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第二章
◇18 チェックメイトが言いたい!
しおりを挟むとある吹雪の日。バラの間で、あの日からヴィルに教えてもらったチェスを何とか覚えて対戦していたんだが……
「……どうしてヴィルはそんなに強いんですか」
「そうか? 経験だろ」
勝てない。まぁ、始めたばかりだから仕方ないけれどな。でも何回やっても勝てない。
「リュークは単純すぎるんだ。もう少し作戦の幅を広げた方がいい」
「ん~……」
とは言われても、実は俺ゲーム苦手なんだよな。トランプだって、離宮にいた時に使用人達と遊んでも絶対俺が負けるんだよな。まぁ、顔に出るからですよ殿下、って何度も言われたんだけど……よく分からないんだよな。チェスより表情筋を鍛えた方がいいのか?
とりあえず、あのゲーム好きの夫人の血を受け継いでいるからとでも言い訳を付けておこう。そうしないと心が折れそうだ。
……でもさ。
「……なんでこっちなんです。普通あっちでしょ」
「別にこっちでも問題ないだろ」
「……」
ソファーの前に設置された、背の高いテーブル。そして向こう側に椅子が置かれている。俺がソファーに座ってるんだからヴィルが椅子に座るはずなのに、どうして俺の後ろにいるんだよこの人。
まぁ、このソファーって背もたれをたおせて二人でもゆったり座れるんだけどさ。それにヴィル足長いし。でもチェスの大戦中なんだから向こう側だろ。
ず~っと俺の腹撫でつつ俺のチェスの相手をしてくれてるんだけどさ、ちょっと、いやだいぶムカつく。この野郎、ちゃんとゲームに集中しろ。それだけ余裕があるのは分かるけどさ。
「どうした、ずっと構ってる腹の子供に嫉妬か?」
「……」
まだ生まれてもいないやつに嫉妬だって? おかしいだろ、それ。アホか。
「そんなに構ってほしいなら素直に言ってくれて構わない。むしろ大歓迎だ」
「……チェスの相手だけで十分です」
「つれないな」
なんて言いつつ頬にキスをしてくる。お腹から手を離し肩を抱きしめてきて。あの、髪がくすぐったいんですけど。
「チェックメイト」
「あっ!?」
マジかよ! また負け!? もう強すぎなんだって!!
「ちゃんと集中しないと負けると言っただろ」
「ヴィルに言われたくありませんっ!!」
はぁ、俺もかっこよく「チェックメイト」って言いたいのに……ドヤ顔とまではいかないけどさぁ。でもこれではだいぶ先になってくるな。せっかくカッコいいチェスセット持ってきて使ってるのにさぁ。
いや、流石にあのガラス製のは使えないから木製の使い込んだっぽいのを使ってるんだけどさ。アンティークっぽくてかっこいいんだ。
「旦那様、少しは手加減してあげてはいかがですか?」
「手加減したら意味がないだろ、ピモ」
……容赦ないな。呪いの言葉でもお見舞いしてやろうか。
「……ピモ、チェス出来るか?」
「私、ですか。ルールを知っているというだけで実際にやった事はありませんが……」
「おい、リューク」
「ヴィルは黙っててください。ラスボスなんですから」
「ラスボス?」
「一番最後に挑戦する相手です」
「……ククッ、そうか、ラスボスか。なら、次の挑戦を心待ちにしていよう。だが、練習には付き合うぞ」
いや、それ一緒だろ。挑戦も練習も。まぁ手加減してくれるかもしれないけどさ。でも余裕たっぷりで腹立つな。まぁ分かるけどさ。俺ヴィルに勝てる気しないもん。
でもさ、当時のゲーム好き夫人は使用人達とも遊んだかもしれないってわけだろ?
「ゲームって事は、賭け事って事ですよね? 夫人は何か賭けたりしたんですかね」
「小切手を用意したそうだぞ」
……あ、やっぱりお金か。カジノとか賭け事って言ったらやっぱりお金だよな。
「とはいえ、当時のメーテォス夫人はかなり強かったようだからな。使用人達は使用人達同士で賭け事をしたそうだぞ」
「……詳しいですね」
「まぁな。使用人達の賭け事といっても、それを賞金として夫人が用意したそうだ。それを手に入れるために使用人達は賭け事をしたと言ったところか。だが、こんな所にいては例え大金を手に入れたところで首都などに行く機会もあまりない。だからここの商会で金を使ったそうだ。どうせ商会の奴らはほぼ毎日屋敷に来ていたからな」
「……あぁ、なるほど」
「そう。夫人は使用人達を通して商会に貢献もしていたという事だ」
さすが、って言ったところか。使用人達のストレス解消と、商会の売り上げアップ。商会の人達のお給料も上がったりとで良い事づくめだ。
でも、今はやってないみたいだな。
「……やりますか?」
「きちんと時間を守らせろよ。酒も禁止だ」
「は~い」
まぁ、今だと商会の方に行けないから春になってしまうけれど。でも、春までのお楽しみって事か。うん、よさそう。
と、いう事はまずは俺がチェスをマスターするところからだな。ヴィルには勝てないだろうけれど、他の使用人達には絶対勝ってみせる!!
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