厄介払いで結婚させられた異世界転生王子、辺境伯に溺愛される

楠ノ木雫

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1巻

1-2

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 そして、この王族の血は結構優秀らしい。まぁまぁナイフを使えるようになったからな。これなら暗殺者に狙われても助けが来るまでなんとかなりそう。ま、寝てる最中とかに奇襲をかけられたらアウトだけどさ。でももう厄介払いされたから少しは安心?

「あっ、申し訳ございません、手が止まってしまって……」
「いいよ別に。あ、俺髪の量多いから洗うの大変かも」
「え?」
「一応言っとくな」

 離宮のやつらはぶーぶー文句言いながら洗ったりかしたりしてくれてたしな。長くて腰まであるし。

「ここの人達の髪って青が多い?」
「あ、はい」
「じゃあやっぱ目立つか。銀髪だと……」
「……奥様は、とても綺麗な銀髪です」
「え?」
「きっと皆、そう思っていると思います」
「……そうかな」
「はい」

 こんな銀髪を? 王族の証である髪色なのに?
 それよりピモ、自分から何か言うの、これが初めてか。距離が縮まった? 世話をしてくれるなら、もっと仲よくなりたいし頑張ってみよう。

「ここ、図書室とかってある?」
「はい、ございますよ。明日ご覧になりますか」
「ん~、温室も見たいからその後にしようかな」
「かしこまりました」

 いろんな野菜があるみたいだけど、どんな感じなんだろ。すんごく気になるな。知ってる野菜もあったし、他にもあるかも。
 アメロは本来危険な場所には入ってはいけない。キッチンもそうだ。刃物などが沢山あるから当たり前のことながら、実は俺、離宮ではキッチンに入ってた。だい~~~ぶ頼み込んで入れてもらって、料理とかお菓子とか作ってた。だからここでも出来ないかな~なんて思ってたりする。まずは信頼関係を築いて、あとは食材の確認もしないといけない。
 まぁ、あの辺境伯が許してくれるか分からないけどな。
 そして夜、ふかふかのベッドにダイブし、雲のようにふわふわな布団に挟まれて熟睡したのだった。


   ◇


 次の日、外はゴーゴーと吹雪だけど、めっちゃいい目覚めだった。なんだこの寝具は。まるで雲の上で寝てるみたいだった。今後もこれで寝ていいだなんて最高だな。

「おはようございます、奥様」
「うん、おはよ。外すごいな」
「今日一日吹雪の予報です」
「え? 分かるの?」
「空を見れば分かりますから」
「え、何それかっこいい。俺にも後で教えてよ」
「えっ?」
「俺も分かるようになりたい。よろしくな」
「は、はい……朝のご準備をしましょう」
「うん、よろしく」

 服は半袖や薄手のものしか持ってきてなかったので、ピモが用意してくれた。とても着心地のいい服だ。やっぱり布とか形とかが違うよな。あったかくなるよう工夫とかされてるのかな。

「今日の朝食には、昨日の夕食で奥様が気に入られたスープが用意されているそうですよ」
「え、ほんと? やった!」

 ポタージュだよな、じゃがいもの。あれは本当に美味しかった。三食全部出てきても食べられる! 食事が美味しくなかったらどうしようって思ってはいたけれど、これなら安心だな。快適な結婚生活(?)だ。結婚した感覚ないし、結婚式とかそんな話も全くしてないけど。というかそもそも昨日客間で初めて会ってから全然辺境伯と顔を合わせてない。まぁ俺としては別にいいんだけどさ。

「今日は野菜用の温室に行かれますか?」
「うん」
「かしこまりました」

 待てよ、今ピモ野菜用の温室って言ったよな? じゃあ、他にも温室があるってことか。へぇ~、面白そう。

「他にも温室があるのか?」
「はい。そちらには観賞用の花などが植えられているのです。代々奥方様がその温室の管理をなさっていたのですが、今温室の鍵は旦那様が持っておられます」

 へぇ、そんなところがあるんだ。観賞用の花か、見てみたいな。
 そこは、何代か前の辺境伯が奥様とティータイムを楽しむために作られたそう。まぁでも、辺境伯が持ってるのなら仕方ないな。



「おはようございます、奥様」
「うん、おはよ」

 周りの使用人達は朝の挨拶をちゃんとしてくれる。また変な反応されるかなと思ったけど、ないみたい。というか、なんか明るくないか?

「奥様の好物がまだ把握出来ておりませんので、料理長が色々と準備いたしました」
「え、俺そんなに食べられないよ?」
「ご心配なさらず。量を少なくして、種類を多くしましたので」

 と、置かれたお皿には美味しそうなものが勢揃い。卵料理とか、お肉とか、野菜とか。魚はなかったんだけど、ここでは無理か。海は近くにないみたいだし。そもそも、ここにあったらカッキンコッキンの南極状態になるわ。
 それより、この料理の数。一体いくつあるんだ? お皿が何枚かあって、そこに料理が並べられてる。ポテトサラダみたいなやつとか、厚みのあるベーコンみたいなやつとか。後、フレンチトースト? ワッフル? みたいなやつとかも。これ甘いのかな。よく分からん。見た目と味が違うっぽいから食べてみないことにはな。

「これ、手間かかっただろ。後で料理長にお礼言っといて」
「かしこまりました。きっと料理長も喜びます」

 うん、美味しい。どれも美味しくて一つに選べないな。それとポタージュも美味しい。最高。

「うまぁ♡」

 ご飯が美味しいって幸せだな。これを毎日三食食べられるなんて最高でしょ。存分に味わわないと損するな。
 なんというか、一つ星レストランに来たような感じがする。ありがとう、料理長、料理人の皆さん。


 この屋敷は、とても大きい。東棟と北棟があるらしく、それは広くて長い廊下で繋がってる。ちなみに俺の部屋があるのは東棟な。そして温室があるのは北棟。というかくっついてる感じらしい。

「うわぁ、外出たら雪だるまになっちゃいそう」
「えっ? 雪だるま、ですか?」
「え? 知らない?」
「はい、初耳です」

 へぇ、この世界にはないってことか? こんな冬ばっかりのところに雪だるまって言葉がないってことはそうなのかな。

「じゃあ吹雪が収まったら作ってあげるよ」
「え?」
「約束な」

 特大の作るか? でも頭のせられるかな。誰かに頼んでのせてもらうか。うん、楽しそう。
 そんなことを考えていたら、大きな扉の前まで辿り着いた。ガラス張りのような扉で、なんとも物々しい彫刻がされている。見たところこの扉の先が温室らしい。

「えっ……」

 扉が開き中を覗いたら……なんか、すごかった。思っていた以上の広さだ。畑の列がいくつもあって、花が咲いていたり、茎が伸びていたり。こんな規模、見たことない。天井はガラス張り。雪が積もっていて暗いけど明かりがあるからそれほどではない。こんなに雪が深いところにある温室なんだから頑丈だろうな。

「結構大きいな」
「この領地で一番大きな温室ですから。ここでこの屋敷での食事、そして近くの街の食料をまかなっています」 
「へぇ、運ぶの大変だろ」    
「吹雪になる前に各自の家や倉庫に貯蓄しておく決まりですので、余程長い吹雪にならない限り大丈夫です」
「なるほど……」

 この温室に、領地内の決まり、そして屋敷の暖房とか。俺が首都にいたら知らなかった話ばかりだな。知ることが出来て嬉しい気持ちになる。
 植わっている植物達は、実っているものもあれば花が咲いているものもある。背が高いもの、低いもの、見覚えがあるものだったりと様々だ。おぉ、なんだこれ。すんごく背が低くて横にデカい花だな。これも食えるのか? だけどこのショッキングピンクは勘弁してほしいかも。あ、もしかして食べられるのは球根部分?
 なんて思いつつ見回っていたら、とあるものを見つけた。

「これ……」
「ここでしか咲かない花です」

 この一角に咲く、青い花。これ野菜か? と思ったけど違うらしい。

「貴重な花でして、熱病の薬の材料になるんです」
「へぇ……」

 まぁ、こんな寒いところなんだから風邪とか引いたりするよな。確かに貴重だ。じゃあここには医者とかいるのかな。じゃなきゃ引いても薬貰えないもんな。薬草か……結構綺麗だな。小さい鈴みたいな花がいっぱいついてる。揺らしたらリンリン鳴りそう。いや、触らないけどさ。

「ここ広すぎるから全部見るの時間かかりそう」
「え?」
「全部見たいから午後の図書室は明日に変更」
「はは、かしこまりました」

 大根、じゃがいも、白菜などの俺が知ってたものや、知らないもの。そして、畑にどう植わってるのか知ってたものと知らないもの。そんなのがあって結構楽しかった。

「ではこれは奥様の今日のお夕飯にいたしましょう」
「俺収穫したい!」
「えっ、ですが手が汚れてしまいますよ」
「汚れたら洗えばいいだけだろ。自分で収穫したのを食べられるって結構嬉しくない?」
「……そうですね、では収穫しましょう」

 ここの管理をしている使用人を呼んできて、シャベルをくれた。使用人は結構驚いていたけど、俺は気にしない。貴族の奥様がやっちゃダメって決まり、どこにあるんだ? って思うし。

「こんな感じ?」
「は、はい! お上手です!」
「やった。じゃあこれ俺の夕飯ね」
「料理長に渡しておきますね」
「うん、よろしく」

 こういう体験、前世じゃ一回もなかった。子供の頃にやったかな? もう覚えてないや。でも、ここでやらせてもらえるとは思いもしなかった。結構楽しいな。明日も来ようかな。



「奥様! 僭越せんえつながらいただいたお野菜をふんだんに使った料理を作らせていただきました。いかがでしょう」
「うまっ。美味しいよこれ!」
「光栄です」

 夕飯に出てきた料理は一段と美味しかった。自分で収穫したおかげもあるけれど、ここの料理長達の腕がよすぎるのもある。いやぁ、最高だな。こんな生活がずっと出来るなんて最高すぎるな。まぁ当然、今日も辺境伯には一度も会わなかったんだけどさ。別に気にしないが。


   ◇


 さて、次の日。今日こそ外に、と思ったんだが……

「うわぁ、まだ吹雪かよ……」

 外はゴーゴー音を立てて吹雪いている。見ただけでもぞっとする。早く止んでほしいんだけどな。これじゃあ雪だるま作りに行けないじゃん。外が暗いとなんだかどんよりしちゃうし、気分的に上がらないな。
 とりあえずピモを呼んで朝の準備をした。

「これでよろしいでしょうか」
「うん、ありがと。ピモは本当に俺の髪が好きな」
「それはもちろん、こんなに素敵な髪色で手触りもいいのですから、いくらでも触れたくなってしまうくらいです」

 ピモは、俺の髪を結う時は本当にルンルンしてる。風呂に入って洗う時も、風呂上がりに髪を拭く時も。俺としてはこんな長い髪なんてうっとうしい感じもしてたんだけど、ピモにそんな風に褒めてもらえるとなんか嬉しい。
 今日も変わらず、ここの朝ご飯はとても美味しかった。ミシュランの一つ星よりも素晴らしい料理なのでは? そんな料理を毎日食べられる俺はなんて幸運なのだろう。

「今日はいかがいたしますか?」
「ん~、図書室に行こうかな」
「かしこまりました」

 ……ん? ちょっと待て、この味……

「ここって、しょうゆってあるの?」
「はい、ございますよ」
「へぇ~」

 マジか、気付かなかった。これまで食べたのは洋食ばかりで、しょうゆ味はなかったからな。今日のメニューは一応洋食だけど、しょうゆの味がほのかにする。なるほど、しょうゆがあるのか……しょうゆ、そして沢山の野菜……

「あ」
「いかがされました?」
「なぁ、アレってあるか?」
「アレ?」

 ピモにアレとは何か伝えたが、知らないようだ。なら、作るしかないよな。

「温室行こう」
「えっ? 図書室は?」
「それは後」

 朝ご飯をちゃんと味わい、ご馳走様でしたと食堂を出た。行き先はそう、温室だ。
 しょうゆは、前世で俺がよく知っている、日本人には馴染み深い調味料だ。それがまたこんなところでお目にかかれるなんて。王都の離宮にはそんなものなかったからだいぶ驚いている。
 今日も温室は屋敷と違う気温になっている。そして、温室の管理者を見つけた。

「なぁ、《いんげん》ってあるか?」
「いんげん、ですか」

 こちらにどうぞ、と案内された。とても不思議そうな顔をされたけど、俺はそれどころじゃない。というかこの世界にいんげんがあってだいぶ安心した。離宮ではいんげんを食べなかったからな。あるか不安だった。

「こちらです」

 あ、よかった。あった。へぇ、こんな感じでぶら下がってるんだ。初めて見た。
 熟しているものを教えてもらい、収穫。あとはじゃがいも、玉ねぎ、にんじんだ。

「あの、奥様?」
「肉……はキッチンにあるか」

 よし、キッチンに行こう。
 ピモに、これをキッチンに届けたいと伝えると、最初は他の者にと渋られたが、どうしても自分で届けたいと無理を言って、連れてってもらうことになった。



「こんにちは」
「おっ奥様っ!?」
「えぇ!?」

 とっても美味しそうな匂いがしてくるキッチン。そこに顔を覗かせ声をかけた。まぁ、こうなるよな。アメロは危険な場所には行ってはいけない。もちろんここもだ。それを十分理解しているからきっと驚いたはず。というか夢にも思わなかっただろうな。

「お願いがあるんだけど、いい?」
「な、なんでしょう……? 何か召し上がりたい料理がございますか?」
「キッチン、かーして?」

 しぃーん、と、この場が静まった。おっとっと、どうしたみんな。と、思ったら……

「奥様ぁぁぁ!!」
「なんということを!! いけません!! こんな危険な場所に奥様がお入りになるだなんて!!」
「奥様にもしものことがございましたらどうなさるおつもりですか!!」
「いや、大丈夫だって。そんなに危険じゃないでしょ」
「甘く見てはいけません!! 刃物も、火もございます!! 慣れない場所に入るのですから怪我をしてしまいます!!」

 だいぶみんな必死なようだ。そんなに俺がキッチンを使うのが嫌なのかよ。まぁ、仕事の邪魔をすることになっちゃうから悪いとは思っているんだけど……

「……しょうがないな、じゃあ奥様命令」
「ゔっ……」

 あ、料理長が黙った。何か言いたそうだけど、奥様命令を出されたらそりゃそういう反応するよな。でも俺としてもそんなことはしたくなかったんだよな。ごめんな。

「怒られそうになったら俺の名前出していいからさ。ダメ?」
「……私どもに、ご指示を出してくださるのでしたら……」
「やった!」

 これで食べられるぞ! 日本料理が!
 他の包丁などをしまえ! 一ヵ所以外の元栓を閉めろ! と料理長に指示されてテキパキ動き出した料理人達。この後のご飯の準備とかあったはずなのにごめんな。

「作業は私どもが行いますのでどうぞご指示を。くれぐれも刃物や火のそばにお近づきにならないようお願いします」
「うん、分かった」

 とりあえず料理長にお肉について聞いた。ちょうどよさそうな肉があったからそれを用意してもらって。じゃあまずは野菜を切るところからだな。
 でもどうしても俺を包丁に近づけさせたくないらしい。野菜を切る、と言ったらピモと料理長が俺に視線を向けてきた。はいはい、近づかないから安心しろって。
 けど、さすがここの料理人達。とっても手際がよくて簡単に準備出来てしまった。あの美味しい料理を作れるんだから優秀な人達ばかりなのだろうと思っていたけれど正解だったな。

「じゃあ炒めよう」

 肉を炒め、それから野菜も入れて炒める。それから砂糖と水を投入。

「煮込み料理ですか」
「うん。じゃあさっきの調味料も入れて」
「かしこまりました!」

 落としぶたをして、弱火で煮る。

「聞いたことのない料理です。これは首都でよく食べたのですか?」
「うん、そう。作り方は周りに教えてもらったんだ」
「使用人達に、ですか」
「そ。暇だったし」
「そう、でしたか……」
「奥様……」

 ……いや、同情心はいらないんだ。怪しまれないように説明しただけなんだけど。俺自ら作ってたって言えないから。
 まぁとりあえず、後で使用人がくれたレシピを渡すと言っておいた。よく食べていた料理だから、みんなにも食べてもらいたいって言って。なんか感動しているような顔していたやつが何人かいた気がしたんだけど、多分見間違いだろ。

「うん、こんな感じか! かんせ~い!」

 俺流肉じゃがの完成だ!
 いや~無性に肉じゃがが食いたくなる時ってあるじゃん? まさに今俺がそうなってるわけで。肉じゃがが作れたなんてもう最高だね。しかもミシュラン一つ星の料理を作ってる優秀な料理人達の肉じゃがだぜ? 絶対美味うまいに決まってるじゃん! 俺が指示したんだけどさ!

「フォーク!」
「奥様! はしたないですよ!」
「だいじょーぶだって! みんな、このこと黙ってくれるならこれ食べさせてやるけど、どうする?」

 もうさっきからみんなの視線は肉じゃがに一直線だ。結構いい匂いしてるし、食べたことのない料理で、しかも自分達が作ったんだ。食べたいに決まってる。

「はいっ!」
「決して口外いたしません!」
「はい、どーぞ!」

 ピモも食べるか? そう聞いたら唾を飲んだ。結局食欲に負けたらしい。よし、これでピモも共犯だ。
 さて、みんなの反応は……あ、心配いらなかったな。めっちゃ美味うまそうに食ってるじゃん。作ってもらってよかったぁ~!

「料理長、後で持ってきたレシピ渡すな。たまに作ってくれると嬉しいよ」
「かしこまりました!」
「使用人達の食事にも取り入れてあげてよ。こういうのあった方が楽しいだろ?」
「我々使用人達のことまで気にかけてくださるとは……ありがとうございますっ!」

 いや、そんなに喜ばれると俺どうしたらいいのか分からないんだが。まぁでも、喜んでくれることは嬉しいから別にいいか。
 レシピ持ってきておいてよかったぁ。離宮のみんなが欲しいって言い出したから書いてやったやつの余りなんだけどさ。ごめんな、余りもんで。


   ◇


 あんれまぁ、今日も吹雪ですか。と、次の日の朝起きて外を見た俺は、そんな感想と一緒に遠い目をしてしまった。果たしていつになったら外に出られるのだろうか。外が暗いと建物の中もどんよりして気が沈むんだよな。早く止んでほしいけど、これは仕方ない。
 さ、今日は何しようか。そういえば図書室に行くと決めていたのに後回しにしてしまっていたな。そろそろ図書室を拝見しよう。

「おぉ、だし巻き卵!」
「はい、奥様からいただいたレシピで作らせていただきました。お味はいかがですか」
「ん~、だしが違うから、かな。いつも食べていたものとはちょっと違うけど、これはこれで美味しいよ。やっぱりここの料理人達は腕がいいね」
「もったいないお言葉です。ありがとうございます」

 だし巻き卵、うん、めっちゃ美味うまいです。あの四角いフライパンがないにもかかわらずこんなに綺麗に巻けてるなんてさすがだな。
 ここと離宮で使ってただしは別。このだしだったら、もう少し砂糖少なめでもいいかな、と料理長に伝えておいた。次にだし巻き卵が出てくるのが楽しみだ。


 ピモに案内されて向かった先には、大きな扉があった。温室の扉ほどではないけれど、俺の部屋の扉より立派だ。

「わっ……!」

 ピモが扉を開いた。目の前に広がったのは、棚。そう、ずらりと並んだ棚だ。入ってみると、独特な本の匂いがする。俺の身長より高い棚がずらりと列をなしていくつも並び、壁面にもある。うわぁ、天井高いな。
 そして圧倒されそうな本の数々。これ一体何冊あるんだ? そもそも、こんなにいっぱいある本をどこから集めてきたのか。分からん。

「先々代の奥様が本好きでしたもので、先々代の辺境伯様がこちらをお作りになられたのです」
「えぇ……マジか」

 奥さんのためにこんなもん作っちゃったのか。すごいな先々代。
 ここに何冊あるんだと質問してみたけど、ピモにも分からないそうだ。

「旦那様も把握されていないと思われますよ」
「まぁ、こんなにあるしな」
「よくこちらに足を運んでいらっしゃるので、もしかしたらこちらでお会いする機会もありましょう」
「……ピモ、それどういう意味?」
「……」
「辺境伯様が全く俺と会ってないってことに何か言いたいのか?」
「えぇと……」

 まぁそうだろうな。結婚したくせに顔も合わせないなんて、って思ってるんだろう。俺としては別にそれでもいいんだけどさ、でもピモや使用人達にとっては考えるところがあって当然だ。

「辺境伯様は今どこ?」
「その……白ヒョウ狩りへ出かけていかれました」
「白ヒョウ狩り? ヒョウがいるのか」
「はい。たびたび山から群れで下りてきては被害を出しているので、旦那様やこの屋敷の騎士団達が定期的に狩りをするのです」

 へぇ、白ヒョウか。被害が出てるなんて領民達は怖いだろうに。
 白ヒョウ狩りを定期的にってことは、辺境伯様やうちの騎士達は強いのかな。
 そう思いつつ、本棚の方に向かった。

「あとは俺だけでいいからさ、下がっていいよ」
「えっ、ですが奥様、ここは初めてでは?」
「探し物とかじゃないから大丈夫。勝手にぶらぶらしてるから」

 では何かございましたらこの呼び鈴を鳴らしてください。そう言ってピモは出ていった。
 一人で本を読むっていつぶりだろう。だいぶ久しぶりじゃないか?

「離宮の本、全然読めない本ばっかだったからなぁ……」

 論文とか、絵のない文字ばかりの本がずらりと並んでいて、子供の読み物とは言い難いものだらけだった。とは言っても俺は前世の記憶があるからまぁまぁ読めるには読めるけど、もっと小さかった頃の俺じゃさすがに全く分からなかった。本を開いて読んでみたらすぐに知らない難しい単語が出てくるっていう感じ。本は好きな方ではあったんだけど、あれじゃあ読みたくなくなるよな。

「あ、絵本だ」

 薄い本が並ぶ本棚を発見した。表紙が綺麗だ。開くと、表紙と同様にとても綺麗な絵が広がっている。絵的には、プリンセス系か? 俺も小さい頃にはこれくらいの本が読みたかった。

「あ、やっぱりスカートじゃないのね」

 この世界にはズボンしかない。俺の普段服は普通のズボン。けどパーティーとかになると、普通の男性は紳士服、アメロはパンツドレスとなる。スカートはないのだ。
 この本に出てくるヒロインも、ちゃんとしたパンツドレスだ。なんか色々とキラキラしてるけどさ。
 てか俺パンツドレス着たことないんだよね。パーティー自体出たことないから当たり前か。ずーっと離宮で自由に過ごしてたからなぁ。

「へぇ、こんなのもあるんだ」

 この図書室は幅広いジャンルの本で溢れているらしい。一応読めるっちゃ読めるけど、なんかよく分からないものもある。
 これは古代魔法の本。これは世界論の本。頭が痛くなりそうなものばかりだな、ここら辺は。
 もうちょっと俺が読めそうな本はないのか? と思いつつぶらぶらし始めた。


 の、だが。
 ……おっとっと、今俺どこにいる?
 おっかしいな、さっきまでよさそうな本を選んで引っ張り出して、踏み台になってる階段の一番下の段に腰かけて読んでたはずなのに。でも俺今、ソファーに横になって寝てないか? しかもブランケットがかけられてるし。ピモか?
 テーブルには俺が選んで引っ張り出した数冊の本。外はゴーゴー吹雪。今何時か分からない。とりあえずピモを呼んだ。
 けど……

「え? そのブランケットは私ではございませんよ?」
「……じゃあ誰だ」
「さぁ?」

 ……いやちょっと待て、ピモ、その顔はなんだ。知ってそうな顔してるよな、笑ってるんだけど。
 じゃあ一体誰だよ。


   ◆


 メーテォス辺境伯家当主である俺のところに、数日前国王陛下から手紙が届いた。そこには、とんでもない内容が書かれていた。
 王子と結婚しろ、と。
 今すぐにでも、この手紙を破り捨ててしまおうか。そう思ってしまった。

「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「いかがしました?」

 実に面倒くさい、目障りな手紙が来たものだ。

「王子と結婚しろ、だそうだ」
「お、王子と、ですか」
「それも、十五番目だ」
「十五番目、となると……銀髪に青い瞳の王子だったような……」
「そうだ。王族の証を持って生まれた王子だ」

 執事もこれには驚きを隠せない様子だ。まぁしかし、考えてみればその可能性はあった。
 メーテォス辺境伯家と王室は微妙な関係にある。現在この国に存在する派閥は四つ。国王陛下を支持する者達、第一王子を支持する者達、第二王子を支持する者達、そして、中立だ。メーテォスは中立の立場をとっている。
 辺境伯は、いわば陛下の代理人。この広い国土は陛下自身で全て管理することが難しいため、目が行き届かないこの地を代わりに管理している。代理人なのだから国王陛下の派閥に入れと催促されているが、そんな茶番に付き合っていられるほど暇ではない。何より、こんなに忙しい地位を与えたのは本人だろ。バカなのか。


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