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第2章 あたしが宮廷女官? それも皇后付きの侍女!
1 目覚めたら
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目覚めると見知らぬ天井が目に飛び込んだ。
自分の家の土壁ではなく、きれいな模様が描かれた天井だ。
身体が沈みそうなくらい柔らかな敷き布団と、暖かくて手触りのいい掛け布団。枕もふかふかで気持ちいい。それにいい匂いがする。こんな寝心地のいい寝台は初めてだ。
それにしても、ここはどこ? 立派な家。
自分が住んでいたボロ家が、すっぽり収まってしまうほどの広い部屋。見たこともない高級家具や調度品が置かれ、季節の花も飾られている。
寝起きはかなりいい方だ。
なのに、今日に限って頭がぼんやりとして、それに起き上がることもできない。
自分に何が起きたのか思い出そうとする。
脳裏に、黒い装束の男たちの姿が浮かんだ。次に、その男たちが父と母に斬りかかる。悲鳴をあげ地面に倒れる両親の姿。
半身を起こした途端、身体中に痛みが走り、うっ、と声をもらす。
そのまま身体を丸めて痛みに耐える。
「いたた……」
「蓮花さんが目覚めたわ。恵医師を呼んできて」
すぐ側で女性の声が聞こえた。
寝台の縁に腰をかけ、年配の女が心配そうにこちらを見下ろしている。
「まだ起きてはいけないわ。横になっていなさい。さあ」
女性の手が腕にかかり、横たわるのを手伝ってくれた。
「安心して、大きな怪我はないわ。だけど、疲労と精神的なものが重なって身体が参っているの。もうすぐ医師が来るから」
胸にすんと染みるような、優しい声であった。
「恵医師が参りました」
その声とともに、薬箱を手に一人の若い男が部屋に入ってきた。
「失礼いたします、奥さま」
蓮花の側に付き添う女性に向かい、医師が挨拶のためその場に膝をつこうとする。しかし、奥さまと呼ばれた女性は否、と手で合図する。
「挨拶はいいわ。早く蓮花さんを診てあげて」
「かしこまりました。失礼いたします」
恵医師は蓮花の手首に指を乗せ、脈診を始めた。
目を閉じ、真剣な面持ちで脈を計ること数分。
「だいぶ落ち着いたようですね。脈拍も安定しています。無理をせずしばらく安静にしていればもう大丈夫でしょう。ただ、気の不足がみられます。人参と黄耆を始め、血行をよくする当帰や地黄などを煎じた薬湯を処方します。それで体力と気力を補えさせるとよいでしょう。それから、こちらの十薬をよく手のひらにすり込んでください」
と、恵医師は枕元に小瓶を置く。
その顔は険しい。
十薬とはドクダミのことだ。
毒や痛みに効くから〝毒痛み〟になったという説がある。
蓮花は手のひらに視線を落とした。
小刀を振り回した時に、知らず知らず傷をつけてしまったようだ。さらに、附子の毒が傷口に付着した恐れがある。
確かにトリカブトを素手で触るなど、どうかしている。こうして生きているからよかったものの、一歩間違えたらどうなっていたか。
「恵医師は若いけれど、信頼のできる、腕のいい医師よ」
寝台の側で腰をかけていた女は、菩薩のような笑みを浮かべ、布団をかけ直してくれた。
ほっと心が和むような雰囲気の女性だ。
「ありがとうございます。もう、大丈夫です。あの?」
全然大丈夫じゃないけれど、いろいろ考えることが多すぎた。まだ頭の中がぼんやりするし、悲しむ前に自分の置かれている状況を確認したい。
「私の名は香麗よ、蓮花さん」
「どうしてあたしの名前を?」
「おお、目覚めたようだな」
聞き覚えのある男の声が聞こえた。
部屋に入って来たのは一颯であった。
自分の家の土壁ではなく、きれいな模様が描かれた天井だ。
身体が沈みそうなくらい柔らかな敷き布団と、暖かくて手触りのいい掛け布団。枕もふかふかで気持ちいい。それにいい匂いがする。こんな寝心地のいい寝台は初めてだ。
それにしても、ここはどこ? 立派な家。
自分が住んでいたボロ家が、すっぽり収まってしまうほどの広い部屋。見たこともない高級家具や調度品が置かれ、季節の花も飾られている。
寝起きはかなりいい方だ。
なのに、今日に限って頭がぼんやりとして、それに起き上がることもできない。
自分に何が起きたのか思い出そうとする。
脳裏に、黒い装束の男たちの姿が浮かんだ。次に、その男たちが父と母に斬りかかる。悲鳴をあげ地面に倒れる両親の姿。
半身を起こした途端、身体中に痛みが走り、うっ、と声をもらす。
そのまま身体を丸めて痛みに耐える。
「いたた……」
「蓮花さんが目覚めたわ。恵医師を呼んできて」
すぐ側で女性の声が聞こえた。
寝台の縁に腰をかけ、年配の女が心配そうにこちらを見下ろしている。
「まだ起きてはいけないわ。横になっていなさい。さあ」
女性の手が腕にかかり、横たわるのを手伝ってくれた。
「安心して、大きな怪我はないわ。だけど、疲労と精神的なものが重なって身体が参っているの。もうすぐ医師が来るから」
胸にすんと染みるような、優しい声であった。
「恵医師が参りました」
その声とともに、薬箱を手に一人の若い男が部屋に入ってきた。
「失礼いたします、奥さま」
蓮花の側に付き添う女性に向かい、医師が挨拶のためその場に膝をつこうとする。しかし、奥さまと呼ばれた女性は否、と手で合図する。
「挨拶はいいわ。早く蓮花さんを診てあげて」
「かしこまりました。失礼いたします」
恵医師は蓮花の手首に指を乗せ、脈診を始めた。
目を閉じ、真剣な面持ちで脈を計ること数分。
「だいぶ落ち着いたようですね。脈拍も安定しています。無理をせずしばらく安静にしていればもう大丈夫でしょう。ただ、気の不足がみられます。人参と黄耆を始め、血行をよくする当帰や地黄などを煎じた薬湯を処方します。それで体力と気力を補えさせるとよいでしょう。それから、こちらの十薬をよく手のひらにすり込んでください」
と、恵医師は枕元に小瓶を置く。
その顔は険しい。
十薬とはドクダミのことだ。
毒や痛みに効くから〝毒痛み〟になったという説がある。
蓮花は手のひらに視線を落とした。
小刀を振り回した時に、知らず知らず傷をつけてしまったようだ。さらに、附子の毒が傷口に付着した恐れがある。
確かにトリカブトを素手で触るなど、どうかしている。こうして生きているからよかったものの、一歩間違えたらどうなっていたか。
「恵医師は若いけれど、信頼のできる、腕のいい医師よ」
寝台の側で腰をかけていた女は、菩薩のような笑みを浮かべ、布団をかけ直してくれた。
ほっと心が和むような雰囲気の女性だ。
「ありがとうございます。もう、大丈夫です。あの?」
全然大丈夫じゃないけれど、いろいろ考えることが多すぎた。まだ頭の中がぼんやりするし、悲しむ前に自分の置かれている状況を確認したい。
「私の名は香麗よ、蓮花さん」
「どうしてあたしの名前を?」
「おお、目覚めたようだな」
聞き覚えのある男の声が聞こえた。
部屋に入って来たのは一颯であった。
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