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三章 湯けむり温泉、ぬるぬるおふろ
いつまでも、三人で一緒にあそぼうね
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その夜、臨は夢を見ていた。航と初めて出会った時のことだ。
『どう? クラスには慣れた?』
真面目でかっこよくて女子にも男子にも人気のある、優しい委員長・航。二人はその時に友達になった。それがはじまり。大人になって、たまたま凛と航の性行為の動画を撮ってしまって、そこから。そこから臨は足をすべらせた。
航というサラセニアのような人間の闇に引きずり込まれる。サラセニアの内部には下向きの毛が生えていて、登ることはできない。臨は底部に溜まった液体の中に静かに沈んでいく。
プロテアーゼ、酸性フォスファターゼ、エステラーデ、アミノペプチダーゼなどの消化酵素に満たされた捕虫袋。その中はまるでぬるぬるとした温泉のようだった。ただし、一度入ったら出られない、身体を溶かして分解・消化するアルカリ性のお風呂。
じわじわと臨の身体が溶けていく。脳の髄液も含めた体内の液体が、徐々に沸騰し、蒸発していく。その時の蒸気が、まるで温泉の湯けむり。
身体がねじ曲がっていく。筋肉が急速に収縮する。骨は損傷し、地獄のような痛みが全身を襲う。ただ悲鳴をあげることしかできないし、しかし叫んだところで誰も助けには来ないし逃げられない。
臨はもがきながら袋の底から空を見上げる。凛と航がいた。小学生と中学生の頃の姿。手を差し伸べてにっこりと笑う航。その後ろに隠れる小さな凛。その手を取って上に引き上げられる。
『いつまでも、三人で一緒にあそぼうね』
その微笑み。優しい言葉。抱きしめられた。それはサラセニアの蜜腺。獲物をおびきよせるための罠。
今の臨はまるで蝶々。三人で虫取りをして……虫かごに入れたはいいけれど、どう育てていいか分からなくて放っておいた虫。かごの外に出られないまま、干からびるようにして死んだ黒あげは。
『一生、三人で一緒だよ……』
航に抱きしめられた臨の後ろから、小さな凛が囁く。生え代わりで抜けた前歯のない口。ぽっこりしたおなか、ぷにぷにの短い手足。可愛らしく笑いながら手を伸ばした凛。その小さな紅葉のおててを触ると、べとべととしている……それは消化液。ムシトリスミレの身体を覆う、無数の粘液。
サラセニアとほぼ同じ成分だがそれに加えて、リボヌレアーゼ、エステラーゼといった消化液で獲物を捕まえたまま消化する。可憐な花を咲かせて蜜といい香りで獲物をおびきよせるのだ。歴史上ではヨーロッパ全土で魔女よけに使われていた、魔女をも喰らう魔性の花。
ぼろぼろの身体を、兄弟に半分こされる。臨はまもなく死ぬ。しかし彼らの中で一生生き続けるのだ。兄弟が整った顔をゆがめて笑う。キスをする。食いちぎられる。噛まれる。飲み込まれる。溶かされる。血肉の一部となって身体の中を巡る。けたけた、と二人が笑う声がした。
「うわあっ!」
臨は飛び起きた。ちゅん、ちゅん、とすずめが鳴いていた。慌てて辺りを見回す。誰もいない。布団はまだ敷きっぱなし。どく、どく、と鼓動を刻む心臓を押さえつけて、臨が息を整えていると……入口のふすまが開いた。
「あ、おはよう臨」
「お兄ちゃんと朝風呂に入ってきたよ! 気持ちよかったぁ」
浴衣姿でほかほかになった二人が和室に入ってきた。さっぱりとした顔でテレビをつけて、布団に寝転ぶ兄弟。天気予報やニュースを見て、二人で楽しそうに話している。
夢も、昨日の事も嘘みたいだった。臨はもう一度寝転んだ。
「最近は暗いニュースが多いよね。凛も気を付けてね」
「うん、ほんと……あっ、あの女優さん、結婚したんだって! びっくり。これは明るいニュースじゃない?」
「そうだ、結婚と言えば……臨、結婚式いつがいい?」
「え……?」
臨はまだ寝起きなので、頭がはっきりとしない。結婚式……結婚? 誰と誰が?
混乱している臨に寝転がりながら凛が抱きついて、その胸の中に入り込んでしまう。航が移動してきて、後ろから臨に抱きつく。
「やだなぁ……俺たちの結婚式だよ……ふふ、絶対、逃がさない……! 指輪を買って、臨さんと俺たちの母さんで養子縁組してもらって、結婚式挙げて、新婚旅行をしよう……」
「臨は運転免許証とかインターネットの名義も変えないといけないね。知ってるよ、銀行口座三つ・クレジットカード二枚・保険契約二件、パスポートがあるよね……ぜーんぶ一緒に変更しに行こうね……」
ぎり、と後ろから前から絡みつく四本の腕に力が込められる。それはまるで夢の続き。兄弟の足が臨に絡んでがんじがらめにされる。仰向けに押し倒されて二人からキスをされた。
航に唇を奪われながら、凛に舌を引きずり出される。三人で、舌をぺろぺろと舐め合う。まるで相互に食べ合っているように。
今三人が住んでいるシェアハウス。それはさながら、温室。そこに閉じ込められて咲き誇る食虫植物・サラセニアとムシトリスミレ。そして、花の中にひそむ、大人しくて動きがのんびりしている小さなカニグモ。
航がサラセニア・ドラキュラ、凛がムシトリスミレ、臨はその中に潜み兄弟と共生するカニグモだ。被捕食者と捕食者の奇妙な関係は、まだまだ続く。いずれカニグモが補虫袋に落ちて喰われてしまうまでは……ずっと。臨のカラダも心も……人生も一ノ瀬兄弟にむしゃぶりつかれて、離れられない。
いつまでも三人で遊ぶ……それも悪くないかな……臨はかすむ頭で考えた。飴でも食べたのだろうか、絡めた兄弟の舌はぞっとするほど甘く、柔らかだった。
「一生、三人で一緒だよ……」
凛と航が、密やかに笑う声がいつまでも臨の耳に残り続けていた。
『どう? クラスには慣れた?』
真面目でかっこよくて女子にも男子にも人気のある、優しい委員長・航。二人はその時に友達になった。それがはじまり。大人になって、たまたま凛と航の性行為の動画を撮ってしまって、そこから。そこから臨は足をすべらせた。
航というサラセニアのような人間の闇に引きずり込まれる。サラセニアの内部には下向きの毛が生えていて、登ることはできない。臨は底部に溜まった液体の中に静かに沈んでいく。
プロテアーゼ、酸性フォスファターゼ、エステラーデ、アミノペプチダーゼなどの消化酵素に満たされた捕虫袋。その中はまるでぬるぬるとした温泉のようだった。ただし、一度入ったら出られない、身体を溶かして分解・消化するアルカリ性のお風呂。
じわじわと臨の身体が溶けていく。脳の髄液も含めた体内の液体が、徐々に沸騰し、蒸発していく。その時の蒸気が、まるで温泉の湯けむり。
身体がねじ曲がっていく。筋肉が急速に収縮する。骨は損傷し、地獄のような痛みが全身を襲う。ただ悲鳴をあげることしかできないし、しかし叫んだところで誰も助けには来ないし逃げられない。
臨はもがきながら袋の底から空を見上げる。凛と航がいた。小学生と中学生の頃の姿。手を差し伸べてにっこりと笑う航。その後ろに隠れる小さな凛。その手を取って上に引き上げられる。
『いつまでも、三人で一緒にあそぼうね』
その微笑み。優しい言葉。抱きしめられた。それはサラセニアの蜜腺。獲物をおびきよせるための罠。
今の臨はまるで蝶々。三人で虫取りをして……虫かごに入れたはいいけれど、どう育てていいか分からなくて放っておいた虫。かごの外に出られないまま、干からびるようにして死んだ黒あげは。
『一生、三人で一緒だよ……』
航に抱きしめられた臨の後ろから、小さな凛が囁く。生え代わりで抜けた前歯のない口。ぽっこりしたおなか、ぷにぷにの短い手足。可愛らしく笑いながら手を伸ばした凛。その小さな紅葉のおててを触ると、べとべととしている……それは消化液。ムシトリスミレの身体を覆う、無数の粘液。
サラセニアとほぼ同じ成分だがそれに加えて、リボヌレアーゼ、エステラーゼといった消化液で獲物を捕まえたまま消化する。可憐な花を咲かせて蜜といい香りで獲物をおびきよせるのだ。歴史上ではヨーロッパ全土で魔女よけに使われていた、魔女をも喰らう魔性の花。
ぼろぼろの身体を、兄弟に半分こされる。臨はまもなく死ぬ。しかし彼らの中で一生生き続けるのだ。兄弟が整った顔をゆがめて笑う。キスをする。食いちぎられる。噛まれる。飲み込まれる。溶かされる。血肉の一部となって身体の中を巡る。けたけた、と二人が笑う声がした。
「うわあっ!」
臨は飛び起きた。ちゅん、ちゅん、とすずめが鳴いていた。慌てて辺りを見回す。誰もいない。布団はまだ敷きっぱなし。どく、どく、と鼓動を刻む心臓を押さえつけて、臨が息を整えていると……入口のふすまが開いた。
「あ、おはよう臨」
「お兄ちゃんと朝風呂に入ってきたよ! 気持ちよかったぁ」
浴衣姿でほかほかになった二人が和室に入ってきた。さっぱりとした顔でテレビをつけて、布団に寝転ぶ兄弟。天気予報やニュースを見て、二人で楽しそうに話している。
夢も、昨日の事も嘘みたいだった。臨はもう一度寝転んだ。
「最近は暗いニュースが多いよね。凛も気を付けてね」
「うん、ほんと……あっ、あの女優さん、結婚したんだって! びっくり。これは明るいニュースじゃない?」
「そうだ、結婚と言えば……臨、結婚式いつがいい?」
「え……?」
臨はまだ寝起きなので、頭がはっきりとしない。結婚式……結婚? 誰と誰が?
混乱している臨に寝転がりながら凛が抱きついて、その胸の中に入り込んでしまう。航が移動してきて、後ろから臨に抱きつく。
「やだなぁ……俺たちの結婚式だよ……ふふ、絶対、逃がさない……! 指輪を買って、臨さんと俺たちの母さんで養子縁組してもらって、結婚式挙げて、新婚旅行をしよう……」
「臨は運転免許証とかインターネットの名義も変えないといけないね。知ってるよ、銀行口座三つ・クレジットカード二枚・保険契約二件、パスポートがあるよね……ぜーんぶ一緒に変更しに行こうね……」
ぎり、と後ろから前から絡みつく四本の腕に力が込められる。それはまるで夢の続き。兄弟の足が臨に絡んでがんじがらめにされる。仰向けに押し倒されて二人からキスをされた。
航に唇を奪われながら、凛に舌を引きずり出される。三人で、舌をぺろぺろと舐め合う。まるで相互に食べ合っているように。
今三人が住んでいるシェアハウス。それはさながら、温室。そこに閉じ込められて咲き誇る食虫植物・サラセニアとムシトリスミレ。そして、花の中にひそむ、大人しくて動きがのんびりしている小さなカニグモ。
航がサラセニア・ドラキュラ、凛がムシトリスミレ、臨はその中に潜み兄弟と共生するカニグモだ。被捕食者と捕食者の奇妙な関係は、まだまだ続く。いずれカニグモが補虫袋に落ちて喰われてしまうまでは……ずっと。臨のカラダも心も……人生も一ノ瀬兄弟にむしゃぶりつかれて、離れられない。
いつまでも三人で遊ぶ……それも悪くないかな……臨はかすむ頭で考えた。飴でも食べたのだろうか、絡めた兄弟の舌はぞっとするほど甘く、柔らかだった。
「一生、三人で一緒だよ……」
凛と航が、密やかに笑う声がいつまでも臨の耳に残り続けていた。
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