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第1章 運命は満月の夜に導かれて残酷に
8 助けに来てくれたのは
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足音を忍ばせ、数名の男たちがこちらへと近寄ってくる。
「父さんから教わったこと、ちゃんと覚えてるよ。附子は根、葉、茎の順に毒性が強く、花や蜜、種、花粉と全草に猛毒を持っている。誤って口にすれば数十分後に毒の効果が現れ、最悪、心臓麻痺で数時間後には死に至る。葉っぱ一枚でも致死量となる」
父から教わった薬草の知識を口の中で繰り返し、蓮花は震える手でトリカブトの葉をちぎり、手の中ですり潰す。
大丈夫。落ち着け。
あんな奴らに殺されるもんか。
懐から小刀を抜き、蓮花はゆっくりと立ち上がる。
雲一つない空に浮かぶ満月の光が、蓮花と、辺り一面穂になって咲く、青紫色の附子の花を明るく照らした。
さっと吹く風に、花がゆらゆらと揺れた。
蓮花の手には小刀が握られている。
剣を手に男たちがじりじりと無言で距離をつめてくる。
目の前に迫る男が剣を振り上げた。にっと口角をつり上げ嗤う。そんな小さな刀でどう抵抗するつもりだという嗤いだ。
男が剣を振り下ろすと同時に、蓮花は袂で口元を覆い、勢いよく小刀を振り回した。
薙いだ附子の花が舞い、花粉が辺りに飛ぶ。
男は一瞬だが虚を突かれたようだ。
その隙を狙い、蓮花は男の懐に飛び込み、手ですり潰した附子の葉を相手の顔になすりつけた。
憤怒の形相で男は蓮花の頬を力一杯張る。
蓮花の身体が横に吹き飛んだ。
地面に倒れた蓮花めがけて男は剣を振り下ろす。
死を覚悟した。が、斬られたのは自分ではなく目の前の男だった。
男が悲鳴をあげた。
ざっ、と顔に生暖かいものがかかる。
血だ。
自分を殺そうとした男が、どっとこちらに向かって倒れ込んできた。
「ひっ!」
蓮花は引きつった声をもらす。
倒れ込んだ男の背後に別の男が剣を手に立っていた。その男の顔を見て蓮花は目を見開く。
先程の武人、一颯であった。
庭先で黒装束の賊と、一颯の従者が戦っている。
「一颯将軍、気をつけてください。ここに咲いている花は附子です。触れないように!」
なんで、ここに?
蓮花ははっとなり、這いつくばるようにして、倒れている父と母の元に駆け寄る。
「父さん、母さん!」
叫びながら、父と母の身体を揺すった。
蓮花の声に両親が答えることはない。それでも、蓮花は何度も目を覚ましてと呼びかける。
「残念だがもう」
肩に一颯の手が置かれた。しかし、蓮花は否と首を振る。
「信じない。こんなこと信じない!」
その時、がさっと草の葉が揺れる音がした。
視線をやると、附子が咲く薬草畑から、黒ずくめの男が立ち上がった。
蓮花の反撃にあった男であった。
男は咳き込みながら口の中に入った附子の葉を吐き出している。男はさっと身をひるがえし、逃げ出した。
「殺さずに捕らえろ!」
一颯の命令に従者が走り出し、後を追う。
目の前の光景がぐるぐると回った。
めまいがする。吐き気も。
「大丈夫か! しっかりしろ。おい! 蓮花!」
腕を取られ身体を起こされた。
何度も大丈夫かと叫ぶ一颯の声が聞こえた。その声も徐々に遠のいていき、そのまま蓮花は意識を手放した。
「父さんから教わったこと、ちゃんと覚えてるよ。附子は根、葉、茎の順に毒性が強く、花や蜜、種、花粉と全草に猛毒を持っている。誤って口にすれば数十分後に毒の効果が現れ、最悪、心臓麻痺で数時間後には死に至る。葉っぱ一枚でも致死量となる」
父から教わった薬草の知識を口の中で繰り返し、蓮花は震える手でトリカブトの葉をちぎり、手の中ですり潰す。
大丈夫。落ち着け。
あんな奴らに殺されるもんか。
懐から小刀を抜き、蓮花はゆっくりと立ち上がる。
雲一つない空に浮かぶ満月の光が、蓮花と、辺り一面穂になって咲く、青紫色の附子の花を明るく照らした。
さっと吹く風に、花がゆらゆらと揺れた。
蓮花の手には小刀が握られている。
剣を手に男たちがじりじりと無言で距離をつめてくる。
目の前に迫る男が剣を振り上げた。にっと口角をつり上げ嗤う。そんな小さな刀でどう抵抗するつもりだという嗤いだ。
男が剣を振り下ろすと同時に、蓮花は袂で口元を覆い、勢いよく小刀を振り回した。
薙いだ附子の花が舞い、花粉が辺りに飛ぶ。
男は一瞬だが虚を突かれたようだ。
その隙を狙い、蓮花は男の懐に飛び込み、手ですり潰した附子の葉を相手の顔になすりつけた。
憤怒の形相で男は蓮花の頬を力一杯張る。
蓮花の身体が横に吹き飛んだ。
地面に倒れた蓮花めがけて男は剣を振り下ろす。
死を覚悟した。が、斬られたのは自分ではなく目の前の男だった。
男が悲鳴をあげた。
ざっ、と顔に生暖かいものがかかる。
血だ。
自分を殺そうとした男が、どっとこちらに向かって倒れ込んできた。
「ひっ!」
蓮花は引きつった声をもらす。
倒れ込んだ男の背後に別の男が剣を手に立っていた。その男の顔を見て蓮花は目を見開く。
先程の武人、一颯であった。
庭先で黒装束の賊と、一颯の従者が戦っている。
「一颯将軍、気をつけてください。ここに咲いている花は附子です。触れないように!」
なんで、ここに?
蓮花ははっとなり、這いつくばるようにして、倒れている父と母の元に駆け寄る。
「父さん、母さん!」
叫びながら、父と母の身体を揺すった。
蓮花の声に両親が答えることはない。それでも、蓮花は何度も目を覚ましてと呼びかける。
「残念だがもう」
肩に一颯の手が置かれた。しかし、蓮花は否と首を振る。
「信じない。こんなこと信じない!」
その時、がさっと草の葉が揺れる音がした。
視線をやると、附子が咲く薬草畑から、黒ずくめの男が立ち上がった。
蓮花の反撃にあった男であった。
男は咳き込みながら口の中に入った附子の葉を吐き出している。男はさっと身をひるがえし、逃げ出した。
「殺さずに捕らえろ!」
一颯の命令に従者が走り出し、後を追う。
目の前の光景がぐるぐると回った。
めまいがする。吐き気も。
「大丈夫か! しっかりしろ。おい! 蓮花!」
腕を取られ身体を起こされた。
何度も大丈夫かと叫ぶ一颯の声が聞こえた。その声も徐々に遠のいていき、そのまま蓮花は意識を手放した。
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