子豚の魔法が解けるまで

宇井

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41 部屋に招待

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 俺の部屋の中は相変わらずシンプルで、ここに入った頃から荷物は増えていない。唯一増えているのは出て行った子からもらった手紙や絵とコンパクトな物だけだ。
  ジェイクが用意してくれた荷物には、少しサイズが大きめの服が入っていたから、これまであまり買い足す必要はなかった。そしてサイズアウトした服は先生に寄付していたから、過去俺が来ていた服を身に着けている子を見かけたりする。
  質のいい物は洗濯にも耐える。思い出の品だとしまい込んで無駄にするより、断然そちらの方がよくて、大事に着てくれるのを見ると嬉しくなる。
 『トモエの服……回ってきた』
  なんて、ベンもはにかんで報告しにきてくれたな。今では同じくらいの背丈だけどね。

  初めて入る俺の部屋に緊張したのか、ベンは可愛いくらい緊張している。俺の部屋なんてたいしたことないけど、こういう機会にしか人を入れないのは確かだ。
  お風呂で洗いっこしてそのまま部屋に直行したけど、ベンは入り口で数秒静止していた。部屋の造りも家具もまったく同じはずなのに、何に感動してるんだかパジャマの前をぐっと掴んでいる。
  そろそろ落ち着いたか? と言う所で背中を押してベッドに腰掛けさせ、俺も隣に座った。

 「ずっと思うとったんやけど、トモエさんのパジャマって短こぉない?」
 「そう? でもこれがいいんだ。俺は気にしていないし」

  二人きりになった途端方言が出るベン、可愛い。乾ききっていない長めの濃茶の髪はぺたりとしていて、雨に濡れた毛足の長い子猫がそこにいるみたいだ。
  パジャマの丈が短いのは知ってる。
  ここに来た時からずっと着続けているパジャマは、膝上丈の短いチュニックのような感じになってしまった。
  昔は膝下丈でそれに揃いのズボンを履いていたけど、残念ながらズボンは破れてしまって、上着だけが残ってしまったのだ。
  昔は大きく感じていたのに、今は窮屈に感じるくらいになっている。残念だけど来年は着られないだろう。それにこれほど着古していると人に譲るのも憚られる。
  だったら下は別のズボンでも履けって所だろうけど、もう俺はこれに慣れちゃってるからこれで通します。季節に関係なく下半身はすーすーでいいんです。
  寝るには早い時間だけど、ベッドに横になろうとベンを誘う。
  シーツを捲って潜り込めば、やっぱり二人寝るには狭い。長枕も二人で分け合うと体だけでなく顔も近くなる。なんでかそれだけで声を殺して笑い合ってしまう。

 「やっぱり二人だと狭いね。でも俺たちが大きくなった証拠でもあるのかな。ね、ベン」
 「四年も一緒だったんじゃね。でも、これからもっと大きゅうなる」

  顔を向い合せて喋ると、ベンは恥ずかしげに目を伏せる。
  ベンもまた俺たちと同じく、長くここにいるひとりだ。
  その見た目も申し分なく、性格だっていい。なのに、この子は昔から超人見知りで、初対面の人と普通の会話ができるようになるまでには時間がかかる。それが唯一の欠点で大問題なのだ。
  だから、ベンを引き取ろうという判断がいつまで経ってもつかないのだろう。会話が成り立たず、正面にいる人からすぐに目を逸らしてしまうのだからしょうがない。

  俺の場合も四年という時間をかけてゆっくりゆっくり仲良くなった感じ。
  積極的で利発な子供より不器用な子の方が気になる。だから強引に話しかけて、手を引っ張って畑の手伝いもしてもらうこともあった。
  二人になるとベンはコンプレックスだと言う、なかなか抜けない強い訛りで話をしてくれた。
  喋るのが怖い。
  ここへ来た当初、授業で発言するたびにクスクスと笑われていたのだと、涙目になって教えてくれた。
  方言男子ってすごい萌えるのに、子供にはこの魅力がわからないらしい。笑った子たちだって、きっと悪意はなかったんだろう。だけどベンが傷ついて委縮してしまった気持ちはわかる。
 俺はその優しい喋り口が大好きだよって伝えた。もちろんそれが本音だからベンにも伝わったのだと思う。
  それから口数が増えていったけど、やっぱり訛りは出さないように意識していたし、恐る恐る口にしている感じだった。
  だけど俺を通してケネスとも話せるようになり、ベンは変わっていった。
  もしかして俺たちと一緒にずっと居残ることになるのかと心配していた所だったけど、いい縁が繋がったのには心底ほっとする。
  ベンの良さを理解してくれる人がこの世界にいたのだ。

 「いつもええなって思うとったんじゃ。ここを出て行く子が、トモエさんと過ごすんを」
 「そう? 俺なんてたいしたことなにのに」
 「そう思うとるのは、トモエさん本人だけ」
 「だってケネスの方がカッコイイじゃん」
 「ケネスは、遠くから見よって、ええなって溜息つくくらいで丁度ええ。それに、トモエさんを独占しとるし、威嚇する目つきがちぃとだけ怖い」
 「美形の目つきだといつも難しいこと考えてそうに見えるけど、本当は何も考えていないんだよ。だけどやっぱり俺の方が身近でとっつきやすいよね?」
 「トモエさんは、可愛ええよ。大好き」

  おおっ、十歳の天使に可愛いって言われたよ。まだ俺よりよっぽどベンの方が美しさも可愛さも上回っているのに。
  自分より小さな子たちに慕われるようになったし、こういう時、この際タチに転向してもいいかと思ってしまう。

 「ありがと、ベン。だけど、ベンの方がかわいいよ……子猫ちゃん」

  目にかかりそうな髪をあげて額に口づけする。ぽっと頬を染めたあと、目が潤み出す。

 「トモエさん……」

  ベンの顔が近づくき、桜色の唇が俺の唇に重なる。
  まさかベンまでこんなことをしてくるとは思ってなくて、ちょっと驚いた。ベンは一番奥手な恥ずかしがり屋さんのはずだから。

 「みんな、トモエさんとこうしてキスしよったんじゃろう?」
 「そう思う?」
 「ねえ、キスしよった?」
 「うん、したよ」
 「やっぱり……だって、こがんなぁの、我慢できる訳ない」

  ベンの唇が、今度は長く重なった。
  柔らかくてぷるぷるの、多分この子のファーストキスだ。
  これまでも部屋にやってきた子とのキスは普通にあった。ソフトからハードまで。
  キスって凄いよ。どうしてなんだろう、まだ少年の無垢さを全開にしていた子が、次第にうっとりした妖艶な顔つきになっていくんだ。それですぐに上達してしまう。
  ちゅっと音を立てて、唇が離れた。

 「トモエさんが好き。ずっと一緒におったかった。じゃが……このままここにいるだけじゃ足踏みしとるだけ。それだったら、いっぺん外へ出て大きゅうなってからトモエさんを迎えに来ようって思うようになった」
 「俺を迎えにくるの?」
 「そうしたい」
 「居残るかもしれない俺を心配してくれるんだね。ベン、理由はともかく、最近ちょっと君が変わったって思ったのは、気のせいじゃなかったんだね」
 「うん。まだまだ口下手で、伝えたい事が言葉にならない時もあるんじゃ。じゃが、好きな人のために大きゅうなりたくて、自分を変えたくて、そう一生懸命に伝えたら、縁組の話がまとまった」

  囁き声に隠しきれない嬉しさが乗る。

 「よかったね。きっとそこで幸せになれるよ」
 「うん、王都の学校へも通わせてくれるって」
 「頑張って。俺の為じゃなくて自分の為にね」

  頑張れ、ベン。
  今度は俺からその柔らかさに触れた。
 ベンが腕を腰に回してきて、ぎゅっと抱き付いてくる。布越しの密着でも体温はじんわり伝わってくる。

 「トモエさん、トモエ……トモエッ」
 「うえっ」

  力が強すぎて中身がいろいろ出そうになる。こっちの世界の子はみんな力が強い。

 「トモっ」

  ベンの息遣いが早くなった。 
 
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