい……」」」」」

 ヒロトシの説明に、ノーザンを始め、全員が息をのむほどビックリして言葉を失っていた。

「まあ、これで㋪美研の新しい商売が増えた事になるよ」

 その日の晩御飯では、ノーザンが無事治った事をみんなに報せた。するとその日の晩はお祝いということになり、夜遅くまで食堂は賑わった。

「なあ、ノーザン。これからお前はどうする?」

「どうするってどういう事だ?これからは一生をかけて、旦那にお返しをしていくつもりだ」

「それはありがたいんだけどな?」

「何が言いたいんだ?」

「ノーザンは店を乗っ取られて、冤罪で奴隷に落とされたじゃないか」

「そりゃ仕返しはしたいが、もうどうにもならねぇ。悔しいけどな……」

「いや、このままここで得意な鍛冶や道具作りをしてくれたら、いずれ、あいつ等は潰れてくれるよ。それは保証してやるよ」

「はあ?それは本当か?」

「間違いなくな!それにノーザン、お前乗っ取られた人間に、本当のレシピを教えていないだろ?」

 ヒロトシの言葉に、ノーザンはびっくりした。刀のレシピは自分の宝であって、そう簡単に他人に教えるものないからだ。

 つまり、レートンに教えていたものはまがい物であり、タルデュースに納品していたのは、開発を始めたばかりの時に作った第1号である試作品だった。
 その初期モデルを改良に改良を重ねてできたものが、ノーザンが登録しようとした完成品だった。

「な、何故それを……」

「俺も、商人であり職人だからな。そう簡単に自分の飯の種を他人に教えないからね」

 ノーザンは、ヒロトシに刀のレシピを教えろと言われれば、教えないといけない立場であるので観念した。

「分かりました……刀のレシピは旦那の物です」

「いや、教えなくてもいいよ。それはお前が必死に見つけた物だからな。そうじゃなくて、ノーザンはそれを使って俺の役に立ってくれればいいよ」

「本当にいいのか?」

「ああ!構わないよ。ノーザンが俺を信頼できるまで俺はそのレシピを無理に聞き出そうとは思わないよ。それに聞きだしたところで、俺は鍛冶師じゃないから作れないしな」

 ノーザンは、ヒロトシの行動が理解できなかった。普通なら奴隷の物は主人の物となり、刀のレシピも本当なら取り上げられてもおかしくないのである。
 ノーザンはこのレシピを使って、ヒロトシに恩返しをしようと思っていたが、奴隷に落とされたときは、レシピは本当の事は言わず墓場まで持っていくつもりだった。

「旦那はそれでいいのか?普通は奴隷の物は主人の物にできるんだぞ?」

「何だ?取ってほしいのなら遠慮なくもらうけど、本当にいいのか?」

「い、いや……できれば取らないでほしいとは思っているが……」

「だろうな。そんな無理やり奪った所でノーザンのやる気がなくなるだけでデメリットの方が大きいからな。ノーザンが俺に教えてもいいと思ったら言ってくれたらいいよ」

 ノーザンは、ヒロトシの心遣いに感謝をした。

「それでだな。話を戻すけど、ノーザンは冤罪で犯罪奴隷になってしまった。俺に縛られながら生活するのは苦痛だと思うんだよ」

「俺はもう旦那の奴隷だ。これ以上我儘は言わねえよ」

「だが、お前は今まで個人で黙々と作品を作るような職人だろ?鍛冶工房はここにもあるが、レシピを他の者に見られるのはやり辛くないか?」

「それはそうだが……贅沢は言えんだろ?」

「それで提案なんだがこういうのはどうだ?」

「提案?」

「シュガー村に、ノーザン鍛冶工房を建てるのはどうだ?」

「はっ?俺は旦那と離れて生活するのか?」

「ノーザンは冤罪で奴隷に落ちたんだ。自由に生活したくないか?」

「そりゃ今までのような生活をしてみたいさ。しかし、俺は犯罪奴隷だぞ?そんな事が出来る訳……」

 ヒロトシは、ノーザンに説明を続けた。ノーザンの性格からして、自由に自分のペースで仕事をした方がいい製品を作れるんじゃないのかと思った。そのため、ノーザンをシュガー村で今まで通りの生活を提案したのだ。

 シュガー村では、ヒロトシが信頼している人間ばかりなので、自給自足をしている村なので安心してもらっていいのだ。

「その代わり、ノーザンには1ヶ月に一回自信作を納品してもらう事でどうだ?」

「そりゃ、俺にとってありがたい事だがそれで本当にいいのか?」

「ああ!構わないよ。ノーザンが作った刀に対して報酬を払おうじゃないか。材料は俺が揃えるし、ノーザンはその材料で刀を作ってくれたらいい」

「報酬だと?俺は犯罪奴隷だぞ?」

「いや、ノーザンは俺の家族の一人だよ。まあ報酬は安くなるけどな。その報酬でシュガー村で生活は充分できるだろうしな」

「だが、報酬などもらえねえよ……俺は旦那のおかげで元通りになったんだ。これからはその恩に報いたいんだ」

「そうか……いい案だと思ったんだけどなあ。じゃあこういうのはどうだ?」

「旦那……なぜそこまで俺の為にやってくれるんだ?」

「俺はノーザンが働きやすい方法を提案しているだけだよ。ノーザンは結構頑固な職人だろ?だったら㋪の工房で働くより、一人で黙々と仕事に精を出してほしいんだよな」

「……わかった。俺もそっちの方が旦那に恩返しがしやすい」

「でだ、シュガー村には護衛メンバーと、そこで屋敷の管理している人間がいるからそこで生活するのはどうだ?」

 シュガー村にはカエデたちを警護する為に、ミルデンス達が交代で出張している。その屋敷があるので、そこで生活する形をとり、昼間はノーザン個人の鍛冶工房で、刀の製作をする事になる。
 当然そうなれば、生活はその屋敷ですることになり給料は無くなり、生活の心配は一切なくなるのだ。

「三日に一回は、俺もシュガー村に行くので、奴隷としての立場は変わらないし、気になる事はないだろうしな」

「旦那、ありがとな……俺は幸せ者だよ。奴隷に落ちたときは人生に絶望したが、これなら今までと変わらない生活が出来るし、旦那に恩返しもできる」

「そうか。ならそれでがんばってくれ」

「わかった。旦那が満足するような武器を作らせてもらうよ」

「ああ。よろしく頼むな」

 ヒロトシは、まず大工の棟梁に、シュガー村に鍛冶工房を建てさせた。その間はノーザンにも、使い易い道具や設備を選んでもらう事にした。
 炉はヒロトシが製作した魔晄炉を設置することになり。ミスリルでも余裕に加工できる設備に、ノーザンは驚いていた。




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