367 / 368
最終章
エピローグ2
しおりを挟む「めでたしめでたし、かしら?」
学校での昼休み。既にご飯を食べ終わった私と赤松さんは、近況報告で盛り上がっていました。
「お互い、色々解決したみたいだね。赤松さんは家族の人達に、作家になりたいって伝えたんでしょ?」
「ええ、意を決してね」
「どうだった?」
「困った顔をされるかと思ったら……喜んでくれたわ」
赤松さんはデザートとして買った板チョコを一口齧りました。
「姉が死んで、両親も余裕を失くしていたのだわ。悲しみだけではなく、現実的に、将来を……店をどうするか、柔軟な考えが出来なかった」
そしてつい赤松さんひとりに押し付けてしまったのです。しかし赤松さんは両親を責めませんでした。
「話し合うって凄く大事な事なのね。私の気持ちを伝えたら、親に気を遣わなくて良いんだよ、お前の子供らしいところが見れて嬉しいって、笑ってくれた」
「そっか。赤松さんが大人っぽいって思っていたの、私だけじゃなかったんだね」
「お子様でいられない環境だった、というだけよ。だけど、これからは夢をふたつ追うという若者らしい無謀な挑戦もしてみる」
「出来るよ、赤松さんなら。叶わなくても良い経験になって何か学べると思う」
「そうだと良いわ。人生って楽しいわね」
爽やかな風が吹き、空も微笑んでくれたような気がしました。
「それで? あなたの方は?」
赤松さんが聞いて来ました。私は既に近況報告を終えています。
「もう話したじゃん。ロケットを見つけた事、母が錯乱した事、叔父が全て認めた事、付喪神が大集合した事、私の自由が保証された事」
赤松さんには包み隠さず全て話したのです。
「ひとつ、忘れているわ。話したくないのだったら、ごめんなさい。あなたの本当のお父さんの居場所は? 教えてもらったのでしょ」
ああ、その事ですか。
私は地面に視線を落としました。
「手紙を書いて、送った。それだけ」
「直接会わないの?」
「うん。決めたの。自分からは会いに行かない。向こうが会いたかったら来ても良いけど。まあ、鴫野宮の家には近付きたくもないんじゃないかな」
「何故……会いに行かないの?」
「冷静に考えて、やっぱ今更一緒に暮らすなんて無理だよ。10年も経っているんだよ? その間に、きっと色々あったと思う。他に好きな人が出来たり、集中して頑張りたい仕事が出来たり。せっかく新しい生活を始めたのに、縁を切ったはずの人間が突然現れたら迷惑だよ」
他にも理由はあります。私は続けました。
「それに、いくら親子でも、いきなりよく知らないオジサンと同居ってのは難しいかな……って考えた。血が繋がっていても、こっちは16歳の女の子で、向こうは40歳以上の中年男性。お互い、心を開くのは簡単じゃない。共同生活は気まずい。だからさ、このまま会わないままの方が良いかな、って」
「一緒に暮らさず、会うぐらい良いじゃない」
「ううん。駄目。余計な悩みが増えちゃう。お父さんが真面目な人なら、どうして自分が守ってやれないのだろう、とか。私も、どうして本当のお父さんと別々に住んでいるんだろう、とか。人間だから、大事な事はつい悩んじゃうよ」
「……そういう生き物だから仕方ないわ。開き直って、思い切り悩めば良いのに。けれど、あなたの決心は揺らがないのね」
「そう。付喪神達と離れるのは寂しいし」
結局、決め手はそれでした。
「私は付喪神が好きだし、彼らに愛されたいから、大事にされるほど良い人間になりたい。今は、それが私の夢」
「大切な夢ね。実行してちょうだい」
「赤松さんも夢を追っていたら、また筆丸に会えるかもよ?」
「会えても会えなくても、いいの。側にいるのは分かっているから」
私達の周りには、目で見えなくても、大切なものがあふれているのです。
聞こえなくても、囁いているのです。
誰かの幸せを願う気持ち。溢れるほどの尊い感情。
この秋の高い空の果てまで、そういう想いが積み重なっているのかと感じました。
どこまでも、どこまでも青い、澄み切った空でした。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ニンジャマスター・ダイヤ
竹井ゴールド
キャラ文芸
沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。
大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。
沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる