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◇52 俺を殺す気か!?
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朝はいつもより早く目が覚めた。だってすっごく楽しみだったんだもん。昨日ヴィル約束してくれたし。
けど、いつもは見れないヴィルのちゃんとした寝顔をベッドの上で見ることも出来た。ほら、いつもは狸寝入りじゃん? でも今日はちゃんと寝息も聞こえる。ちゃんと寝てるんだよ。
いつもは大人なイケメンフェイスなんだけど、寝てると子供っぽいというか。ちょっと若返る? うん、ずっと眺めていられる。
今、俺銀髪だろ? でも前世じゃ日本人だったから黒髪だったわけで。俺染めてなかったし。だから同じく黒髪のヴィルをちょっと羨ましく思っている。
貴重品室で見た家族そろっての肖像画には、黒髪はヴィルと、先代辺境伯様。アメロの先代夫人と妹さんはハニーブロンドだった。赤い瞳は先代夫人以外全員だけど。
いいなぁ~、なんて思いつつ髪を触っていたら……頭が動いた。あ、起きた。起こしたか? ……あ、違う、また寝た。
「……可愛いな」
これは……毎日早起きをしなくてはいけないな。毎日の日課にしたい。……と思ってはいるけれど、夜ヴィルが大暴走しなければの話である。そう、風呂やベッドの上で。これ以上は言わないが。
その後、数十分後にぎゅ~っと俺を抱きしめる腕に力が入った。起きたらしい。狸寝入りの始まりだ。……と、思ったが案外早かった。
「早かったな」
「起きちゃいました」
「そんなに腹が減ったか」
「そんなに食い意地張ってませんけど」
「そうか?」
と言いながらキスをしてきた。おはようのキスか? 毎日してくるけどさ。でもベッドから出るつもりはないらしい。中々腕はほどけない。
「あ、そういえばヴィル。王城に行くって言ってましたよね。呼ばれたんですか?」
「いや、今年の報告書を提出しに行くんだ。言っただろ、国王陛下の代理で広い国土の管理をしていると。それに関する報告書を毎年提出しているんだ」
「なるほど。じゃあ陛下にお会いするって事ですか」
「残念ながら、な」
いや、それ言っちゃっていいのか? 気持ちは分かるが。でも、一応王族の俺を貰ったのだからそういう話もあるだろう。ミンミンの織物とか? あと青バラの話とか? まぁでもどうせヴィルだから全部流すだろうし、心配ないか。
「首都とかって行く時、剣とか持っていくんですよね。もしかして、あのデカいやつ……?」
「いや、短いのを持っていく。さすがに首都に白ヒョウはいないからな」
「あ、はは、そりゃそうですね」
まぁでもお偉いさん方はビビりそうだけどな。顔が見てみたい。
でも、もしその短いほうの剣を持っていなかったとしても……素手で戦えるよな、この人。あぁいや、変な事は考えないでおこう。
「いつもと違う剣だと、戸惑ったりしません?」
「白ヒョウ用よりも軽すぎるから、たまに飛ばすときがあるが……まぁその時には素手でなんとかなるから問題ない」
「……」
俺の考えは的中したらしい。もうこの話はやめにしておこう。怖いから。
それよりも、今日は仕立て屋さんが来るんだから寝坊なんてしてられない。ほら、さっさと起きろ!
今日の天気はよく、首都からいらっしゃる仕立て屋さん達は難なく魔法陣装置を通ってからこの屋敷までたどり着いた。いっぱい荷物を持って、だ。
「ご、ご機嫌麗しゅう、メーテォス辺境伯様、夫人」
なんか、びくびくしてないか? もしかして、いつもはいないはずのヴィルがいるから戸惑っちゃってる感じ? あ、あと俺か。ほら、王族の証である銀髪と青い瞳だから誰なのか一発だ。
つい数ヶ月前に結婚したからきっと皆の耳に入って噂になっちゃってるのかもしれない。一体どう言われてるのかすごく気になるところではあるけれど。
ソファーに座る俺達の前に並べられたマネキン。マネキンは、黒や青といった大人しめの色の正装を着ている。
「装飾が多い」
「え”っ」
「旦那様、最低限これくらいは付けていただかないと困りますよ。他ならぬ辺境伯の爵位を持っていらっしゃるのですから」
「……」
奥様!! と、隣のピモが助け船を欲しがっていそうな目を俺に向けていた。あぁ、なるほど。そのための俺だったのかとすぐに理解した。
「ヴィル、これもカッコいいと思いますよ。ほら、この刺繍とっても細かくて素敵ですし、こっちのも装飾が綺麗です」
「……リュークが好きなのを選べ」
「いやいや、着るのはヴィルでしょ」
「リュークが選んだものを着たい」
「はぁ……」
ほら始まった。それって全部投げやりって事だろ。そう言いたいんだろ。面倒くさがりモード発動かよ。俺、今までヴィルが何を着てきたのか知らないんだが。そんな俺が選んでいいのか? 不安なんだが。
でもさ、見たところどれも素敵なんだよな。ファンタジー漫画とかで出てきそうなデザインのものばかりなんだけど、刺繍の模様とか、使われてる布とか。高級感あるものばっかだ。まぁ、辺境伯だからそういうのを着ないといけない事は分かるけどさ。
「黒がいいですか?」
「リュークはどう思う」
「かっこいいと思いますけど……落ち着かないとかってあるでしょ」
「黒でいい」
あ、はいはい。そんなに面倒臭いのか。本当に俺に丸投げだな。
しょうがないな、と一つ黒のものを選んだ。試着って出来ますか、とそこで驚いていた仕立て屋さんに聞くと、どうぞご自由に! と言われたので、行け、とヴィルに目で伝え、別室に行かせた。もちろん、服を持たせた執事と一緒にだ。
はぁ、これは一苦労だな。仕立て屋さんも驚いてるし。見たところアメロだな。ここに来るの大変だっただろ。こんなに荷物持ってきて。
だがしかし、俺は仕立て屋の心配をしている場合ではなかったのだ。
心の準備をしておかないといけなかったことに、後悔するまであと少し。
「あの、ご夫人」
「はい?」
「本日は辺境伯様の正装とお聞きしていたのであまり持ってきていないのですが、アメロの洋服も数着ご用意しております。いかがでしょうか、ご覧になります?」
「あるんですか」
「はい。普段着は環境が違いますのでこちらで取り扱うよりメーテォス領の仕立て屋の方がよろしいでしょうけれど、首都にいらっしゃる際のお洋服などは我々仕立て屋をご利用してくださると光栄です」
「あ、なるほど。じゃあ見せてもらってもいいですか?」
まさか、見せてもらえるとは。アメロ用の正装やお出かけ用の洋服って事だよな。
サササッ、とマネキンが並べられる。おぉ、どれも華やかだな。ヴィルのは暗めだったから余計色が明るく見える。パンツドレスって言うのか。でもこれ着て外出たら寒そうだな。首都で着る用ではあるんだけどさ。ほら、首回りがハイネックじゃないし。
いつも着込んでるからこれ着たら最初は慣れないと思うな。まぁでも首都に行くことってあまりないだろうからな。
……なんて思いつつ、マネキンに着せられた服を眺めていた、ら……
「リューク」
「……」
……言葉を失ってしまった。
おいおいおいおいおいおいおい、誰だあれ。あのイケメン誰だよ!! かっこよすぎだよあの人!!
つい、顔を手で覆ってしまったが……やべぇ、眩しい。なんなんだあの人は。あれ以上見てたら多分俺目潰れるって。眩しすぎて。誰かサングラスを持ってきてくれ。
「どうした」
そう言って近づいてくるが、くるっと回って背を向けた。いや、そうしなきゃ俺死にそうだもん。なんかさ、ヘアセットまでされちゃってたし。前髪、右残して左後ろに流しちゃってるし。なんだよあれ、反則だろぉ……!!
「ククッ、耳まで赤くなってるぞ」
「うるさい」
「そこまで気に入ってくれたのであれば、これで決まりだな」
いや、たぶんどれ着てもこうなったと思います、はい。
あともう一つ恐ろしい事を言うのであれば……この人をこの状態でバラの間に連れてっちゃダメって事だ。多分10割増しになるから。俺どうにかなっちゃいそうだ。
これ、殺傷効果があるって。ダメだ、この人を外に出しちゃダメだ。
「そういえばリューク、昨日の約束、忘れてないだろ?」
「……」
昨日の約束……ヴィルと約束……あっ。
けど、いつもは見れないヴィルのちゃんとした寝顔をベッドの上で見ることも出来た。ほら、いつもは狸寝入りじゃん? でも今日はちゃんと寝息も聞こえる。ちゃんと寝てるんだよ。
いつもは大人なイケメンフェイスなんだけど、寝てると子供っぽいというか。ちょっと若返る? うん、ずっと眺めていられる。
今、俺銀髪だろ? でも前世じゃ日本人だったから黒髪だったわけで。俺染めてなかったし。だから同じく黒髪のヴィルをちょっと羨ましく思っている。
貴重品室で見た家族そろっての肖像画には、黒髪はヴィルと、先代辺境伯様。アメロの先代夫人と妹さんはハニーブロンドだった。赤い瞳は先代夫人以外全員だけど。
いいなぁ~、なんて思いつつ髪を触っていたら……頭が動いた。あ、起きた。起こしたか? ……あ、違う、また寝た。
「……可愛いな」
これは……毎日早起きをしなくてはいけないな。毎日の日課にしたい。……と思ってはいるけれど、夜ヴィルが大暴走しなければの話である。そう、風呂やベッドの上で。これ以上は言わないが。
その後、数十分後にぎゅ~っと俺を抱きしめる腕に力が入った。起きたらしい。狸寝入りの始まりだ。……と、思ったが案外早かった。
「早かったな」
「起きちゃいました」
「そんなに腹が減ったか」
「そんなに食い意地張ってませんけど」
「そうか?」
と言いながらキスをしてきた。おはようのキスか? 毎日してくるけどさ。でもベッドから出るつもりはないらしい。中々腕はほどけない。
「あ、そういえばヴィル。王城に行くって言ってましたよね。呼ばれたんですか?」
「いや、今年の報告書を提出しに行くんだ。言っただろ、国王陛下の代理で広い国土の管理をしていると。それに関する報告書を毎年提出しているんだ」
「なるほど。じゃあ陛下にお会いするって事ですか」
「残念ながら、な」
いや、それ言っちゃっていいのか? 気持ちは分かるが。でも、一応王族の俺を貰ったのだからそういう話もあるだろう。ミンミンの織物とか? あと青バラの話とか? まぁでもどうせヴィルだから全部流すだろうし、心配ないか。
「首都とかって行く時、剣とか持っていくんですよね。もしかして、あのデカいやつ……?」
「いや、短いのを持っていく。さすがに首都に白ヒョウはいないからな」
「あ、はは、そりゃそうですね」
まぁでもお偉いさん方はビビりそうだけどな。顔が見てみたい。
でも、もしその短いほうの剣を持っていなかったとしても……素手で戦えるよな、この人。あぁいや、変な事は考えないでおこう。
「いつもと違う剣だと、戸惑ったりしません?」
「白ヒョウ用よりも軽すぎるから、たまに飛ばすときがあるが……まぁその時には素手でなんとかなるから問題ない」
「……」
俺の考えは的中したらしい。もうこの話はやめにしておこう。怖いから。
それよりも、今日は仕立て屋さんが来るんだから寝坊なんてしてられない。ほら、さっさと起きろ!
今日の天気はよく、首都からいらっしゃる仕立て屋さん達は難なく魔法陣装置を通ってからこの屋敷までたどり着いた。いっぱい荷物を持って、だ。
「ご、ご機嫌麗しゅう、メーテォス辺境伯様、夫人」
なんか、びくびくしてないか? もしかして、いつもはいないはずのヴィルがいるから戸惑っちゃってる感じ? あ、あと俺か。ほら、王族の証である銀髪と青い瞳だから誰なのか一発だ。
つい数ヶ月前に結婚したからきっと皆の耳に入って噂になっちゃってるのかもしれない。一体どう言われてるのかすごく気になるところではあるけれど。
ソファーに座る俺達の前に並べられたマネキン。マネキンは、黒や青といった大人しめの色の正装を着ている。
「装飾が多い」
「え”っ」
「旦那様、最低限これくらいは付けていただかないと困りますよ。他ならぬ辺境伯の爵位を持っていらっしゃるのですから」
「……」
奥様!! と、隣のピモが助け船を欲しがっていそうな目を俺に向けていた。あぁ、なるほど。そのための俺だったのかとすぐに理解した。
「ヴィル、これもカッコいいと思いますよ。ほら、この刺繍とっても細かくて素敵ですし、こっちのも装飾が綺麗です」
「……リュークが好きなのを選べ」
「いやいや、着るのはヴィルでしょ」
「リュークが選んだものを着たい」
「はぁ……」
ほら始まった。それって全部投げやりって事だろ。そう言いたいんだろ。面倒くさがりモード発動かよ。俺、今までヴィルが何を着てきたのか知らないんだが。そんな俺が選んでいいのか? 不安なんだが。
でもさ、見たところどれも素敵なんだよな。ファンタジー漫画とかで出てきそうなデザインのものばかりなんだけど、刺繍の模様とか、使われてる布とか。高級感あるものばっかだ。まぁ、辺境伯だからそういうのを着ないといけない事は分かるけどさ。
「黒がいいですか?」
「リュークはどう思う」
「かっこいいと思いますけど……落ち着かないとかってあるでしょ」
「黒でいい」
あ、はいはい。そんなに面倒臭いのか。本当に俺に丸投げだな。
しょうがないな、と一つ黒のものを選んだ。試着って出来ますか、とそこで驚いていた仕立て屋さんに聞くと、どうぞご自由に! と言われたので、行け、とヴィルに目で伝え、別室に行かせた。もちろん、服を持たせた執事と一緒にだ。
はぁ、これは一苦労だな。仕立て屋さんも驚いてるし。見たところアメロだな。ここに来るの大変だっただろ。こんなに荷物持ってきて。
だがしかし、俺は仕立て屋の心配をしている場合ではなかったのだ。
心の準備をしておかないといけなかったことに、後悔するまであと少し。
「あの、ご夫人」
「はい?」
「本日は辺境伯様の正装とお聞きしていたのであまり持ってきていないのですが、アメロの洋服も数着ご用意しております。いかがでしょうか、ご覧になります?」
「あるんですか」
「はい。普段着は環境が違いますのでこちらで取り扱うよりメーテォス領の仕立て屋の方がよろしいでしょうけれど、首都にいらっしゃる際のお洋服などは我々仕立て屋をご利用してくださると光栄です」
「あ、なるほど。じゃあ見せてもらってもいいですか?」
まさか、見せてもらえるとは。アメロ用の正装やお出かけ用の洋服って事だよな。
サササッ、とマネキンが並べられる。おぉ、どれも華やかだな。ヴィルのは暗めだったから余計色が明るく見える。パンツドレスって言うのか。でもこれ着て外出たら寒そうだな。首都で着る用ではあるんだけどさ。ほら、首回りがハイネックじゃないし。
いつも着込んでるからこれ着たら最初は慣れないと思うな。まぁでも首都に行くことってあまりないだろうからな。
……なんて思いつつ、マネキンに着せられた服を眺めていた、ら……
「リューク」
「……」
……言葉を失ってしまった。
おいおいおいおいおいおいおい、誰だあれ。あのイケメン誰だよ!! かっこよすぎだよあの人!!
つい、顔を手で覆ってしまったが……やべぇ、眩しい。なんなんだあの人は。あれ以上見てたら多分俺目潰れるって。眩しすぎて。誰かサングラスを持ってきてくれ。
「どうした」
そう言って近づいてくるが、くるっと回って背を向けた。いや、そうしなきゃ俺死にそうだもん。なんかさ、ヘアセットまでされちゃってたし。前髪、右残して左後ろに流しちゃってるし。なんだよあれ、反則だろぉ……!!
「ククッ、耳まで赤くなってるぞ」
「うるさい」
「そこまで気に入ってくれたのであれば、これで決まりだな」
いや、たぶんどれ着てもこうなったと思います、はい。
あともう一つ恐ろしい事を言うのであれば……この人をこの状態でバラの間に連れてっちゃダメって事だ。多分10割増しになるから。俺どうにかなっちゃいそうだ。
これ、殺傷効果があるって。ダメだ、この人を外に出しちゃダメだ。
「そういえばリューク、昨日の約束、忘れてないだろ?」
「……」
昨日の約束……ヴィルと約束……あっ。
応援ありがとうございます!
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