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■55 鍛冶屋
しおりを挟む今日は、中心都市に赴いていた。1人で。きっと今、スティーブンが私の事探してるんだろうなぁ。けど執務室にメモ書きしておいたから大丈夫。……だと思う。後が怖いなぁ。
私がここに来たのにはちゃんと理由がある。この前直した井戸を見に来たのもそうだけど、一番の目的は鍛冶屋だ。
確か、一番の鍛冶屋はここだったかな。と、足を運んだ。
一番とあって建物が大きい。色々な音が響いていてちょっと大きな声で「こんにちは」と声をかけた。
奥から出てきたのは、少し筋肉の付いた背の高い男性。アルさんと同じくらいの年齢かな。
今私は外套を着てフードを深く被っているから、領主だとは気づいていないだろう。何用で? と聞いてきた。
「依頼、お願いします」
そう言いながら、私は懐からとあるものを出した。それは……
「これで、ナイフを作ってほしいんです」
「何だ、これ……?」
ちょっと待ってろ、とそれを受け取り奥に行ってしまった。
待っている最中に、周りを見渡した。あれ、これはモダルさんの店で見たことがある素材で出来てる。へぇ、こっちもだ。きっと、今の主流はこの素材の剣などの武器なのだろう。
「おい」
そして、奥からガタイの良い50代くらいの男性が出てきた。汗が出てるから、きっとさっきまで鉄を叩いていたのかな。
「何でおめぇさんがこんなの持ってるんだ」
こんなの、とはこの黒曜鉱石の事だ。以前、北の森で〝悪魔の心臓〟を処理するために錬成した鉱石。主に武器として使われる素材だ。けれど、中々お目にかかれないものなのだ。
私は、錬成してこれを作ったけれど、出回っているのは普通に鉱山で採取されたもの。希少価値のある代物らしい。
「偶然貰ったんです」
その言葉に、疑いの目を向けてきた。こんな小娘がこんなものを持ってるなんて、そう思っているのだろう。
「これでナイフを作ってくれませんか。実は、私のナイフにヒビが入ってしまって」
以前、この国に来てすぐに新しいナイフを錬成したけれど、この前モンスターと出くわした際咄嗟にナイフで受け身を取ってヒビが入っちゃったんだよね。
この黒曜鉱石は、とても硬いものだ。だから、扱いづらい。けど、出来上がったらとても頑丈なものになるだろう。
錬成でナイフを作るのは私にとっては簡単だ。けれど、職人が時間をかけて作るものに比べればおもちゃになってしまう。これは、この国に来てから知った事だ。
「どうです?」
「……しょうがねぇな、わーったよ。ナイフだな?」
「ありがとうございます!」
このナイフと同じくらいの大きさでお願いします。とヒビの入ってしまったナイフを渡したのだ。
代金はと聞いた時、私は目を飛び出しそうになったのだ。
「……えっ?」
「んだよ、高いってか? 依頼なんだから仕方ねぇだろ」
「え、あぁいや、そうじゃなくて、」
この金額は、モダルさんのお店で並べられている武器の一番安い値段の3分の1だ。こんなに安くていいのか……ちょっと待って。
「あの、ここって首都に卸してるんですよね。その剣とか、1つずつ下さい」
「はぁ? 何でお前が」
「お願いします!」
テーブルに、沢山の金貨を入れていた袋を置いた。中を覗いた男性が、口を開けて驚く。袋と、私を交互に見てきて。口には出してはいないけど、お嬢ちゃん何もんだ? と言いたそうな顔を向けてきた。
じゃ、じゃあ……と、全部1つずつ持ってきてもらったのだ。代金を払い、収納魔法陣を開き全てその中に。
その作業に、彼らは私が錬金術師だと気が付いただろう。私だとという所まで気が付いたかな? でも私はそれどころじゃない。じゃあお願いしますね、とすぐに店を出た。
そして、私は回れるだけの鍛冶屋を訪ねた。何種類か1個ずつどんどん買っていく。たぶん、明日には噂になっているかもしれないけれど、まぁいいや。
気がついた頃には、少し陽が沈みかけてきていて。直ぐに戻らないとこれはスティーブンのお仕置きの時間が伸びてしまう。急いで屋敷に戻った。
思った通り、スティーブンは鬼の形相で私を待ち構えていた。けれど、そんな時間は私にはない。
「スティーブン、鍛冶屋の人達が首都に卸してる記録とか資料とか全部持ってきて」
「えっ?」
「いいから早く!」
私の予想が正しければ、これは大問題だ。
そしてその考えは、数時間後肯定されてしまうのである。
モストワ領の鍛冶屋達が契約を結んでいる商会。それは、
「サロジア商会……」
聞いた事がある。以前、ギルドで指定依頼の中にそんな名前があった。ユリア達が、この商会は嫌な噂ばかりだと言っていたような。
「如何いたしました」
「明日、首都に行ってくるよ」
「で、ですが……」
「早い方がいい」
幸い、ルシルちゃんで向かえば半日で着く。直ぐに向かって、用事を済ませて帰ってくればいい。スティーブンは、それでは私もと言ってきたが、私の留守を任せたい。
1人でも大丈夫だよ、とは言ったけどそれはやめて下さいと言われてしまい護衛という事で警備のユウラを連れていく事になった。ルシルちゃん、乗せてくれるかな。
久しぶりに来た首都は、以前と変わらず活気づいていた。
「如何いたしますか」
一緒に来てくれたユウラ。ついさっきまで顔には出していなかったけれど空の移動に怖気ずいていたのに、もう復活するとはさすが警備兵。
「私がポーションを定期納品している店に行くよ」
そう、モダルさんのお店だ。この剣を見てもらう。商売人だから目利きがいいと思うけれど、何て言うだろうか。
ちょうど、私達が来た時間帯は混んでいなかった。お久しぶりですね、と声をかけると嬉しそうに「ステファニーちゃんじゃねぇか!」と喜んでくれた。隣にいたユウラは、男爵様になんて態度だ、と言いたそうだったけれど私が止めた。別に気にしない。
「それで、剣を見て欲しいと」
「はい」
持ってきた品を見たモダルさんの感想は、私の予想していたものを上回るものだった。
「おいおいこれ全部ブランド品じゃねぇか」
「ブランド?」
「サロジア商会の目玉商品の一つだ」
これ結構するんだぞ? と驚くモダルさん。これどうしたんだ、と聞かれ事情を説明した。そりゃいかんと商会を紹介して頂くことになった。
「俺の店で、ってことは出来ねぇのが悔しいがな。仕方ねぇな」
お店が小規模だからである。だけど、ポーションを売らせてもらってるだけでありがたいと言ってくれた。
人脈、というのは時には大きな力になる。それがよく分かった気がした。
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