INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh

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第4章 燔祭

前夜祭 6

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闇夜を滑空する三つの影。暗闇に浮かび上がる山肌がみるみる近づいてくる。

チカチカと点滅する光点を確認した三つの影は、身体を捩らせ、まさに空中浮遊の塩梅で、その光点を目指す。

御所を立った火雀衆の三人は、航空機より守屋山中腹に降下。彼らが着用する潜入服は、特殊なPSI時空間フィールドを展開し、時空コントロールにより、彼らの降下を実現させる。

潜入服は、軍用に先行開発された装備の横流し品であった。御所の裏ルートであれば調達は造作もない。伝統を重んじる御所ではあるが、風辰翁は、最新テクノロジーの導入にも力を入れ、火雀衆もまた、これらを使いこなし、彼ら自身を強化していた。

火雀衆が降下した丘陵は、かつての地震で崩れた崖になっている。地質学的な崩れ方ではない。二十年前、何らかの『PSI現象化』の影響が山肌を削ったものと考えられている。

その頂上へと三人は、難なく着地する。その場からは、ちょうど郷と森ノ部教団一宮が見下ろせた。

熾恩の暗視スコープが、焦点を定め、前夜祭で盛り上がる森ノ部一宮の境内を映し出す。

「おー、やってるやってる!へっ、楽しそうじゃん」祭りは宴もたけなわのようだ。

「烏衆から連絡は?」「いや、まだだ」

煌玲の問いに、焔凱は通信機に視線を落としたまま答えた。

「アイツらなら、まぁた、やっちまったぜぇ~~」

「飛煽!」三人の着地を誘導していた飛煽が、背後から声をかけてくる。彼も、三人と同じ、特殊潜入服に身を包んでいる。

「オイオイ、またかヨォ!」熾恩は、薄ら笑いを浮かべて、芝居じみた呆れ顔を見せる。

「それじゃあ、例の神子は?」「あん中さぁ」

樹々の隙間から見える社殿を飛煽は指差していた。

「あそこぁ、ちっとやそっとじゃぁどうにもなんねぇ。そしてぇ……あの裏が」

「風辰翁の仰ってた遺跡か?」

確認を求める煌玲に、飛煽は、長い舌で唇をひと舐めする。

「ヘヘッ……夢見子ちゃん達の言ったとおり……絶好の"檻"になるぜぇー、あそこぁ」

首を後ろに捻じ曲げて、三人に告げる。気持ち悪いヤツだと、熾恩は、顔に出さずにはいられない。それを読んでか、飛煽はケタケタ笑いを浮かべている。

「では、行くぞ」

煌玲が、暗闇の断崖へと身を躍らせると、他の三人もそれに続いた。

————

「咲……咲を、返してくれ!」「うるさい!さっさと寝ろ!」

郷にただ一つの駐在所。その留置場に慎吾は拘束されていた。

この駐在所の警察官らは、郷の初期の頃から、教団の言いなりになってきたが、今の責任者に変わってからは、一層、教団との結びつきを強めている。

この留置場も、最近では、もっぱら逃亡を図ったり、薬物を使用したイニシエーションで手に負えなくなった信徒らを拘束するのに使われていた。

「サクを連れてきたんだ!これで十分だろう!話せばわかる……森部殿を呼んでくれ!たのむ!」

「まだそんなこと!馬鹿か、てめぇ!」の警官は手にした警棒で鉄格子の間から殴りつける。慎吾は、額を割られよろめく。

「どけ。これをくれてやる」

奥からもう一人の男が、注射器片手に現れる。慎吾には、それが信徒らに使っている薬物であることはすぐにわかった。

「や……やめろ!やめてくれ!!」

「おい、あまり盛りすぎるなよ。こいつには明日やることがあるんだからな」

「わかっている。十倍に希釈してある。たが、一晩大人しくなるくらいの麻酔効果はあるはずだ」警官らは、鉄格子をくぐると、一人は抵抗する彼を羽交い締めにし、もう一方が、慎吾の腕に注射を打ち込んだ。

「やめてくれぇ!!」

絶叫する慎吾を留置場の奥へ突き飛ばすと、警官らは鉄格子を出て、施錠した。

薬はすぐに回り始め、慎吾の意識を奪い始めた。

「サク……さ……く……」目に涙を浮かべたまま慎吾は意識を失った。

————

「よーし、足回りの総チェックだ!始めるぞ」

「りょーかい!機関、始動!」

<アマテラス>の改修と整備は、夜間になっても一向に終わる気配はない。

ティムとアラン、アルベルトが中心になって予定していた作業があらかた終わった機関と、運動性能のテストが開始されていた。

機関が軽妙な動作音を奏で、アランのモニターには出力レベルを示す横棒グラフが伸び縮みしている。

「よし、次!スラスター!」

ティムは操縦桿を握りながら、チラッとモニターの通信ウィンドウを覗く。制御室には、あの大柄の作業員も、アルベルトの傍でテストを見守っていた。

スラスターからエアーが吹き、船体姿勢が操縦桿に体感としてフィードバックされる。

「どうだ?」「2番が弱い、3番もだ」

アルベルトは傍の、その作業員に目配せし、調整を促す。

「おっ!」ふっと操縦桿が滑らかなフィードバックを返してくる。「今度はどうだ?」

ティムは、通信モニターに向こうの作業員へ、親指を立てて見せた。作業員の口元にも笑みが見える。

「そっち、大丈夫そうなら、こっちも手伝って」「ああ」キャプテンシートのカミラは、シミュレーションフィードバックからシステムの最終調整を行なっていた。アランは自モニターに画面共有し、共同で作業にあたる。

「どう……うまくいってる?」ティムは、隣席から声をかけられ、思わず振り向いた。いつの間にか、そこに直人が座っていた。

「珍しいな、こんな夜遅くに」

「PSI-Linkの感度を再調整しておこうかと……アムネリアの能力……もっと引き出せると思ったんだ」

「マジか?そいつぁ、助かるぜ。おやっさん!」ティムがアルベルトに呼びかける。

「なんじゃ!?こっちは順調だぞ!」

「誰か一人、ナオのPSI-Link見てやって欲しいんっすけど!」

「わかった!……お前、いいか?」「はい!」

直人のパーソナルモニターに、オペレーターが一人現れ、二人はやり取りしながら作業にかかり始めた。

「あのぉ!ちょっとレーダーの調整もしといた方が……」サニもブリッジに現れた。

「って、あれ、皆さんお揃いで……」サニは、バツの悪い笑顔を浮かべた。

「ちょっと……あなたたち!きちんと休んでおかないと……」カミラが呆れたように言う。

「えー、隊長だって……」「わ……私は!……」

「ふっ、明日のヤマはデカい。皆、さすがに寝てられないんだろう……」アランが皆の気持ちを代弁する。

「ご明察!なんか落ち着かなくってさぁ」 

「まったく……皆、チーフの命令はスルー?」

そう言えば「充分休め」と言いつけられていた気がして、皆、吹き出す。


唐突のくしゃみを誘発する感触に、東は抗えなかった。

「チーフ、風邪ですか?こんな暖かい季節に……」<イワクラ>のアイリーンが、モニターの向こうでクスクス笑っている。

アイリーンとIMCの東、田中は、ミッションのブラッシュアップに取り組んでいる。

「あとやっときますよ。早く帰られたら?」田中が、軽く気違う。

「いや、大丈夫だ。今、俺達ができるのはこのくらいだからな」東の呟きに、アイリーンと田中も頷く。

「お前こそ帰っていいんだぞ。嫁さん、一人じゃ大変だろ?」「いやいや、むしろ、邪魔にされてますから……」「そ……そうなのかぁ?」

東が、結婚生活にどんなイメージを持っているのか想像すると、アイリーンはつい可笑しくなって、また小さく吹き出していた。

「ふふふ、一息入れましょう。ほら、田中くん。チーフにお茶淹れてあげて」とアイリーンは促す。

「あ、ハイハイ」「すまんな」

田中が休憩室に向かう。

「ど……どうした?」東は、自分のタンブラーに飲み物を準備しながら微笑むアイリーンと、目が合ってしまった。

「イイな……って、思って」「えっ?な、何が?」「いえ、なんでも」

東はそれ以上、聞き返せず俯いて作業に戻る。間も無く田中がお茶を持って戻ってきた。  

「あ、ありがとう」東は逃げ場を求めるように茶をすする。

「う……薄……」お茶は、やはりアイリーンが淹れるのが美味しいと、東はつくづく思う。


真世は、母の洗濯物を回収し、部屋へ戻ろうとしていた。咲磨の部屋からぼんやり明かりが漏れているのに気づく。

「須賀さん?」軽くノックすると、しばらくして中から返事がある。

「あ、とっくに消灯時間過ぎてましたね。ごめんなさい……」

「いえ……あの、大丈夫ですか?」

目が赤い。咲磨を思い、泣き腫らしていたようだ。

「これ……」

部屋のメモ帳に書いた置き手紙が、枕の下に残してあった。

母さま
ごめんなさい。
ずっとだいすきだよ。
ありがとう
さくま

「幸乃さん……」

「どんな想いで戻ったのでしょうね……あの子……とてもいい子でした。誰の言うことでも素直に聞いて……初めてですよ、私に黙ってこんな……」幸乃は、手紙を握りしめる。

「……私も……もし私だったとしても、ママには黙って行くと思います。そうしないと、行けないから……」

咲磨がどれだけ母を愛していたか、そして同時にこれが、最初で最後の、咲磨自身の意思での行動であったのかも、幸乃は悟る。

「大きくなったのね……あの子……」

真世は、それ以上かける言葉が見つからない。

窓を見上げると、晴れ渡った星空。血のように赤く染まる月が、ほぼ満月に達しようとしている。

……みんな……どうか咲磨くんを……

真世は、祈らずにはいられなかった。
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