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第7章 誰も私たちの知らない場所へ

7 仕組まれた罠だった

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「行方を探す? 嵐の日、おまえは俺たちを敵軍に売った。それなのに、ファンローゼが生きているとなぜ思った? 俺たちだって、殺されていたかもしれない。いや……」
 事実、敵軍に追い詰められ、殺されそうになった。
 奇跡的に助かったとはいえ、危ない状況だった。
「ああ、その心配はまったくしていなかったよ」
 クレイは大袈裟に両手を開いた。
「なぜならコンツェット、君なら命にかえてでもファンローゼを守り、逃げ切ると思ったから。結果、僕の思惑とは少し違ったけれど、彼女はこうして生きている。そうだろう?」
 確かにクレイの言う通りだ。
 ファンローゼもコンツェットも、絶体絶命の危機を乗り越え生き延びた。
 クレイは話を続けた。
「そして、ようやくファンローゼが隣国スヴェリアにいることを突き止めた僕は、クレイという偽りの名でファンローゼに近づいた。そこからはエスツェリア軍の諜報員、反エスツェリアの〝時の祈り〟のリーダー、そして、人の良い花屋の青年、という三重の生活をすることになった」
 クレイはその頃を懐かしむように、顔を上げ、目を閉じた。
「スヴェリアで過ごしたあの三年間は、平凡だったけれど、僕にとって幸せな日々だった。軍を抜けあの小さな町でファンローゼと幸せに暮らすことを本気で考えた。君も少しずつ僕に心を開いてくれたね。硬い蕾がまるで花開くように。嬉しかったよ」
 けれど、そんな幸せな日も長くは続かなかった。
「そんな矢先、僕にあらたな任務が下された。それは、死んだと思われていたクルト・ウェンデルが実は生きていて、反抗組織として活動していると。だけど彼はとても慎重で用心深く、なかなか所在を突き止められない。そのクルトの行方を突き止め、捕らえろという指示だった。クルトがまさか生きていたとは驚いたよ」
 クレイは緩く首を振る。
「正直、悩んだ。愛しいファンローゼの、たった一人の肉親を捕らえなければならないと思うと、少しばかり心が痛んだ。もし記憶を取り戻した時に、真実を知ればファンローゼは悲しむ。僕は君の悲しむ顔は見たくない。けれど、任務は絶対だ。そこで、ふと考え直したんだ。あるいは、ファンローゼから父親を奪い、愛する人すらも失えば、君は僕以外に頼る者はいなくなる。その時こそ、君のすべてを手に入れられるのではないかと」
 再びクレイの目に危うい光が揺れた。
「そこで僕は、三年前に亡くなったことになっているファンローゼが実は生きている、と居場所とともにエスツェリア軍に情報を流し、ファンローゼを捕らえにやってきた彼らから偶然をよそおい助けた」
 老夫婦の元で暮らすスヴェリアの穏やかな生活は、実はクレイによって壊された。
「……あの時、あの場でクレイが居合わせ、私を助けてくれたのは偶然ではなかった」
「そう、僕が仕組んだこと。ドラマチックだったろ。少しは僕に心が揺れなかったかい? その後、僕は君をエティカリアに連れて行き、君を利用して、身を潜めているクルトの居場所を探らせた」
「もっともな理由を並び立て、私をエティカリアへ向かう決意をさせたのはそのためだった」
「おかげで用心深いクルトも、愛娘の存在にすっかり気を許した。クルトを見つけ出すのも、殺すのも簡単だったね」
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