Heavens Gate

酸性元素

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地獄編

怨讐、歓喜、崩壊、堕落②

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「师生肖だ。さ、やろうか兄弟。ちょっとばかし興味持って下さいな?」
「断る。俺は仲間と合流すんだよ。」
「つーか隊服のまま来てるのはどう言うことだ…?お前ノーマンだろ?ノーマン.ヘンドリックス。
国公で仕事してると聞いたが……ああ、ボスが言ってたな。なるほどなるほど…アンタがそれか!」
生肖はニヤリと笑い、ノーマンに襲いかかった。
どう言うことだ。さっきのあの餓鬼より遥かに早い。
「おっ!これをガードするか。良いね、受け止められたのは初めてだよ、マジで。」
生肖の腕に握られていた剣がノーマンの頬を掠める。
続けて足元、頭上、右脇、背中、想像を絶する程の速度で攻撃が繰り出されていく。
「なーるほど…国公の最高戦力とも言われる訳だ…フィジカルが最早人間じゃねえ…な!」
剣戟は加速する。受け止める事以外ができない。
「斬るだけが能じゃねえよ?」
不意打ちのように仕掛けられた蹴り。しまった。
生肖の右足は、ノーマンの肋骨を軋ませた。
「このっ…!」
ノーマンは剣戟を押し返し、生肖の体を上空に打ち出した。
「晴れてるからって雨が降らないとは限らないんだぜ?丙寅へいいん!」
生肖の両手に機関銃が出現する。
彼は打ち出された空中から銃を乱射した。
夥しい数の弾幕がノーマンに降り注ぐ。
嵐渦の盾アイギス!」
ノーマンは盾を生成し、防御する。
だが、最強であるはずの盾はあっさりと破られた。
たまらず彼は距離を取る。
「武器出し勝負と行こうじゃないか!」
生肖は1000を超える武器を作り出し、ノーマンへと向ける。
「………!」
どう考えても防ぎ切ることはできない。ならば…
ノーマンは立ち止まり、それを超える量の武器を生成した。
5000は超えるだろう。

数秒の沈黙

後、一斉に武器は放たれた。
互いの武器はぶつかり合っていく。
だが武器の精度は生肖が遥かに上。
明らかにノーマンが押されていた。
「武器出し勝負と言ったが……当然嘘だぜ?」
ノーマンの視界を影が覆った。
何10頭もの獣が、彼を囲い込んでいたのだ。
回避など不能。それどころか、飛んでくる武器への対応もままならない。
大量の武器、獣が彼を襲った。
「ああああ!」
覆い被さっていた獣の体が全て切り裂かれる。
「おー…マジか。耐えんのかこれに。」
生肖の称賛に反して、絵面は絶望的だった。
身体中は血だらけで、満身創痍の男がふらつきながら立っていたのだから。
「六十羅針獣器……60の獣を召喚できる刺青型の魔道具……」
「正解だよ。オレはそれ唯一の適合者。それを改良して武器としても作り出せる。」
「……」
「……」
互いに沈黙が走る。
急速に両者の距離は縮まる。
ただの一撃。大きな衝撃などない。
ただ1人の男が崩れ去っただけだった。
「ま、今まで戦った中じゃ最強だったよ、兄弟。だが結局…
。」
生肖はノーマンの体を持ち上げると、その場から立ち去ろうとする。
が、彼の体は突如何者かに引き寄せられた。
「……なるほどね。やっぱり生き残ってたか。」
生肖はレドたちの方を向くと、武器を再び引き抜いた。
「残念、こうなればこちらの物だ。」
ゾルダは光の屈折を操作し、姿を消した。
「ちっ……!魔力感知の遮断ってのはこうも厄介なんだな。せめて味方側でも出来るようになんねーかなー…」
生肖は不服そうに頭を掻きむしった。
『状況はどうだね?』
生肖の無線機に連絡が入る。
「あー…ノーマンを取り逃しました、すんません。まずいっすよ。レド.ケニーシュタインとゾルダ.フランツジェイルが合流しちまってます。それのせいで逃げられました。…あー…俺の手で殺したかったなあ…レド.ケニーシュタイン。やっぱついてくのも殺すのもああ言う芯の通ったクソ野郎が…」
『そうか……ここからそう離れてはいまい。よくやった、アレを放とう。』
「あーやべ、聞いてなかった。じゃあ俺はここで待機と?」
『ああ、そうした前。』
生肖はタバコに火をつけると、勢いよく煙を吐き出した。

ベクター.ボイルは椅子から立ち上がり、風の吹き荒れる屋上に立った。
「No.18:死の槍ロンギヌス
上空へ、赤黒い魔力が放たれた。
空がその色一色に染められる。
「な…?!アレは…」
「シャーロットさんの……」
『まずい…!これでは透明化も解かざるを得ない!』
ゾルダは上空に飛ぶと、魔法を放出した。自身の出来うる限りの全力で。
一瞬の拮抗の後、ゾルダの魔法が死の槍を貫いた。
だが、それでは意味がない。
既に場所がバレてしまった。
「場所が分かった。グレゴリオ君、任せたよ。」
『イエッサー!』
グレゴリオは周囲の兵を操り、3人の周りを囲い込んだ。
「くっ……!」
ゾルダ達は再び透明化する。が、場所が割れてしまった以上それは意味を成さない。数百発の銃撃が彼らを襲った。
『ぐぅ………!』
ゾルダは2人を銃撃から庇う。
背中に6発の弾が当たり、血が迸った。
「離れないと…」
レドとサレムはゾルダを支えると、交差点の曲がり角を曲がり、銃撃の射線から逃れた。
「路地裏に逃げるのは…?!」
「逃げたら狭すぎて格好の餌食だよ。」
サレムの提案をレドは一蹴しつつ、前方の兵一人の頭を銃で撃ち抜いた。
「………!まずい、これは詰んだかも。」
レドの表情が曇る。無表情ではあったが、それでも明らかに態度の変化がわかるほどに。
彼の指差した方向、そこに居たのは
不気味な笑みを浮かべる女医、ブツブツと祈祷を唱える神父、そしてスーツに身を包んだ黒髪の男の3人。
サレムは直ぐにその意味が理解できた。明らかにコイツらだけがおかしい。
「……行くんだ。」
ゾルダは自身の透明化を解除すると、2人の腕を振り払った。
「え…?」
「大丈夫、後で合流するさ。」
「………分かりました。行こう。」
レドはノーマンを背負うと、サレムの手を引き、その場を後にした。
「さて……やるか。」
ゾルダは名乗りも上げず、1番近くにいた神父に攻撃する。
「む…?!」
背中に背負った十字架で、神父は魔法攻撃をガードした。
「はあ…!!」
直後、最大出力。半径10km以上を覆い尽くさんばかりの無数の弾幕が、3人に向けて放たれた。一発一発の威力は1級指定に相当する。
「ははははは!1番街壊してんのお前じゃねえか!」
生肖は高笑いした。
「あーもー…めんどくさいなあ…」
リリッシュはメスを握り、横一直線に空をなぞる。
切開インシジョン
弾幕は空中で切り裂かれ、一点に集まっていく。
改造リメイク。」
弾幕は分裂し、残りのもの全てを撃ち落とした。
「んじゃ行くぜー?ファイアー!」
生肖は両手に背負ったバズーカから砲撃を放つ。
「……」
だが、ゾルダはそれをあっさりと相殺した。
「マジか…!一応超常魔法並みの火力があるんだが…そんな息するみたいに…なあ!」
続けて生肖は30の大砲から、ゾルダを囲い込むような軌道で砲撃を放った。
「曲がれ。」
だが、その軌道はゾルダの周囲で折れ曲がり、生肖の方向に降り注いだ。
「なんでそうなるのさ…ちょっ…ジョージ!お前仕事しろっての!」
「我が神への祈りの下…我が神を信ずるものを救いたまえ…救いたまえ…救いたまえ救いたまえええええ!」
細身な神父、ジョージは前方に十字架を構える。
反射した砲撃は全てそれに吸収され、埃の一つも立つことはなかった。
「我が神以外の光など不要…不要なり…」
「一神教もここまで来ると考えものだな。」
生肖は呆れるように肩をすくめた。
「このまま弾の撃ち合いになるんですか?こんな物騒なテニスしたく無いんですけど。」
リリッシュは不満を漏らす。
「ばーか。3対1でやるテニスがあるかよ。」
生肖は冷静に返しつつ、剣を引き抜いた。
「おい貴様ら、私が奴を引きつける。その隙を狙え。」
ジョージは返答を聞かず、ゾルダに一直線に向かっていった。
「なんでぇお前、ちゃんと話せんじゃねえか。」
生肖は煙草を片手で押しつぶすと、ゾルダの背後に回り込むように走り出した。
「なんでこう話し合いをしないんですかねえ…まあ良いや。」
リリッシュは周囲のビルを改造し、ジョージの足場を生成しつつ、ゾルダの攻撃から防御する壁であたりを包み込んだ。
「………」
ゾルダの魔法をジョージは軽くいなしていく。
光を吸収し、己の打撃力に変える魔能力。彼が作り出した等身大の十字架は、それの能力を収束させた物。
対象が光を纏ってさえいれば、その攻撃は全て無効化されてしまう。
「光あるところに我が神あり!あああ!この世全てが我が神のものおおおおお!」
ゾルダの放つ魔法全てを吸収し、ジョージは全身を続ける。
「はははは!聖職者じゃなくてただの自己中野郎だろあれ!」
生肖はゲラゲラと腹を抱えて笑いつつ、背後からゾルダに接近する。
「……この程度か。」
ゾルダは一言呟いた。
ジョージが彼に十字架を振り下ろしたその次の瞬間、彼の視界は暗闇に包まれた。
光など無い闇一色。
あらゆる物が黒く染まる空間。
閉じ込める能力などない。だが彼にとっては死も同然だった。
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