愛を語れない関係【完結】

迷い人

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前編

04

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 国王陛下から与えられた婚約。

 膨大な魔力量を操る事で起こる病。

 成長阻害。

 膨大な魔力を蓄える事で姿まで封じる病。

 小児化。

 同じような悩みを持ちながら国の英雄と呼ばれ【紫紺の魔導師】の二つ名を与えられた人であれば、恋愛感情は無くとも良い夫婦になれると思っていたのです。

 与えられた使命。
 背負わされた責任。
 避けようもない孤独。

 共有できる事は多いと思っていた。
 お互い支え合えると思っていた。

 そうあろうと努力していた。

 私達は対人面での経験が浅い……浅いけれど……そこに違いがあるとするなら、ウィル様は何処までも対人関係を避けに避け、私は適当にはぐらかす事を覚えたと言う事でしょうか?

 経験不足。
 未熟。

 私達は足りない。

 だから、

 私はウィル様に面倒を見て欲しいと頼まれメアリーの学園生活を支える事すらウィル様との絆だと思っていたのです。

 時間が戻り始めるその瞬間まで。

 私達は何時だってメアリーに振り回されていたのです。

 国のために人材育成として作られた学園グランツ学園。

 メアリーがそこに入学してきたのは2年前の13歳の時。 音楽学科希望での入学でした。 芸術関係の学科は私が所属している魔導学科と比べ、支援金が少なく。 衣装は当然のこと楽器や楽譜まで自費によって賄わなければいけません。 それでも才能が認められれば、貴族からの援助が行われるのですが、メアリーには音楽的にも、魔術的にも、特筆すべき才能は持ち合わせていらっしゃらないと教師の方がおっしゃっておりました。

 それでもメアリー自身はとても美しく、下心丸出しの相手になるかもしれませんが、後見人がついても不思議ではないのですが、ウィル様を兄様と呼び、その関係性を周知するものですから、貴族の方々は関わりを避けるようになったのです。

 音楽の才能を開花されていない方の支援を行うと言うのは、とても大変なものです。 初心者用の楽器でもそれなりの価格は致しますし、その……メアリーは自分の実力が発揮できない事を楽器のせいにされ、新しい楽器を求められた事を考えれば、ウィル様の負担も相当な者だったと思います。

 なので……メアリーのために、メアリーは家族だから、君にもそのように対応して欲しいと、演奏の際の衣装を用立てて欲しいと言われた事に理解を示しました。

 理屈では……。

 感情的には納得行くわけがない。

 膨大な魔力は感情の影響を受けやすいからと幼い頃から制御の特訓を受けていただけ。



 時間が戻ったのは、私の我慢の限界が来た時でした。

 楽師は音楽を通して魔術を使う。 だけどメアリーには十分な魔力が無かった。 だから……私の魔導装身具をメアリーに与えて欲しいと彼女に請われてウィル様は私に訴えて来たのです。

 だけど……それは何の意味もない事。 そしてウィル様には分かって当然なのにあの時のウィル様は分かっていなかった。

 瞳孔が開き、冷静さを失っていた。
 王国一の魔導師のあのありさまは、あり得ません。 いえ、実力ある魔導師にはあってはいけない事があの時おこったのです。

『君がつけている装飾品をこっちに下さい』

『これは私にとってとても大切なものですの、ご遠慮くださいませ』

『社会的な評価をすでに得ている君なら、魔道具の助力なんか必要ないだろう? メアリーにはそれが必要なんだよ』

『コレは魔力を増幅するのではなく、増えすぎた魔力をため込み魔石へと作り替えるものなのよ。 メアリーには意味がないわ』

『そんなはずあるか!! ソレがあるから君は聖なる乙女と呼ばれるようになった。 そんな噂を聞いたんだからな』

『ですから!!』

 余りにも話を聞かない様子に、私の感情まで乱される始末。 もし冷静であったなら、私はあの場で装飾品を渡した事でしょう。

 もう、限界だったのです。

 何時だって私よりもメアリーを優先する。 いえ、メアリーのために私を利用するウィル様に対して感情を抑えられなくなっていたのです。

『なぜ、彼女のためにそこまでなさるのですか!!』

 本当であれば装飾品を手渡し、意味がない事を確認してもらうべきだったでしょう。 だけど私は……腹がたってどうしようもなかったのです。 なぜ、私が虐げられなければならないのか? なぜ、メアリーは私のものを我が物顔で使うのか? なぜ彼女にソレを許すのか?

『メアリーは両親に故郷、彼女が持っていた何もかもが土砂崩れにあい失くしてしまったんだ。 そんな彼女が夢をかなえようとしているのになぜ応援出来ない!! 君はなんでも持っているじゃないか!!』

『なんでも……って、私が何を欲して、何を持っていると言うのですか……。 私だって、両親も住まいも帰るべき故郷もありません……今、ウィル様がメアリーに渡せと言っている装飾品、これは両親が私のために作ってくれた形見の品なんですよ!!』

『だが、今の君は何でも持っているじゃないか!! 寄越せ!!』

 お互いが感情的になり、魔力暴走寸前な状況であっても魔術合戦に至らなかった事は幸い……だった……のでしょうね……。

 代わりにウィル様は、自らの心臓に短刀を押し当てこう言ったのです。

『君を、花の乙女とのぼりつめさせたその装飾品をこっちに寄越すんだ。 でなければ……僕は死ぬ。 君は国防の要であり大魔導師である僕を殺した罪を背負う事が出来るかな?』

 その状況は狂気と言わずして何と言えば良いのでしょう。

 そして私達は、お互いも魔力暴走に巻き込まれ……気づけば時間が戻っていたのです。 まだ、メアリーが私の持ち物の全てを我が物顔で利用する以前の時間に……。





 後悔ばかりが、強く心に残る。
 悪い言葉を恐れたために乱れた未来。

 やり直す事が出来るなら、もう財布にはならない。
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