戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

第178話 剣術大会㉕

「ああ！てめぇ、今なんて言いやがった！表に出やがれ！！」

一際大きな声が響いたのは、ルーク達が遅めの朝食を食べ終わり、温かい飲み物を頂いている頃であった。

少し宿から離れ、日中は飲食店、夜は酒場のお店に入ったのが良くなかった。

というのも宿にある食堂が昼間は営業しておらず、「夜の客層は悪いが食事は一級品」と店主に薦められてやってきた。

中に入ると、真っ暗な時にはとても入れないという雰囲気をかもし出していたが空腹感が強く、引き返すことはしなかった。

食事自体は宿屋の店主の言葉に偽り無く、なかなかの味であった。

しかし、昨夜からずっと飲んでいたであろうガラの悪い輩がつい先程やってきて食事をしていた『剣術大会』参加者であろう一人の剣士にちょっかいをかけ始めてから空気が最悪になった。

剣士はちょっかいを意にもかけず黙々と食事をしていたのだが、なにか逆鱗に触れる言葉を言ったのだろう、一転して反論し始め冒頭の言葉に至ったというわけだ。

ヒルダは騒ぎなど何のそので食後のデザートを幸せそうに頬張っている。

「あちゃー。どうしよう」

ミリーナは決闘だか喧嘩だかをしに店を出た二人を追って行こうか迷う。

対して、ルークは落ち着いてホットミルクコーヒーを飲んでいる。

「落ち着けミリーナ。実力差が明白だ。人死には出ないだろう」

「それはそうなんだけど・・・」

ミリーナは何やら葛藤している。

「そもそも騎士は私闘には不介入ではなかったか？」

騎士は基本的に王国内での犯罪や反乱などの脅威に対してのみ対処する組織である。

そのため、個人間での『私闘』には余程のことがない限り介入しない。

流石に剣士が街人や村人に対して吹っかけていたら話は別だが、今回の二人共剣士のようだったのでこれには当たらない。

「それはそうなんだけどね」

何やら歯切れが悪いままのミリーナ。

自分の持つ正義感と実際のギャップに悩んでいるように見える。

「そんなに悩むくらいならひとまず見てきたらどうだ？」

「・・・それもそうね。行ってくる」

ルークの言葉に同意するミリーナ。

自分の剣を掴み店の外に出ていった。

ちょうどその時、

「あー、美味かったのじゃ！！」

幸せの一杯の笑顔でヒルダがデザートを食べ終え、呟く。

「それは良かったな」

「うむ。また来たいのぉ」

ヒルダが次のことを考えたセリフを口にするどうやら余程気に入ったらしい。

「ぬ？そう言えばミリーナはどうしたのじゃ？」

漸くミリーナがいないことに気づくヒルダ。

「ああ。店内で揉め事が起きてな。当事者二人が戦うことになったのでいざという時のために見に行ったんだ」

ルークがミリーナの行動を説明した。