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◇53 そんなに楽しいかこれ
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俺は今、窮地に立たされている。
午前中、ヴィルの服を選びサイズ合わせをしてから後日お届けいたしますと帰っていった首都の仕立て屋さん。そして午後、俺は顔、耳までも真っ赤に染めてしまっている。
「奥様、曲の準備はばっちりです!」
「だ、そうだぞ。リューク」
……そういえば、ワルツを教えてもらうという約束をしていたな。
でもさ、どうして髪、戻してないんだよ。しかもいつもは着崩してるくせになんで今きちっと首元までちゃんと締めてるんだよ。おい、それわざとか? わざとだよな。絶対わざとだよな!!
あ~も~なんで今日なんだよ!! ついさっきめっちゃかっけぇ殺人的な姿のヴィル見たばっかだろ!! それでいきなりワルツですか!! 俺を殺す気か? 殺す気だよな!?
「どうした、リューク」
「……わざとでしょ」
「さぁ?」
ソファーに座って顔を覆ってた俺の手をがっしり掴んではがしたヴィル。ニヤニヤしてるんだから丸分かりなんだよ、おい。
「それとも、ダンスより他の事がしたいのか?」
「ヴィルっ!!」
一体何を言いたかったのかは、考えないでおこう。うん、とりあえず俺、落ち着け。このワルツ教室の原因は全てこのヴィルだ。ヴィルが最初勝手に嫉妬して、それでダンスをしたいと言い出したんだ。そう、だからこのダンスは俺が付き合ってやってるって事だ。そう、そういう事! このかまってちゃんにかまってやるんだ。落ち着け。
「……さっさとやりましょう」
「ワルツは楽しんでやるものだぞ」
「これは授業でしょ、言い換えれば。ほら先生、お願いします」
「……ククッ、あぁ、今はそういう事にしておこう」
なんだよ、そういう事にしておくって。と、思ったけど言えなかった。ソファーから持ち上げられてしまったからだ。いや、それいいですって。と言いたくなってしまった。
ようやく広い場所に降ろしてもらえたが、ここで気付いてしまったのだ。問題発生だ。
俺は、片手はヴィルの手を掴み、もう片方の手はヴィルの肩に乗せなくてはいけない。ワルツの基本的なポーズだ。でも……
……身長が、足りない。あ、まぁ、ヴィルの肩に届かないわけではない。宙ぶらりんになっているわけでもない。でも、まぁ、もうちょっと身長が欲しいところだ。
「頑張って肩に乗せずとも、ここに乗せればいい」
「……バカにしてます?」
「してない」
ここ、とはヴィルの腕。いいのか、これで。というか、ヴィルがデカいのが原因なんだよ。俺が小さいというわけではない。そう、ヴィルがおかしいんだ。
「……俺にもハイヒールが必要になったのか……」
「ハイヒール?」
「……」
最近さぁ、俺の口は本当に緩いな。ほら、ボールペンとか。最悪だ。でも、これどうしたらいいんだ。本で読みました、はだいぶ使ったしな。マタタビとか。
「……乳母に教えてもらったんですよ。お母さんの歌ってた物語の歌。身長の小さいアメロが、男の人とダンスを踊るとき身長が足りなくて、靴に細工をしたんですって。背伸びした時のようにかかとを高くしたんですって」
「靴に細工か。面白いな。だがそれでちゃんと踊れるのか」
「気合いでしょ」
「ククッ、そうか、気合いか。愛の力って所か?」
「さぁ?」
……上手く流せた? ちょっとでたらめだったかな。まぁ、いっか。
確かにさ、俺も前世でよくあんなハイヒール履けるなって思ってはいた。あれでダンス? いやいや無理無理。靴擦れとかヤバそうだし。さすがだよな。俺あれ履いて踊れるかな。いや、無理か。
とりあえず今日は肩に手は乗せず踊ります。
「……ごめんなさい」
「かまわない。軽いから痛くもかゆくもない」
めっちゃ足踏んだけど。これがヒールだったら痛そうだな。
「次、右を後ろ」
「ここ?」
「そう」
ヴィル、スパルタっぽい性格そうだったけど、全然じゃん。ちゃんと優しく教えてくれる。ほら、鍛錬場にお邪魔させてもらった時、容赦なかったじゃん。吹っ飛ばされてたし。だからスパルタになるんかなと思ったけど、なぁんだ全然じゃん。
「思い出したか」
「……何となく」
ワルツやったのだいぶ前だったし、しかも相手はこのでっかい大男だったから何とかというところではある。でも、まぁなんとか?
「リューク、顔を上げろ」
「……んっ!?」
音楽に合わせて踊っている最中にそう言われ、無意識で顔を上げた。ら、キスをされて。驚いて転びそうになったところで背中に手が回って抱えられ、抱っこされてしまった。
おい、これ誰のせいだと訴えようとしたが、このままグルグル回りだした。
「ちょっ待って! これワルツじゃないじゃないですか!」
グルグル速いって!! 降ろせっ!! 目が回るぞこれ!!
と思ってはいたものの、凄く楽しそうに笑っていたので言わないでおいたが。顔が真っ赤になりそうでそっちも耐えるのをマジで頑張った。この野郎……
午前中、ヴィルの服を選びサイズ合わせをしてから後日お届けいたしますと帰っていった首都の仕立て屋さん。そして午後、俺は顔、耳までも真っ赤に染めてしまっている。
「奥様、曲の準備はばっちりです!」
「だ、そうだぞ。リューク」
……そういえば、ワルツを教えてもらうという約束をしていたな。
でもさ、どうして髪、戻してないんだよ。しかもいつもは着崩してるくせになんで今きちっと首元までちゃんと締めてるんだよ。おい、それわざとか? わざとだよな。絶対わざとだよな!!
あ~も~なんで今日なんだよ!! ついさっきめっちゃかっけぇ殺人的な姿のヴィル見たばっかだろ!! それでいきなりワルツですか!! 俺を殺す気か? 殺す気だよな!?
「どうした、リューク」
「……わざとでしょ」
「さぁ?」
ソファーに座って顔を覆ってた俺の手をがっしり掴んではがしたヴィル。ニヤニヤしてるんだから丸分かりなんだよ、おい。
「それとも、ダンスより他の事がしたいのか?」
「ヴィルっ!!」
一体何を言いたかったのかは、考えないでおこう。うん、とりあえず俺、落ち着け。このワルツ教室の原因は全てこのヴィルだ。ヴィルが最初勝手に嫉妬して、それでダンスをしたいと言い出したんだ。そう、だからこのダンスは俺が付き合ってやってるって事だ。そう、そういう事! このかまってちゃんにかまってやるんだ。落ち着け。
「……さっさとやりましょう」
「ワルツは楽しんでやるものだぞ」
「これは授業でしょ、言い換えれば。ほら先生、お願いします」
「……ククッ、あぁ、今はそういう事にしておこう」
なんだよ、そういう事にしておくって。と、思ったけど言えなかった。ソファーから持ち上げられてしまったからだ。いや、それいいですって。と言いたくなってしまった。
ようやく広い場所に降ろしてもらえたが、ここで気付いてしまったのだ。問題発生だ。
俺は、片手はヴィルの手を掴み、もう片方の手はヴィルの肩に乗せなくてはいけない。ワルツの基本的なポーズだ。でも……
……身長が、足りない。あ、まぁ、ヴィルの肩に届かないわけではない。宙ぶらりんになっているわけでもない。でも、まぁ、もうちょっと身長が欲しいところだ。
「頑張って肩に乗せずとも、ここに乗せればいい」
「……バカにしてます?」
「してない」
ここ、とはヴィルの腕。いいのか、これで。というか、ヴィルがデカいのが原因なんだよ。俺が小さいというわけではない。そう、ヴィルがおかしいんだ。
「……俺にもハイヒールが必要になったのか……」
「ハイヒール?」
「……」
最近さぁ、俺の口は本当に緩いな。ほら、ボールペンとか。最悪だ。でも、これどうしたらいいんだ。本で読みました、はだいぶ使ったしな。マタタビとか。
「……乳母に教えてもらったんですよ。お母さんの歌ってた物語の歌。身長の小さいアメロが、男の人とダンスを踊るとき身長が足りなくて、靴に細工をしたんですって。背伸びした時のようにかかとを高くしたんですって」
「靴に細工か。面白いな。だがそれでちゃんと踊れるのか」
「気合いでしょ」
「ククッ、そうか、気合いか。愛の力って所か?」
「さぁ?」
……上手く流せた? ちょっとでたらめだったかな。まぁ、いっか。
確かにさ、俺も前世でよくあんなハイヒール履けるなって思ってはいた。あれでダンス? いやいや無理無理。靴擦れとかヤバそうだし。さすがだよな。俺あれ履いて踊れるかな。いや、無理か。
とりあえず今日は肩に手は乗せず踊ります。
「……ごめんなさい」
「かまわない。軽いから痛くもかゆくもない」
めっちゃ足踏んだけど。これがヒールだったら痛そうだな。
「次、右を後ろ」
「ここ?」
「そう」
ヴィル、スパルタっぽい性格そうだったけど、全然じゃん。ちゃんと優しく教えてくれる。ほら、鍛錬場にお邪魔させてもらった時、容赦なかったじゃん。吹っ飛ばされてたし。だからスパルタになるんかなと思ったけど、なぁんだ全然じゃん。
「思い出したか」
「……何となく」
ワルツやったのだいぶ前だったし、しかも相手はこのでっかい大男だったから何とかというところではある。でも、まぁなんとか?
「リューク、顔を上げろ」
「……んっ!?」
音楽に合わせて踊っている最中にそう言われ、無意識で顔を上げた。ら、キスをされて。驚いて転びそうになったところで背中に手が回って抱えられ、抱っこされてしまった。
おい、これ誰のせいだと訴えようとしたが、このままグルグル回りだした。
「ちょっ待って! これワルツじゃないじゃないですか!」
グルグル速いって!! 降ろせっ!! 目が回るぞこれ!!
と思ってはいたものの、凄く楽しそうに笑っていたので言わないでおいたが。顔が真っ赤になりそうでそっちも耐えるのをマジで頑張った。この野郎……
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