あやかし屋敷の離れでスムージー屋さん始めました~生きていくにはビタミンが必要です~

橘 ゆず

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4. 狐に嫁入り?

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  目が覚めると布団の中だった。

(なんだあ…夢か。良かった……)

 と思ったのも束の間。

(ん? 布団!?)
 雫はがばっと起き上がった。
 雫が寝かされていたそこは、一人暮らしを始める時に買ったベッドの上ではなく、見覚えのない和室に敷かれた布団の上だった。

 掛布団は妙に光沢のある赤で、そこに金色で描かれた花や鳥の模様が飛んでいる。
 
「なに、ここ……?」
 まだぼんやりしている頭で記憶を辿る。

(確か私、お祖父ちゃんの遺産だっていうお屋敷を見に来て……。それからどうしたんだっけ?)

 その時、すうっと襖が開いて人が入ってきた。

「あらっ、目が覚めたの?」
 そう言ったのは、腰くらいまでの長さの髪を垂らした着物姿の女の人だった。

 黒目がちの目をしたとてもきれいな女性だったけれど、彼女の姿を見た雫は固まった。

(髪の、色が……)

「大丈夫? 気分は悪くない? まったくひいらぎが驚かすから……」
 そう言う女性の髪は、芽吹き始めた木々の若芽のような、淡く瑞々しい緑色だった。
 カラーリングとかそういうのではないのは明らかだった。

 木々の緑の色をそのまま切り取ったような透明感のある緑色。
 そんな髪の人間を雫は今まで見たことがなかった。

(これも夢……それにしては妙にリアルな……)
 
 その時、

「え、雫の目が覚めたって?」
 廊下の奥で声がして、パタパタとこちらへ駆けてくる足音がした。

「雫! 大丈夫かい?」
「きゃあああ!」
 部屋に入ってきた男を見て、雫は思わず悲鳴をあげた。

「ど、どうしたんだい。雫」
「さ、さっきの痴漢……!」
 雫は思わず後ずさり、庇うように近寄ってきてくれた若木色の髪の女性にしがみついた。
「痴漢!? どこに」
「あなたよ、あなた」

 女性が呆れたように言った。

「まったく初対面でいきなり抱きつくなんて信じられないわね。しかも尻尾も見せちゃうし。驚くに決まってるでしょ。雫さんは普通の人間なのよ」

 聞き捨てならないことを聞いたような気がする。
 普通の人間、ということはこの人たちは普通の人間ではないということなのだろうか。

(いや、見るからに普通じゃないけど)

 女の人は、ふうっと溜息をついて私を見た。

「色々誤魔化しても無理があるから、本当のことをそのまま言うわね。まずは自己紹介から。私は風鈴ふうりん。柳の木の精よ。門のところに立ってたでしょう? あの木の精霊」
「精、霊……」

「それでこっちは柊。この辺に棲みついてた狐のなれの果て」
「そんな言い方ないだろう。風鈴」

 柊と呼ばれた黒髪の青年が不服げに言う。
「ちゃんと仙狐せんこと言って欲しいな。千年生きて神通力を持つようになった狐の精」

 雫はごくりと息を呑んだ。

「あの……これってドッキリか何かで……」
 柊と風鈴は顔を見合わせた。

「まあ、そう思うわよね、普通」
「榊のやつ、何も話してなかったのかよ」

「榊さん……?」

  (そうだ。今日はそもそも榊さんと一緒にここを見に来る約束だったんだ……!)
 雫は立ち上がると、部屋の隅においてあった自分のバッグを引き寄せた。

「あれ、雫。どうしたの?」
「あの、私、榊さんと一緒にまた来ます。今日のところはこれで……」

「え、ちょっと……」
 そのまま、有無をいわせず立ち去ろうとしたのだが、玄関の方向が分からない。
 うろうろしていると、
「いやあ。遅くなりました。お待たせしてしまって」
 と榊さんが入ってきた。

 初めて会った時と同じような和服姿だった。
 あの時は、変わった人だなと思ったが、この変わってるどころではないメンバーだらけの屋敷の中で会うと地獄に仏とかこのことかと思える。

「さ、榊さん」
「ああ。雫さま。先に中へ入られていたのですね。気がつかずに外で少し待ってしまいましたよ」

「すみません。……っていや、そんなことよりここの家っていったい」

「もう誰かに会いましたかね?」
「あ、会ったも何も……あの人たちは誰なんですかっ」

「住人ですよ。ここの」
 榊さんはこともなげに言った。

「ほ、他の人が住んでるんですか? そんなの聞いてないっ」
「いやあ、厳密にいうと他の『人』ではないんですけどね」
 榊さんは困ったように頭をかいた。

「説明するより、実際に見て貰った方が早いと思って今日ここへ来ていただいたのですが」

「それにしたって限度があるわよ。少しくらい説明しておいてくれないと」
 座敷から風鈴さんが顔を出して、文句を言う。

「それでなくても柊がこの間から先走って大変なのに。さっきも初っ端から驚かせて雫ちゃんを気絶させちゃったのよ」
「え、気絶? それはそれは」

 榊さんは恐縮したように頭を下げた。
「い、いえ。謝ってくれなくてもいいですから、それより説明して下さい。どういうことなんですか?」

「何だよ、榊。じゃあ僕と雫の結婚のことについてもまだ何も言ってくれてないのかよ」
「柊。その話はまたおいおいにと言ったでしょう」
 榊さんが溜息をついて言う。

「いやっ、おいおいにってどういうことなんですか? なんでこの人と私が結婚することになってるんですか!?」
 雫に詰め寄られて榊は、仕方なく話し始めた。

 それによると、祖父はある水神を祭る神社の宮司をしていて、なんというか「見える」人だったのだという。

 そのため、祖父のまわりには、いつの頃からかあやかしと呼ばれる不思議なものたちが集まってくるようになってしまったらしいのだ。

 「この千年で人間界は随分と変わりました。その変化に適応しきれずに困っているあやかし達を伊蔵さまは見捨てておかれず、色々とお世話をなさっていたのです。そうして、現世と彼らの住まう幽界の入り口が繋がっているこの土地に屋敷を構え、彼らと一緒に暮らしてきたのです」

「成程……って、いや、それと私と何の関係が。そもそも結婚ってどういうことですか?」
「ああ。それに関しては聞き流していただいて結構ですよ。柊が一人で言っているだけですから」

「いいや、違う!」
 柊がきっぱりと言った。

「伊蔵は確かに言ってくれた。『もし、わしに娘か孫娘でもいたら、おまえと添わせてやるのになあ』って。『幸せにすると約束してくれるなら喜んで嫁にやる』ってね!」

 得意げに言う柊を見ながら、私は混乱だらけの頭の中を必死に整理しようとした。
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