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最終章

エピローグ1

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 いつの間にか咲いていた彼岸花が、いつの間にか散った頃。

 まだ十一月中旬ですが、気温が下がり夜は冬のように寒くなります。木々の葉は紅葉を迎え、京都の山々は美しく彩られました。先月の大雨は少ししか影響がなかったようです。

 朝露の重みで頭を下げたススキ達とすれ違うように、私達は歩きます。

 寒がりの水口先輩は手袋をして登校していました。その前方で、竹内くんが後ろ歩きしながら水口先輩に話しかけました。

「手袋するほどですか? 少しは我慢して、寒さに慣れたら?」

 水口先輩は断ります。

「快適に過ごせる日数を増やして何が悪いの?」
「べつに良いけど、真冬は耐えられないんじゃないですか?」
「毎年耐えられないよ。心を無にして乗り越えてる」
「その内、凍死しそうですね」
「かもね」
「こがねが泣いちゃいますよ」

 ふたりは、水口先輩の横を歩く私に目を向けました。

 数日前から、朝はこうして三人で登校しています。

「あったかい料理作ってあげますから、頑張ってください」

 新しい日常、ではありません。

 これが当たり前だったのです。

 やっと戻って来た。

「あったかい料理、か。鍋食べたい!」
「私の家で鍋パーティーやろうよ」
「良いですね」
「俺のお爺ちゃん、農家だから、頼んだら野菜送ってくれますよ」

 わいわいと賑やかにバス停へ向かいます。

「ねえ、こがね」

 と、水口先輩。

「クリスマスは女子会しようよ」
「良いですね。デートしましょう」
「あはは。映画村とか行っちゃう?」
「冬休みに合わせてイベントやるそうですね。みーちゃんといっぱい遊びたいな」

 変わっていく日々の中で、変わらないもの、変わったけど残り続けるものがあるのだと、深く実感しました。

 ふと、竹内くんが足を止めます。

「なあ、夏のあの事だけど……」

 彼が何を言おうとしているのか分かりました。

「やめて。空気の読めない人だなあ」
「何だとっ……」

 私は素早く遮りました。話し合うにしても、水口先輩の前で、それはないでしょう。

「私、何も不幸じゃない。それに気付いて満足した」
「え? お、おう、そうか」
「でも謝らないよ。悪い事したけど、謝らない」

 私はそういう自分の性格の悪さも受け入れる事にしました。

 清々しく笑う私を見て、竹内くんと水口先輩は顔を合わせました。

「こがね、変わりましたね。良い方向に」
「うん」
「前はもっと、無理して良い子になろうとしてた」
「家で何かあったのかな」

 立ち止まるふたりを置いて、私は歩き出しました。

「ちょっと! 早く歩かないとバスが来ちゃいますよ」

 大きくふたりを手招きする私の手首には、三人でお揃いのブレスレットが輝いていました。
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