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第四章:全国との戦い

第71話:デザイン

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「ほぉ、威勢がいいな。てっきり白旗上げるかと思ったが」

「………なんでだ? トン2局の親っかぶり程度でイチイチビビるんなら、俺は今頃生きちゃいねぇよ」

 先ほど親満を和了アガったとはいえ、まるで麻雀漫画のような役満親っかぶりを食らったのだ。龍子の持つ抜き身の真剣のような不気味さもあり、初心者ビギナーなら本当に土下座で謝っていたかも知れない。
 しかし、である───

(麻雀で負けるなんてまっぴらごめんだ。50万とか金額の問題じゃねえんだよ先生)

 そんな和弥の本心など、龍子はとっくに見抜いていた。

(何事もなかったかのようにほざくとこも、新一さんそっくりときたか)

 間違いなく綾乃や麗美と同格か、あるいはそれ以上の雀力。
 にも関わらず和弥は内心、龍子との対局に喜びを感じている。
 それは猛暑の中で冷たい炭酸水を飲む寸前のような、『紅帝楼』で初めて本当の賭け麻雀を打った時のような。「楽しい」しかない予感。

「さ、行こうぜ。東3局だ」

(………笑ってる………竜ヶ崎くん……)

 薄ら笑いを浮かべる和弥を見て、驚く小百合。
 それは龍子も同じだった。が、この瞬間やはり和弥を入部させた自分の判断が正しかった事を悟る。
 そして下家シモチャの老人の親で始まる東3局。ドラは三萬。

(やれやれ………。配牌が完全に死んでるのぉ)

 手牌を起こした途端、昭三は乾いた笑いを浮かべる。対子が2組ある以外ほぼ十三不塔シーサンプトーの、見事にバラバラの酷い配牌だ。

(仕方ないの。龍子ちゃんと新一のガキとの勝負には茶々入れないで、ここは観客に徹しておくか)

 老人は頬をポリポリをかきながら、字牌から捨てていく。
 一方、龍子の最初の捨て牌は四萬だった。

(───ほんの一瞬、笑いやがった)

 演技をするような女には思えない。和弥はまた龍子に好配牌が入ったのを悟る。

「チ、チーっ!」

 第一打から龍子の四萬を鳴く小百合。

(委員長が動いたか………。これでツモがどうなるかだな)

 半分見物とはいえ、小百合にもU-16総合チャンピンの意地があった。
 賭けには参加してない小百合だが、例えここは場を乱すことになろうと、ガムシャラに和了アガりにいく必要がある。4巡目から3巡、小百合はツモ切りだった。

(委員長も早い手が入ってるようだな。いや、張ったか。一番いいのは、委員長が安手で局を進めてくれる事だが)

 8巡目。

(ふん………。悪いが西浦を飛ばして、終わりにさせてもらうぞ竜ヶ崎)
 

 龍子は純チャン・三色のイーシャンテンである。

「………」

 出来メンツから四筒を引き抜き、捨てる和弥。

「ロン! 2,000っ!!」

 和弥が小百合にあえて差し込んだのは、龍子にはハッキリ分かった。

「差し込みまでして私の和了りを回避か。いいのか? ますますキミの点棒が減ったぞ?」

「あンたにまたデカい手を和了られたら、もう勝負が決まっちまうだろ。それに………」

 小百合に2,000点を渡しながら、和弥はチラリと小百合を見る。

「な、なによ?」

「いいとこ2,600ニンロクなのは分かってたしな、委員長のその手」

 麻雀は全体をデザインしていくゲーム───秀夫の教えを、忠実に守る和弥だった。
 一方、和弥に見つめられたことで少々勘違いをしてしまった小百合である。
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