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◇45 辺境伯side
しおりを挟む先代のメーテォス辺境伯と先代夫人は実におかしな人達だった。
先代夫人は面倒臭がりでいろいろと冷めていた性格だった。だがバラの間のお手入れが好きで、いつもそこにいたのを覚えている。
対する先代辺境伯は誰もが認める強靭で完璧な剣士と謳われた。だが、先代夫人の前だとたちまち弱くなる。いつも先代夫人に謝っていたが、対する先代夫人は呆れ顔ばかり浮かべていた。
よくやるな、といつもそれを見て思っていた。
一度、先代辺境伯にこう言ったことがある。
「よく母上をこんな所に連れてこれましたね」
と。だが、その時先代辺境伯は笑ってこう言った。
「母さんの方から連れて行けと言ってきたんだよ」
その時は幼かったから理解出来なかった。俺が爵位を継いだ際、広大なメーテォス領の遠く何もない土地に二人で移り住んで隠居生活をすると言い出した時には、大丈夫なのかと色々と心配したが。
まぁでも、今なら分かる気がする。
「……あの、ヴィル、仕事は?」
「ない」
「いやあるでしょ何言ってるんですか。こんなところで油売ってないでさっさと行ってくださいよ」
「何だ、意地悪か」
「はぁ? なわけないでしょ。ほら、執事達待ってるでしょうから早く行ってあげてください。いつになっても終わりませんよ」
「なら終わったらご褒美をくれ」
「は?」
「それなら行く」
「……はぁ、ならご褒美は俺が決めますからね」
「あぁ、期待してるぞ」
「しなくていーですから!」
リュークの耳にあるピアスが揺れた。
俺が贈ったピアスも、お揃いの指輪も、リュークは肌身離さず毎日つけてくれている。というより、毎朝俺が付けてやってる、が正解か。
「あ、いた、バカ兄貴」
「まだいたのか」
リュークはずっと離宮で過ごし他人との交流がだいぶ少なかった。今も、この地で他の貴族とはかかわりを持っていない。こいつは例外だが。
だが、これを嬉しく思うのは、いわゆる独占欲というものからくるのだろうか。
「……俺は、父上と母上、どちらの遺伝子を多く受け継いでいるのだろうな」
「何いきなり、気持ち悪っ」
「無駄口叩いてないでさっさと帰れ。お前が視界に入ると虫唾が走る」
「こっちのセリフだっつうの。言われなくても帰るわ。リューク君に挨拶してからだけど」
「近づくな」
「はぁ?」
少なくとも、今父上と母上は遠くの地で何事もなく生活していることだろう。母上の小言は増えただろうがな。俺達に心配はいらないようだ。
そもそも、そんな事をしている余裕は俺にはない。
リュークがまた白ヒョウを見たいと言い出した。そんなもの危険すぎて許可できるわけがない。
だがああ言った手前、今度な、と先延ばしにしているが……それがいつまで使えるか分からない。それまでに白ヒョウを手なずけて少しでも安全性を上げないといけない。
あの好奇心は一体どこから出てくるのか不思議で仕方ない。まぁでも、リュークらしくもあるがな。
「……しかたない、やるか」
とりあえず、この仕事の山を全部片づけてご褒美を貰いに行くとしよう。
……いや、明後日に回せるもの以外すべて処理しよう。それがいいな。
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