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第3章 罪火、戸惑いに揺れる心
シンの怒り
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「どこに行っていた?」
聞かずとも知っているはずなのに、シンはあえてサラに問う。
「ハルに会いたくて」
「約束を破ったのか?」
「……」
謝らなければ……。
そう思うのに、声がでなかった。
まともにシンの顔を見ることさえできなかった。
「あんたは二度と行かないと俺に言った」
「それは……」
「あの言葉は嘘だったのか? それとも、最初から俺を騙すつもりだった」
シンの厳しい視線に耐えきれず、サラはうつむき、テオの後ろにこそっと隠れてしまった。
「俺は言ったはずだ。約束を破ったら本気で怒ると」
「ごめんなさい……」
「謝って済む問題じゃねえ!」
シンの一喝にサラはびくりと肩を跳ね、震えながらテオの背にしがみつく。
いつものシンじゃない。
あんなに怒ったシンなんて見たことない。
どうしよう。
思わず涙がこぼれ落ちる。
「泣いて許されると思うな。あんたにもしものことがあったら、先生やこいつがどれだけ悲しむか考えなかったのか」
ハルにも同じようなことを言われた。
今回の、私のわがままのせいで、本当にたくさんの人に迷惑をかけた。
確かに自分に何かあったら、先生やテオがどんなことになったか。
そう思うと今更ながらに恐ろしさに震えた。
「まあ、今日のところはこうしてサラも無事に戻ってきたんだ。彼女も疲れているだろうし、もう休ませて」
すでに日もすっかりと沈み、辺りは薄闇に包まれ始めている。
通りを行く者が何事かという顔で、こちらに視線を向けながら通り過ぎていく。
引きつった顔でテオは辺りを気にしながら、まあまあとシンを宥めるが、シンの怒りはおさまらないようだ。
「こいつを甘やかすな。あんただって裏街がどういうところか知らないわけじゃないはずだ。こうして無事に帰って来られたのが奇跡だと思え」
「しかし……サラもこうして反省しているのだし」
「反省? わからないぞ。そうやって反省している振りをしているだけなのかもしれない。何しろ約束を平気で破るやつだ」
「それは言い過ぎだ!」
「黙れ。サラ、こっちに来い」
シンの鋭い眼差しがサラを射抜く。
テオの背にしがみつきサラはいや、と首を振る。
「いいから来い」
それでもいやだと首を振るサラに、シンはわかった、と声を落とす。そして、大股で歩み寄り、テオの後ろに隠れているサラの腕をつかんだ。
「いや! もうあそこには行かないから。怒らないで!」
暴れるサラをまるで荷物のように抱え、シンは診療所の中に戻って行こうとする。
「あんたには、朝までじっくり裏街がどういうところか聞かせてやる。そうすれば二度とあんなところに行く気などおきなくなるだろうからな」
本気でシンの手から逃れようと身動ぐが、その手を振り解くことはかなわなかった。
「シン!」
呼び止めるエレナの声にシンは振り返る。
「ああ、エレナ。迷惑かけちまって悪いな」
「そんなこと」
「カイもすまない。みなにも俺から後で謝っておく」
「お願い、サラちゃん悪気はなかったのよ。だから」
サラを助けようと動いたエレナだが、側にいたカイに引き止められる。
「でも……」
「行くぞ」
エレナはもう一度サラを振り返り、そして一言はい、とうなずき、歩き出したカイの後に続いた。
「ちょっと待て! 乱暴は……いや、そもそも彼女を誰だと思ってる!」
身を乗り出したテオを、シンは目をすがめて見据える。
「てめえは黙ってろ」
「て、て、てめえって! 先生……」
シンの剣幕にテオはあんぐりと口を開け、隣に立つベゼレートを見る。しかし、ベゼレートはといえば、この状況にただ笑っているだけであった。
それどころか。
「若いということは羨ましい」
「せ、先生……何をのんきなことを。いえ、笑っている場合では」
「彼が怒るのも、もっともですよ」
「だけど……」
「彼は何時間も外であの娘が戻ってくるのをじっと待っていた。本当に心配していたのでしょうね」
「だけど、もしも彼女に何かあったら、僕は絶対にあいつを許さないですからね」
「テオが心配することなど何もないですよ」
そう言って、ベゼレートは養い子の頭をぽんぽんと叩くのであった。
聞かずとも知っているはずなのに、シンはあえてサラに問う。
「ハルに会いたくて」
「約束を破ったのか?」
「……」
謝らなければ……。
そう思うのに、声がでなかった。
まともにシンの顔を見ることさえできなかった。
「あんたは二度と行かないと俺に言った」
「それは……」
「あの言葉は嘘だったのか? それとも、最初から俺を騙すつもりだった」
シンの厳しい視線に耐えきれず、サラはうつむき、テオの後ろにこそっと隠れてしまった。
「俺は言ったはずだ。約束を破ったら本気で怒ると」
「ごめんなさい……」
「謝って済む問題じゃねえ!」
シンの一喝にサラはびくりと肩を跳ね、震えながらテオの背にしがみつく。
いつものシンじゃない。
あんなに怒ったシンなんて見たことない。
どうしよう。
思わず涙がこぼれ落ちる。
「泣いて許されると思うな。あんたにもしものことがあったら、先生やこいつがどれだけ悲しむか考えなかったのか」
ハルにも同じようなことを言われた。
今回の、私のわがままのせいで、本当にたくさんの人に迷惑をかけた。
確かに自分に何かあったら、先生やテオがどんなことになったか。
そう思うと今更ながらに恐ろしさに震えた。
「まあ、今日のところはこうしてサラも無事に戻ってきたんだ。彼女も疲れているだろうし、もう休ませて」
すでに日もすっかりと沈み、辺りは薄闇に包まれ始めている。
通りを行く者が何事かという顔で、こちらに視線を向けながら通り過ぎていく。
引きつった顔でテオは辺りを気にしながら、まあまあとシンを宥めるが、シンの怒りはおさまらないようだ。
「こいつを甘やかすな。あんただって裏街がどういうところか知らないわけじゃないはずだ。こうして無事に帰って来られたのが奇跡だと思え」
「しかし……サラもこうして反省しているのだし」
「反省? わからないぞ。そうやって反省している振りをしているだけなのかもしれない。何しろ約束を平気で破るやつだ」
「それは言い過ぎだ!」
「黙れ。サラ、こっちに来い」
シンの鋭い眼差しがサラを射抜く。
テオの背にしがみつきサラはいや、と首を振る。
「いいから来い」
それでもいやだと首を振るサラに、シンはわかった、と声を落とす。そして、大股で歩み寄り、テオの後ろに隠れているサラの腕をつかんだ。
「いや! もうあそこには行かないから。怒らないで!」
暴れるサラをまるで荷物のように抱え、シンは診療所の中に戻って行こうとする。
「あんたには、朝までじっくり裏街がどういうところか聞かせてやる。そうすれば二度とあんなところに行く気などおきなくなるだろうからな」
本気でシンの手から逃れようと身動ぐが、その手を振り解くことはかなわなかった。
「シン!」
呼び止めるエレナの声にシンは振り返る。
「ああ、エレナ。迷惑かけちまって悪いな」
「そんなこと」
「カイもすまない。みなにも俺から後で謝っておく」
「お願い、サラちゃん悪気はなかったのよ。だから」
サラを助けようと動いたエレナだが、側にいたカイに引き止められる。
「でも……」
「行くぞ」
エレナはもう一度サラを振り返り、そして一言はい、とうなずき、歩き出したカイの後に続いた。
「ちょっと待て! 乱暴は……いや、そもそも彼女を誰だと思ってる!」
身を乗り出したテオを、シンは目をすがめて見据える。
「てめえは黙ってろ」
「て、て、てめえって! 先生……」
シンの剣幕にテオはあんぐりと口を開け、隣に立つベゼレートを見る。しかし、ベゼレートはといえば、この状況にただ笑っているだけであった。
それどころか。
「若いということは羨ましい」
「せ、先生……何をのんきなことを。いえ、笑っている場合では」
「彼が怒るのも、もっともですよ」
「だけど……」
「彼は何時間も外であの娘が戻ってくるのをじっと待っていた。本当に心配していたのでしょうね」
「だけど、もしも彼女に何かあったら、僕は絶対にあいつを許さないですからね」
「テオが心配することなど何もないですよ」
そう言って、ベゼレートは養い子の頭をぽんぽんと叩くのであった。
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