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第4章 鎮火、その藍の瞳に堕ちて
出会えてよかった
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「あのね、ハルが助けたあの男の子、大人になったらハルみたいに強い男になるって言っていたわ。騎士になって、弱い人を守ったり困った人を助けたりするって。あの子にとって、ハルはきっと忘れられない命の恩人ね」
「そうか……あの子が無事で俺も安心した」
「うん、うさぎも無事よ」
どこか照れたように、くすぐったそうにハルは笑った。
「話がずれてしまったね」
「ううん……話してくれて、ありがとう」
「俺はあまり長くは生きられない。あんたをひとり残して先にいってしまうことになる」
「長くって、どのくらいなの……」
「個人にもよる。が、組織の中に年のいった者はほとんどいない。ごくまれに、何ごともなく生き延びている者もいるが、おそらく三十歳前後……中には早くて二十歳を過ぎて倒れてしまう者も」
「二十歳って……だって、ハルは今……」
いくつ? と言いかけて、サラは言葉を飲み込んだ。
ハルは親の顔も知らない、自分の本当の名前も知らないと言っていた。
それはつまり、自分の年齢も定かではないということではないかと今さらながらに気づく。
そして、サラが懸念していた通り。
「さあ、俺は名前と同様、生まれた日も、はっきりとした年齢もわからないから」
「もしかしたらハルは私よりも年下かもしれないわ!」
「……いくらなんでも、それはないと思う」
きっぱりと言い切られ、サラはそうよね……と声を落とす。
「これまで数え切れないほどの人たちを殺してきた。そんな自分がまっとうに人生を終わらせることができるとは思っていない。どんな結末が自分に訪れようと覚悟はしている。大切な人を持つつもりもなかった。なのに……これからはもう俺ひとりではないのだと思うと、残していくあんたのことを考えると、それが……」
そこで言葉を切り、ハルは小刻みに肩を震わせた。
ずっと、いつ死ぬかもしれないと怯えながら、ひとりでその恐怖を胸に抱えてきたのね。
不安だったでしょう?
怖かったでしょう?
だけど、もうひとりではないのよ。
「それでも……ずっと、側にいる。それに、先のことなんてわからないわ。もしかしたら、ハルは大丈夫かもしれない。中には何でもない人もいるって言っていたわよね。ハルもその中のひとりかもしれない。いいえ、きっとそうなるわ!」
「そうだね。そうやって前向きに考えてみるのも悪くはないかもしれないね」
ハルの首に両腕を回し、サラはぎゅっとしがみついた。
「ハルは生まれた日もわからないって言っていたわね。ねえ、ハルと私が結婚式をあげたその日がハルの誕生日っていうのはどう?」
「女の子らしい発想だね」
「私、盛大にお祝いしてあげる」
「それは楽しみだ。俺、お祝いなんて今まで一度もされたことがないから」
「なら私、ハルのために頑張って美味しい料理を作るわ」
「……」
「たくさん思い出をつくっていこう。もうひとりじゃないの。私が側にいるから。楽しいことも苦しいこともこれからは一緒にわかち合っていこう。ね?」
ハルは抱きついてきたサラの背を、愛おしそうに抱きしめた。
「俺、あんたと出会えてよかった」
「うん、私を選んでくれたこと、好きになってくれたこと、絶対に後悔させないから」
「そうか……あの子が無事で俺も安心した」
「うん、うさぎも無事よ」
どこか照れたように、くすぐったそうにハルは笑った。
「話がずれてしまったね」
「ううん……話してくれて、ありがとう」
「俺はあまり長くは生きられない。あんたをひとり残して先にいってしまうことになる」
「長くって、どのくらいなの……」
「個人にもよる。が、組織の中に年のいった者はほとんどいない。ごくまれに、何ごともなく生き延びている者もいるが、おそらく三十歳前後……中には早くて二十歳を過ぎて倒れてしまう者も」
「二十歳って……だって、ハルは今……」
いくつ? と言いかけて、サラは言葉を飲み込んだ。
ハルは親の顔も知らない、自分の本当の名前も知らないと言っていた。
それはつまり、自分の年齢も定かではないということではないかと今さらながらに気づく。
そして、サラが懸念していた通り。
「さあ、俺は名前と同様、生まれた日も、はっきりとした年齢もわからないから」
「もしかしたらハルは私よりも年下かもしれないわ!」
「……いくらなんでも、それはないと思う」
きっぱりと言い切られ、サラはそうよね……と声を落とす。
「これまで数え切れないほどの人たちを殺してきた。そんな自分がまっとうに人生を終わらせることができるとは思っていない。どんな結末が自分に訪れようと覚悟はしている。大切な人を持つつもりもなかった。なのに……これからはもう俺ひとりではないのだと思うと、残していくあんたのことを考えると、それが……」
そこで言葉を切り、ハルは小刻みに肩を震わせた。
ずっと、いつ死ぬかもしれないと怯えながら、ひとりでその恐怖を胸に抱えてきたのね。
不安だったでしょう?
怖かったでしょう?
だけど、もうひとりではないのよ。
「それでも……ずっと、側にいる。それに、先のことなんてわからないわ。もしかしたら、ハルは大丈夫かもしれない。中には何でもない人もいるって言っていたわよね。ハルもその中のひとりかもしれない。いいえ、きっとそうなるわ!」
「そうだね。そうやって前向きに考えてみるのも悪くはないかもしれないね」
ハルの首に両腕を回し、サラはぎゅっとしがみついた。
「ハルは生まれた日もわからないって言っていたわね。ねえ、ハルと私が結婚式をあげたその日がハルの誕生日っていうのはどう?」
「女の子らしい発想だね」
「私、盛大にお祝いしてあげる」
「それは楽しみだ。俺、お祝いなんて今まで一度もされたことがないから」
「なら私、ハルのために頑張って美味しい料理を作るわ」
「……」
「たくさん思い出をつくっていこう。もうひとりじゃないの。私が側にいるから。楽しいことも苦しいこともこれからは一緒にわかち合っていこう。ね?」
ハルは抱きついてきたサラの背を、愛おしそうに抱きしめた。
「俺、あんたと出会えてよかった」
「うん、私を選んでくれたこと、好きになってくれたこと、絶対に後悔させないから」
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