大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫

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■54 水問題

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 今日もこのモストワ男爵邸に来訪者がいた。


「お初にお目にかかります。ここ中心都市の代表を務めております、ボアスでございます」


 それに続き、町の町長達にも集まってもらった。

 モストワ領には、中心都市、そして町が2つ、そして村が4つほど。この土地の3分の1が人々が暮らす土地、その他は全て湿地帯なのだ。


「初めまして、お会いできて嬉しいです。どうぞお掛けください」

「……では、」

「……失礼します」


 探っている、警戒している、と言ったところかな? まぁ、気持ちは分かる。以前の領主がアレで、次の領主が錬金術師の小娘だもんね。


「あの、一つよろしいでしょうか」


 口を開いたのは、代表を務めているボアズさん。だが、目線は私ではなく私の座る斜め後ろに立つスティーブンだ。


「……はい、何でしょうか」

「以前の、税金の件です。一年間徴収しない、というのは本当でしょうか」

「男爵様」

「はい、本当です」

「……」

「……」

「領主様の収入源は、税金でしょう。本当によろしいのでしょうか。……後で気が変わった、などと言い出さないとよろしいのですが」


 成程、そこか。まぁそう思うのではないだろうかと予測はしていたけれど。


「えぇ、お約束しますよ」

「本当ですね?」

「はい」


 言い切った。だけど、やっぱりまだ信じて貰えてないな。


「今の現状を教えていただけますか?」

「……」

「……」

「……」


 私が質問する度に、向こうの方々が顔を見合わせる。


「問題点ですが、一番は収入が少ないという所です。知っての通り、ここの収入源はほぼ鍛冶のみです。全て首都に卸すという形を取っています。宿一つなく食事処もほぼありません。誰がこんな所に来ましょう。

 それに卸すにしてもお金がかかりますし、材料費も馬鹿になりません。それに毎回毎回買い取ってくださるわけでもありませんしね。

 もう一つ、ここは湿地帯の近くですから水がよくありません。以前は井戸を使用していましたが、決して良質とは言えないものでしたから皆体調不良を訴えてしまい遠くの川から汲んできていました。

 ですが、以前の領主の言いつけで汲むにしてもお金がかかりました。領主様が無償でとおっしゃって下さいましたが、それでも毎日汲みに行くには限界があります」


 やはり、視線はスティーブン。どうせ小娘に話しても意味はない、と言っているかのようだ。


「如何いたしましょう、男爵様」


 それでも、私に振ってくれるスティーブンは本当に優秀だ。

 水に限界があった、という事は思うように使えず節約するしかなかったという事。確かに地図で確認はしたけれど、あれでは荷車を使ったとしても重労働になってしまう。それを毎日というのには無理がある。


「そうですね……収入の件は要相談としましょう。それと、こちらでも人手が足りず困っていた所です。もしよければ、屋敷で働いてくださると助かります。スティーブン」

「そうですね、メイドと、男手も必要です。それと、子供達の世話係・・・・・・・も」


 その言葉に、ボアズさんは顔をこわばらせていた。その他の人達も。その子供達という単語に反応したのだ。


「実は、警備兵が数名の孤児を見つけてくれまして、屋敷で保護しているんです。赤ん坊もいて、メイド達も大変でして。もし来てくださる方がいれば助かります」


 ちゃんと働いた分はお支払いいたしますので安心してください、という言葉は届いているのだろうか。きっと、この人達の身近に泣く泣く手放した親もいるのだろう。


「あぁ、もし引き取って頂ける方がいらっしゃれば幸いです」

「えっ……」


 手放してしまったのは、以前の領主のせいだ。彼らは悪くない、むしろ被害者だ。彼らは親。仕方なく手放してしまった子供達に会いたい気持ちはあるだろう。

 もし、私がジョシュと離れ離れになってしまったら、と思うと悲しい気持ちになる。けれど、血の繋がった子供ならそれ以上だ。


「……皆に伝えておきます」

「えぇ、よろしくお願いしますね。

 あぁあと、水の件ですが、私に考えがありますので後日そちらに伺います」

「えっ……」

「承知いたしました、では視察という形で。よろしいでしょうか」

「は、はい……」

「お、待ちしております……」




 代表達が帰っていった。とても不安そうな顔ではあったけれど、これから良い関係が築けるよう時間をかけていけばいいかな。


「お持ちいたしました、領内の井戸についての資料です」

「ありがとう」

「あの、如何なさるおつもりで?」

「あら、忘れちゃった? 私は男爵である前に錬金術師だよ?」

「えっ……」

「視察の件は、ジョシュとローレンスも連れていくからね」

「しょ、承知いたしました……」


 何だか、マズい顔してるけどいっか。領民達の為にちゃんと働きますよ。





 約束していた日になり、朝から準備されていたシャツとズボンに着替えて着々と向かう準備がされていた。


「本当にこれで行くんですか?」

「だって、歩くじゃない」

「ですが……」

「ドレスじゃ動きずらいじゃない。これがいいの」


 というサマンサとの会話をしながら馬車へ。馬車にはもうジョシュとローレンスも乗っていた。


「スティーブンまで来ることなかったのに」

「私が行かないで、誰が男爵様の暴走を止めるのですか」


 暴走って、酷くない? 私今まで暴走した事あったっけ? 覚えがないんだけど。


「ししょー、」

「井戸って言ってましたけれど、具体的には僕達何をすればいいのでしょう?」

「ん? 手本を見せようと思って、授業の一環だよ」

「師匠の素晴らしい錬金術を見られるのは嬉しいです!」


 目を光らせる二人、あの王宮術師さん達とおんなじだ。そう思うと自然とクスクスと笑ってしまった。




「お待ちしておりました……男爵様」


 民衆が集まってる、代表さん達が言って見に来たのか。


「……あ」


 民衆の中に、見知った顔を発見した。そう、あの時のパンを売ってくれたお姉さんだ。驚きと、不安。そんな感情が見て取れる。


「それで、どうなさるおつもりで」


 声は落ち着いている、だがしかし顔は疑いの目をしている。すんごくやりづらい、が仕方ない。こういうのは自分の目で見なければ。

 古ぼけた井戸。だけど一応中心地にあるからだろう、規模が大きい。


「ルシル、皆はここで待ってて」

「えっ」

「ちょっ男爵様まさか……!!」


『展開』


Luxルクス


Ventusヴェントゥス


 蓋を開け、身を乗り出し入り込んだ。


 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! という叫び声のような声は複数聞こえてきたけれど、風魔法と光魔法を駆使して観察しながら入っていく。

 結構深いし、中は石造りでしっかりしてる。あ、水まで到着。


「うげっ、臭い……」


 当たり前か、最初からあまりよくない水だったんだしそのまま放置されていたわけだ。


「さて、どうしたものか」


 とにかく戻ろう、そう思い風魔法で戻ると怖ーい顔をしたスティーブンが待っていた。


「男爵様!!」

「はいはい後でね、皆さんちょっと離れててください」


 この屋根取っちゃってもいっか、そう思い風魔法で柱4本を風魔法で切断。隣に移動させる。


Aquaアクア


 井戸の入り口に杖をつんつんすると、先程確認した水が逆流。全て掬い取り頭上に水の塊となってふわふわ浮かぶ。


「「「「「っ!?」」」」」


 うん、やっぱり臭い。ごめんなさい皆さん。


Terraテラ


Ignisイグニス


Creareクレアーレ


 とりあえず、余計なものを浄化しちゃおう。聖水を水魔法でカモフラージュし浄化。まぁみんなが元気になればいっか。


「さ、次」


 すぐに水を戻す、そして……


Ventusヴェントゥス


 井戸の中を先程浄化した水で洗浄。また浄化と繰り返す。もう十分かな、という所で水を戻した。


Aquaアクア


 ジョシュとローレンスにも水魔法を授業の一環として使わせまくって、井戸にたっぷりと水を溜めたのだった。



 それから、水が入った井戸にハンドル式のパイプを付けた。あのモルティアート領の屋敷で見せていただいた事のあるものだ。因みに私の屋敷にもある。ハンドルを回すと水が汲みあがる仕組みだ。余裕が出来たら、一家に一台、なんて出来ると良いなぁ。


「さ、どうぞ使ってください」


 驚きを隠せず、唖然としている領民達。あまり、錬金術を見たことがないのだろうか。まぁ、使ってくれれば嬉しいな。

 そんな時、子供がキラキラと井戸を見ていて。「お水だー!」とはしゃぎながら井戸に近づいてきた。待ってと母親であろう女性が止めに入るが、子供につられて他の子供達も井戸に走ってきて。

 ハンドルを回して出てきた水で手を洗う様子は、何とも和む。その様子を見て周りの大人達も井戸に近づいてきて嬉しそうだった。


「もし調子が悪かったら、私に言って。スティーブン」

「かしこまりました」


 さて、あと何か所に作ればいいかな。早く帰って調べよう。そう思いながら、来た馬車に戻り屋敷に帰ったのだった。

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