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第7章 誰も私たちの知らない場所へ
8 彼女は僕が幸せにする
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ファンローゼははっとなる。
「まさか、出版社の人に何度も頭を下げて父の行方を聞き出したというのは、嘘だった?」
「もちろん。無理矢理口を割らせ、情報を聞き出して殺した」
あれほど頑なだった出版社の人が、見ず知らずのクレイに簡単に喋るわけがなかった。
ああ……とファンローゼは悲痛な声をもらす。
それなのに、私はクレイにばかり頼り、負担をかけさせて、申し訳ないと思っていたなんて。
こんな人を信じ切っていた私は、なんて愚かだったのだろう。
父を失ったのも、出版社の人が殺されたのも、自分が招いた浅はかさだった。
「父親を失い孤独となった君は、予想通り僕にすがりついて泣いたね。他に頼る者がいない君は結果、僕の組織に来ることになった。ここまで計画は順調だ。だけど、君を本当に手に入れるには、もう一人、コンツェットという邪魔者がいる。その邪魔者に消えてもらわない限り君を手に入れたとはいえない」
クレイは鋭い目をコンツェットに向けた。
「そこで僕は君を大佐のパーティーに潜入するよう仕組んだ。そのパーティーにはコンツェットも来る。そこでエリスとの婚約発表があることを知っていたから」
「おかしいわ。あの時あなたは私にパーティーにいく必要はない、組織に協力しなくてもいいと言った。私が行かなかったら?」
「確かに僕はそう言った。でもね、君が現れたことによって、僕に心酔するアニタが激しく嫉妬することは計算の内。アニタの性格なら、必ず君を困らせるため、パーティーに行かせたらどうだと言い出すと思った。そして、案の定だ。パーティーに向かった君は、そこでコンツェットと運命の再会を果たす。君たちは偶然出会えたと浮かれていたようだけど、実は偶然ではなく、僕が君たちを偶然を装い、引き合わせた」
ファンローゼは唇を引き結ぶ。
コンツェットも怒りで身体を震わせていた。
「面白いくらい、何もかも僕の思い通りに事が進んでいったよ。偶然出会ったと思い込んだ君たちは、すぐに磁石のように惹かれ合った。そして僕の目的は、君とコンツェットが再び愛し合うこと」
「分からないわ。さっきはコンツェットを殺して私を自分のものにしたいと言っていた」
クレイはにっと嗤う。
「そう、最後の仕上げとばかりに、僕はファンローゼ、いったん僕の手から君を手放した」
『君には最後の仕事をしてもらわないとね。頑張っておいで、僕のファンローゼ』
「二人が再び愛し合うことにより、コンツェットが軍を裏切るよう僕が仕向けた。愛する女性を守るため、彼は必ず婚約者を、軍を裏切るだろうとね。それが僕の狙いだ。そしてまさにそうなった。エスツェリア軍のエリートから一転、裏切り者として追われる身になった。その男は間違いなく処刑される」
コンツェットは凄まじい目でクレイを睨みつける。
「そいつは処刑され、そして、ファンローゼ、最後に君一人が残る。そういう筋書きだった」
「私はずっとあなたの手によって踊らされた」
「ごめんね。君を手に入れるためなら、どんなことでもするつもりでいたから」
クレイは銃口を再び、コンツェットの心臓に狙いを定める。
コンツェットの身体が強張ったのが、気配で分かった。
「ということで、上層部から君を捕らえるよう命令が出た。状況によっては殺してもかまわないと許可を得ている。悪く思わないで欲しい。おとなしく捕まっても、ここで僕に撃たれても、抵抗してもしなくても、最終的に君は死ぬ運命だ。おとなしく受け入れるがいい。ああ、安心して、ファンローゼは僕が幸せにするから」
「クレイ!」
ファンローゼは両手を広げ、コンツェットの前に立ちはだかった。
クレイは眉をひそめ、端整な顔を翳らせる。
「まさか、出版社の人に何度も頭を下げて父の行方を聞き出したというのは、嘘だった?」
「もちろん。無理矢理口を割らせ、情報を聞き出して殺した」
あれほど頑なだった出版社の人が、見ず知らずのクレイに簡単に喋るわけがなかった。
ああ……とファンローゼは悲痛な声をもらす。
それなのに、私はクレイにばかり頼り、負担をかけさせて、申し訳ないと思っていたなんて。
こんな人を信じ切っていた私は、なんて愚かだったのだろう。
父を失ったのも、出版社の人が殺されたのも、自分が招いた浅はかさだった。
「父親を失い孤独となった君は、予想通り僕にすがりついて泣いたね。他に頼る者がいない君は結果、僕の組織に来ることになった。ここまで計画は順調だ。だけど、君を本当に手に入れるには、もう一人、コンツェットという邪魔者がいる。その邪魔者に消えてもらわない限り君を手に入れたとはいえない」
クレイは鋭い目をコンツェットに向けた。
「そこで僕は君を大佐のパーティーに潜入するよう仕組んだ。そのパーティーにはコンツェットも来る。そこでエリスとの婚約発表があることを知っていたから」
「おかしいわ。あの時あなたは私にパーティーにいく必要はない、組織に協力しなくてもいいと言った。私が行かなかったら?」
「確かに僕はそう言った。でもね、君が現れたことによって、僕に心酔するアニタが激しく嫉妬することは計算の内。アニタの性格なら、必ず君を困らせるため、パーティーに行かせたらどうだと言い出すと思った。そして、案の定だ。パーティーに向かった君は、そこでコンツェットと運命の再会を果たす。君たちは偶然出会えたと浮かれていたようだけど、実は偶然ではなく、僕が君たちを偶然を装い、引き合わせた」
ファンローゼは唇を引き結ぶ。
コンツェットも怒りで身体を震わせていた。
「面白いくらい、何もかも僕の思い通りに事が進んでいったよ。偶然出会ったと思い込んだ君たちは、すぐに磁石のように惹かれ合った。そして僕の目的は、君とコンツェットが再び愛し合うこと」
「分からないわ。さっきはコンツェットを殺して私を自分のものにしたいと言っていた」
クレイはにっと嗤う。
「そう、最後の仕上げとばかりに、僕はファンローゼ、いったん僕の手から君を手放した」
『君には最後の仕事をしてもらわないとね。頑張っておいで、僕のファンローゼ』
「二人が再び愛し合うことにより、コンツェットが軍を裏切るよう僕が仕向けた。愛する女性を守るため、彼は必ず婚約者を、軍を裏切るだろうとね。それが僕の狙いだ。そしてまさにそうなった。エスツェリア軍のエリートから一転、裏切り者として追われる身になった。その男は間違いなく処刑される」
コンツェットは凄まじい目でクレイを睨みつける。
「そいつは処刑され、そして、ファンローゼ、最後に君一人が残る。そういう筋書きだった」
「私はずっとあなたの手によって踊らされた」
「ごめんね。君を手に入れるためなら、どんなことでもするつもりでいたから」
クレイは銃口を再び、コンツェットの心臓に狙いを定める。
コンツェットの身体が強張ったのが、気配で分かった。
「ということで、上層部から君を捕らえるよう命令が出た。状況によっては殺してもかまわないと許可を得ている。悪く思わないで欲しい。おとなしく捕まっても、ここで僕に撃たれても、抵抗してもしなくても、最終的に君は死ぬ運命だ。おとなしく受け入れるがいい。ああ、安心して、ファンローゼは僕が幸せにするから」
「クレイ!」
ファンローゼは両手を広げ、コンツェットの前に立ちはだかった。
クレイは眉をひそめ、端整な顔を翳らせる。
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