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◇2 凍え死ぬ……

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 移動魔法陣が発動し馬車が青白い光に包まれ、収まると外の景色がガラッと変わっていた。そして、気温も。

 ……さっむっ!?

 え、何これ、雪降ってんじゃん!! 今初夏だぞ初夏!! もうそろそろで夏だぞ!! ここどこだよ!!


「ここは北区、一年の4分の3が冬です。王都での真夏の時期にはこちらも雪が溶けますが、それ以外は雪が降っていますね」

「マジかよ」

「さ、屋敷に向かいましょう」


 おかしいと思ったんだ。初夏なのにどうしてこいつ二人は着込んでんだって。こういう事だったのか!!

 俺半袖で寒いんですけど!? 離宮の奴らは嫁ぎ先を知らなかったから半袖用意してくれてたけど、一言言ってくれてもいいじゃん!!

 何、腹いせのつもりか? 凍え死ねと、そう言いたいのか? マジでクソ野郎達だな。

 まぁでも、クソ野郎って事は知ってたけどさ。だから王都からで離れて正解だったかもしれないけど。

 とりあえず、寒さに耐えつつ馬車の揺れに身を任せた。早く屋敷に着いてくれ。絶対屋敷の中あったかいだろ。


「見えてきましたよ。メーテォス辺境伯の領地の屋敷です」


 おぉ、結構デカいな。しかも青い。

 そして、玄関の門まで辿り着き、馬車が止まった。役人達が降りて、俺も降りる。あ、手、差し出してくれた。誰だ、と思ったら軽く武装してたやつだった。警護のやつか。

 でも手は素手。わざわざガントレットを外してくれたのか。初めてされたな。こういうの。


「いらっしゃいませ、王子」

「あぁ」


 使用人達が道の両脇に列をなして立っている。寒いだろうに、俺たちが来るまで待ってたのか。


「お待ちしていました」


 あ、出てきた。服装からして……貴族。じゃあ、ここのご当主様、俺の旦那になる人か。

 ……イケメンだな、うん。身体俺よりデカいし。あ、俺アメロだから背は前世の普通の成人男性より低いけど。けど、俺のいた離宮の奴らより背が高い。少し長めの短髪の黒髪に赤い瞳か。


「外は寒いですから、早く中へどうぞ」

「あ、うん」


 うん、寒い。凍え死にそう。なんか雲行き怪しくなってきてるし。大雪でも降る感じか? 勘弁してくれよ。


 屋敷の中は、外観と同じく青で統一されていた。と言っても少し濃いめの青か。とても綺麗だ。辺境伯って侯爵と同じくらいの爵位だから当たり前か。違いとしては国境を守ってるってところか。

 てか屋敷の中暖かいな。玄関でもこの暖かさ。何か工夫されてるんだろうけど、どうやってるんだろ。気になるところではあるかな。

 今日からここで生活するのか。いいな、離宮と違って住みやすそうだ。辺境伯様や使用人達がどんな人達なのかは知らないけど、優しい人達だといいな。


 俺達は客間に案内された。部屋の中も綺麗だな。

 てか、ここに来るまで使用人達とすれ違ったけど、俺達を見る目はあんま良くなかったな。俺のせいか、役人のせいか。後者だったらいいなぁ、なんてな。


「はい、確かに確認しました。ではこれで婚姻成立です。きちんと陛下にお届けいたします。では私達はこれで」

「あぁ、よろしく頼むよ」


 ここに来て30分もしないうちに、そそくさと役人達は帰っていってしまったのだ。うわぁ、どんだけここが嫌なんだよ。まぁ寒いから早く帰りたい気持ちも分からなくはないけどさ。


「では殿下、大切なお話をしましょう」

「え?」


 お年寄りの使用人が、辺境伯に何か書類を渡した。そして、ローテーブルに置き、俺の方に向けさせた。

 書いてあるもの、それは……

 《離婚届》

 わぁお、さっき婚姻届にサインしたばっかりなのにもうこれか! この人は実にユーモアな性格らしい。


「王宮で育った殿下にとって、ここは少し厳しい場所でしょう。悪い事は言いません、王都にある私のタウンハウスで何週間か過ごしてから王宮に戻ることを提案します」

「……」

「婚姻届を出してすぐ離婚届じゃ国王陛下も受理してくださるか分かりませんからね」

「……」

「ここはほとんどが冬ですから、色々と危険もつきものです。よく知らない殿下にとっては酷な場所だと思います。ですから戻られてはどうですか?」


 ……マジかよ。ここに来てすぐこんな事を言われるとは思わなかった。

 でも、俺王宮に戻れないんだよな。厄介払いされたわけだし、もしかしたら暗殺とかされるかもしれない。兄弟達に。そんなのごめんだね。

 俺は出された離婚届を持ち、立ち上がった。そして……

 ビリッ。ビリビリッ。

 そして、手を離す。


「……」


 辺境伯の前で、粉々に破ってしまった。

 パラパラと破った紙が、ひらひらと舞いながらテーブルに落ちていく。カーペットとかに落ちたら片付けが面倒だしな。

 でもちょっと挑発的だったかもしれない。その時の辺境伯の顔は、少しビックリ、というか、面倒くさそうな顔だった。俺がこれでサインするとでも思ってたのか。残念だったな。

 てかこの人笑わないのな。イケメンなのにもったいない。


「冗談なんてひどいじゃないですか」

「甘く見ていたら死にますよ」

「好都合です」

「……好都合?」

「とにかく、よろしくお願いしますね、旦那様」


 俺の兄弟達は、ここは過酷な地だからと選んだのだろう。くたばっちまえと。だから暗殺者とかは回さず放ったらかしにするはずだ。それなら好都合。

 幸い、前世じゃ雪には慣れてる。まぁ大雪とかは無理だが。でも俺のいられる場所はもうここしかない。ここでも追い出されるなんて真っ平ごめんだ。

 何が何でもここで生きてやる。

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