女子高生探偵:千影&柚葉

naomikoryo

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第1章:開かずのアパート

第17話:「鍵を握る者」

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夜の冷たい風が、倉庫街の静寂を切り裂くように吹き抜けた。

 「……"相原 美沙"は、もう存在しない」

 ——非通知の電話の主はそう言った。

 だが、千影は確信していた。

 "相原 美沙"——美咲の母親はまだ生きている。

「……千影、これからどうするの?」

 柚葉が不安げに尋ねる。

「"開かずのアパート"の謎を暴くには、もっと情報が必要よ」

 千影はスマートフォンの画面を見つめながら言った。

「今分かっているのは、このアパートが過去に"何らかの違法取引"に使われていたこと。そして、美咲ちゃんのお母さんがその取引に"関わっていた"か、"何かを知ってしまった"こと」

「でも、それが何の取引なのか、まだ分からないよね……?」

「ええ。だからこそ、次の手を考えなくてはならないわ」

「……それって、どういうこと?」

 美咲が不安そうに千影を見つめる。

「"鍵を握る者"を探すのよ」

「鍵を……?」

「私たちが持っている情報はまだ断片的。でも、何者かが"私たちに真実を知られたくない"と思っているのは確かよね?」

「まあ……そうだね。だから襲われたり、警告されたりしてるわけで……」

「だったら、その"何者か"の動きを逆手に取るのよ」

「……逆手?」

「そう。向こうが隠そうとしている情報があるなら、それに近づけば、何かしらの反応があるはず」

「え、でもそれって、"わざと危険に飛び込む"ってことじゃ……?」

「その通りよ」

「ちょ、ちょっと!? いやいや、千影! 私たちただの高校生なんだけど!?」

「だからこそ、できることがあるのよ」

 千影は落ち着いた声で言う。

「向こうは私たちを"本格的な敵"とはまだ見ていない。でも、もし私たちが"確実に彼らの秘密を知ってしまった"となれば?」

「……!」

「そうなったら、向こうも焦って何かしら動くわ」

「つまり……こっちが"真実に近づいてる"ってことをわざと匂わせて、向こうの反応を引き出すってこと?」

「ええ。そのためには、"この取引を知っている者"を探し出す必要がある」

「……でも、それって誰?」

 千影は静かに、美咲の方を見つめた。

「美咲ちゃん、あなたのお母さんが関わっていたかもしれない"取引"について、何か思い当たることはない?」

「……そんなこと、言われても……」

 美咲は不安そうに眉を寄せ、必死に考える。

「……でも、お母さんは、最近よく"誰かと電話していた"……」

「誰かと?」

「うん……夜、電話で小声で話してたの。私が"誰と話してるの?"って聞いたら、"仕事の関係よ"って言ってたけど……」

「仕事……?」

 千影は考え込む。

「美咲ちゃんのお母さんの仕事って、何だったの?」

「事務の仕事って言ってた。会社の経理の仕事をしてるって……」

「経理……」

 千影の目が細められる。

「もしかして、その"経理の仕事"は、あのアパートに関係があるかもしれないわね」

「え……?」

「この"取引記録"が示すものは、ただの不動産の契約書じゃなかった。裏取引の証拠になり得るものだった。でも、誰かがその取引の"帳簿管理"をしていたはず」

「……!」

「美咲ちゃんのお母さんは、会社の経理をしていた。そして、この取引記録の存在。もしかすると、"彼女はこの違法取引の資金管理に関与していた"可能性があるわ」

「そ、そんな……!?」

 美咲の顔が青ざめる。

「でも、それなら……お母さんは、犯罪に関わってたってこと……!?」

「まだ分からないわ」

 千影は静かに首を振った。

「でも、もし美咲ちゃんのお母さんが、何か不正に気づいてしまったのだとしたら?」

「……!」

「彼女がこの取引の詳細を知りすぎて、"口封じのために消された"のだとしたら?」

 美咲の表情が、恐怖と不安で揺れる。

「で、でも……お母さんはそんなこと言ってなかった……」

「おそらく、あなたに心配をかけないようにしていたのでしょう。でも、"夜に誰かと電話していた"という情報は重要よ」

「でも、相手が誰か分からないと……」

「通話履歴は?」

「スマホは……お母さんが持っていったまま……」

「じゃあ、お母さんの仕事先に聞いてみるしかないわね」

「えっ!?」

「"相原 美沙"が働いていた会社を探すわ。そこで何か手がかりが得られるかもしれない」

「ちょ、ちょっと待って! そんな簡単に会社の情報なんて……」

「調べられるわ」

 千影はポケットからスマートフォンを取り出し、素早く検索をかけた。

「美咲ちゃん、お母さんの会社の名前は?」

「え、えっと……"東陽ビジネスサポート"っていう会社……」

「……分かった」

 千影はすぐに調査を開始した。

 数分後——

「……あったわ」

「えっ!?」

 柚葉が驚いて画面を覗き込む。

 そこには、"東陽ビジネスサポート"の会社情報が表示されていた。

「住所も載ってるわね。ここよ」

 千影が指差したのは、駅から少し離れたオフィスビルの一角だった。

「ここに行けば、お母さんのことが分かるの?」

「可能性は高いわね」

「……!」

 美咲の瞳に、新たな希望の光が宿る。

「私、お母さんのことを知りたい……!」

「ええ。じゃあ、明日すぐに行きましょう」

「……うん!」

 美咲が強く頷く。

 柚葉はため息をつきながら、呆れたように言った。

「はぁ……やっぱり千影の推理はすごいね……。でも、絶対また何か起こる気がする……!」

「その可能性は高いわね」

 千影は静かに微笑む。

「でも、もうここまで来たのよ。最後まで真実を追いましょう」

 ——"開かずのアパート"の謎は、次のステージへと進もうとしていた。
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