私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人

文字の大きさ
2 / 21

02.ロマンティストな伯爵と、非ロマンティストな伯爵

しおりを挟む
 普通の貴族令嬢であれば、疑問に思った気持ちをそのまま言葉にするなど下品と考えるでしょう。 ですが、私の親は下品な商売をする商人で、残念ながら私もその気質は色濃く受け継いでいるのですから……仕方ありませんわよね?

「許可を頂けたから、誘って頂いたのかと思っておりました……」

「えぇ、現バラデュール伯爵は私の古くからの知人です。 お願いしたいと何度も頼んでみたのですが……」

 伏せられた睫毛の長さと、小さな溜息が奇妙に色っぽく話しに集中できない。



『結婚の準備を進めても、彼女の心は未だ遠く……その……アナタの家に満月の夜に花開くと言う伝説の花に愛の成就を願いたいのです』

『オマエは馬鹿か? いや、馬鹿だな……失礼した。 たかが花に頼って良好になる関係なら、自力でどうにでもできるだろう。 逆を言えば、自力でどうにもできない関係を、花に頼って何とかなると思うな』



「と、言われまして……」

「確かに、彼ならそのように言いそうですね」

 彼が、バラデュール伯爵と知人だと言うなら、私もまた幼い頃から父の商売について歩くことで、幾度となくバラデュール伯爵と交流を持った。 そして、職人として独立した現在も大奥様と伯爵の姉君には懇意にして頂いている。 

 ですが、伯爵とは……余り仲が良くないと言うか……私は彼の価値観から外れた非合理な人間というか、私が大奥様と姉君の散財を促すというか、そんな感じで余り良くは思われていないのですよね……。

「分かって頂けますか! 彼の言い分は、ロマンがなく、美しさに欠ける。 悪い奴ではないのですが、人の持つ感性を非合理なものとして考える一面が彼の人生を貧しいものにしていると思うのですよ。 彼にも良い人ができれば、私の気持ちも理解してくれるのでしょうけど」

 ディディエ様は、そっと私の身体を抱きしめるように腕を伸ばす。 だけど回された腕は、触れるか触れないかのギリギリを保つ。 そして、甘い声に熱い吐息を含ませて彼は囁く。

「前伯爵夫人にお願い出来ないものでしょうか? ダメ、ですか?」

 色香漂う声に、私は硬直する。 恋愛経験のない私には少々刺激がキツイと言うか……。 この方、本当に女性関係が希薄だったのでしょうか?

「わ、分かりました。 大奥様に頼んでみますが、伯爵に見つかった場合には絶対に了承は得られないと思うのです。 なので……その時は、2人でお月見をしませんか?」

 私は恥ずかしながらも彼を誘ってみた。

「えぇ、是非!! あぁ、やっぱり誘ってみて良かった。 このまま抱きしめてもよろしいですか?」

「は、はい……」

 優しく壊れ物のように抱きしめられた私は、多分顔が真っ赤に染まっていたに違いありません。

「無粋な奴ですが、礼を言わなければなりません」

「お礼ですか?」

「えぇ、伝説の花を見ようと誘いを受けてくれるなら、花に関係なく2人は思いあっているのだから、花を見る必要などないだろう。 だから花にこだわらず誘うと良い。 そう彼が言ったのです。 ただ、私はやはり自信が持てなくて、花に頼ってしまいました。 情けないですよね」

 苦笑交じりに語るディディエ様。
 そして、私は小さく微笑む。

「いいえ、ディディエ様はとてもロマンチックな方だと思いますわ。 それに、バラデュール伯爵も、らしくなくロマンチックですわね」

「そうですね。 だけど、逆にそこまで見せたくないと頑張るのも、また彼らしくないと言うべきか……」

 ディディエ様も笑っていたが、不意に綺麗な顔をキリっと引き締めて彼は言う。

「アナタは私との夜の外出を受け入れてくれた。 それだけで私は十分です。 えぇ、私は伝説の花を見たかったのではなく、アナタとの一夜を迎えたかったのです」

 一瞬何を言われているのか分からず、ただ美しいディディエ様の顔を眺めていた私ですが、彼の言葉の意味。 関係を示唆された事実に気づいて、急激に体温が上がったような気がした。

「できれば、お食事もご一緒したいのですが、お迎えに来てもよろしいでしょうか?」

「……ぇ、ぁ……はい……」

 恥ずかしくて、私は小さな声で返事をし、そして頷いた。



 それは、まだ早朝とも言える時間の出来事で、私達は一旦別れを告げる事となる。

「どう、しましょう……」

 必要ないと言われましたが、伝説の花を二人で見ると言うシチュエーションはとてもロマンチックで、物語に描かれる特別な花をモチーフにウエディングドレスを作るのは、日が足り無いにしても、花飾りぐらいは作れるでしょう。

 そして私は大奥様への面会願いを手紙にしたため配達屋さんに配達をお願いした。 仕事場に再度戻った私は、大奥様へのプレゼントにと美しいストールを1枚選び、落ち着かないままに仕事をしていれば、昼前には面会を受けるとの返事を持ったバラデュール家の侍女がやってきた。

「お受け取りした手紙の返事をお届けに参りました」

 侍女は、淡々とした口調で私に1通の手紙を渡してくる。

「ありがとうございます」

「すぐに見てください」

 無表情なわりに強引だ。

「ぇ、あ、はい……」

『お待ちしております』

 要件だけの短い文章は、男性の文字。 嫌な予感はしたものの、今更断るに断れませんよね。 そして、隠れてつく溜息。

「お返事を届けて下さりありがとうございました」

「いえ、私は仕事をしたまでです。 ところで、手紙とは別にメッセージもお預かりしております」

「な、なんでしょう……」

 ディディエ様が先にお願いしていたのですから、先にダメ出し……いえそれなら面会がOKされる事などありませんね。 もしかして! 恋人のためにドレスの依頼かしら?! バラデュール伯爵もお年頃ですものね。

 えぇ、きっとそうですわ!
 違いありません。
 そう……だと良いんですけど。

「昼食をご一緒になさるそうなので、馬車に乗ってくるようにとの事でした。 もし、来ないなら押しかけて玄関先で大声で名前を連呼すると」

「……ズイブンと子供っぽい宣言をなさるのですね……」

「主は、そう言えばシシリー様が大人しく食事においでになるとおっしゃっておりました」

「……」

「店の留守番は私がお受けいたしますので、どうぞユックリと食事を楽しんできてくださいませ」

「私の結婚が決まってから、新規の仕事はお断りしておりますの。 なので、留守番までしていただかなくても大丈夫ですわ」

「主の命令です」
 
そう言って、玄関先に人形のように立ち尽くした侍女は、目を閉ざし動かなくなった。 

 私は、時計を見て慌てながらも、華美にならず質素だが品の良いドレスへと着替え、そして店の前を塞ぐように止まっている馬車の御者に声をかければ、扉が中から開かれた。

「よぉ~~~、久しぶりだなぁ」

 下品な笑みを口元に浮かべ、嫌味たらしい声色全快での挨拶……だけど、彼はとても美しい所作で私に手を差し出しエスコートをする。

 彼の名は、エミール・バラデュール伯爵。 私の父親であるドナ・モルコの事業の共同経営者であり、投資者でもある男だ。

「ご無沙汰しております。 伯爵」

「つれないな。 俺とオマエの関係だろう」

 子供の頃から、お菓子1個に1意地悪。 そんな付き合いの相手に私は愛想笑いを浮かべ、適当に誤魔化した。

「まぁ、いい。 どうせなら、もっと良いドレスを着てこい。 俺がポッとでのアレよりも下に見られると言うのは、なんとも気分が悪い」

「伯爵は、華美を好まないではありませんか……」

「それは、母上と姉上の好みが華美過ぎるから言っているだけだ。 考えて見ろ!! あの2人は俺と同系統の顔なんだぞ!!」

 感情的になった自分を恥じるように声を押さえたバラデュール伯爵は、溜息と共に静かに告げる。

「まぁ、いい……急ごう。 食事に間に合わなくなる」



 そして私は有名な貴族ご用達のレストランに連れていかれ、美味しい食事をご馳走になった。 食事終わりの茶を飲み始めた頃、バラデュール伯爵は私に告げた。

「ディディエは、今日の約束を反故にするだろう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。

夢草 蝶
恋愛
 シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。  どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。  すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──  本編とおまけの二話構成の予定です。

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

【完結】私より優先している相手が仮病だと、いい加減に気がついたらどうですか?〜病弱を訴えている婚約者の義妹は超が付くほど健康ですよ〜

よどら文鳥
恋愛
 ジュリエル=ディラウは、生まれながらに婚約者が決まっていた。  ハーベスト=ドルチャと正式に結婚する前に、一度彼の実家で同居をすることも決まっている。  同居生活が始まり、最初は順調かとジュリエルは思っていたが、ハーベストの義理の妹、シャロン=ドルチャは病弱だった。  ドルチャ家の人間はシャロンのことを溺愛しているため、折角のデートも病気を理由に断られてしまう。それが例え僅かな微熱でもだ。  あることがキッカケでシャロンの病気は実は仮病だとわかり、ジュリエルは真実を訴えようとする。  だが、シャロンを溺愛しているドルチャ家の人間は聞く耳持たず、更にジュリエルを苦しめるようになってしまった。  ハーベストは、ジュリエルが意図的に苦しめられていることを知らなかった。

【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。

白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。 ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。 ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。 それは大人になった今でも変わらなかった。 そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。 そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。 彼の子を宿してーー

妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?

百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」 あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。 で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。 そんな話ある? 「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」 たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。 あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね? でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する? 「君の妹と、君の婚約者がね」 「そう。薄情でしょう?」 「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」 「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」 イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。 あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。 ==================== (他「エブリスタ」様に投稿)

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

元カノが復縁したそうにこちらを見ているので、彼の幸せのために身を引こうとしたら意外と溺愛されていました

おりの まるる
恋愛
カーネリアは、大好きな魔法師団の副師団長であるリオンへ告白すること2回、元カノが忘れられないと振られること2回、玉砕覚悟で3回目の告白をした。 3回目の告白の返事は「友達としてなら付き合ってもいい」と言われ3年の月日を過ごした。 もう付き合うとかできないかもと諦めかけた時、ついに付き合うことがてきるように。 喜んだのもつかの間、初めてのデートで、彼を以前捨てた恋人アイオラが再びリオンの前に訪れて……。 大好きな彼の幸せを願って、身を引こうとするのだが。

処理中です...