平成寄宿舎ものがたり

藤沢 南

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諸岡百合子と関麗華2

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「英語部の皆さん、諸岡さん。私を熱心に勧誘してくれてありがとうございます。ですが、私は、今は英語より、日本語をしっかり話せるようになりたいのです。ですので、申し訳ありませんが。」

  一同は、自分から英語部に出向いてまで断りの挨拶をした関麗華に驚いていたが、諸岡百合子は、残念そうな顔をしながらも、吹っ切れたようないい笑顔を見せた。
「いいよ。よくわかった。ごめんね。しつこく追い回して。もう2度と英語部への勧誘はしないから、…代わりに私と友達になってくれないかな。お願い。」
英語部内でお高くとまっているように見られている諸岡百合子が、関麗華の前で深々と頭を下げて、右手を差し出した。これには、英語部全員が驚いた。
『へーえ。あのプライド高い諸岡が自尊心を捨ててまで付き合いたい女の子がいるんだ。』
『諸岡さんが自分から友達になりたいなんて頼むなんて…初めて見たわ。』
『1年2組の関麗華さんか。料理研究会みたいね。覚えておこう。優秀だけど扱いにくい諸岡のコントロールに使えるかも。』
『面白い子ね。あんなに英語が使えるのに、日本語を勉強したいなんて。これからは日本語より英語の時代なのに。』

その後、笑顔で関麗華は諸岡百合子と握手した。
英語部と料理研究会・合唱部の活動がない日には、同じ1年2組という事もあって、2人はいろいろな事を誰もいない放課後の1年2組で語り合った。優秀すぎて英語部でもクラスでも浮きがちな諸岡百合子は、やっと自分をさらけ出せる相手が出来て、活き活きとしている。また関麗華も、台湾で暮らした日々を諸岡百合子に語った。

「私、お父さんが日本人でお母さんが台湾人なんだ。私の名前は、日本でも台湾でも通用するようにって、両親が付けてくれたの。台湾では英語も現地の言葉も同じくらい喋ったし勉強した。お父さんが日本に転勤になったから、私達家族みんなで、憧れの日本にくる事になったの。だから日本語を勉強して、出来るだけ綺麗な発音で喋りたい。だから、寄宿舎に入ったのよ。家では英語か台湾の言葉を使っちゃうから。」
「そうか…。」
諸岡は関麗華の言葉をかみしめていた。
『私、いいタイミングでこの子に出会えた。留学前に知り合っていたとしても、私、この子の事を十分に理解できなかったと思う。カナダから帰ってきた今だからこそ、十分に麗華のことを理解してあげられると思う。』
しかし、寄宿舎にもなかなか素敵な女の子がいるものだなぁ。私の考える一女の在り方としては外れるけど、現状の寄宿舎制度の枠内でも、麗華のような子は入学してくれるんだな。
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