わたしの師匠になってください! ―お師匠さまは落ちこぼれ魔道士?―

島崎 紗都子

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第3章 お師匠さまの秘密を知ってしまいました

ツェツイの決意 3

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「さて、あいつらどうするか」
「え?」
「ツェツイ、もし、あいつらがおまえに嫌がらせをしにここへやって来たんだとしたらどうする?」
 いやがらせ、ですか? とツェツイは首を傾げる。
「そ、悪質ないやがらせ。場合によっては、俺も本格的に動かなければいけなくなる」
「はあ……」
 やはり、ツェツイはわけがわからないと首を傾げるだけであった。
 そんな、ツェツイにイェンはもう一度どうする? と問う。
「そんなの気にしません。相手にもしません。この間はお師匠様のことを悪く言われてあたしも頭に血がのぼってしまったけど……もうお師匠様に迷惑かけたくないから。でも、それがどうしたのですか?」
「そう言うと思ったよ」
「そう言うと思った? あの……」
 ますますわからないです、と首を傾げるツェツイに、イェンは苦笑いを浮かべる。
 なら、彼らがしたことをツェツイに話すこともないだろう。
 話してあの二人をどうするかと聞いても、ツェツイのことだ、返ってくる答えは予想がついていた。というか、予想通りであった。
 ならば、これ以上、ツェツイやマルセルたちの関係をわざわざこじらせるようなことをするのはかえって話がややこしくなるだけ。
 それにしても、あの二人には少々怖い思いをさせたばかりだというのに、どうやらまだ懲りていないのか。
「おい! おまえらそこで何してんだよ」
 いきなり声をかけられたマルセルとルッツは、びくりと肩を跳ねた。
 何でツェツイの家にイェンがいるのだと驚いた様子だ。
 刻を戻したことにより、彼らも記憶が混乱しているらしい。
「その手は何だよ」
 炎の術を使おうとして持ち上げていた手だ。
 その手とイェンに言われ、マルセルは目の前に上げていた右手に視線を向け慌てておろして背中に隠す。
 そこで、イェンは何か思いついたかのように、にやりと笑った。
「おまえら、ちょっとこっちに来い」
 腕を組んだ姿勢のまま、イェンはあごで二人にこちらへ来るよう命じる。
「何だよ、何で僕がおまえごときに命令されなきゃ……」
「いいから、俺が来いって言ってんだから来るんだよ。さっさとしろ」
 マルセルはうっ、と声をつまらせた。
「な、何であいつあんなに偉そうなんだよ。僕たちに対して命令口調だし! 僕の方があいつよりも格上だぞ。っていうか、あいつ、あんな性格だったか?」
「知らないよ……何かすごく怒ってるみたいだよ。マルセル、またあいつに何かしたの?」
「してないよ! するわけないだろ!」
 ツェツイの試験を妨害したあの日、そのことをイェンに知られ怖い目にあわされた。
 あれ以来、イェンとはかかわらないようにしてきたのだ。
「マルセルどうする?」
「くそ!」
 結局、イェンの圧力に負け、マルセルとツェツイはそろそろと近寄っていく。
 窓辺に歩み寄った二人の肩を、両手でがしりとつかんでイェンは自分の側に引き寄せる。
「ひっ!」
 二人の耳元に口元を寄せ、イェンは小声でツェツイには聞こえないようにささやく。
「なあ、おまえら旅したくないか?」
 旅? とマルセルとルッツは突然何を言い出すんだと訝しむ。
「誰も行ったことがない。いや、違うな。滅多にいけない、静かなとこだ。どうだ?」
 マルセルとルッツはごくりと唾を飲み込む。
「一瞬で連れてってやるぞ」
「そ、それはどこ……」
 思わず問いかけるマルセルに、イェンは薄い笑いを刻む。
「時空の狭間だ。そこに飛ばして置き去りにしてやる」
「……っ!」
 声にならない悲鳴を上げ、咄嗟に二人は肩に回されていたイェンの手を振り払う。
 このまま、その時空の狭間とやらに連れていかれるのではないかと恐れたからだ。
「何しにここへ来たんだが知らねえが、いいか、これ以上こいつに何かしたら……まあ、これ以上は言わなくてもわかるよな。言っておくが」
 イェンはすっと目を細めた。
「俺は本気だからな」
 凄みを増したイェンの低い声音にマルセルは顔色を失い、ルッツはぶるっと身を震わせた。
「マルセル、こいつやばいよ。やばすぎるよ。目が本気だよ」
 ルッツは怯えた顔で後ずさる。
「お、おまえ! 頭おかしいんじゃないのか!」
 ツェツイの家に火をつけようとしたマルセルに、頭がおかしいと言われるのは心外だ。
「ちくしょう! そもそも、僕は何しにここへ来たんだ? 僕の家、反対方向なのにっ! もうわけわかんないよ!」
「おい」
「何だよ! まだ何かあんのかよ」
「この間の、こいつの試験についての謝罪はねえのか?」
「う、うるさい!」
 と、吐き捨て、マルセルは逃げるように背を向け走り去っていく。
「マルセル……待ってよ! ちゃんと謝ったほうがいいって……ねえ、マルセル、マルセルってばー!」
 去って行くマルセルとイェンを交互に見ておろおろするルッツだが、彼もマルセルの後を追いかけるようにこの場から立ち去る。
「うるさいって、何だよありゃ。態度わりいな」
 遠ざかって行く二人の後ろ姿を見ながら、イェンはやれやれと肩をすくめる。
 どこまで、ひねくれたがきなんだと。
 イェンの背後で今のやりとりを見ていたツェツイは、何があったの? ときょとんとして首を傾げている。
「お師匠様、マルセルたちと何を話していたんですか? 旅とか言っていたように聞こえましたが」
「何でもねえよ。たいしたことじゃない。それより、芋買いに町に行くか」
「え! 本当に買いにいくのですか? てっきり冗談かと思ってました」
「俺が冗談、言ったことあったか」
 ツェツイはうーん、と考えて。
「ない、です……」
 と、答える。
「なら、行くぞ」
「はい!」
 と、振り返った二人は揃ってぎょっとした顔をする。
 何故なら、背後に一人の老人が立っていたからであった。
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