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第2章 魔界幻想
想いは永遠に 6
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「生体記憶再生可能時間は残り四分! 時空間維持可能限界と、ほぼ同時です!」田中が藤川の言葉を補足する。
「カミラ! 直ちにPSI波動砲を‼︎」東が目を血走らせ叫ぶ。
『は、はい!』
「エネルギー充填、百二十パーセント! Unknown パルスとの同調率、百パーセント! いつでも撃てるぞ!」アランが、PSI 波動砲の発射準備が整った事を告げる。
「ナオ! 私達の命、貴方に預ける!」直人はカミラの言葉に無言で頷くと、硬直した身体に命じるように、発射シーケンスを一つ一つ進める。
「……射軸、誤差修正、左一度……上下角……マイナス……二……」
目標とする謎のPSIパルスの唸り声が、一層高まり、それに同調したかのように<セオリツ>に寄せ集まった、地震で命を落とした数多の亡者等の声が、直人の身体の中で、反響し始めていた。
「……うっく……最終安全装置、解除……」
……痛い……痛いよ……
……死にたくない……
……お母さぁん! ……
……いったい、わたしが何かしたっていうの⁉︎ ……
PSI 波動砲の感応場に亡者達の意識が流れ込み、より明瞭な声となって直人の精神を圧迫する。
……なんで、お前だけ……
……お前だけ、生きている? ……
「発射……十秒前……九……」
……こうなったのも、全てお前のせい……
……お前は……自分が助かりたいだけ……
……他を犠牲にしても……
直人の心の中で、亡者らが寄り集まり、それはだんだんと幼い直人の姿をとりながら、直人を責め立てた。
……お前は父親殺しだ……
「……八……七……」
……また……殺すの? ……パパを……
「‼︎」直人の瞳孔が、穿たれたような、大きな二つ穴を形造ると、そのまま直人は、発射装置にしがみ付くように覆い被さり、身を硬くする。
「ナオ!」インナーノーツの仲間達は、固唾を飲んで見守る他ない。
脱出可能限界まで、残り三分……
……玄蕃、もういい、早く戻れ! ……
一方で、神取も、先程から玄蕃の入り込んだ異界の変動を察知し、玄蕃に早急な帰還を命じていた。
……御頭、だめだ……神子の思念も見失った! ……
……これでは戻れん! ……
……諦めるな! ……私の念を遡れば……
そうしている間に神取は、微かな吐息を吐くように、亜夢が、その小さな口から言葉を発しているのに気づく。
「……生き……たい……あな……たと……
……な……お……と…………」
その名を耳にした神取は、IN-PSIDに訪れた時、最初に出会った青年を即座に思い出す。
「直人……あの青年か?」
「ターゲットとの同調、八十五パーセントまでダウン! ナオ! 飲まれるな!」アランが、同調率をモニターしながら直人を鼓舞するも、直人は首を横に振り、発射を拒む。
「俺が……俺が……沢山の人を……父さんを……」
……な……お……と……
……な……おと! ……
身体に流れ込む亡者達の声に混じって、直人は自分の名を呼ぶ微かな声に、ふと顔を上げた。
ターゲットスコープの中央、<セオリツ>の進み行く先から、その声は響いてくるようだ。明らかに亡者達の声ではない。
『生きる』
ただその一つの強い意志が、残火のように、この闇へと向かう世界の中で抗っている。
……亜夢⁉︎ …………そこにいるのか⁉︎ ……
「くっ‼︎」直人は、再び発射装置のグリップを握り直す。
そうしている間にも、オモトワが創り出していた時空間の崩壊は加速する。<アマテラス>と<セオリツ>を取り囲むように、虫喰いの闇が差し迫ってくる。
「時空間維持可能限界まであと二分! 急げ‼︎」アランの声にも焦りが混じる。
「ターゲット、再シンクロ……」直人は呼吸を整え、再度、スコープ中央の<セオリツ>と、そこに流れ込む、謎のPSlパルスに意識を集中させていく。
「五……四……」
……落ち着け、落ち着くんだ……
「三…………二ィ……一……」
……パパ……パ~パ! ……
……な……直人! ……どうして? ……一人か? ママは? ……
……先に来ちゃった! 早くパパに会いたかったんだもん! ……
……おいおい、研究所は一人で歩きまわっちゃダメだと……
……パパ! これ! ……
……ん? ……これは? ……パパ? ……直人が描いたのか? ……
……うん! パパ、誕生日、おめでとう! ……
……あっ……そういえば今日は……
……パパ、忘れてたの? ……
……はっはは……そうだった、ありがとう、直人! ……
……パパ! 大好きだよ、パパ! ……
……直人、パパもだよ。パパも、直人が大好きだ! ……
「くぅ……とう……さん……」
PSI波動砲のトリガーに乗せた指がカタカタと震えている。
大好きだった……深層無意識の奥深くに押し込めていた、父への想い……ずっと、ずっと会いたかった……。その父が目の前に居る。もしや、今なら助け出す事すら出来るのでは……
「脱出可能限界まで、あと一分!」田中が割れた声で叫ぶ。
「なお……‼︎」焦る東を、藤川は無言で制する。藤川は、左脚の古傷の疼きを感じながら、杖を固く握り締め、モニターに映る直人を見据えた。
ミッションに関わる全てのスタッフと、インナーノーツは、無言で直人を見守る他ない。
『……なお……と……』
音声変換された直哉の言葉が、<アマテラス>ブリッジとIMCに響き渡る。
『……お前……が……この記録……を観たなら……
……お前は……真実の重みに……苦しめられる……事になるかもしれない……
……その時……肉体を持つ……生身の父親として……お前の傍に……居てやれないこと……許してくれ……
……だが……たとえ……集合無意識の一端となろうとも……私の……魂は……
……いつも……お前と共に……
……強く……生きろ……
……直人……愛している……』
ふと、直人の震える両手を、温かな温もりが包む。その温もりが、全身を支える。
「父さん……」
直人は確かな信頼の中で、その手に導かれながら、トリガーを引いた。
<アマテラス>両舷の主機に溜め込まれたエネルギーが一気に解放され、船首にPSI素子圧縮弾を形成する。その両側に伸びた2基の共振力場発生ブレードによって、ターゲットとなる謎のPSI パルスの波動情報を付与されたPSI素子圧縮弾は、陰陽に反転する光彩を放ち、波打つ荒波のように脈動しながら、前方へと伸びてゆく。
その激流が、<セオリツ>を飲み込むのとほぼ同時に<セオリツ>は眩いばかりの閃光を発しながら光球と化した。
急速に押しつぶされる風船のように心象世界が萎んでゆく。その中で<セオリツ>が作り出した光の球が一気に拡がり、<アマテラス>を導くように、潰れゆく空間を、逆にめくり返すようにしながら、血路を開いた。
「機関最大船速‼︎ 脱出よ‼︎」
「カミラ! 直ちにPSI波動砲を‼︎」東が目を血走らせ叫ぶ。
『は、はい!』
「エネルギー充填、百二十パーセント! Unknown パルスとの同調率、百パーセント! いつでも撃てるぞ!」アランが、PSI 波動砲の発射準備が整った事を告げる。
「ナオ! 私達の命、貴方に預ける!」直人はカミラの言葉に無言で頷くと、硬直した身体に命じるように、発射シーケンスを一つ一つ進める。
「……射軸、誤差修正、左一度……上下角……マイナス……二……」
目標とする謎のPSIパルスの唸り声が、一層高まり、それに同調したかのように<セオリツ>に寄せ集まった、地震で命を落とした数多の亡者等の声が、直人の身体の中で、反響し始めていた。
「……うっく……最終安全装置、解除……」
……痛い……痛いよ……
……死にたくない……
……お母さぁん! ……
……いったい、わたしが何かしたっていうの⁉︎ ……
PSI 波動砲の感応場に亡者達の意識が流れ込み、より明瞭な声となって直人の精神を圧迫する。
……なんで、お前だけ……
……お前だけ、生きている? ……
「発射……十秒前……九……」
……こうなったのも、全てお前のせい……
……お前は……自分が助かりたいだけ……
……他を犠牲にしても……
直人の心の中で、亡者らが寄り集まり、それはだんだんと幼い直人の姿をとりながら、直人を責め立てた。
……お前は父親殺しだ……
「……八……七……」
……また……殺すの? ……パパを……
「‼︎」直人の瞳孔が、穿たれたような、大きな二つ穴を形造ると、そのまま直人は、発射装置にしがみ付くように覆い被さり、身を硬くする。
「ナオ!」インナーノーツの仲間達は、固唾を飲んで見守る他ない。
脱出可能限界まで、残り三分……
……玄蕃、もういい、早く戻れ! ……
一方で、神取も、先程から玄蕃の入り込んだ異界の変動を察知し、玄蕃に早急な帰還を命じていた。
……御頭、だめだ……神子の思念も見失った! ……
……これでは戻れん! ……
……諦めるな! ……私の念を遡れば……
そうしている間に神取は、微かな吐息を吐くように、亜夢が、その小さな口から言葉を発しているのに気づく。
「……生き……たい……あな……たと……
……な……お……と…………」
その名を耳にした神取は、IN-PSIDに訪れた時、最初に出会った青年を即座に思い出す。
「直人……あの青年か?」
「ターゲットとの同調、八十五パーセントまでダウン! ナオ! 飲まれるな!」アランが、同調率をモニターしながら直人を鼓舞するも、直人は首を横に振り、発射を拒む。
「俺が……俺が……沢山の人を……父さんを……」
……な……お……と……
……な……おと! ……
身体に流れ込む亡者達の声に混じって、直人は自分の名を呼ぶ微かな声に、ふと顔を上げた。
ターゲットスコープの中央、<セオリツ>の進み行く先から、その声は響いてくるようだ。明らかに亡者達の声ではない。
『生きる』
ただその一つの強い意志が、残火のように、この闇へと向かう世界の中で抗っている。
……亜夢⁉︎ …………そこにいるのか⁉︎ ……
「くっ‼︎」直人は、再び発射装置のグリップを握り直す。
そうしている間にも、オモトワが創り出していた時空間の崩壊は加速する。<アマテラス>と<セオリツ>を取り囲むように、虫喰いの闇が差し迫ってくる。
「時空間維持可能限界まであと二分! 急げ‼︎」アランの声にも焦りが混じる。
「ターゲット、再シンクロ……」直人は呼吸を整え、再度、スコープ中央の<セオリツ>と、そこに流れ込む、謎のPSlパルスに意識を集中させていく。
「五……四……」
……落ち着け、落ち着くんだ……
「三…………二ィ……一……」
……パパ……パ~パ! ……
……な……直人! ……どうして? ……一人か? ママは? ……
……先に来ちゃった! 早くパパに会いたかったんだもん! ……
……おいおい、研究所は一人で歩きまわっちゃダメだと……
……パパ! これ! ……
……ん? ……これは? ……パパ? ……直人が描いたのか? ……
……うん! パパ、誕生日、おめでとう! ……
……あっ……そういえば今日は……
……パパ、忘れてたの? ……
……はっはは……そうだった、ありがとう、直人! ……
……パパ! 大好きだよ、パパ! ……
……直人、パパもだよ。パパも、直人が大好きだ! ……
「くぅ……とう……さん……」
PSI波動砲のトリガーに乗せた指がカタカタと震えている。
大好きだった……深層無意識の奥深くに押し込めていた、父への想い……ずっと、ずっと会いたかった……。その父が目の前に居る。もしや、今なら助け出す事すら出来るのでは……
「脱出可能限界まで、あと一分!」田中が割れた声で叫ぶ。
「なお……‼︎」焦る東を、藤川は無言で制する。藤川は、左脚の古傷の疼きを感じながら、杖を固く握り締め、モニターに映る直人を見据えた。
ミッションに関わる全てのスタッフと、インナーノーツは、無言で直人を見守る他ない。
『……なお……と……』
音声変換された直哉の言葉が、<アマテラス>ブリッジとIMCに響き渡る。
『……お前……が……この記録……を観たなら……
……お前は……真実の重みに……苦しめられる……事になるかもしれない……
……その時……肉体を持つ……生身の父親として……お前の傍に……居てやれないこと……許してくれ……
……だが……たとえ……集合無意識の一端となろうとも……私の……魂は……
……いつも……お前と共に……
……強く……生きろ……
……直人……愛している……』
ふと、直人の震える両手を、温かな温もりが包む。その温もりが、全身を支える。
「父さん……」
直人は確かな信頼の中で、その手に導かれながら、トリガーを引いた。
<アマテラス>両舷の主機に溜め込まれたエネルギーが一気に解放され、船首にPSI素子圧縮弾を形成する。その両側に伸びた2基の共振力場発生ブレードによって、ターゲットとなる謎のPSI パルスの波動情報を付与されたPSI素子圧縮弾は、陰陽に反転する光彩を放ち、波打つ荒波のように脈動しながら、前方へと伸びてゆく。
その激流が、<セオリツ>を飲み込むのとほぼ同時に<セオリツ>は眩いばかりの閃光を発しながら光球と化した。
急速に押しつぶされる風船のように心象世界が萎んでゆく。その中で<セオリツ>が作り出した光の球が一気に拡がり、<アマテラス>を導くように、潰れゆく空間を、逆にめくり返すようにしながら、血路を開いた。
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