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第3章 お師匠さまの秘密を知ってしまいました
大魔道士パンプーヤ 1
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いつの間にそこに立っていたというのか、振り返ったそこにツェツイと背丈がほとんどかわらない、こじんまりとした老人が右手を挨拶代わりにあげ立っていた。
それにしても……老人の身なりはすごかった。
身にまとっているのは、すり切れほつれた麻袋のような生地。
足下も履きつぶして、くたびれたサンダルを引っかけていた。
そして、左手には杖。
けれど、身なりは小汚いが、白く染まった長髪と胸の辺りまで伸ばしたあごひげは、光の加減によってはつややかな銀色に輝き風格が感じられた。
「な、何なんだよ! いきなり人の後ろに立ちやがって、驚くじゃねえか!」
「何じゃ! こうしておまえさんの顔を見に来てやったというのにその言いぐさは。相変わらずかわいげの欠片もない奴じゃのう」
「あんたにかわいげがどうのって言われてもな。別に俺はあんたの顔なんか見たくもねえし。で、何しに来やがった」
「何しに来やがったとは、まったく、年寄りを気遣うという労りの気持ちがおまえさんにはないのか」
「気遣う? それを言うならあんたこそもう少し自分の身なりを気遣え。相変わらずどうでもいい服装しやがって恥ずかしくねえのか?」
「わしが何を着ようと勝手じゃ、おまえさんには関係ない」
「確かに関係ねえな」
「えっと、あの……おじいさんはどなたですか?」
突然言い争いを始めた二人を交互に見つめ、ツェツイはおろおろとうろたえる。
おそらく知り合いなのだろう。それは見ればわかるのだが……。
「わしか?」
よくぞ聞いてくれました、といわんばかりにその老人は垂れ下がった細い目尻をさらに細くさせ、にんまりと笑う。
「わしは大魔道士パンプーヤ。こやつの師匠じゃ」
こやつと言って、パンプーヤは持っていた杖でイェンの脇腹をつんつんと突っつく。
イェンは目の前に突き出されたその杖をうっとうしいとばかりに手で払いのける。
「し……師匠っ! 大魔道士様がお師匠様のお師匠様!」
「そうじゃ。こやつには、いずれ二代目パンプーヤを継がせてやろうと思ってるんじゃ。まあ、いずれじゃがのう。いずれ」
「お師匠様が未来の大魔道士様……すごいです……」
パンプーヤは満足そうにうむうむとうなずく。
噂でしか聞いたことのない伝説にも近い大魔道士が目の前にいる。
それだけでも信じられないことなのに、その大魔道士がお師匠様の師匠で、そして、お師匠様がいずれ大魔道士になると聞いたツェツイは驚きに半分口を開けてしまっている。
「継がねえよ! これっぽちも継ぐ気ねえから。だいいち何がパンプーヤだ。ふざけた名前しやがって」
「おまえさんはわかっておらんのう。大魔道士ともなれば……」
パンプーヤは真剣な目でイェンを見上げる。
「女性にもて放題だぞい」
「あほか。それとその口調はやめろ。何かいらっとすんだよ」
驚くツェツイとは対照的に、イェンはさらに眉根を険しくさせ不機嫌となる。
そこでツェツイはパンプーヤが手にしている杖を見て、あ、と声を上げた。
イェンの先ほどの杖が誰に譲られたものか、本人は押しつけられたと言っていたが……すぐに理解する。
パンプーヤの持っている杖は、先ほど見たイェンの杖と形状も飾りもほぼ同じ派手な杖であったから。
ただし、イェンが持っていたものよりも一回りほど小ぶりだが。
「そもそも、誰がいつあんたの弟子になった。あんたが突然俺の前に現れて、勝手に師匠を名乗ってんだろ。だいいち、あんたに師匠らしいことなんか一度もしてもらった覚えねえし、いい迷惑だ」
「迷惑とはずいぶんなことを言うのう。これまでおまえさんの不始末やら好き勝手やら、うっかりやら何やらを、わしがどれだけ後始末してきたり、面倒みてきてやったというのか」
「頼んでねえよ」
「ほうほう、そういう生意気な口をきくか。そう、七年前のあの時も……」
「それ以上、口にしたら……」
イェンにじろりと睨みつけられ、パンプーヤはしょんぼりとうなだれる。
「とにかくとっとと帰れ、俺たちはこれから町に出かけるんだ。ああ待て、いい機会だ。あんたが押しつけていったあの趣味の悪い杖返すから。売っても捨てても必ず俺の元に戻ってきやがって、薄気味悪いんだよ」
「わしがせっかくくれてやったあの杖を売ったのか! 捨てたのか! 何と……嘆かわしい。わしが取り戻してきてやろう。で、杖はどこに売ったんじゃ? どの辺りに捨てた?」
「だから、売っても捨てても俺の元に戻ってくるって、たった今話したばかりだろ! ちゃんと人の話を聞け」
「ところで、ツェツイーリアちゃんだったかのう?」
パンプーヤはにっこりと人のよい笑みをツェツイに向ける。
「聞けよ!」
イェンは苛立たしげに髪をかきむしる。
それにしても……老人の身なりはすごかった。
身にまとっているのは、すり切れほつれた麻袋のような生地。
足下も履きつぶして、くたびれたサンダルを引っかけていた。
そして、左手には杖。
けれど、身なりは小汚いが、白く染まった長髪と胸の辺りまで伸ばしたあごひげは、光の加減によってはつややかな銀色に輝き風格が感じられた。
「な、何なんだよ! いきなり人の後ろに立ちやがって、驚くじゃねえか!」
「何じゃ! こうしておまえさんの顔を見に来てやったというのにその言いぐさは。相変わらずかわいげの欠片もない奴じゃのう」
「あんたにかわいげがどうのって言われてもな。別に俺はあんたの顔なんか見たくもねえし。で、何しに来やがった」
「何しに来やがったとは、まったく、年寄りを気遣うという労りの気持ちがおまえさんにはないのか」
「気遣う? それを言うならあんたこそもう少し自分の身なりを気遣え。相変わらずどうでもいい服装しやがって恥ずかしくねえのか?」
「わしが何を着ようと勝手じゃ、おまえさんには関係ない」
「確かに関係ねえな」
「えっと、あの……おじいさんはどなたですか?」
突然言い争いを始めた二人を交互に見つめ、ツェツイはおろおろとうろたえる。
おそらく知り合いなのだろう。それは見ればわかるのだが……。
「わしか?」
よくぞ聞いてくれました、といわんばかりにその老人は垂れ下がった細い目尻をさらに細くさせ、にんまりと笑う。
「わしは大魔道士パンプーヤ。こやつの師匠じゃ」
こやつと言って、パンプーヤは持っていた杖でイェンの脇腹をつんつんと突っつく。
イェンは目の前に突き出されたその杖をうっとうしいとばかりに手で払いのける。
「し……師匠っ! 大魔道士様がお師匠様のお師匠様!」
「そうじゃ。こやつには、いずれ二代目パンプーヤを継がせてやろうと思ってるんじゃ。まあ、いずれじゃがのう。いずれ」
「お師匠様が未来の大魔道士様……すごいです……」
パンプーヤは満足そうにうむうむとうなずく。
噂でしか聞いたことのない伝説にも近い大魔道士が目の前にいる。
それだけでも信じられないことなのに、その大魔道士がお師匠様の師匠で、そして、お師匠様がいずれ大魔道士になると聞いたツェツイは驚きに半分口を開けてしまっている。
「継がねえよ! これっぽちも継ぐ気ねえから。だいいち何がパンプーヤだ。ふざけた名前しやがって」
「おまえさんはわかっておらんのう。大魔道士ともなれば……」
パンプーヤは真剣な目でイェンを見上げる。
「女性にもて放題だぞい」
「あほか。それとその口調はやめろ。何かいらっとすんだよ」
驚くツェツイとは対照的に、イェンはさらに眉根を険しくさせ不機嫌となる。
そこでツェツイはパンプーヤが手にしている杖を見て、あ、と声を上げた。
イェンの先ほどの杖が誰に譲られたものか、本人は押しつけられたと言っていたが……すぐに理解する。
パンプーヤの持っている杖は、先ほど見たイェンの杖と形状も飾りもほぼ同じ派手な杖であったから。
ただし、イェンが持っていたものよりも一回りほど小ぶりだが。
「そもそも、誰がいつあんたの弟子になった。あんたが突然俺の前に現れて、勝手に師匠を名乗ってんだろ。だいいち、あんたに師匠らしいことなんか一度もしてもらった覚えねえし、いい迷惑だ」
「迷惑とはずいぶんなことを言うのう。これまでおまえさんの不始末やら好き勝手やら、うっかりやら何やらを、わしがどれだけ後始末してきたり、面倒みてきてやったというのか」
「頼んでねえよ」
「ほうほう、そういう生意気な口をきくか。そう、七年前のあの時も……」
「それ以上、口にしたら……」
イェンにじろりと睨みつけられ、パンプーヤはしょんぼりとうなだれる。
「とにかくとっとと帰れ、俺たちはこれから町に出かけるんだ。ああ待て、いい機会だ。あんたが押しつけていったあの趣味の悪い杖返すから。売っても捨てても必ず俺の元に戻ってきやがって、薄気味悪いんだよ」
「わしがせっかくくれてやったあの杖を売ったのか! 捨てたのか! 何と……嘆かわしい。わしが取り戻してきてやろう。で、杖はどこに売ったんじゃ? どの辺りに捨てた?」
「だから、売っても捨てても俺の元に戻ってくるって、たった今話したばかりだろ! ちゃんと人の話を聞け」
「ところで、ツェツイーリアちゃんだったかのう?」
パンプーヤはにっこりと人のよい笑みをツェツイに向ける。
「聞けよ!」
イェンは苛立たしげに髪をかきむしる。
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