108 / 293
第3章 死者の都
跡形 3
しおりを挟む
「コード、再設定。送信準備完了!」
「よし、送信!」「送信開始します!」
ブリッジに集まった一同が、固唾を飲んで見守る中、齋藤と部下のオペレーターは、PSI規制庁から再発行された管理コードの送信作業を進める。
「おっ!アクセス許可信号確認!」
「申請から約3時間……ったく、たぶん10分もあれば終わる作業っすよ」「それがお役所仕事たる所以よ。こっちからの申請なんざ、奴さんらの端末の中で温めてる時間が殆どさ」オペレーターの不満に如月が便乗する。「へっ。違いない」
間も無く、結界を張り巡らせる支柱の間に併設されている、通用ゲートの分厚い金属扉が、ゆっくりと口を開く。ドローンから送られてくる映像が時折乱れる。
モニターには、ただ映像があるだけだ。しかし、ブリッジの空気が急に重く、僅かに息苦しいものに変わっていくのを皆が感じ取っていた。先程まで軽口を叩いていたIMSメンバーらも、一転、一様に口を閉ざす。
「……なにか嫌な予感がするわ……」貴美子は、藤川の補助杖を握る手に、そっと自分の手を重ねていた。
「進もう。齋藤くん」「は……はい!ドローン各機、探査ポイントへ!」藤川の一声で齋藤は気を取り直し、オペレーターへ指示を飛ばす。3台のドローンは、戸惑う事なくプログラムされたとおりに研究所跡地の各所上空へと展開していく。残りの一台はマニュアル操作で、オペレーターが直接遠隔操作を行う。全てのドローンがゲートをくぐると、扉は再び固く閉ざされる。
メインモニターには、オペレーターが操作するドローンからの映像を中心に、他3機のドローンからの映像が並んで表示され、サブモニターには、各機が捉えた気温、湿度などの環境データ、赤外線、X線映像に加え、PSI現象化反応、次元スコープ反応を数値化したグラフが表示されていた。
開け放たれたままになっている施設廃墟の表玄関から、遠隔操作のドローンは難なく建物内部へと侵入していく。暗闇に包まれた内部をドローンのサーチライトが浮かび上がらせる。
「あっ……」直人は息を飲む。
崩れた壁、天井。やや広々としたスペースに表皮が破れ、綿が所々飛び出している古ぼけた長椅子が雑然と並んでいる。
"あの"待合所だ。あの時、この場所で母の言いつけどおり、父を待っていれば……
「見てるのが辛かったら、休んでいてもいいぞ」俯いた直人を藤川は気遣う。
「いっ、いえ……」直人は首を振るとモニターに向き直った。
地震で崩れた瓦礫が散乱する建物内部の映像は、当時の地震の規模を生々しく伝えてくる。一同の視線が映像に釘付けになっている間、サブモニターの反応値を示すグラフが次第に脈打ち始めていた。
「所長、建物外部のドローンからデータが来ています。モニターに出します」齋藤が画面を切り替えると、モニターに施設のマップが展開され、ドローン各機によって、施設外部より検出されたPSI現象化反応が、マップ上にプロットされていく。プロットは何かを指し示すように一箇所に反応が集中している。
「因縁の場か……」藤川は呻くように呟く。案の定、震源の中心となった『PSI精製水処理区画』が、強反応を示す赤色に染め上げられていた。
「あの場に……ドローンを進めてくれ」藤川の指示にオペレーターは、黙ったまま頷くと操作スティックを押し倒す。
ドローンは、崩れた建材が散乱する幅広い通路を進む。 PSI精製水処理区画を上方から見下ろす、ガラスを失った窓枠が並んでいる。
PSI精製水は、精製、浄水の工程で様々な発光現象を伴い、見る分には面白い。PSI利用施設では良いアピール材料であり、この通路もかつては、子供たちやその親、協力企業の顧客など、多くの見学に訪れた客で賑わっていた。幼い直人もこのエリアは大好きで、父の研究棟へ向かう際、何度も足を止めて眺めたものだった。
少し進むと通路から隠れるようになっている窪んだ一角にドローンは進む。床に『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた表札が転がっている。
……そこはダメ、入っちゃダメだぞ……
不意に幼い日の父の言葉が直人の脳裏に蘇る。
「ダメだって……言われていたのに……」
幼い直人は、その先があの綺麗な光を放つ処理区画に続いていると直感していた。間近であの光り輝く水槽を見てみたい……いつもそう思っていた。
ドローンに照らし出される、開け放たれたままの分厚い金属扉。二重のエアロック状の構造となっている。扉の上部に『PSI HAZARD』と表示された、壊れた警告灯が、ドローンの探査灯の中に浮かび上がる。
「ここは非常時に万が一、処理区画に閉じ込められた際の緊急脱出口。内部からしか開かないようになっており、普段は硬く閉ざされていた……だが、何故かあの日、この扉は開かれていた……」
その頃頻発していた地震で、誤作動した電子錠のロックが外れていた。それが地震後に行われた現地調査の結論になっている。実際、電気系統に破損も見られた。この件を踏まえ、この扉に使用されていたタイプの電子錠は廃止となり、近年は危険区画のロックシステムもより強固に、より高い安全基準を満たしたものへと改良されてきている。だが、果たして本当に地震の影響で故障が起きるようなものだったのか……釈然としない思いが、藤川には残っている。
「侵入します!」意を決したようにオペレーターはドローンを進める。ドローンが内側の扉を横切ろうとしたその時、何かがヒラリと舞い上がった。
「な……何だ!?」驚いたオペレーターは、ドローンのスティックを思わず左右に振り回す。それに伴って、また何かがカメラに映り込む。「!?」サーチライトに照らされる壁面に映り込む何かを捉えた齋藤は、オペレーターからスティックを奪うと、ドローンを立て直し、壁面をサーチライトで照らす。
ブリッジに集う一同は、凍りついた。
「よし、送信!」「送信開始します!」
ブリッジに集まった一同が、固唾を飲んで見守る中、齋藤と部下のオペレーターは、PSI規制庁から再発行された管理コードの送信作業を進める。
「おっ!アクセス許可信号確認!」
「申請から約3時間……ったく、たぶん10分もあれば終わる作業っすよ」「それがお役所仕事たる所以よ。こっちからの申請なんざ、奴さんらの端末の中で温めてる時間が殆どさ」オペレーターの不満に如月が便乗する。「へっ。違いない」
間も無く、結界を張り巡らせる支柱の間に併設されている、通用ゲートの分厚い金属扉が、ゆっくりと口を開く。ドローンから送られてくる映像が時折乱れる。
モニターには、ただ映像があるだけだ。しかし、ブリッジの空気が急に重く、僅かに息苦しいものに変わっていくのを皆が感じ取っていた。先程まで軽口を叩いていたIMSメンバーらも、一転、一様に口を閉ざす。
「……なにか嫌な予感がするわ……」貴美子は、藤川の補助杖を握る手に、そっと自分の手を重ねていた。
「進もう。齋藤くん」「は……はい!ドローン各機、探査ポイントへ!」藤川の一声で齋藤は気を取り直し、オペレーターへ指示を飛ばす。3台のドローンは、戸惑う事なくプログラムされたとおりに研究所跡地の各所上空へと展開していく。残りの一台はマニュアル操作で、オペレーターが直接遠隔操作を行う。全てのドローンがゲートをくぐると、扉は再び固く閉ざされる。
メインモニターには、オペレーターが操作するドローンからの映像を中心に、他3機のドローンからの映像が並んで表示され、サブモニターには、各機が捉えた気温、湿度などの環境データ、赤外線、X線映像に加え、PSI現象化反応、次元スコープ反応を数値化したグラフが表示されていた。
開け放たれたままになっている施設廃墟の表玄関から、遠隔操作のドローンは難なく建物内部へと侵入していく。暗闇に包まれた内部をドローンのサーチライトが浮かび上がらせる。
「あっ……」直人は息を飲む。
崩れた壁、天井。やや広々としたスペースに表皮が破れ、綿が所々飛び出している古ぼけた長椅子が雑然と並んでいる。
"あの"待合所だ。あの時、この場所で母の言いつけどおり、父を待っていれば……
「見てるのが辛かったら、休んでいてもいいぞ」俯いた直人を藤川は気遣う。
「いっ、いえ……」直人は首を振るとモニターに向き直った。
地震で崩れた瓦礫が散乱する建物内部の映像は、当時の地震の規模を生々しく伝えてくる。一同の視線が映像に釘付けになっている間、サブモニターの反応値を示すグラフが次第に脈打ち始めていた。
「所長、建物外部のドローンからデータが来ています。モニターに出します」齋藤が画面を切り替えると、モニターに施設のマップが展開され、ドローン各機によって、施設外部より検出されたPSI現象化反応が、マップ上にプロットされていく。プロットは何かを指し示すように一箇所に反応が集中している。
「因縁の場か……」藤川は呻くように呟く。案の定、震源の中心となった『PSI精製水処理区画』が、強反応を示す赤色に染め上げられていた。
「あの場に……ドローンを進めてくれ」藤川の指示にオペレーターは、黙ったまま頷くと操作スティックを押し倒す。
ドローンは、崩れた建材が散乱する幅広い通路を進む。 PSI精製水処理区画を上方から見下ろす、ガラスを失った窓枠が並んでいる。
PSI精製水は、精製、浄水の工程で様々な発光現象を伴い、見る分には面白い。PSI利用施設では良いアピール材料であり、この通路もかつては、子供たちやその親、協力企業の顧客など、多くの見学に訪れた客で賑わっていた。幼い直人もこのエリアは大好きで、父の研究棟へ向かう際、何度も足を止めて眺めたものだった。
少し進むと通路から隠れるようになっている窪んだ一角にドローンは進む。床に『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた表札が転がっている。
……そこはダメ、入っちゃダメだぞ……
不意に幼い日の父の言葉が直人の脳裏に蘇る。
「ダメだって……言われていたのに……」
幼い直人は、その先があの綺麗な光を放つ処理区画に続いていると直感していた。間近であの光り輝く水槽を見てみたい……いつもそう思っていた。
ドローンに照らし出される、開け放たれたままの分厚い金属扉。二重のエアロック状の構造となっている。扉の上部に『PSI HAZARD』と表示された、壊れた警告灯が、ドローンの探査灯の中に浮かび上がる。
「ここは非常時に万が一、処理区画に閉じ込められた際の緊急脱出口。内部からしか開かないようになっており、普段は硬く閉ざされていた……だが、何故かあの日、この扉は開かれていた……」
その頃頻発していた地震で、誤作動した電子錠のロックが外れていた。それが地震後に行われた現地調査の結論になっている。実際、電気系統に破損も見られた。この件を踏まえ、この扉に使用されていたタイプの電子錠は廃止となり、近年は危険区画のロックシステムもより強固に、より高い安全基準を満たしたものへと改良されてきている。だが、果たして本当に地震の影響で故障が起きるようなものだったのか……釈然としない思いが、藤川には残っている。
「侵入します!」意を決したようにオペレーターはドローンを進める。ドローンが内側の扉を横切ろうとしたその時、何かがヒラリと舞い上がった。
「な……何だ!?」驚いたオペレーターは、ドローンのスティックを思わず左右に振り回す。それに伴って、また何かがカメラに映り込む。「!?」サーチライトに照らされる壁面に映り込む何かを捉えた齋藤は、オペレーターからスティックを奪うと、ドローンを立て直し、壁面をサーチライトで照らす。
ブリッジに集う一同は、凍りついた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる